646話
片や最初は意気込んでいたものの、日常の中で穏やかさを取り戻し時を重ね。
片や焦がれる想いを代用品で発散しながら過ごしていく。
二月から数えても十と三日。それが彼らの準備期間。
そして、大衆の準備期間。
アレクサンドラのときと同様に突如世界へ流されたニュース。
内容は魔帝クレマン・デュアメルが召喚魔法師志望の学生と試合をするというもの。
誰もが首を傾げるだろう。実力で言えば紅緒に次いであると言われている男がこんなに立て続けにエンタメをこなすなんて。
加えて、アレクサンドラのような魔帝ならともかく無名の学生しかも召喚魔法師なんて……と、ここまで考えて気づく。
かつて、クレマン・デュアメル含め現役の魔帝を軒並み下した召喚魔法師がいた。
先にも表した通り、現魔帝の中で最も強いのは紅緒。つまり、召喚魔法師。
ならば、今回のマッチング。なにかしら意図があるのではと。
第二の刃羽霧紅緒なのではないか。
そこまで期待を膨らませて、思い直す。
ありえない、と。
何故なら召喚魔法師だから。刃羽霧紅緒は特別だっただけ。だから他に現れるわけがない。
だって、召喚魔法師は無才が魔法にしがみついているだけなのだから。
だから期待しない。大衆は。
しているのは。
「ブラザー……! 君、いつの間にこんなことになってんの!?」
「うっは! マジかよ!? さっちゃん! チャンス掴んだなぁおい! 世間の評価を覆すときじゃあい!」
「はは。才君も行くとこまでいってるな~」
「う~わ……。あいつなにやらかしたん? よく問題起こすな~とは思ってたけど、とんでもないのに目つけられてんじゃん。ご愁傷様」
「はぁ……。もし勝っちゃったらとうとう学園通り越して世の中から注目あびちゃいますよ~……。最近《《大お婆様》》も興味示しだしてるっていうのに……はぁ……」
「結局……こうなってしまったんですね……。でも、貴方なら今回もどうにかしますよね。楽しみにしてます」
「ふ……ふ……。今年度……は……もう……見れないと思ってたけど……。最後に……大きいの……見れそう……」
既に彼を評価している者たち。
そして、それはもう一人いる。
「あんた、もう大丈夫なのね」
「イエス。私はさいきょーだからね」
「なぁ~にが最強よ! えぇ!? こっぴどくやられてたじゃないのよ! こっちがどんだけ肝冷やしたと思ってんの!?」
「ごめんってば先生。でも、ほら。もう元気になったしさ。紅緒の秘蔵っ子に会いに行こうぜ?」
「まったくあんたは……よっぽど気になるのね」
「まぁね。これは勘なんだけど、彼は上がるぜ? 誰よりも高くにさ」
「……そ」
「笑わないのね」
「あんたの直感はよく当たるから」
「ふふ」
とある国のとある病室を、そのもう一人はあとにする。
期待の原石へ会いに行くために。




