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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
六月編
80/656

80話

「うっし。じゃあ出かけるか」

「ん」

「あぁ」

 演習も無事ロッテが勝利を収めてくれたので気分良く今日を迎えられた。あいつ――憐名はあの日から顔を合わせていない。なにかしらアクションを起こしてくるかと思ったが、なにもないと逆に不気味で怖いな……。人生で初めて告られたのに別の意味でドキドキしてるよ畜生。

「にゃーにゃー?」

 難しい顔をしてたからか心配そうにコロナが見つめてくる。なんでもないという意味を込めて頭を撫でると安心したのか表情を和らげた。

「にゃーにゃー」

 今度は抱っこの催促。が、これは拒否しなくちゃいけない。

「外で抱っこは基本的になしだ。自分で歩け」

「……」

 あまり動かないコロナの表情筋が目に見えて動く。浮かべた感情は絶望でござった。なんでお前そんな抱っこに固執してんだよ……。

「代わりに手繋いでやるから。帰るまではそれで我慢しろ」

「や!」

 元気に拒否。俺の体をよじ登ろうとしてきやがる。鼻を摘まんで後ろに引っ張り抵抗を試みる。

「ふごご!」

 女の子にこんな顔させて良いのかなこれってレベルで歪んでるな……。ぶちゃいくだわ~。これはこれで可愛いけどなんか別の意味の可愛さだよな。こう、我が子ならではみたいな。

「ふごぉ! ふごごぉ!」

 こらこら。無理矢理登ろうとしてんじゃねぇ。鼻が引っ張られすぎてめくれんじゃねぇかそれ。痛くないのかよ。

「コロナ。どっちか選べ」

「ふご?」

「お留守番か手繋いでお出かけか。留守番なら俺はロッテと二人で行ってくる」

「ふご!?」

「ひゃひ!?」

 ロッテさんや。なんでお前まで驚くよ。別に他意はないから落ち着け。

「で、どっちにする?」

「…………………………ん」

 たっぷり間を置いて不満げに手を握る。よし最初から素直にそうしてれば良かったんだぞ。

「じゃ、行くか」

「ん」

「おいロッテ準備できた……」

「二人きり二人きり二人きり二人きり二人きり二人きり二人きり二人きり二人きりどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」

「……」

 なにトリップしてんのお前……。ちょっと怖いんだけど。

「おいロッテ。行くぞ」

「うぉわぁっ!? え、なに!? 交尾はまだ早いぞ!?」

 話すっ飛ばしすぎだ。どうしてそうなった。

「……わけわからんこと言ってないで出かけるぞ」

「へ? ……あ、あぁ」

 コロナと手を繋いでるのを確認して落ち着きを取り戻したようでパニックは治まる。代わりに羞恥心で耳も顔も真っ赤だけどな。お前年の割りに本当初心うぶだよなぁ。部屋では良いけど外ではもう少し落ち着いてくれよ? 急に交尾とか言われたら洒落にならないから。……マジで頼むぞ?

