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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
五月編 後編
39/656

39話

「じゃあ。各々。契約者を喚んでくれるかな?」

 促された彼らはまずグリモアを具現化させ、マナを送り込み契約者を呼び出す準備に入る。……一人を除いて。

「えっほらえっほら。おじさーん! まだこの辺安全?」

「なんで走っていくのかわからないけど。もう少しなら平気だよ」

 一人だけ距離を取っていく伊鶴。距離にして大体30m程。多美以外は理由は知らないが、多美が口を出さないのを見て改めて召喚に入る。

「来てくれ。マイレディ。ジゼル」

 最初に召喚をしたのはマイク。以前ジュリアナとの一件でも喚び出した炎を纏った雌鹿だ。ジゼルは辺りが森なのを見ると炎を収める。こうして見るとただの鹿にしか見えない。

「おいで。セッコ」

 続いて喚び出したのは八千葉。現れたのは砂塵を纏った隼。砂を纏ったまま八千葉の頭に止まり、そのまま砂を落とした。

「ぶへっ! ぺっ! ぺっ! ……もう! 毎度毎度砂落とし頭でやるのやめてよ……いた! いたたっ! 爪立てないで!」

 吸い込まれそうな程暗い瞳からはわからないが、狼狽える八千葉に満足したのか爪を納め目を閉じ大人しくなる。彼なりの挨拶だったのだろうか。はたまたただのイタズラ好きか。未だ契約者の八千葉もわかっていない。

「……クテラ」

 次に喚び出したのは多美。ゲートからゆったりと現れたのは大型の氷の鎧を纏った雪豹。周りを見渡し敵意がないとわかると鎧を解いて、甘えたように喉を鳴らして多美に近づく。

「待った!」

 だが多美は一度制止させる。クテラは悲しそうな顔をして首を傾げた。

「雪と氷ちゃんと落としなさい。濡れちゃうから」

 納得したクテラは体をブルブル振るわせて体についた水気を吹き飛ばす。若干多美にかかってしまっているが気づいていない。

(ま、まぁ直にこすりつけられるよりかはマシだし。うん。妥協しよう)

「よし。おいで」

 一度ため息をつきつつも、言うことをちゃんと聞けたので甘えることを許す。抱き締め、頬を掴み持ち上げてやると、また喉をゴロゴロと鳴らす。

「ほれほれ~。うりうり~」

「ゴロゴロ……。グゥ」

 体長1.7m体重120㎏と豹としてはかなり大型のクテラだが。なんとこれでもまだ子供。将来はさらに大きくなるのだ。

「ニスニル」

 今度は夕美斗の契約者。ゲートが開いた瞬間ド・ニーロも眉間にシワを寄せてしまうほどの存在感が森全体に広がる。その姿は鬣豊かな美しい白馬。歩く場所は清められ、草も花も瑞々しく潤い、体から吹くそよ風が頬を撫でると気持ちが安らぐようだ。

「喚び出してしまってすまない。今、大丈夫だろうか?」

「……貴女はまだそんな事を言うのね。私の事は気にしなくて良いといつも言っているのに」

「す、すまない……。いつも私のせいで無理をさせてしまってる気がして。今も傷を癒しているのではと……」

 無理とは演習試合の事。夕美斗は一度も勝てていない。つまりこのニスニルに土をつけさせてしまっている事になる。今荘厳な空気を纏っているニスニルだが、演習では夕美斗のマナしか使えない。つまり敗北の原因は夕美斗にある。その事を夕美斗は心底気にしてしまっている。ニスニルはクラス分けすればSクラス相当の存在なのだから、余計に自分自身を追い詰めている。

「アレも練習でしょう? 練習なのだから気にせずに思い切りやれば良いのよ」

(そもそも傷なんて負っていないしね)

 ニスニルはいつも夕美斗の様子を見てマナを送り込める精神状態じゃないと判断すると、直ぐ様負けるように仕向けている。肉体能力だけでもそこそこ戦えるのだが、夕美斗の成長の為にわざと負けているのだ。

「……すまない」

「ごめんなさい。言い過ぎたわ。貴女はそういう娘だものね。焦らなくて良い。いずれできるようになれば」

「うん。……ありがとう」

 ニスニルの包み込むような母性にいつもよりも弱気な顔を見せる夕美斗。彼女には心のうちをさらけ出させる空気がある。だから夕美斗はニスニルと話すときはいつもより幼くなってしまう。

「うっし! 皆喚んだね? それじゃ真打ちいっきまーす!」

「はーい。全員伊鶴に警戒体勢」

「グフゥ……」

 もう慣れたとばかりに呆れた息を漏らすクテラ。目の前に自分と多美が隠れる程度の氷の壁を展開。

「……とりあえず他の子達は私が護りましょう」

「えっと。何が起こるかわからないが。頼む」

 ニスニルは一先ず前へ出て薄い空気の層を幾重にも展開。何かしらの衝撃に備える。

「じゃあいっくぜぇ! ハウラウラン!」

「……!? あ、あのお嬢さんなんという……!」

 ド・ニーロが驚いた理由。それは伊鶴が召喚の際に異常な量のマナを溢れ出させたから。密度も才にかなり劣るものの常人を遥かに超えている。間違いなく一年生……いや学園でも屈指のマナ量だろう。

