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第04話 ルカのはなし・わけあって遅刻しました

 孤島の巨大要塞にして建造物、ダックワーズ学院の中には、たくさんの建物や設備があります。

 公文書館でもある図書館や、神殿。貴重な美術品も所蔵されている、博物館。各種工房や、武道場。薬草園の他、生徒たち憩いの場所である薔薇園には、きれいな噴水まであります。


 主に学び舎として使われているのが、音楽堂などを含めた『北館』と、大講堂を含む『南館』です。渡り廊下で繋がった豪勢なゴシック風建築物は、巨大な塔である図書館と並んで、学院のシンボルとなっています。


 尚、『異世界マカローン』は不思議な世界で、中世やらゴシックやらロココやらヴィクトリアンだけでなく、部分的に現代風なものも混じっています。ダックワーズ学院の制服も、上品なアッシュベージュのブレザーにプリーツスカート。後は好みでリボンかネクタイというデザインで、結構気に入っています。


――――でも長衣ローブは魔法使いっぽいかな……?


 そんなことを考えながら私は放課後、一人で南館の屋上へと向かっていました。


 生徒たちは各自の予定や活動で三々五々散っていて、昼間の賑やかさから打って変わり閑散としていました。歩いていたのは、ディアベラちゃんからお手紙で呼び出しをくらった私だけです。


 てくてく歩いて、五階まで辿り着いたときでした。


「あ、その前にトイレ行っとこ……」

 急にトイレに行きたくなった私は、屋上へ行く階段の手前で方向転換したのです。


 ディアベラちゃんのお話しが、一分や二分で終わるとは思えませんでした。お約束の五時まで、まだ数分あります。建物は五階建てで、すぐに屋上へ行けるから間に合うはずでした。


 しかし何ということでしょう。五階の女子トイレは工事中だったのです。

 それだけではありません。四階のトイレも、三階のトイレも工事中でした。


――やっべえーーーー!


 想定外の事態に焦りながら、私はトイレを求めて全力で階段を駆け下りていました。大ピンチの最終手段で無い限り、男子トイレを使うわけにはいきません。


 すると廊下の向こうから、しゃなりしゃなりとやって来る、ディアベラちゃんに鉢合わせました。

 ただの廊下も、ディアベラちゃんが歩けばランウェイです。生徒が誰もいないノーギャラリーでも、金テープとスポットライトが見えてきます。背後には日頃から引き連れている、専属のメイドで護衛という美少女のロビンちゃんもいました。


(あ、やっぱりイタズラじゃなくて、本当に用事があったんだ……!)


 ちょっぴり、びっくりしていた私。

 突っ走ってくる私を目視確認したディアベラちゃんも、表情を変えて何か言おうと口を開きかけました。


 でも悪いけどトイレが優先です。私も『お呼び出し』に、逃げも隠れもする気はありません。

 車を止める道路工事の人のように両手を前へ突き出し、声を発する寸前だったディアベラちゃんを静止しました。


「大丈夫! わかってます! すぐ行きます! 南館の屋上ですよね! 絶対、すぐ行きますから!」


 ディアベラちゃんたちへそう言い残し、二階の女子トイレを目指して走り去りました。しかし悪いことは重なるものです。二階のトイレも工事中だったのです。一度に工事し過ぎだろ……。


 やっと駆け込めたのは、一階の女子トイレでした。お手洗いを済ませて、そこからまた屋上目指して階段を駆け上がります。間に合うと思っていた時刻は、約束の五時を過ぎてしまっていました。


「うっわ、怒ってるだろうなー……!」

 まずは遅刻を謝らなければと、走りながら覚悟しました。

 何を言われるのだろうと思いながら、屋上へ続く踊り場まで辿り着いて手摺りに手をかけ、最後の階段の先にある扉を見上げたときです。


 屋上の金属の扉が、重く軋んだ音と共にゆっくり開きました。

 オレンジ色の光が射し込み、小柄なシルエットが逆光の中に浮かび上がりました。現れたのは、金髪の美少女でした。


「ご、ごめんディアベラちゃん! 遅くなって……!」

 踊り場から、私はまず謝りました。

 そこで異変に気が付きました。ディアベラちゃんは顔色が悪く、ふらついていたのです。


「あ……貴女、どういうつもり? 一体何を……」

 彼女はそこまで言いかけて意識を失い、ふらりと前へ倒れこんできたのです。


――え!? 何……!?


 ディアベラちゃんが転げ落ちる。

 咄嗟に私は階段を二段抜かしで飛び上がり、崩れるように倒れていく彼女を支えようとしました。相手は小柄な女の子です。普段であれば、余裕で支えられるはずでした。

 それが、彼女に触れた瞬間。異様な感覚に襲われたのです。


(!? 何これ……!?)


 ぐにゃっと景色が歪み、世界が色を失い、体中の力が一気に抜けていきました。猛烈に気持ち悪い感覚に包まれたのです。自分の体さえも支えきれなくなりました。


(ダメだ、踏ん張りがきかない……!)


 腕や足に力が入らず、後ろへ倒れていくのがわかりました。ディアベラちゃんを抱きかかえるのが精一杯。そのまま二人とも、階段を転げ落ちたのです。


「お、お嬢様……!? ディアベラお嬢様!?」


 階段付近のどこかで待機していたのでしょう。

 駆け寄ってきたロビンちゃんの慌てふためく声が微かに聞こえて、後は真っ暗になりました。

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