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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
入学編
11/656

11話

「今日はここまで。さっさと自室に戻るか、クラブに行くものは教室で時間を潰しておけ」

 一瞬何を言われたのかわからなかった。

 なぜならまだ午後の授業時間は半分ほど残っているからだ。メニューもストレッチとランニングしかしてない。

 全員が疑問に思う中。一人の生徒が前に出た。そう、我らがミケだ。

「ヘイミスター! 僕はまだまだ元気いっぱいだぜ? むしろウォームアップが済んだばかりなのにこれじゃあ不完全燃焼のままおわってしまうよ! 皆もそうだろ!?」

 いや別に。連日のトレーニングで満身創痍なので休めるなら休みてぇよ?

 他の連中も俺と同じ気持ちなのか首を横に振っている。

 同意を得られずしょぼんとするミケ。あざとい。好感度狙いか?

 真っ黒筋肉達磨がそんな顔しても不気味なだけだぞ。

「今週から土日のうちどちらかは実戦演習だ。疲れを残してどうする。詳細はあとでメールを確認しておけ」

 言うだけ言って立ち去る小咲野先生。

 そういえば今日は金曜だわ。毎日ハード過ぎてすっかり頭から抜け落ちてた。

 全員がポカンとしたアホ面になったが、すぐにその場は歓喜の渦に包まれた。

「うぉぉぉぉおっしゃああああああ! 休みだぁ!」

「さっさと着替えて帰ろう! そして俺は寝るぞ!」

「ねぇ。このあと学食行かない? 今スゴく甘い物食べた~い」

「あんまり食べ過ぎると太る……って毎日こんだけ走らされてたら太るわけないか! ってかむしろ痩せて胸まで小さくなるのでは!?」

「マジ!? それは困る! むしろ食べよう! さぁ行こう今すぐ行こう!」

「……ん~」

 さてと、俺はどうするかな。被服部は名前だけ置いてるだけだし。やることないから帰るか。あ、売店に寄っておやつ補充しよ。

「やぁ才。君はこれからどうするんだい? 暇ならクラブまで寮のジムで一緒に汗をかかない?」

「お前話聞いてた? 明日か明後日演習って言われたじゃねぇか」

 トンチンカンなことを言うんじゃねぇよミケこら。せっかくトレーニング切り上げてもらえたのになんで自分から体酷使しに行かにゃならんのじゃ。

「でもなんか物足りないだろ? こんなに体力有り余ってたら夜も眠れないよ」

「いや知らねぇよ。少なくとも俺は今日もぐっすりだよ」

 疲労が抜けてねぇんだよお前と違って。

 つか俺たちよりハードなのになんで元気なんだよ。

「とりあえず行きたきゃ一人で行ってくれ。俺はさっさと帰って休むよ」

「つれないなぁ~。あ、そっか。午後は部屋で待ってるもんね彼女。無粋だったよ」

「……チッ」

「舌打ちだけ残すのはやめてくれないか? とても辛い」

 じゃあそのなんでも恋愛に繋げようとするのやめろよ。こちとらこの前幼女趣味の変態の容疑で捕まりかけたんだからな! デリケートな時期なんだよ!

「悪かったよ才。また今度機会があったら付き合ってくれ」

「……あぁ。お前もほどほどにしとけよ」

「心配してくれるのかい? それは嬉しいね。でも僕もそんなにバカじゃないさ。本番に影響を残すことはしないよ」

 そういや色々スポーツやってたもんなお前。体調管理はお手の物ってことかね。



 夕食後。演習についてのメールが届く。

 場所はドーム型の室内演習場。入試の時にも使われたところだな。演習形式は一対一の対人戦。

 対戦相手は学年ごとにランダムで決められるらしい。つまり運が悪ければ入試成績優秀者のA組ともやらされる可能性もあるのか。

 対戦時のルール。戦うのは主に召喚した契約者のみ。生徒たちは決められた安全ゾーン内にいれば攻撃は当たらないし、そこから指示を出せば良い。戦術として安全ゾーンから出るのは有りだが、命の保証はしない。

 ……このルールってつまりは自分も駒として使えるってことだよな。

 もしかして……。うん。なるほどな。少しだけあの人の意図はわかった気がする。たしかにこれしか俺たちが演習で勝つ方法はないように思える。

 だけど、まだ考える時じゃないな。今はきっと準備してる段階だ。

 とりあえずざっとだけどルールはわかったし。リリンと相談でもするかな。

「なぁ、ちょっと良いか?」

「ウム? 今少し手が離せんのだが」

「話だけなんだが」

「ならば問題ない」

 リリンは今ゲーム中。最近ずっと格ゲーばかりやってる。

 一度振り向いてこちらを見ていたが指は動いていた。手は離せないけど目は離しても平気なの? 見なくてもプレイできたっけ格ゲーって。

 まぁいいや。リリンだし。とにかく用件済ませちまおう。

「明日から実戦演習なんだけどさ。お前作戦とか戦略とかない?」

「ほう? 実戦か。それは興味深いが質問が漠然とし過ぎてるな」

 だって俺そういうのしたことないし。魔法使えなかったから特にな。

 子供でも魔法が使えれば実戦を想定した練習とかも家によってはやるんだろうけど。

「だが、特に小難しいことはあるまい。我がやるんだろう? 貴様は余程強敵が相手でない限り暇するぞ」

「大した自信だな」

 さすがワールドエンド様。俺のトレーニングはやり損でしたかねぇ。

「フム。だが今の我は貴様の垂れ流しの微量のマナがグリモア経由で流れてきたのを使ってでしか戦えん。どのラインから強敵となるかがわからん」

 え、マジかよ。それってかなりヤバイんじゃね? 俺未だにお前が言うほどスゴいマナがある認識ないからめっちゃ不安になってきたんだが。

「やれるだけはやるがな。貴様もやれることはしろよ? 我も敗北は好かないのでな」

「やれること……」

 今の俺のやれること……ってなんだ?

