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第39話 ルカのはなし・感謝祭の中心で愛を嘆く 前編

 ダックワーズ学院の感謝祭の日がやって来ました。

 私は何にも感謝する気になれませんでしたが、感謝祭の日がやってきました。

 学院において入学式と卒業式に並ぶ華々しいイベント。それが感謝祭です。


 日中は来賓の方々と教職員、全校生徒が参列して神殿で祭祀が執り行われます。大昔の学院設立当初は、これだけだったそうです。

 しかし今では文化祭に近い雰囲気になっています。祭祀の後には生徒たちの考えた演劇や演奏会が行われ、学院の生徒だけでなく父母や関係者の他、島に住んでいる人達も遊びに来て賑やかにお祭りを楽しみます。


 そして感謝祭の『本番』は、夕方から始まる舞踏会です。

 これは学院の生徒しか参加することが出来ません。この日のために生徒たちは夜会服やドレスの準備をし、ダンスの猛特訓をするのです。


 舞踏室として使われるのが、大講堂です。

 特別に飾り付けられた広い大講堂は、日が暮れていくにつれて魔法の灯りの数が増え、華麗に輝いていました。着飾った生徒たちの笑い声に包まれ、浮き足立った空気と華やかな音楽が満ちる様子は、まさしく舞踏会でした。


 そんな会場の中央で、誰よりも注目を集めているのが私こと『伯爵令嬢ディアベラ・パリス』です。


 本日のパリス伯爵令嬢は、高価な赤いレースで縁取られた漆黒のドレス。白磁の胸元も露なデザインで、背中側には真紅のビロードリボンが編みこまれています。イヤリングには血のようなルビー。黒レースの手袋と、同じく豪奢な黒扇。


 悪役令嬢です。どこに出しても恥ずかしい悪役令嬢です。

 フルーティーでカラフルなお嬢さんたちの中、『ディアベラ様』だけが痛々しいほどの異彩を放っています。


 内部告発やクーデターの事で私は頭がいっぱいで、ついでにナキル様とディアベラちゃんの事件も重なるし、ドレスのことなんか上の空で、周囲に丸投げしてホッタラカシにしていたら、こうなりました。

 昼の部が終わってお屋敷で着替えて、姿見の大きな鏡に映る自分の姿を見た時には「やっちまったぜ」と思いましたが、悪役令嬢はインパクトあった方が良いよね!


「ディアベラ様のドレス、本当に素敵ですわ!」

「ご自分の魅力をわかっていらっしゃるのね、とってもお似合いでしてよ!」

「似たり寄ったりの私たちなんかとは、センスが違いますわね!」


 黒尽くめのお嬢様を囲んで、取り巻き三人娘ちゃんたちが口々に褒めてくれました。彼女達も赤やイエローの流行のポイントを押さえたドレスを着て、髪も舞踏会仕様に結い上げています。


「どうもありがとう、皆さまも素敵ですわよ」

 褒めてくれる三人に私が扇で口元を隠しつつ上目線で言うと


「それに引き換え……見て、あの戦巫女ヴォルディシカさまのドレス」

 スカーレットが大講堂の一角を見つつ囁きました。

 視線の先では、ピンク色の髪を夜会巻きにした『戦巫女ルカ』が、夜会服を着たフューゼンたち攻略対象の四人に囲まれていました。


 戦巫女ヒロインが身を包むシャンパンホワイトのワンピースドレスは、動くたびに裾が花びらのように揺れます。鎖骨の出た丸いクルーネックの胸元と、肘までぴったりと覆う袖は白いレース。ウエストの部分にあるシルバーの細いリボンが、ダメ押しのように清純さを強調しています。

 意図的なのかわかりませんが、全身真っ黒な伯爵令嬢とは対照的です。


「何なの、あの変な形のドレス? どこに行ったら、あんなのを探してこられるのかしら?」

「まず感謝祭で白のドレスは非常識ってことさえ知らないのよ、恥ずかしい」

「髪型も野暮ったいし、お化粧もやり過ぎ……。気品が足りないのは元々ですわね」


 三人娘ちゃんから、小声で厳しい粗探しが飛び出します。

 あの戦巫女の中身は、ついさっき皆さまが絶賛していた伯爵令嬢ですよ! 知らないって良いことですね!


