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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
アノン語る幕間 原初壱花、その一生
516/656

516話

 寝言ながら母と呼ばれ、なし崩し的に呼び方が定着して時は流れまた数百年。

 西暦は千のときを刻み、その頃にもなれば突然変異の子供――鬼も増えるわ増えるわ。

 というより。

「おっかぁ! 新しいの拾ってきたよ! 今度は男じゃ男! ひょろっこいけどな!」

「そんな大声出さなくても聞こえてるから」

 最初に拾った子供。名前がなくては不便と『初芽はつめ』と名付けられた。名前の理由は特にない。

 数百年生きても彼女同様見た目はある時期からほとんど変わらず。また、精神年齢もあまり大人になったとは言えない。

 そして鬼の子供たちが増える原因はこの初芽。

 拾われた最初の子供だからかよく人里の近くに下りては忌み子や鬼子と呼ばれてる子供を拐ってきている。

 もちろん。迫害されている子供だけを。

 鬼とはいえ、山奥なんかではひっそりと穏やかに家族水入らずで暮らしていることも多いから。

 虐待が起きるのはむしろ人が多い場所。

「拾ってくるのは良いけど。平安武者には気を付けなね?」

「へん! 源氏はおっかないけど、したっぱや新参には遅れは取らんよ。おっかぁの子だもんよ」

「もう」

 ニコっと無邪気な笑顔を見せられると彼女は毒気を抜かれてなにも言えなくなる。

 けれど、悪い気分でもない。

 初芽を拾って数百年。それからヒトとの触れ合いを経て人らしくはなってきた。

 しゃべるし、笑うし、子供たちの世話も焼けば遊びにも付き合う。

 それでも。それでも尚。

 彼女は顔を晒したことはない。

 初芽にさえね。

 そして、名前もない。

 しいて言うなれば『母』または『長』というのが彼女を表す言葉。

 けれど、固有名詞はない。

 幾度となく初芽をはじめとして子供たちに名前をつけようと言われたけれど。

 生まれて数千年。今になってつけるのがいまいちしっくりと来なかったらしくてね。

 で、これもまたなし崩しと言うべきか。固有名詞は付かずに過ごしている。

 母と呼ばれるのは彼女だけだし。鬼を束ねられるのも彼女だけ。

 何せ人間よりも強い生命力や腕力はあるものの、彼女に匹敵する鬼の子はいないから。

 長く共にいる初芽でさえ彼女には遠く及ばない。

 ……けれど。



「はぁ……はぁ……」

 質素な村の外れ。遠目で様子がギリギリわかるくらいの距離だった。

 人の気配はなく。村の様子を見るにはちょうどいい距離だった。

「しぶとい鬼よ」

 なのに、初芽は今血にまみれ地に伏している。

「はぁ……はぁ……ただの女じゃないな? 源平の武者か? 女の身で武者たぁ珍妙。それもこんな片田舎になぜ……?」

「物の怪と交わす言葉は非ず。素っ首置いて召されよ」

 問答無用とはこのことだね。

 粗末な手作りの薙刀を携える妙齢の美女。衣服も小袖ということは貴族ではない。

 けれど細腕からは考えられないほどの怪力と服装に反する冴えたる技。

 物語にすれば確実に主人公格だね。

 そんな人が今、人知れず鬼退治を完遂しようとしたところで――。

「……っ! 何奴!?」

「……お、おっかぁ」

 トドメとばかりに振り下ろされる薙刀の反り部分を掴んで止める。

 繊細かつ荒業だねぇ~。これで武術を嗜んでない。むしろ純粋な身体能力と身体技能だから成せると言うべきかな。

「……鬼の頭。なればその命もらい受く」

「やれるならやれ」


 まだまだ。彼女が名前を得るのはずっと先。

 でも、武力であらば並ぶ者は現れる。

 だって、平安ど真ん中だもの。

 怪奇溢れる時代の武士もののふの宝庫だよ。

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