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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
アノン語る幕間 原初壱花、その一生
520/656

520話

「やめろぉぉぉぉお!」

「「!?」」

 子供の声に驚いたのは女武者だけでなく、彼女も。

 荒れた山にわざわざ人が来ることはないし。轟く戦いの音を聞けば粗相しながら逃げてもおかしくない。

 そんな物騒な場所に、子供の声は本当によく通る。

 しかも。

「おっかぁを離せ!」

「あっちいけげんぺー!」

「しなないでおっかぁ!」

 何人もの声が集まっていたら。驚きはひとしお。

 加えて、全員に角が生えている。つまりは。

(鬼の子! 早く頭を潰さなくては!)

(……!)

「ん。貴様……っ」

「ぁ……せ……ぁ……い……っ」

 殺気が鬼の子達にも向いた瞬間。彼女は女武者の腕を掴む。

 心臓を潰されないよう。潰されても逃がさないよう。抱え込むように。

「……くっ。離せ!」

(絶対逃がさないっ。けど、心の臓をやられたらどうなるか……。初芽、早く来て!)

 そうこうしている内に、子供たちは二人のもとまでたどり着いてしまい。全員が女武者に襲いかかる。

「はなせ! はなせはなせ!」

「かえせ! とるな! この山賊女!」

「おっかぁいじめるおまえなんかしんじまえ!」

「く……! ぅぅ……!」

 飛び付き。噛みつき。捻り。揺さぶり。思い思いに彼女を救おうと女武者に襲いかかる。

 もちろん無抵抗じゃない。抵抗しようにも彼女が片腕を自らの体に埋めて、もう片方の腕も捕らえて、前のめりになってるから女武者は踏ん張らざるを得なくしているだけ。

 全力で。その矛が子供たちにいかないようにしているのさ。

 血の繋がりもなければ。生物としての力の差があって。なんとなく一緒にいるだけの子供たちではあれど。

 ただ、傍にはいてくれている。それはなにものにも変えがたく。命をかけて守るに相応しく。いつしか、彼女の拠り所になっていたようで。

 だから、女武者を逃すわけにはいかない。最悪でも彼女は刺し違えるつもり。

 けれど。人とは獣と違い、たった一つのことで盤面を覆すこともある。

 そう。言葉による会話ってやつでね。

「す、好き勝手……。人々の平穏を脅かす鬼共め!」

「うるさい! そうやって言ってなにもしてないおいらたちをいじめてきたのはお前らだ!」

「いつだって盗るのはお前らだ! いじめるのはお前らだ!」

「山で静かに暮らすのも許さないくせに!」

「どうせ酷いめに合わせてるのに、生まれた鬼の子を拐って何が悪い!」

「どうせ殺すくせに! 殺さずとも飯もくれねぇくせに! 殴るわ蹴るわするくせに!」

 この子たちは人から生まれて。生まれながらに疎まれて。なにもせず。いや、なにもできない赤子の頃から安息を知らず。愛を知らず。痛みと蔑みだけを与えられている。

 確かに、この時代の人外には物語に出るような盗賊、山賊に類することをするのもいる。

 でも、少なくとも。彼女たちはただ生きることしかしていない。

 それを罪と言うのは少し、人間の傲りが過ぎるとしか形容できないね。

「…………」

 子供たちの真摯な言葉。芯のある言葉が届いたんだろう。

 女武者はこの時はじめて、自分の行動と生き方に疑問を持ったよ。

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