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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
アノン語る幕間 原初壱花、その一生
518/656

518話

「……っ」

「……んっ。……ぐぅふっ」

 隙を作るため、踏みつけた足を捻り込み、潰れた内臓に追撃を加える女武者。

 倒れた彼女は呻き、口から溢れた血が後頭部まで滴って血溜まりを作る。

(今のうち……!)

 女武者はそれを隙を作れたと思い、薙刀を取りにいく。

 薙刀は女武者が顔面をはたかれた拍子に少し離れた場所に行ってしまっていた。

(……仕方ない)

 一瞬。ほんの一瞬目を離して薙刀ぶきを取りにいく。

 しかしそれは命取りにはならないものの。

(よし。あとは奴の首を――)

「……!」

 目を戻した時には彼女の姿はなかったとさ。

 良かったね。目を離した隙に首捻り切られなくて。



「はぁ……はぁ……」

 奥へ。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 山の奥へ。

「はぁ……はぁ…………ぁっ……ん、くふぅ……」

 痛みを堪えながら山奥へ。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 半径数里に渡って誰もいないほどの山奥。

 彼女がここを目指した理由は。

(ここまでくれば……間に合うはず……)

 傷を治すため。

 数千年ひさかたぶりの内臓破裂けがを治すために木々生い茂る山奥まで来た。

(……あの女、似てる。とても。私たちに)

 大樹を背に体を休めている間、彼女は女武者について考えを巡らせる。

(角はない。けれど丈夫で力強い。膂力に大差はなかったし。叩いてとすぐに動いてたから回復力もあるはず。《《私同様》》に)

 座ってからほんの数分。既に踏まれた腹部の痣、内出血は完治。内臓の損傷ももう少しで終わる。

 けれど、そんなことは今の彼女には二の次で。女武者のことが気にかかるらしい。

(雰囲気けはいも。私たちみたい。いや、私みたい。顔は他の人間と大差ないけど。中身は私に近い)

 面の下で寂しげな表情を浮かべる。女武者は美人顔とはいえ他の人間と大差ないと感じたということは、つまり自分とは見た目は大きく違うということ。

 同種の鬼の娘たちでさえ近くはあるが力に大きく差があると共感も得にくく。どこか一線を引いてしまう。

 女武者の力ならば、その境界も薄れそうと一瞬頭をよぎりはしたものの。他にも問題がある。

(鬼、物の怪と言っていた。つまり、角の生えた私たちはそういう扱いのはず)

 時折。平安武者と鉢合うこともあり。その都度首を狙われている。

 言葉を通じるので、そのときの会話などを聞けば自分達が害獣どころの騒ぎじゃないくらいの扱いなのは嫌でもわかる。

 ただ生きているだけで命を狙われる。それは野生においては当たり前だけれど。ただ違うからと命を狙われるのは彼女は嫌う。

 だって、生まれたときがアレだからね。

 だから。

(力は同じとして。わかり合うことはない)

 うっすら見えた希望なんてかなぐり捨てて。女武者を待つ。

 きっと、追ってきていると思うから。

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