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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
アノン語る幕間 原初壱花、その一生
508/656

508話

 さて、彼女について語る前に。

 あくまで語り部は私であることは念頭に置いといてほしい。

 話す年代が年代だからね。それぞれで言葉が変わってしまうし。そもそも言葉という言葉になっていない時期もあるから。

 だからご都合主義というか。実際はあり得ないんだけど現代語に直させてもらうよ。

 というわけで事前注意も終えたところで。始めようか。

 なーんてこと言いつつも。どこから話したものか。

 ん~。やはり産まれたところ? かな?

 うん。始まりって大事だし。そこからにしようか。



 彼女が産まれたのは現在の約西暦二五〇〇年から約七〇〇〇年前。つまり約紀元前四五〇〇年あたり。

 縄文時代あたりだね。

 いたるところで文明というのが進んできた頃ではあるんだけど。今よりも地域差も激しい時代。

 彼女が産まれたのは今で言う西日本。京都と兵庫の間あたり。

 そこでは占いやまじないはありつつも、こじんまりとした数十人単位の集落だったんだ。

 ちなみに占星術の起源は今から四五〇〇年くらい前のバビロニアだとかの説もあるんだけれど。占いだとか呪い程度ならもっと前からあったんだよ。

 さて、元々動物というのは自分の子でも奇形であれば毛嫌いするのはままあること。なんだったら殺すよ。我が子を。

 だって、自分達と違う動物は殺すのは当たり前だからね。天敵かもしれないし。

 それはいわば本能的な行動。誰にも責められないしなにより――この時代に誰が誰を責めるっていうんだろうね。

 だから――。

「な、なんだこの赤子は!? 本当に俺の子なのか!?」

 そして彼女もまた――いわば奇形児と取れなくもない。突然変異のが近いけどね。顔の堀りは少ないものの目はパッチリを越えてギョロっと。右のおでこには角未満のコブ。ついでに血でわかりづらいけれど産まれて間もないのに肌は赤でなく白。

 明らかに、その時代においてはおぞましい姿だったのさ。

 だから――。

「か、蛙じゃ! これは蛙の魂が宿っておったんじゃ! それによう見なされ! 女子おなごじゃ! 一匹で何匹も増えよるやもですぞ! 今すぐ捨ててくるのじゃ!」

 出産に立ち会った呪い師の言葉を誰もが信じたよ。荒唐無稽だろうとね。だってそういう時代だからね。

 だから彼女の父も産まれたばかりの彼女を掴んですぐに集落から遠い茂みに入っていったよ。

(なん……で……?)

 当たり前じゃないけど。父から向けられた恐怖と嫌悪の感情を産まれたばかりの彼女はわかっていたよ。理由はわからずともね。目、見えてたし。普通の赤子は生後間もない頃は見えないはずなのに。

(いた……い……。くる……しぃ……)

 当たり前だけど。いくら強い個体でも産まれたばかりなんだ。そんな赤ん坊が無造作に首根っこ掴まれたら痛いし苦しいよ。しかも、歩いてるとき人は腕を振る。彼女への気遣いなんてないからね。当然振るよね。腕。

(気持ちが悪い。この手で殺すのもおぞましい)

 得体の知れない生物だしね。そうなるさ。

 でも、だからこそ彼女は助かるんだけれど。

「ちょうどいい……」

 岩を見つけた彼女の父親は足早に近づいてさ。

「死ね!」

「……ッ!?」

 グチャって音とさ。メキって音とさ。バキャって音とさ。ピチャって音が同時に、混ざって響いたんだ。

 肉の弾ける音。鼻の柔らかい骨がつぶれる音。頬とか目のとことかの骨が割れる音。血が飛び散る音。

 ――総じて、産まれたばかりのかる~い赤ん坊を岩に叩きつけた音。

「……っ。…………っ」

 普通は即死。でも彼女は生きていた。

 ピクピクと動いたところを見て彼女の父はさ。

「ぅ……。まだ動くのか……本当に蛙のようだ……」

 そう最後に嫌悪を顕にしてその場を去っていく。

 動いているとはいえ、さすがに死ぬと思ったんだろうね。死ななかったけど。

(いだ……い……い…………だ……い…………。なん……、で……こん、な……)

 自分の姿を見れていないからまだわからなったんだよね。彼女。

 見えたのは父、母、呪い師、あと道中すれ違った集落の人間だけ。自分は含まれてない。鏡とかもなければあっても見る余裕ないし。

 それで、簡単な言葉はこの時からすでに存在するし、腹の中である程度覚えてたからどういう感情かはわかっていたんだよ彼女。

 だからまぁ。このときでもわかっていたのさ。

 自分が気持ち悪いんだって。

 悲しいね? 産まれてすぐ向けられたのが気持ち悪い。怖い。おぞましいだよ?

 本当に悲しい人だよ。

(なん……で……なんで……?)

 頭の中は疑問で。体は母と自分の血でまみれて。

 その母の血も自分の血で流されていって。

 あ、母といえばさ。彼女が産まれた瞬間は気絶しちゃって彼女能古とは見なかったんだよ。

 この先彼女は生き残るんだけど、母親は探しに来ないし、遠目から彼女が一方的に見るってこともなかった。

 何故って?

 そりゃあね~。だって。

「……あ、れ? 私の子は?」

「おおう! 起きおった! さぁ! 今すぐやりなされ!」

「化け物を産みおって! 蛙憑きなど生かしておけぬ!」

「え――」

 殺されちゃってるし。

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