 であるならば。何故。伊鶴はE組なのか。理由は単純。伊鶴にはオンとオフしかないからだ。マナ量の計測の時、伊鶴は意図せずではあるがスイッチをオフにしていた。だからE組になってしまっている。それでもE組で一番のマナ量なのだから。天才と言わざるを得ない。

 そしてもう一つ。伊鶴には運もあった。

「キェェェェェェェエ!」

 奇声をあげて現れたのは黄色い筋が全身に渡り走っている真っ赤大トカゲ。なんとこの大トカゲ。地竜の赤ん坊である。

「ハ~ウちゃん♪ 伊鶴たんでちゅよぉ~♪」

「グエップ」

 ハウラウランはゲップを一つした。すると正面に爆撃が起こる。運の悪い事に爆撃は夕美斗達の方へ放たれた。

「……っ!」

 ニスニルは空気の層を厚くし、さらに爆炎が森に広がらないように包み込み消火した。もしニスニルがいなかったらマイクと八千葉は大怪我を負っていただろう。ちなみに伊鶴だが。

「のわわわわわわわぁ!?」

 爆風で飛ばされて転がっていた。

「伊鶴あんた……いつもだけど、何がしたいの……」

「まったく。あの子達周りが見えていないのかしら?」

 多美はいつもの事だが、初見であるニスニルも呆れたように言葉を漏らす。

「あちちちち……。いっつも喚び出すと爆発起こすよね。なぁに? クセ?」

「クケ!」

「……あーもう! きゃわいいなぁ! こいつめ♪」

 ハウラウランの元まで戻ってきた伊鶴は背中に乗り抱きつく。ハウラウランは伊鶴の事など意に介さず顎を前足でかいている。

「伊鶴! 遊んでないでさっさと来い!」

「クケケ!?」

「うあおお!?」

 多美の声に反応しハウラウランが急いで駆け寄っていく。伊鶴の事は無視するのに何故か多美の言う事は比較的聞くハウラウランである。

「クケ!」

「よし。……あんたは爆発さえ起こさなきゃ良い子なのになぁ~。伊鶴の契約者だし残念子なのは仕方ないのかもだけどさ」

「っていうか契約者私なのに全く言う事聞かない方が問題だよね。な~んでハウちゃん無視するのぉ~? ねぇ~え~。タミーのが好きなのぉ~?」

「えっとえっと。加古治さん、宍戸司さんに頭上がらないからこう。順位つけられちゃってるとかじゃないですか? 結構甘やかしてるようにも見えますし」

「そうね。伊鶴はハウに全然怒らないから。まだ赤ん坊だけどもう完全に嘗めきってるね」

「だってこんなに可愛いのに怒れる?」

「……正直爬虫類をそこまで熱心に可愛いとは言えないかな。いやまぁハウ可愛いけどさ」

「それよりも僕はあの爆破の威力のが気になるよ」

「確かに。ニスニルの壁が無ければ大きな被害になっていただろうしな」

「あはは~。これでもどぅ~らごんだからね。学園だとほら。マナに制限かかってるからそこまで大きな爆発は起こらないんだけどさ。外ってことを忘れてつい普通に喚び出しちゃったよ」

「それってつまりは普通でもあれくらい離れなきゃ危ないような子ってことなんじゃ?」

「……異界のとはいえさすがは竜の子供というところね。将来が楽しみではあるわ」

「クケ? クケ!」

 会話の内容はよくわかっていないがとりあえず返事をするハウラウラン。

(この子は危険ね。少しでも周りへの被害を出さないように躾られれば良いけれど。あくまであの伊鶴という子の契約者。あまり口は出したくないわね。夕美斗に危険が及ばない程度に納めておきましょうか)

 そして密かにハウラウランを監視すると決めたニスニル。ハウラウランと伊鶴が心配という気持ちもあるが、彼女にとって何よりも大事なのは夕美斗である。契約者である以上に。

「ヒャヒャホホ。これで全員集まったかな? 落ちこぼれと聞いてたがなかなかどうして粒揃い。やはりあちらの基準は当てにならないねぇ」

「いんやぁ~それほどでもぉ~」

「謙遜しなくて良いよ。なによりお嬢さんは異常だ。えぇえぇ。とても異常だ」

「い、いやぁ~それほどでも……」

 同じ台詞だが最初と違いトーンが落ちる伊鶴。

(真面目な声で異常とか言われたらさすがに素直に喜べない……!)

 ド・ニーロはこれ以上ない程に誉めているつもりだが、残念ながら本人には届かない賛辞であった。

「では改めて契約者の方々にも説明をします。よろしいですか? 聞く準備はできていますか?」

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