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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
一月編 前編
487/656

487話

 伊鶴は特別優しい人間と自分では思っていない。

 ただ、人並みに同情心があって。ただ普通よりも感情的なだけ。

 だから、すぐに誰とでも喧嘩をするし。小さな頃から手のかかる暴れん坊扱い。

「なんだよそれ!」

「やっぱかんけいないじゃんか!」

「じゃかぁしい!」

「そっちのがうるさい!」

「ふん!」

「ぁい!?」

「なにすんだよ!」

 それがこのときたまたま。

「じぶんたちだってしてたろ!」

 本当に偶然。

「わるいことされてないのに、じぶんからじぶんがやられてイヤなことすんなよ!」

「……っ」

 一人の女の子を救ってしまっただけ。



「……だいじょうぶ?」

「わたしよりもイヅルちゃんのほうが……」

「こんくらいいつもだし」

 多美の代わりに喧嘩をして。鼻血を出して。口の中を切って。髪も所々抜かれて。片目も晴れ上がって。それでも他に誰か助けに入るわけでもない。

 野次馬がいなかったわけではないけれど、そこに大人はおらず。いたとしても伊鶴と多美が怒られていただろう。

 例えそれが大勢の目撃者がいる小学校の教室であっても。

「……ごめんなさい」

「なにが」

「わたしのせいで……イヅルちゃんこんなに」

「べつに。わたしがきにいらなかっただけだし。むしろ気づくのおくれてごめんだし。ほかのクラスだからわからんかった」

「ううん。たすけてくれてありがと」

「いじめられたらいつでもよびなよ。なんどだってたすけてあげっから」

「……っ。ぅん。……うん」

 伊鶴はたくさん怪我をしたのに、大して痛い思いをしてない自分が泣いちゃ駄目だ。

 そんな風に思って声を圧し殺してお礼を述べる。

 幼くても。ちゃんと考えられる子ならそういった結論も出せるもの。

 多美もまた、そんな優しさの素質も持つ子供だけど。

「なきたきゃなきなよ。なけるのはげんきなしょうこってじいちゃん言ってたし」

「……で、でも」

「わらいたいだけわらって。おこりたいときにおこって。なきたいときになくのが子どもだってさ」

「……」

「よくわかんないけどさ。じいちゃんよくうそつくし、言ってることぜんぶしんじてるわけじゃないけど。でもさ。すなおにしてろってのはスキだよ」

「でも……わたし……」

「ムリにしろとは言わないけどさ。でも、たまにはガマンやめたら? いまここにおこるやついないし」

「ぅ……ぅぅ……」

 仰向けに倒れてる伊鶴のお腹に顔を埋めながら泣きはらす。

 怒るのは悪いこと。泣くのは悪いこと。痛いことをされるのは自分のせい。嫌なことをされるのは自分が悪いから。

 そう思っていたから我慢していたけれど。

 幼いながら頑張ってきたけれど。

 多美に伊鶴の行動と言葉がくれたのは。

 子供として素直に泣くという。

 普通のことだった。

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