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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
一月編 後編
625/656

625話

「えぇ、わかりました。舞台は整えます。はい、わかってますって。庇いませんよ。だからその時が来るまで大人しく待っていただければ……いや、ちょ、本当にやめてください! あ……あ~……」

 学園長室にてある人物との電話をしていた紅緒。

 なにかしらの話はついたようだが、同時にトラブルもあった様子。

「あ~……もう……本当に嫌だあの人……。ここ私の学校なのに……。駄目って言ったら来ないでよ……」

 まるで授業参観を拒む思春期のよう。しかし、電話の向こうにいた人物は一応他人。年上かつ因縁はあるけれど。

(正直、あの人とは関わりたくない。でも、彼の今年度の総仕上げには必須みたいだからやらなきゃいけない。あとは、予定通りの日に。最低限の接触だけで済んでくれたら良いんだけど)

「無理かもぉ~……」

 天井を仰ぎ親指で眉間を押さえる。

 他にも色々とやることがあるのに、たった一人の自由な振る舞いに頭痛は止まない。



「んぎゃあっは! んびゃひゃひゃひゃひゃ! はひっ! はひっ! い、息! 息できなっ。あひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!」

 なぁんか下品な笑いが聞こえんなぁ。伊鶴のヤツ。朝っぱらからなに騒いで――。

「いやぁ、才。ひさしぶり」

「どうしたお前その頭!?」

「はらぁ。こんれはたまげた」

 三本の編み込みで……てか色がもう三毛猫のそれってどういうセンスしてんだテメェ!?

 こちとらリリンのせいで感情の起伏少なくなってんのに思いっきり動揺しちまってんよ!

「お、おま、お前! なんだどうしたその頭! ぐ、グレたか!?」

「ただのイメチェンだそうだよ。あ、久しぶり才君」

「冬休みに失恋とかしてでのヤケクソとかではないみたいですよ。お久しぶりです」

「つまり素でやってんだよねこれ。久しぶり。冬休みは楽しめた?」

「素でこれってのが一番イカれてんけどね! あびゃははははは!」

 色だけならお前のがハデなんだけどな……。ただミケの場合は色の組み合わせが天才的というかなんというか……。

「こんな感じで何故か不評なんだよ……才はどう思う?」

 いや聞くんじゃねぇよ。最初のリアクションで察してくれ。決して良いとは思ってないことをよ。

 少なくともそんなド派手な頭の紳士を俺は見たことがねぇ。紳士そのものを見たことねぇけどさ。

「ま、まぁ驚いたけど。良いんじゃねぇかな。なによりお前が良いって思ったわけだし。自分を貫くの、かっけぇよ。うん。マジで」

「ほ、本当ぅかい?」

 そんな最後の希望を見る目を向けるんじゃない。本音が言えねぇよバカ。

「なぁ、お前もそう思うだろ?」

「ん~? そやね、ええと思うよ。ほら、目立ってなんぼみたいなとこあるし」

 それは何基準で話してんだいカナラよ。戦国武将? かぶき者? それとも鬼特有のナニかとかあったりする?

 ま、たぶんだけど。正直どうでも良いから流してるだけってのが最有力。

「おい。うるさいぞ。何を騒いで……………………パンサーどうしたお前その頭? いや、説明しなくて良い。今すぐ医務室に行ってこい。いや駄目か。一人じゃ危ない。天良寺、連れてってやれ」

「うぃーっす」

「僕は元気だよミスター!? 才もなに引っ張ってんのさ!」

 先生までテンパってら。

 ある意味スゲェな。驚いても面に出さない俺らをここまで動揺させるなんてよ。



 と、初日から色々とありつつ。今月の予定を聞いたんだけれど。

 今月は特にイベントもないからのんびり過ごせるっぽい。

 各々比較的好きにやりたいこと。伸ばしたいところを決めて勝手にやってけって感じらしい。

 正直俺としては良し悪し両方あるよなこれ。

 なんていうか、課題っつー課題が見当たらない……って言い方はアレだけど。マジで自分からは見つけられないんだよな。

 影も大分使えるようになったし。マナの扱いとか出力も上がってきたし。

 だから、地味な底上げ……くらいしかやることなさげ。

 これは傲りだろうか。それとも冷静な事実だろうか。

 ん~。わかんね。



(とか、あいつは考えてそうだな)

 いつものように部屋でゲームをしながら平行しての思考。才について考えている。

(クハ。今のうちに暇を謳歌しておけ。来月にはそこそこの相手とやれるんだからな)

 いや正確には。

(ま、あいつは鍵になりこそすれサブだがな。メインは――)

 思い浮かべるのは才の契約者の中で最も頭の中が幼いヤツ。即ちコロナ。

(我の見立てが正しければ、二月には我らに近い次元にたどり着くだろうからなぁ。クハハ。楽しみだ)

 暇を潰しながら悪戯に時を浪費する。

 楽しみに向けて無駄な時間を過ごすことのなんと贅沢かことか。

 才も才でしばしの間特に進展もなく時を積み重ね、そして――。


 二月に入る。

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