「仕方がありませんわよ。それより、せっかくの感謝祭ですもの。つまらない人には構わないでおきましょう」

 ふふん、と私も『ディアベラお嬢様』として軽く笑って片付けました。

 ちょうどグラスに入った飲み物が運ばれてきたので一つ手に取りましたが、赤ワインと見せかけて健康的にブドウジュースです。おいしいー。


 そうこうしているうちに、大講堂で音楽が流れ始めました。

 生徒たちは次々と声をかけたり、かけられたりして踊り始めます。


(スカーレットちゃん、ハルスト様と踊るんだ……。結婚相手の候補に『ハルスト様だけは無いわ!』って話してたけど……あの子しっかりしてそうで惚れっぽいから、大丈夫かなー)


(え、アニスちゃん、セドリックのとこ行くの? 前にアーリマン子爵家のこと、ボコボコに言ってませんでしたっけ? まぁ、優良物件だから早めに押さえておくことにしたのかも……)


(ゾフィーちゃんが何気にモテている!? ウィリアムとディランが争奪戦を……アニス、そんなどす黒い目で睨むんじゃありません。ゾフィーのお胸はみんなの共有財産よ)


 なんて感じに、周りの人達を眺めていた私ですが


(……ディアベラちゃん、誰と踊る気だろう……?)


 ブドウジュースを飲む顔をして、戦巫女ディアベラちゃんの動向を窺っていました。


 感謝祭は『乙女ゲームのイベント』でもあります。

 踊る相手も攻略対象の誰かでしょう。ナキル様以外なら良いのです。守護者の四人のうちの誰かなら、たぶん好感度問題は発生しない……と思っていました。そうであってほしいなー、と願っていました。


 しかしピンク髪の戦巫女さんは、黒獅子獣人のナキル様のところへ行って話しをし始めたのです。

 吹きそうになったジュースを、私は最大限の努力を行使して飲み込みました。


(待て、待てーーーー!)

(その人と踊る気ですか!? お嬢様、意志が弱い! 決意がゆるむのが早い……!!)


 ここでダンスをしたら、きっとナキル様の好感度も上がってしまいます。『ナキル様ルート』へ、また大きく一歩近付いてしまいます。この調子だと留学を終えたナキル様に「一緒に来てくれ」って言われたら、へろへろ行っちゃうんじゃないのあの人……? 他人であるルカの身体のままで!


(『隠しルート』に行くって話しだったでしょ!? もう忘れたの!?)


 という、こちらの魂の叫びなどお構い無しです。

 戦巫女ディアベラちゃんは頬まで薄いピンク色に染め上げ、胸が焼け焦げそうな眼差しでナキル様を見つめています。黒獅子獣人の若君の方も表情は気難しい状態を保ちながらも、顔は赤くなっているし、とりあえず尻尾が動いているから緊張しているのでしょう。いや、そんなことどうでもいい!


 まだ彼らは踊っていないので、他の攻略対象をぶつけてダンスの機会を潰すか? でも『ディアベラお嬢様』の私が「ルカと踊ってほしい」と頼んだら、彼らに「何で?」と疑われてしまいます。それに今までのディアベラちゃんのヒロイン的な好感度操作によって、彼らのヒロインに対する好感度が、どれくらい上がっているかわかりません。ここで下手に一人だけ好感度爆上がりされたら、それも困るのです。


 かと言ってここで私が割って入って、ナキル様と踊るわけにはいきません。伯爵令嬢が最初に踊るべきは、婚約者にして王太子殿下であるフューゼンと決まっています。

 一度、戦巫女ディアベラちゃんを大講堂から引っ張り出して、目を覚まさせる? しかし舞踏会に咲く大輪の華ディアベラ様が会場から姿を消すなどあってはなりませんし、悪い意味で目立ち過ぎます。

 全く無関係のその辺の男子生徒を捕まえて、戦巫女と踊ってもらうとか……ダメだ、何をどうやって頼むの。まず使えそうな男子が見当たらないじゃないですか。


 ……と、人間性をかなぐり捨てて考えていたらですね。


「お嬢様、どうかなさいましたか?」


 全身から黒い闇を迸らせていたであろう私へ、傍らにいたロビンちゃんが声をかけてきました。

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