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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
十二編
402/656

402話

バトルパート


     天良寺才

      VS

     コロナ



 自らを焦がす白炎。

 身の内から溢れる熱。

 痛みを誤魔化す日々。

 甘えることで、奇行に走ることで偽り続けた。

 それに、誰も気づかない。気づけない。

 コロナの表情は大きく動かないから。読み取れない。

 鎧が暴れるマナを隠すから。リリンの感覚もロゥテシアの直感も、ネスの目すらも入る余地はない。

 存在の繋がりはあれど、ワールドエンドたるコロナが拒めば深く探ることは叶わない。

 そしてコロナには、拒む選択肢しかなかった。

 深く繋がれば恐らく才を焼き尽くしてしまっていたから。それが、わかっていたから。

 だから、縁のある才も気づけなかった。コロナとの繋がりがあるのに、互いに存在の一部を投影しようとしてもできなかったことに違和感はありつつも、気づけなかった。

「ァアァァァァア! アアァア! アァアァァァァアアァァァァア!」

 嗚呼。もう少し先になるはずだったのに。もっと先になるはずだったのに。

 身体うつわが壊れるまでの時はもっと刻まれるはずだったのに。

 氷巳の力が。神の力が。なんの因果かコロナに干渉してしまった。

 時が戻り、暗くて辛いあの時に戻ってしまった。

 それだけならまだ壊れなかったかもしれない。

 けど、今はもう駄目なんだ。駄目だったんだ。

 幸せを知っているから。駄目になってしまったんだ。

 たとえ記憶はなくなっても魂が覚えてしまっている。それに、コロナほど強いモノならば影響も抑えられる。

 けれど、これがいけなかったのかもしれない。完全に忘れられたらもしかしたら壊れなかったかもしれない。

 少しだけ残るその幸福感きおくがあるから、喪失感が生まれてしまうのだから。


 だから……。


 だから…………。


 だから………………。


「アァアアアアァアァアアアァアァァァァアァァァァァァァア!」

「はぁ……」

(なぁリリン。お前、どこまで予想してたんだ?)

 リリンにも予測できなかった。

(こうなるのが分かってたのか?)

 わかっていたのはコロナの力が自身に近い力を抱えているところまで。それも、見通せないことと才との縁も含めての予測に過ぎない。

(なぁ、リリンよ。お前はコロナをどうしたいんだ?)

(どうも)

「……!」

 才の心に割り込む意思。

 上から気配を感じて見上げるとそこには――。

「リリ……ン?」

 試合場を覆う透明なドームの上にリリンが立っていた。

(お前……どうして……)

(コロナのマナの質が変わったのを感じてな。あまりにも予想外のデカさと密度で加勢しに来てやった)

(ってことはリリンもコロナがこうなるのはわからなかったんだな)

(あぁ。神誓魔法で干渉を受ければ枷の一つでも外れるとは思ったが……。フム。一つどころか逆に《《一つを残して他が外れたか》》)

(……あれで残ってるって言えんの?)

 コロナの様子を見て苦笑いを浮かべ訝しむも、すぐにリリンから補足が入る。

(殻が消えてるからよーく視える。内に燻ってる熱は四桁を超えてる。が、コイツの下は二桁程度の熱しかないだろう? 意図的に抑え込んでいなきゃ理解できん。まったく。理性のほとんどが吹っ飛んでるのにな。さて、いったいナニに気を遣ってるんだろうなぁ?)

「……」

 ほんの少し。ほんの少しだけ残ったコロナのナニかが才を守っている。

 それがわかると、なんとも言えない気持ちになってしまう。

 そこまで愛されていると。こんな時だっていうのに照れ臭くて、少し言葉が詰まる。

(……話はわかった。で、対策はあるか?)

 先程はなんの策もなしにとりあえずコロナを押さえ込もうかと思っていたが、リンがいるなら話は別。案があるなら聞いておきたいところ。 

(今は《《殻》》もないし存在は繋げられるだろうが。そうしたら今のお前でも焼かれ死ぬだろうな。当然我も無理だ。外部はともかく内部から焼かれればどうなるかわからん。外部からはともかく、だ)

(外部はともかく?)

