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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
一月編 後編
616/656

616話

 アノン、そしてリリンの補足をふくめた神薙羅へリリンが伝えた内容を話そう。

 順を追っていくと。地球を紫の力で完全再現した後、アノンは干渉できる紀元前数百年に神薙羅となる個体に花菜の細胞、存在の因子を混ぜ込み、繋がりを得た。

 そのままでは星庭生まれとはいえ、存在の強さが故に干渉することは難しいから。一度取り込んだ因子を含ませれば思考の傾向くらいはいじれるようになる。

 それにより花菜よりも積極的に力を求めるようになり。兵力も持つようにした。

 小競り合いもあったけれど、特に戦力を落とすことなく、むしろ勢力は徐々に拡大していき。鬼以外のも飲み込んでいった。狐と言えば、一人思い当たるのも浮かぶかと。

 それで、平安の頃には色々なことが起こりはじめた。

 まず、アノンは後のために三つのモノを神薙羅に与える。

 一つは桃の木。その桃には血を与えるよう促し、因子を強制的に目覚めさせる実がなるようにした。これによって雪日などの後天的鬼の力を持った人間が生まれた。桃の力を知った当初は男にも与えていったよ。だから、野心が強い男たちが反乱を起こし、あの牢城ができる羽目になったんだけれど。

 二つ目は煙管。その煙管は始めに与えた桃の木で作ったおがくずを入れて燃やし、吸い、吐き出した煙は桃色……別の言い方をすれば桃色に良く似た紫なわけなんだけれど。その桃紫の煙にはゲートの情報が入っている。元地球だった現煙魔神薙羅の拠点の星や、労城がある星などへの道。それと神薙羅が認識できる場所への移動するための情報などが。

 そして三つ目。これはアノンが自分に牙を剥かぬように。いや、剥いても良いようにするための楔として与えたモノ。

 それは大太刀。神帝断殺不浄之御劔かみたつふじょうのみつるぎ。少しずつ彼女から力を奪い、紫の力で太刀の形に押し込めたモノ。

 二本目以降の煙管やその他武具なども同じ要領で作り、与えていった。

 わざわざ武器、嗜好品などの道具として与えるのは目的が力の分割であり、一つの個体の力を制限できれば良いから。

 むしろ、システム陣営との戦いにおいて個の力はなくてはならない故にいずれは還元するつもりではあるが……。

 そして、神薙羅と呼ばれ始めたのもこの時代。

 神、すなわち帝。薙ぎとは首をはねるということ。羅は羅刹、修羅といった鬼神などを指す言葉。

 つまり、彼女は帝の血筋のモノを殺したことがあるということ。

 故に名付けられたのが神薙羅という名。

 でも、平安侍たちとの小競り合いのときにそう呼ばれた彼女は激昂した。

 《《神薙》》羅と、そう呼ばれるのが嫌だったから。

 その名前は特別で。例え家族であっても呼ばれたくなかった。

 だから、煙管を吸いはじめた時に煙魔と名乗り始めて。二つが混ざり煙魔神薙羅と記され、上の名だけ呼ばれるようになった。

 それから、白い鬼を拾ったのもこの辺りの時期。そう、これから神薙羅がやりあう相手である魄嚥桃はくえんとうのこと。

 その子は娘としての因子が強く出ていて個体としての力はかなり強く、アノンも気にかけていたくらいだけれど。白の影響によってシステムから干渉を受けてしまい敵対するように。

 敵対というのも結果的にそうなっているだけで、ただあの子としては愛してる母に歪な形で甘えているだけ。独占欲を押し付けているだけなのだけれど。

 でも、とうとう身内にまで手を出してしまい。幽閉されてしまった。

 そのあとのことはご存じの通り。

 戦国の世になる頃には移住を始めて。江戸に入る少し前から江戸が終わるまで幻の花街を開いた。

 そして、その花街を開いている間に、神薙羅は彼――才と出会った。

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