「留守番は頼んだぞ」

「あぁ」

 ロッテも準備は終わってるようなので、ゲームをやってるリリンに一言。普段ぞんざいでもあいさつの一つは入れとかないとな。



「相変わらず人が多いな」

「休日の駅前だから余計にな」

 ワンパターンだが今日も駅前に来ている。だって仕方ないだろ。他に当てがないんだよ。店もたくさんあるから大体の用事はここで終わるし。

「それで、今日は何をするんだ?」

「とりあえず適当にブラブラして……。あとはまぁお前らの櫛やらブラシやらを買って……。昼飯食って……かな」

「アバウトだな」

「被れてんな」

 まさかお前の口からアバウトなんて言葉が出るとは思わなかったよ。大分こっちに慣れてきたな。

「さてまずは……ん?」

「にゃーにゃー……」

 手を引っ張られたので横を見てみると、コロナが眉を寄せて疲れたような顔をしていた。普段抱っこばかりしてるから歩き疲れたのかねぇ。仕方ない。少し休憩入れるか。

「ロッテ。コロナ疲れたみたいだからなんか甘い飲み物でも買ってきてくれね? 俺はどっか座れる場所探すわ。お前なら匂いたどって俺たち見つけられるだろ」

「儂の鼻ならば問題ない。特に才の匂いならどこにいようと辿れるぞ」

「そ、そうか……。じゃあ頼んだ」

「任せろ。では後でな」

 若干怖いことを言われた気もするが……。まぁ、犬だし。飼い主? の匂いを覚えてるのは当然だよな。うん。そういうことにしておこう。

 ロッテを見送ったことだし、俺もどこか座れる場所を探さないとな。駅前ならベンチの一つでもあるだろ。

「コロナ。行くぞ。もう少しだけ歩けるか?」

「……」

「コロナ?」

 引っ張ってもついてこないのでコロナのほうへ目を向けると、なにかを凝視している。なに見てるんだ?

「おかあさんつかれたぁ~!」

「そんなこと言ったってしょーがないでしょ~。がんばって歩いて」

「むぅ~りぃ~! おんぶしてぇ~!」

「もうおっきいからお母さん潰れちゃうわよ~」

「えぇ~……」

 コロナの目線をたどったら子供が母親の手を引っ張って駄々をこねてる光景が……。嫌な予感がして改めてコロナに目を向けると、コロナも俺を見ていた。……おい、まさかお前。

「やあああああああ! あああああああああ!」

「いたたたたたたたたたたっ!?」

 コロナは見よう見まねで駄々をこねだし、俺の手を引っ張る。いや嘘。引っ張ってるのは指。小指と人差し指をピンポイントに左右の手で握って体重をかけてきやがる……! おいやめろバカ! 指が抜ける!

「……なにあれ?」

「女の子と若い男……?」

「え、こんなところで誘拐?」

「警察に連絡した方が良いんじゃないか?」

 コロナのバカデカい声を聞いて周りの人間が何事かと目を向ける。や、やばい。このままだと俺幼女を誘拐しようとしてる変態男に見える!?

「……! ば、バカ……! 騒ぐな……!」

「やああああああああああああ!!!」

「やっぱり誘拐!?」

「誰か警察呼べ!」

 俺の余計な一言も合間って完全に誤解されちまったぜ! ヤバイヤバイヤバイヤバイ。本格的に俺の社会的死が足音を立てて近づいてくる! く、クソ! こうなったらコロナの駄々を止めるしかない! こいつが求めてるものはわかってる。あ~もう! お前の思い通りに動くのってすごい癪!

「わかった! わかったよ! わかったから黙れ!」

「……」

 ピタッと止まる悲鳴。顔も無表情になってるわ。が、ここで終わるわけにもいかない。ちゃんと求めるモノを与えなければまた騒ぎ出すからな。絶対。

「ほら……」

「にゃーにゃー♪」

 一度手を離し、しゃがんで手を広げると喜び勇んで飛びついてくる。頭グリグリ押しつけてきやがって。良かったなぁ~念願の抱っこを手に入れて! お陰で俺は周りから変な目で見られたよ!

危うくお巡りさんにご厄介になるところでしたね!

「……あれは……どういうこと?」

「ただ女の子が甘えてただけなのか?」

「チッ。なんだよ紛らわしい」

「いや待って。まだロリコン疑惑が晴れたわけじゃ……」

「手なづけた可能性か!」

「やっぱ。警察に……」

 なんでだよ! なんでまだ俺警察呼ばれそうになってんの!? クソ! 周りも周りだが、一番の原因はコロナだ。ここは一発脅しを入れないと。味をしめられるわけにはいかない。

「にゃーにゃー♪」

「……次あんな真似したら家でも外でも抱っこはしないし髪も二度と乾かしてやらねぇし添い寝なんて絶対しないからな。大声で駄々こねるなら覚悟しとけよ」

「……!?」

 抱きつきながらもコクコクと頷いてるのを感じる。よし。一応はわかったみたいだな。これでちゃんと覚えてくれたら良いが……様子見するしかあるまいて。それよりも、とりあえず今はまずこの場を離れよう。周りの目が痛いし。……なにより俺も疲れたから座って休みたい。

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