(そう。肉体そとから試してみよう。そこから多少なりとも干渉してしまえばコロナがなんとかするかもしれんし、内部からの干渉が楽になるかもしれん。出来れば侵食までに至れば安泰なんだが)

(無茶ぶりにもほど)

 マナの質は多少劣るものの、仮にリリンと同等として。侵食そのものは可能かもしれない。

 過去、リリンに対して無意識に行ってしまっていたが故に。

 けれど、あれはリリン側からも才に踏み込みすぎないようにしていたし、ネスのサポートもあった。

 今はそれら全てがない。だから内外問わず深く繋がる行為は危険極まりない。

(まず外からって……。直でマナぶちこむだけでも骨だぞ。わかんだろ? 今でもマナが濃いし、物理的にも熱いのに触れたらどうなるかわかんねぇ。まして侵食とか――)

(が、やらなければ殺すか殺されるしかない。だからやれ)

(……へいへい)

 才の返事を聞くと、リリンは影を広げドームを覆い、果ては演習場全てに影を広げる。

(外に影響がないようにしてやった。光は阻んでしまったが、問題ないだろう)

(あぁ)

 今の才は視覚情報に頼らなくてもあらゆるモノを認識できる。

 なにより周りを気にしなくてよくなったことが大きい。

 リリンの影はコロナも才も吹き飛ばせるが、《《演習場の物質全ての表面に影が張り付いている》》ので、実質何重にも重ねられている状態。施設が壊れる可能性はあれども演習場から外は無事に終われる。

 それに――。

(外には煙魔が控えているしな。影で防げずとも何かあれば煙で別の場所に飛ばすだろ)

(そりゃ心強い)

 ようは演習場の中も外も安全策が取られているということ。なら気兼ねなくコロナに集中できる。

 これほどありがたいことは今の才にはないだろう。

(んじゃま。そういうことなら――)

 リリンとの繋がりからコロナへと意識を向直す。

 そして一歩大きく踏み出し、空間を歪めてコロナとの距離を潰した。

「……っ!」

「うが!?」

 白炎をものともせず後頭部から蹴り飛ばす。

 コロナは白炎を纏ったまま壁まですっ飛んでいく。

「ちょっと荒っぽくいっても良いよな?」

 不意打ちに等しい行為だが、才としては先程勝手ながら開戦の了承を得たことにしている。

 故に今の行為になんの後ろめたさもない。

 なにより――。

「いってぇ……」

 蹴った足がもものあたりまで焼き消えてしまった。

 断面も血が出ることなく炎で止血され、剥き出た骨も焦がされて真っ黒だ。

(ちくしょう。一応ぶちこむためにもマナを纏ってたってのにコレかよ。手応えからして全然通っていかなかったし、一方的にこっちが大ケガ。割りに合わねぇ……)

 渋い顔をしながら太股を切断。血が滴るもすぐに再生が始まり足が元に戻る。

(まぁ、首から下の怪我ならどうとでもなるか。まだコロナのマナは漏れ出てるっつっても内側に向かってるし。こっちに向かなきゃいつかは――)

「……ンゥ……ガァアアア!」

「!?」

 ゆらゆらと体を起こしながら腕を振るコロナ。

 振った腕からは白炎が広がり、うねりながら影と床をえぐり才のほうへ向かっていく。

「……っ」

 足を再生させていたのが幸いし、体を捻りながら後ろに跳ぶことでかわすことができた。

(クソッ。軽く手を振っただけでコレかよ。影もあっさりえぐるし。すぐまた覆うつってもあんま意味無さそうだなこりゃ。加えて、マナが少しずつ外に向いてきてる。閉じ込めていられなくなってんのか? 急がないとマジで手に負えなくなるかもしんねぇな)

 無意識ながらも抑えていたマナと白炎は加速度的に強さと大きさを増しながらコロナを中心に外側へ漏れ出ている。

 先の一撃で片足を失ったことも考えれば、これ以上時間をかけたくはない。

(影……を纏って殴ってみるか。ただマナでコーティングするよりも肉が溶かされるまで時間稼ぎはできんだろ。密度も半端ないし)

 才は影を首から下の全身に纏い、触れたときの力のベクトルを調整。

 その間もコロナの白炎は増していき、ついにコロナのシルエットすら見えなくなったが、マナを感知すれば位置くらいは掴める。

「うっし」

 準備が整うと、才は再びコロナの元へ踏み出す。

「ァァァァアアアア! アァアアァ!」

「……!」

 距離を詰めると同時に、コロナの叫び声に応じるようにうねった白炎が辺りをえぐり始める。

 才は、一瞬驚きはしたもののすぐに白炎の動きに集中してかわして突き進む。

 時に地から足を離して身を捻り、人間の可動域ではかわせないとみると纏った影で関節を外し、または影そのものをもう一つの手足として使い体勢を整えては変えていく。

「ぁ……っち」

 それでもかわしきれず体表面が燃やされてしまうこともあるが、炎が触れたところはすぐに引きちぎる。

 傷をそのままにしておくと、マナの影響で治らないからだ。

 だから、負傷した傷はすぐに自ら広げなくてはいけない。

 その行為がまた、悪戯に時間を浪費ってしまう。

(しかも、近づくにつれて炎の面積はどんどん増えやがる。そらコロナを中心にしてんだから当たり前だけど。いい加減かわせねぇぞこれ)

