表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
アノン語る幕間 原初壱花、その一生
608/656

608話

 さて。イカれた営みを行った日から彼女はもう彼に対しての疑いを完全に消しましたとさ。

 いやね。この数年の間にも色々やってたんだけど。

 例えば、お酒を飲ませて本音を聞き出そうとしたり――それでベタ惚れべた褒めにされて盛り上がったのは良いものの、彼慣れない酒で寝ちゃって悶々とした一夜を過ごしたんだけどね。

 例えば、和宮内家で独身の若い子(彼女基準)を家に呼んで鉢合わせたり――半分は三十代以上で彼としては論外としても、もう半分も彼女より魅力的な子はいなくてはいお察し。そもそも彼を魅力的に思う子がいなかったのもお察し。

 例えば、和宮内家の中にだらしなくて勘当されて《《フー》》やってる子がいてね。その子のところに行って男を喜ばせる手練手管で寝取ってくれと依頼したり――彼女のが上手いわ名器だわでその気にはなれても最後までは至れないっての。あ、一応途中まではさせられた。彼女の腕力に勝てるわけないし。で、しこたま怒られた。

 んで、エトセトラエトセトラあった上でのあの事件。

 彼らの絆は強固になりましたとさってね。

 それからの彼らは平和なものよ。彼はなんだかんだ還暦まで勤めて、退職した後は別の土地に数年ごとに二人でフラフラ。

 あ、彼女が奥さんって言うと目立つから娘って設定で。夜もたまにそういう設定で。

 年を取ってからも毎日のように営みは続けていたけれど、彼が八十を超えてからは数日おき、数週間おき、数ヵ月おきとなって。

 九十を超えた頃にはもうできなくなってしまったね。手足口だけはともかく。子作りはね。まぁまず八十でも続けられたのが異常だし。彼女の体液のせいだね。そんなに続けられたのは。

 でも、それでも。幸せだったみたいよ。とっても。

 今だって春風が落ち着きを見せてる借家の縁側で彼に膝枕をしてるもの。あ、今は彼女が孫の設定。

 でね。彼も九十なわけだからさ。最後の時は近い。

 というか、今日なんだよ。

 彼らの人生であのミンチの事件からは特に目立ったことはなかったけど。最後の最後で面白いことをしやがるのよ。

「あ~。花菜……」

「はぁい」

「久しぶりに……したいなぁ」

「……うちはかまわんけど。でも、無理せんでも」

「俺が……したいんだよ……」

「……………………ほんまに? ええの?」

「駄目……か?」

「駄目じゃない……です」

 彼はもう動けないから最初は彼女が。でも、最後の最後で彼女を押し倒して覆い被さって。

 彼の命は果てていったとさ。

 安らかな顔で激しく散った彼の背中をポンポンとしながら彼女は。

「おやすみなさい。愛しい御方」

 最後の別れを告げたのさ。



 そしてこれは始まりなの。ここから始まるんだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