642話
「……あ、そういえば」
「ん?」
気になる。気にはなるんだけど、下手につついて藪から蛇とか鬼とか痴女とかが出ても困る。
ってことはここは話を変えるが無難。
「コロナのヤツ、なんか落ち着いてたな。気負ってたみたいだから良かったっちゃ良かったけど、なんか理由知ってる?」
「ん~。さぁな~。なんだろうなぁ~」
「なに、誤魔化してんのそれ?」
「そう見えるか?」
「からかってるようには見える」
「だろうな」
つまり心当たりはあるし、バカにもしてると。けっ。クソめ。
「なんてことはない。お前も勘づいているアレに関することだよ」
「……バレンタイン?」
「んっ。そ。あいつなりにお前になにを渡すか考えていたぞ~」
「どうせプリンだろ」
「よくわかったな?」
「バカにしてんのか」
目の前で食ってたぞあいつ。
色気もワクワクもなんにもねぇよ。
「で、ロッテとカナラはなにくれんの?」
「もらう前提か」
「そらくれるだろ。あいつらなら」
「で、我には聞かんと」
「食う専だろお前」
「よくわかるな?」
もうすぐ一年だぞお前との付き合い。
そうでなくても食うばっかで作ったこと一度もねぇだろうがっ。
「なんだ? 欲しいのか?」
「別に。貰えないのが普通だったし。今さらお前に期待することでもないだろ」
「そう言われるとなにかしらくれてやりたくなるなぁ~」
「……自分にリボンつけてどうぞ的展開やめろよ? どうせ手出せないんだから」
「よくわかったものだな。本当に今日は冴えてる。つい先程佐子に提案されたし、やってやろうかと思ったんだが」
あー。あの人もグルか。変なこと吹き込みやがって。
でも先手は打ったからな。なにもさせんぞ。
「じゃあまだ先ではあるが、今くれてやるか」
「は? どういう――」
「ほら、良いだろ?」
「お、おい」
な、なんだよ……。火照った顔でそんな……。
「案ずるな。最後まではしないから」
いつも顔色変わらないから、赤らめた顔はちょっと新鮮。
油断してたのもあってこっちにも少し熱が。
マジでなんなんだよ。
「よ、酔ってんのかよ……」
「そうかもなぁ~。クハ」
自分で聞いといてなんだけど嘘こけ。お前が酔うかタコ。
でも発情するのは知ってる。普段抑えてるってのも知ってる。
けどなんか最近多いぞ。ちょっと前まで落ち着いてたくせに。本当急だな?
なに? 冬とかにあんの? お前の発情期。
「まぁ、あれだ。ヤツの影響があると言ったろ? ヤツは年がら年中お前に盛ってるからなぁ。我がこうなるのも仕方あるまい?」
「あ~」
それなら納得。
「で、お前しか静めることができなんだ。少し手伝え」
「いや、お前承諾する前に来て――」
「んむ。ぅれろ」
って、こいつぅ~……。俺の話しなんざ聞いちゃいねぇ。
……まぁ、嫌ってわけでもないし。このくらいなら…………いいか。
俺もいくら人間やめても男の子だし。




