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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
十月編
304/656

304話

「にいさま。きょうはおべんきょうをおしえてください」

「……うん」

「にいさま。おさんぽにいきませんか?」

「……うん」

「にいさま……。いっしょにねてもいいです……か?」

「う……ん? ……うん」


「にいさま! きょうはこれを!」


「にいさま! ちゃんとできました!」


「にいさま――」


 あれから二ヶ月程経ち、すっかり才に懐いた結嶺。

 家の雑事などは全て機械任せで日波と才しか話せる相手がおらず、日波は病人なので必然的に才が構うことになる。

 なので、たとえ無愛想でも必然的に才と仲良くなる。

 もちろんそれだけが理由ではない。

 無愛想ながらも必ず世話を焼く才に対して、潜在的には優しい人間だとなんとなく結嶺も察しているからだ。

 だから結嶺は境遇を抜きにしても才への好感度が上がっていく。

 日波の調子の良い日は日波の部屋で勉強をしたり、遊んだりするので、仲良くなる二人を見て日波も内心とても喜んでいる。

 聡一の教育が始まるまであとどれくらい時間があるかはわからない。

 でも始まるまでの間は、普通の兄妹のようにしていてほしいと願うばかり。



「にいさま! みてください!」

「……っ」

 そんなことを願ってしまったからか、ある日結嶺は才の目の前で人域魔法を使って見せた。

 子供用魔法入門のアプリを開き、始めの方にある発火の魔法。

 火は危険ではあるがイメージがしやすく、監督役がいる前提ならば最初に使うとしては最も適している。

 しかし、だ。

 如何に適してるとはいえ、誰に師事されることなく。ただテキストを読んだだけで魔法を使った。

 未だ放置されているにも関わらず。魔法を使えてしまった。

 結嶺に深い意図なんてない。ただ兄である才に構ってもらいたくてやった数ある内の一つに過ぎない。

 だが、才からしたらどうだろう?

 自分がどんなに頑張っても出来なかったことを、義理の妹が容易く出来てしまったら。

 それを満面の笑みで見てしまったら。

「……」

 才は無言のまま結嶺へ手を伸ばす。そして――。

「すごいな。えらいぞ」

「……! は、はい!」

 頭をくしゃくしゃになるくらい撫でてやった。自分の顔を見られないように強く。強く。

 才は結嶺を妬んだ。だけれどそれ以上に……憐れんだ。

(ゆいねはてんさいなんだ……だからとうさんはつれてきたのか……。きっと、まほうがつかえるゆいねはとうさんにだいじにされる。……でも、つきっきりになったらいつか)

 自分や母のように暴力を振るわれるだろう。

 期待値が高い分裏切ったときは余程手酷く。

 それがわかっていると、どうしても怒れない。妬みこそすれ……怒れない。

 今さら魔法が使えて、聡一に目をかけられたとしても。欠片も嬉しくない。

 あんな人でなしに愛されたところで幸せな気持ちになれるわけがない。

「えへへ♪」

 結嶺もすぐに聡一の人格破綻振りに気づくだろう。無愛想な才に優しさを見いだしたよりも簡単に。

 そうなる前の……今だからこそ。自分が目一杯誉めてやろうと、才は思ったのだ。

 だって、気づいてしまったから。

 結嶺は才の代わりとなるべく連れてこられたと。気づいてしまったから。

「……」

「わわ!? にいさま!?」

 今度は結嶺を抱き締めてやる。思いっきり抱き締めてやる。

 心の中で、謝りながら。

(ごめん……。おれのみがわりにあいつに……。ごめん……)

 少しの妬み。多大な憐れみ。押し潰すほどの罪悪感。

 負の感情が才の中でぐるぐると回り、その感情の強さの分。抱き締める腕に力が入る。

(にいさまからこんなことはじめてされた……。そんなによろこんでくれたんだ……)

 不幸中の幸いと言うべきか、驚きのあまり結嶺は才の心中を察しきれていない。

(もっとがんばったら……またこうやって……)

 結嶺からも才を抱き締める。明日からはもっと魔法の勉強をしようと心に決めて。

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