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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
一月編 前編
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491話

「良かったん?」

「ん?」

「あれで済ませて」

 結局。あれから多美も伊鶴もなにするでもなく。これからは絡むなと適当に釘を刺してその場を去ったわけで。

 向こうでは怪我の処置やら仲間内でのいざこざやらで口論なんかがあるかもしれないけれど。

 でもそれは多美が直接なにかをして、鬱憤が晴れた結果というわけでもない。

 だから、伊鶴は今までの分をやり返さなくて良かったのかと聞いてるわけなのだけれど。

「別に」

 多美は特に陰りのない顔で答える。

 実際、情けだとか。復讐はなにも生まないだとかの綺麗事でなく。本人としては本当になにもしなくて良かった。

 というより。

「なんかさ。学園あっちにいた頃から薄々感じてたんだけど。どうでもよくなってたんだよね地元こっちの諸々」

「ほぉ~ん。その心は?」

「学園でやってることが命懸け過ぎて子供のいじめとかがちゃちく感じる」

「わ~か~るぅ~」

「の、割りにはすぐのっかってたじゃん」

「それとこれとは話が別。ムカつくもんあいつら。ま、さすがに本気では行かないけどさ。それこそ大人と子供以上に差があるし。私刑リンチになっておまわりさんにつかまっちまうわ」

「普通の警察なら軽く逃げれるけど。そのあとプロ魔法師が出てくるって考えたら下手なことはしないほうが良いね。つっときながら同調使ってたじゃん」

「あれは直で手出してないしセーフってことで。……むしろその前のが問題じゃね? 凍らせて燃やしてケガさせてるし」

「あれは先に髪掴んだあっちの落ち度。それで押し通すし。それに、一応もう絡むなつってあるしね。さすがにあー言っとけばもう来ないっしょ。伊鶴の性格わかってるからキレさせたらなりふり構わず来るってのはわかってるはずだし」

「だと良いけどね。ま、これに懲りてくれたんなら地元での憂いなく気軽に帰省できるってもんだわ。いやーよかったよかった」

「あんたは別に気にしてなかったじゃん。単純に気が回らなくて帰ってなかっただけでしょ?」

「それはそう。だってサバイバルしたり存在なかみいじられたりしてんだぜ? それから殺し合いみたいなこともしたしさ。ただの試合ではあったけど」

「……そう言われると、本当色々あったね」

 苦笑いを浮かべながら学園でのあれこれを思い出す。伊鶴も自分で話しててどれだけのことをしてきたか鮮明に思い出してきて渋い顔になってくる。

「んでも、まだまだこれからなんだよね」

「そうね。私らまだ一年生だし」

 過去を振り返り、未来に思いを馳せながら雪を踏み、家に向かう。

 道中トラウマとも呼べる輩たちに出会いはしたものの、とっくに乗り越えていたことが確認できたのは結果的に言えば多美にとって良き出来事。

 幼少の傷は時に永劫の膿となる。

 叶わぬ復讐を妄想する人もいるだろう。理性を失ってやらかしてしまう人もいるだろう。立場が上になったならばその立場を利用して報復する者もいるだろう。

 けれど多美はそうならなかった。心の傷を良い形で乗り越えた。

 これは、本人たちが思っているよりもずっと大きな幸福。

 このことで帰ってきて良かったと思わないだろうけれど。

 でも、きっとそれで良い。

 無自覚に。

 無意識に。

 それが良い。

 それで、良い。

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