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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
アノン語る幕間 原初壱花、その一生
507/656

507話

 煙魔神薙羅えんまかなら

 それが彼女の名前。

 桃色の煙を纏い。吐くところより、十四から十五世紀あたりからそう呼ばれている。

 それ以前は神の首すら薙ぐ醜き修羅という意味で神薙羅かならと呼ばれていた。

 いや、正確には最初にそう呼んだ源氏武者以降名だけはカナラのいないところで広まってしまった。

 本人からすれば神薙羅より前は名前など持ち合わせておらず。

 また、何故か『カナラ』という名は不思議と馴染み。けれど誰にも呼ばれたくないと本人は感じていた。


 その理由ワケアノンは知っているがね。


 理由を明かすのはもう少し後に回すとして。彼女に取って『カナラ』という名前が特別だと覚えておけば良い。

 それが彼女の名前の大まかな由縁で。それより以前は普通の人間からは鬼やらもののけと呼ばれ。拾い子たちからはかしらだとか。姉御だとか。大母おおめ様だとか。代名詞で呼ばれていた。

 仕方ない。そもそも名前がなかったのだから。

 生まれてから間も無く実の父に顔を岩に叩きつけられ。

 生き延びてからは身を隠し。

 自分と似た境遇の子供を見つければ拐うなりして共に過ごした。

 共に過ごすと言っても。顔は決して見せなかったけれど。

 草やら、泥やら、獣の皮やら、捨てられた土器なんかを被って誰にも顔は見せなかった。

 だって、同じ境遇とはいえ価値観は同じだと思っていたから。

 ようは、自分を棄てた人間たち同様子供たちもカナラの顔を気色が悪いと感じると思ったんだ。

 怖がらせたくない。気分を害したくない。自分といなければ死んでしまう。けれど顔を見れば離れてしまうかもしれない。

 寂しいだとか。悲しいだとか。傷つくとか。そういう気持ちも確かにある。

 でも違うんだ。彼女は。カナラは。自分よりも他者の気持ちを先に考える。

 自分が傷つくだけなら良い。こんな姿で生まれたのが悪いんだから。

 それに、すでに自分からわがままをしてしまっている。

 助けたい、世話をしたい、この手で守って大人になるまで育てたい。

 そういった気持ちを押し付けて。蔑まれてるとはいえ、虐げられてるとはいえ、親元から引き離しているのだから。

 だからせめて自らの顔で気分を害さないようにしなくては。

 そう思って数千年に渡るまで、顔は見せなかった。


 天良寺才と出会うまでは。


 とはいえ、彼との出会いは――おっと、これはまだ駄目だ。これは今から過去みらいの話を交えなくては。

 とかなんとか言ってしまえば、やはり観測者どくしゃ諸君は気になってしまうか。

 困った困った。アノンが口を滑らしたばっかりに。

 ではこうしよう。

 かいつまんで彼女の略歴について話したけれど。

 もう少しだけ詳しく話そうか。

 どこまで話すかは……気分次第。

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