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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
五月編 前編
31/656

31話

 俺の中で一つ。固定観念があった。どれだけぶっ飛んだ力を持っていても、縁のあるヤツはきっと人の姿なのだろうと。なぜそう思っていたのかは自分でもわからないが、とりあえず、だ。その固定観念が今、崩れたよ。

「不可思議な気配があると思い足を運んでみれば、いやはやまさか毛なしの小さき猿がいるとはな。長いこと生きているが驚きを隠せんぞ」

 ビルのような木々の奥から現れたのはほんのり紫色がかった巨大な白い狼。美しい毛並みと堂々たる足運び。響く声は重くのしかかるようだが、澄み渡った麗しさも兼ね備えている。まるで物語に出てくる神獣のような出で立ち。ただサイズがおかしい。神獣だとしてもデカ過ぎる。頭だけでも車一台分は軽くあるぞ。体長と体高何メートルあるんだ? エイツよりデカいんじゃないか?

「して、我らの森に何用だ猿共よ。既に儂の頭に術を施しておろう。意思は通じるはずだ。答えるが良いぞ」

 うっ。獣と思って侮らないほうが良いなこれは。正確には理解していないようだがグリモアの翻訳に感覚で気づいている。動物的直感に高度な知能を兼ね備えた完全に俺たち人間より上位の生物だ。そしてグリモアでの翻訳に気づき受け入れてるってことは、俺と縁があることは確定した。

「はじめまして。この森の、延いてはこの大陸の支配者とお見受け致します。私共は異界より参った者でございます」

「ほう。異界の」

 固まってる俺の代わりにネスさんが挨拶をする。引きこもりでもさすが伊達に年齢を重ねていない。大人の対応だ。

「私共。いえ、彼は異界との縁を結ぶことを生業にしている者にございます。どうやら彼と支配者殿には縁があるご様子。もしよろしければ繋がりを持てればと思い参った次第です」

「なるほど。儂との縁、か」

 狼は俺を凝視する。殺気を込めていないはずなのに、リリン以外の選血者よりも凄まじい圧力で押し潰されそうだ。立っているだけで精一杯。これ以上圧力を増されたら意識も保てないかもしれない。

「フフ、フフフフ……。フハハハハハハハハ! 異な事を言う異界の猿だ! その矮小で脆弱な猿と儂に縁だと? 長い時を刻んで来たがここまで笑ったのは始めてだ! 腹の肉が捻り切れそうだ! フハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 大きな声で笑う狼。その笑い声で森がざわめく。木々が揺れる。地が震える。

「と、言いたいところだが。中々どうして一笑に伏す事ができぬよな。事実として儂に術をかけている。さらに主ら、力を隠しているな? 底が視えんほどには大きな力を」

 ピタリと笑うのを止め放った言葉はまたしても核心を突くモノ。だが申し訳ないがたぶん隠しているのはリリンとネスさんくらいだ。俺は強いマナがあっても自由に使えないのでノーカンです。

「主らは儂の力を欲しているようだがな。儂からすれば森を、そして群れを脅かす外敵にしか映らんぞ。突如現れた得体の知れない生き物なのだ。そう思うのは必然だろうが」

 先程までのただ大きいだけの圧力は消えた。その代わり静かで肌に粘りついてくるような冷たさを帯びた圧力に変わる。群れを守るために残虐になりきる野生生物の長。それが意図的に殺意を向けて来ている。身の毛がよだつ。血が凍る。冷たい汗が溢れ出てくる。この狼。行動に移さないただの意識だけの威嚇でこんなことができるのかよ……。直感力。知能。溢れ出る風格。紛れもなく、リリンとはまた別ベクトルの怪物だ。

「クハハ! この畜生良いな! 勘が良い! 頭が良い! 敵意も殺意も文句なし! マナも我程ではないが強いモノを感じる! クハハハハ! 昂る! 昂るな!」

 リリンが腕を組み影を展開し、戦闘体勢に入る。影を見た狼はより一層圧力を強めた。

「主……とんでもない化物だな。これほど強い生物を見るのも初めてだ」

「クハハ。貴様がこの世界で最も強いならば当然だろうよ。我は貴様より遥か高みよ存在だぞ」

 揺らめく影が広がりその場を少しずつ侵食し始める。狼は険しい表情をするが退く様子は欠片もない。

「主だけはこの場で仕留めさせてもらおう。主だけは生かしてはおけぬ。その膨大な力を我が群れに向けさせるわけにはいかん!」

 強まる圧力に本当に意識が飛びそうだ……。リリンはともかくネスさんも平然としているってのに。……いや、比べる相手が間違ってるか。俺以外は化物しかいねぇんだったわこの場には。

「群れに向けさせたくない、か。では提案だぞ犬畜生。群れをこの場に呼ぶが良い。そして我と貴様が一騎討ちだ。獣であればわかるだろう? 戦いに敗れた時、生殺与奪は勝者にある。我が勝ったら大人しく従え。貴様が勝てば我らは大人しく殺されよう」

「……」

「案ずるな。呼ばせるのは結末を見届けさせるためだ。勝っても手は出さん。そもそもやろうと思えば今この場で貴様の血族全ての死体を積み上げられるのだからなぁ」

 狼は直感でわかるのだろう。リリンがハッタリを言っていないことを。少しの間思案を巡らせ、狼は決意を固めたようだ。

「良かろう。力ある者が制するのが世の理。異論はない。では主らの名を聞かせてもらおう。勝つにしろ負けるにしろ。群れに名を教えとかなければならぬのでな」

「我はリリンだ」

「ネスと申します」

「えっと。才、です」

「確かに聞いた」


 ――ウォォォォォォォォォォォォオン!!!


 間一髪。リリンが鼓膜を影で覆ってくれたが腹の奥まで震わす爆音が響き渡る。

 その遠吠えは大陸全てに届き、狼達が長の元へ集まった。

「お前達! 先の吠えの通りだ! 今より始まるは儂とこの外敵との一騎討ち! この戦いの勝者がこの森の支配者よ!」

「長が負けるか!」

「森の支配者は長だ!」

「チビのハゲ猿なぞに敗北なぞせぬ!」

 あちらこちらから轟く巨大な狼達の遠吠え。

「たとえ儂が負けても決して襲うな! 群れの存続は約束されている!」

「負けはない! 我らが長に負けはない!」

「常勝! 長は常勝無敗! 最強の生物!」

「頂点に立つのは変わらず長のみぞ!」

 狼達は自信に溢れる遠吠えを止めない。ヒエラルキーの頂点たる生物だからか。それとも長たるこの狼への信頼だろうか。

「参るぞ化物。儂の命に懸けて喰らい殺す」

「さっさとかかってこい犬畜生。全力で死なせんので覚悟すると良い」

「侮るな。覚悟なぞ乳を貪っていた頃には決めておるわ。……主らだけに名を名乗らせるのも無礼な話だな。儂も名乗らせてもらおうか。我が名はロゥテシア。この森を力で制した覇者である」

「クハハ! 覇者とはまた大層だな。まぁ肩書きなぞどうでも良い。存分に闘争ろう」

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