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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
一月編 後編
621/656

621話

「…………」

 やつれた顔で屍を抱き、何刻が過ぎたろうか。

 辺りの死体から嫌な臭いがし始めるも。呆けたまま動かない。

「…………」

 涙は出ないけれど、いざ本当に殺してしまうと虚無感が酷くて。知らず知らず温もりを求めてしまっているのかもしれない。

 その腕の中のモノは、もう温かくなることはないけれど。

「――おい」

 いつの間にか、神薙羅の背後に一人近づいていた。

「おい。聞こえてるだろう」

 耳には入っても言葉の意味を理解しようとせず。体も動こうとせず。

「ん」

「は……リリンちゃん」

 頭を影で持ち上げられて、ようやく反応した。

「迎えに来てくれたん?」

 目はまだやつれたままでも、表情は少しばかり柔らかくなった。知ってる顔を見て安心したのかもしれない。

「まぁな。終わったのにいつまでも残っているから見に来たに過ぎんが」

「そらぁ。お手数お掛けしまして」

「構わん。我もソレに用があったからな」

「……?」

 リリンの視線を辿ると、そこは腕の中。用があるというのはつまり。

「その死体をくれ。使いたい」

「…………」

 腕に抱かれているのが神薙羅の娘と知っての言。それは神薙羅も承知している。

 その上で無神経な発言をしていることも、当然わかっていて。

「そら叶わんねぇ。これでもうちの子やから」

「お前に侵されてほぼ人畜生になっているがな」

「ほんなら余計にいらんやろ? なんに使うか知らんけど、きちんと弔わせてや」

「いーや。ほしい。搾りカスだとしてもだ」

「……なして?」

 リリンがなんの意図もなしでこんなことを言い出すとも思えない。理由があるのはわかる。でも、さすがに娘の体を渡すわけには――。

うちの愚妹は恐らく《《ソレ》》と同じだ。最近は特に強く出てる。そこに同じ因子を加えたらどうなるかと思ってな」

「……!?」

 魄嚥桃とリリンの妹――リリアンが娘の因子を強く持っているのは事実。

 そしてその言葉は揺らぐに足りていて。

「加えて、愚妹あれは干渉を受けてない。因子はともかく最近まで大した強さは持ち合わせていなかったんだがな。あいつからの刺激や今させていることで中々良い仕上がり具合なんだよ。そこに強めのスパイスを入れたくてな」 

「…………」

 言ってることはわかる。しかしそんなことはどうでも良い。

 娘の血肉が娘の因子を持つものに取り込まれる。それは見方を変えると《《生き続ける》》とも言えるのではと。思えてきてしまって。

 切り捨てたはずの未練が、顔を出してしまって。

「わか……った……。持っていってええよ」

「あぁ、お前は帰って慰めてもらえ」

「誰に?」

「わかってるだろ?」

「ふふ……そやね……」

 魄嚥桃の死体を渡し、煙を出して家に帰っていく。

「やれやれ。本当に感じとれんほど追い出したものだな。が、まだほんのり因子は感じ取れるか」

 リリンも死体を吟味しつつ、リリアンの元へ向かう。

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