 なんにも思い当たらないんだけど。

「そういえば演習とやらは何時からだ?」

 いっけね。時間見るの忘れてた。今日不安で寝つき悪くなりそうだからできれば午後が良いんだけど……。

『集合時刻 午前八時半』

 詰んだ。

 い、いや、相手によってはまだ希望がある。成績順でクラス分けされてるわけだし、同じクラスのヤツかせめてD組とかに当たれば……。

『対戦相手 一年B組須賀田茂』

 詰んだ。



『そこまで。勝者天良寺才』

 俺の心配は杞憂に終わりました。

 召喚した瞬間影で拘束し、はい終了。

 う、嘘だろ? リリンのヤツB組を圧倒しやがった。というかなにもさせなかった。

「お前、昨日力出せねぇ的なこと言ってなかった?」

「ウム。普段と比べればかなり抑えられているんだがな。相手が弱すぎて我も落胆している。縛りプレイとやらを楽しめると思ったのだが」

 いやいや影で縛ってたじゃん。って、ことでもないんだろう。

 たぶん自分に制限がかけられてる状態ならば良い勝負とか苦戦とかするはずという話。

「体感で言えば億分の一も力が出んのに……。これ以上の手加減は難しいのだが……」

「え。そんなにお前弱ってんの?」

 こいつの本気が見たいような見たくないような。複雑な気持ち。

「それにしてもどうしたものか。久々に退屈な気分だ。帰ってゲームしたい。アソコならば我と張り合えるのはまだまだいるからな」

 まず土俵が違うしな。お前の体で戦ってないもん。そら良い勝負できるだろうさ。

「……な、なんで俺がE組なんかに。ハハハ。これは夢だ。悪い夢に決まってる」

 対戦相手の彼がテンプレ台詞吐いてる。

 その、なんだ。ゴメン。

 俺もリリンの規格外さは把握しきれてないんだ。

 今回は運が悪かったと諦めてくれ。俺もリリンを理解することは諦めたから。



 一年用室内演習。観覧席。

「……気に入りませんわね」

 天良寺才に視線を送り、一人呟く金色の髪をした女子生徒が呟いた。彼女は過去、説明会で才に絡んで小咲野充に止められている。

(たしか、演習の時刻と対戦相手は希望を出せたはず)

 彼女――ジュリアナ・フローラは端末を取り出し次週の演習希望をメールを出す。

(本当に気に入らない。どうして貴方たちが……)

「ジュリ。ここにいたんだ。探したよ」

「あらカナ。 貴女こそ。貴女の演習日は明日でしょう?」

 ジュリアナに話しかけたのは観門みかどかなどめ。ジュリアナと同じA組である。

「ちょっと偵察かな? 先輩が言ってたんだけど演習って結構成績に影響するらしくてさ~。だから強そうな人いたら警戒しとこうかなってね。ジュリは?」

「私も似たようなものよ。一年生で私とまともに戦える相手はA組以外にいるとは思えないけど。貴女も含めてね」

「おやおや。それは光栄でござますねお姫様。それで、目ぼしい人いた? 私さっき来たばかりで最初の方見逃してるんだよねぇ」

 隣に座りダメ元で尋ねのだが、ジュリアナの険しい表情を見て何かを察する。

「スゴい人。いたの?」

「……えぇ。認めたくないけど」

 かなり格上であるB組を圧倒するE組。さらに手加減してたとはいえA組の自分の契約者の攻撃を防いでいる。

 異常。それは彼女にとって異常なこと。

 ジュリアナは自ら召喚魔法の道を選んだ。バカにされても努力を続け、入学前にはすでに人域魔法師志望者との模擬戦でも勝利を収めている。

 彼女には才能がある。そして努力を惜しまず培った実力への自負もある。評価され、A組として入学できたことに誇りがある。

 それなのに。それなのに今、目の前で学園の評価が覆されたのだ。

 格下が格上に勝つ。という現実のせいで。

まだ入学したてで実力に差がないから。などと思えるわけがない。

 そんなことを言えばまだたった二週間しか経ってない。どんなにB組の彼が怠けていたとしても、そんな短時間で才能の差を埋められるわけがない。

 努力を続けたからこそその重みがわかる。

 だから納得できない。学園の評価が不確かだったのか。それともなにかしらの手を使って実力を隠したのか。はたまた八百長なのかはわからない。わからないがどちらにしろ気に入らない。

 苛立ちの余りギリッとジュリアナは歯噛みした。

「……本当。気に入らない」

「ジュリ?」

 心配そうな京の顔にハッとし、無理矢理険しい表情を直す。

「大丈夫よ。でもなんか少し疲れちゃった。私はもう行くわね」

「う、うん。無理しないでね」

「えぇ」

(恐らく来週には決着がつくでしょうし。それまでの辛抱)

 説明会で才に絡んだ時のことはもう良い。その場の秩序を守るのは教師の役目で、その教師が許していたのだからもう自分には糾弾する資格はない。

 だけれど、今回は許容できなかった。そして幸か不幸か自分で確かめるための手段があった。

 で、あるならば。自分自身で見極めなくては気が済まない。

 実力とは正確に測らなくてはならない。

 下位につけられて強いなんて許されない。

(天良寺才。貴方の化けの皮は私が剥がします。私自身の矜持のために。ですがもしも。貴方が勝つようなことがあれば、そのときは認めましょう。この学園も私も、目が節穴だったと)

 誰も知らなくて良い。この感情も。この決意も。自分だけのモノ。

 結ばれた固い決意を知る者は当人しかいない。それ故にどんな意志よりも強い。


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