641話
「おい」
「……ん?」
「少し付き合え」
「え、嫌だけど」
飯も終わって風呂入って。出てすぐ用事とか嫌に決まってますが。
だってお前の用事って大体汚れ――。
「なに。飲むから話し相手になるだけだ。派手なことはせんよ」
「……ならいいけど」
本当だろうなぁ? お前嘘は滅多につかないけど、隠すことは多々あるからいまいち信用ねぇぞ。
「カナラ。適当に借りるぞ」
「へ、どこ?」
「最近のうちのどれか」
「ん~……。ま、りりんちゃんならええか。どうぞ。あ、ほんなら月花見城がええわ。思い出いっぱいなんやけど、当時は辛ぅて壊してしもて――」
「そうか。長くなりそうだからあとで才に聞いてもらえ」
「嫌よ!?」
「嫌なんかーい」
俺にならなんでも話してくれそうなのに、そんな露骨に嫌がるとは予想外にもほど。
「だ、だって恥ずかしゅうて……」
「うん。わかった聞かない」
お前が恥ずかしがるってことはろくなことじゃねぇ。一生黙っててくれ。
「じゃ、行くか」
「はぁ、めんどくさ……」
「らーしゃー」
脱衣所からコロナが手振ってるわ。引き留めないなんて大人になったな。
でもさ、服脱ぐ前が良かったかな。
背に反するモンが盛大に主張してんぞ。恥じろ。
はぁ……。こういうとこ見ると最近成長著しいなと思いつつ、もうちょっとかなってなっちまうな。
ま、でも頭の中は幼児なわけだし。もう何年か様子見てやるべきなんかね。
と、今はリリンを追わなきゃな。
要求が小さいうちに飲んでおかないと後が怖ぇしな。
「んっ。んっ。んっ。んふぅ……悪くない。ん」
「はいはい」
話し相手かと思ったらお酌かい。クソ。普段酒なんて飲まねぇクセに。
「不服か?」
「別に」
「疑問か?」
「そりゃまぁ」
花より団子。酒より飯の女だし。疑問くらいには思うっつーの。
「大したことじゃない。我も少々影響が出ることもあるというだけだ」
「影響……? どっからから侵食でもされてるとか? 俺じゃねぇよな? 俺との間は安定してるはず……」
「大したことじゃないと言ったろう? ま、強いて言えばカナラからの影響と言ったところか」
「あいつの? 確かにあいついきなりすげぇ存在感出てきたけど……」
それで俺を経由してリリンに影響が出たとか?
もしそうなら偉いこっちゃ。カナラの格がリリンより上になったってことだもんな。
俺の中じゃリリンは絶対的強者だったのに、カナラが上となればカナラにつけばもうリリンに振り回されることも――。
「言っておくが――」
「うおぅ!?」
「影響を受けているとはいえ、それで我が下とは限らんからな」
あ~ゾワッとした。
なんだよ今の……。
こいつもカナラ並みに存在感増し増しじゃねぇか……。
いったいぜんたい。いつの間になにがあったんだよお前ら。