 今はなんとか影を幾重にも分割して外側へ押し出し、消される度にまた内側で影の層を作ることでなんとかしている。

 けれど、これ以上は無策で近づくのはただ危険なだけ。

(つっても近づかなきゃマナをぶちこめねぇし。でも近づいたらバーベキューどこの騒ぎじゃねぇし。こうやって迷ってる間にもどんどん火力はあがるしよぉ~。マジで八方塞がりの無理ゲー――)

「ヤ、ァ……」

「……?」

 頭の中で悪態をついてると、呟く声が聞こえた。

 耳を澄ますとコロナの口から――。

「ニャ……ア……ニャ…………ア…………」

 氷巳の魔法の効果が切れたのか。はたまた単なる偶然か。

 そんなこと、さして重要なことじゃない。

 コロナがこんな目にあっていても才のことを呼んだ。

 それが……それだけが大事なこと。

「はぁ……」

(小難しいこと考えても仕方ねぇか。元々大しておつむが良いわけでなし。俺にできるのはアイツらからもらった力でもってただ――)

 一拍置いて、両の手を握りしめる。

 手の中ではマナが影となり暴れ狂い、何度も指の骨が纏う影と暴れる影に挟まれながら砕け散ってはかき混ぜられるも才は一向に構う様子はなし。

(ごり押すだけだっ)

 心の中で渇を入れ、才は左手から影を解放する。

 解放された影は一気に拡散。一時的に。ほんのわずかな時間ながらもコロナが見えるくらいに白炎を蹴散らした。

 代わりに、左手は一瞬とはいえ高密度の白炎に晒され、影の解放に巻き込まれて肩から先がなくなってしまっている。

 が、この程度の被害でコロナに近づく隙が作れたならば安いもの。

「悪いなコロナ。たった今ひらめいたもんで。もしかしたらもしかするかもだから先に謝っとくわ」

 次いでコロナとの間にある空間を歪め、即座に近づく。

 残された右手をコロナの腹部に近づけ、再び影を解放する。

「殺しちまったらごめん」

「――」

 放たれた影はコロナの腹部に風穴を空け、同時にコロナは泣き叫ぶのを止め、白炎も綺麗に消え去る。

「はぁ……はぁ……」

(とりあえず止められはしたな。あとはどうにか《《コイツに俺を割り込ませる》》)

 才は空いた穴にぐちゃぐちゃになった腕を突っ込む。

 コロナと才の血肉が混ざり、リリンの細胞がコロナの細胞を侵食していく。

 同時にマナも馴染ませ、《《外堀》》も埋めていく。

(これで繋がりは得られるはず。あとは傷が治れば良いんだが……)

 体内に腕を入れ、マナを巡らせると嫌でもわかってしまう。

 外面はともかく。臓器などは人間と違う構造……という話でなく。

 コロナの肉体の内側。その損傷が激しいことが、だ。

 才によって空けられた穴よりも、むしろ自ら焦がしていた方が余程酷い。

 内臓の大半は焦げ臭い臭いが漂わせ。六割ほどが動きを止めている。

 消化器官は生きているが、エネルギーを蓄えたり、毒素などを分解する内臓は壊滅的。

 こんな状態では食事さえもコロナにとっては毒に等しかったろう。

 だから、好きな物や才がいるときにしか積極的に食事をとろうとしなかったのかもしれない。

 そしてもう一つ才が気になったのは、コロナのとある器官について。

 大概の動物に存在する繁殖するための臓器。それもまた、完全に焼き潰れているということ。

 コロナは生物的にはめすに分類される。けれど、そう足らしめる器官が。臓器が。完全に潰れてしまっている。

 コロナにその手の本能や欲があるかはわからない。

 でも、子供が作れない体というのがわかると。なんとも言えない気持ちにさせられる。

(何でお前はこんな状態で生きてられてんだよ……。平気な面してよ)

 才は再生の終わった左腕でコロナを抱え直す。

 それからは、髪に顔を埋めてただコロナへの侵食が終わるのを待つことにした。

 少しだけ……いや、本気で。上手くいくことを願いながら。

 才がリリンと深く繋がることにより別の生命になってマナを扱えるようになったように。

 コロナもなんの不安も痛みもなく日々を送れるようになるよう祈りながら。

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