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第34話 ルカのはなし・最高の陰謀の見つけ方

 権力は不思議なものです。

 有るようで無いし、無いようで有るのです。まるで色即是空空即是色、仏の教え、知恵の完成の終わり、摩訶不思議なもの、それが権力です。


 臣下が王様を尊敬していないなんて、きっとどこでもよくあるのだと思っていました。

 私はバイト先の経験しかありませんけど、部下が裏で上司をナメているのもよくあると思いますので、そんな感じで考えていました。

 そうしたら、全然笑っていられない話しだったのです。


 突然ですが、ゲスい話しをしますね。

 まず、ディアベラお嬢様のお父様、クロード・パリス様についてです。


 クロード様は伯爵です。由緒正しいお家柄の出身です。とはいえ、元は辺境の一伯爵に過ぎませんでした。

 では何故その方が今のような大出世をしたかと言いますと、二十年前の隣国グリオールさんとの小競り合いもあるのですが、すでにその前から着々と地盤固めをしていたというのが大きかったのです。


 クロード・パリス様は若い頃から合理的な方でした。自分が出世するための最短コースを探しました。そこで思いついた手段が、アマンディーヌ王国の今は亡き先王ユーグ陛下の妻、王妃ティアイエル様と仲良くなることでした。愛人ですね、わかります。


 クロード様は快活で野心的な美男子として有名でした。想像もしたくないくらいカッコ良かったでしょう。王妃のティアイエル様は可愛い年下のボーイフレンドに目をかけて、どんどん後押ししてくれました。寵臣として重んじられて、「秘密で結婚していたのでは」と囁かれるレベルで仲良しでした。

 当時まだ王太子だった、シャール殿下にも紹介してくれました。


 ティアイエル様としては内気で大人しい性格の息子さんを心配して、活発なクロード様のような人物を傍に置いておこうという考えもあったようです。母ちゃんがそういうことするから内気になったのでは……。そんな内気な現王陛下の息子が、「僕は完璧だがそれがどうした?」みたいな顔しているフューゼンなんだから人間なんて不合理ですよね。


 とにかくこうして城内にパイプを持ち、当時の王太子シャール殿下ともお近付きなりましたクロード様です。


 先王のユーグ陛下が急死した後には、新たに即位された国王陛下から、親友として頼られるようになりました。最側近となりました。今では三大権力も掌握しています。国王陛下とお話しがしたかったら、クロード様を通さなければならない状態です。


 貴族も商人も、みんなクロード様とお友達になりたくて仕方ないのです。だってこの人に目を付けられたら、結構簡単に幽閉されたり投獄されたりするんだもん! わかる範囲だけで五十人くらい消えてたよ! お城にはイエスマンしか残っていないと思いますよ!


 そしてもう一つ、ゲスいお話しをしますね。

 ディアベラお嬢様のお母様、カーミラ様についてです。


 カーミラ様は先代大神官長の娘で、バッキバキの貴族ですが、実家に爵位などはありませんでした。若かりし頃のカーミラ様は王族になりたくてなりたくて、何が何でもなりたくて物凄く努力したのです。先代の王妃ティアイエル様のお傍で、他の貴族令嬢と教育を受けられるくらいまで、のし上がりました。いいぞ、そのモチベーションの高さ!


 しかし狙っていた当時の王太子シャール殿下との婚姻は、血筋やら家柄やらパワーバランスやらが絡んで、どうしても無理でした。それでもシャール殿下の弟である、ウィレム様の恋人になるところまで辿り着きました。

 ウィレム様というのは、マキアムの亡くなったお父様で、ウィレム・フォーサ公爵です。


 が、こちらも残念ながら僅差で婚約者レースに敗退し、カーミラ様は王家の一員にはなれませんでした。

 最終的に、ティアイエル様の紹介で知り合ったクロード・パリス様と結婚して現在に至ります。


 ……それでですね。


 ウィレム様とカーミラ様の結婚に一番反対した先王のユーグ様は、十年前に病気で急死しています。後を追うように、王妃だったティアイエル様も突然亡くなっています。そこから更に半年も経たずに、ウィレム公爵までもが原因不明の病で亡くなりました。今はマキアムのお兄様であるアクスム様が公爵となっていて、最近結婚もしたと聞いています。それは良いのですが。


 ほぼ同じ時期に、レクス王家の人間がバタバタと死亡しています。


(……暗殺? え? 暗殺しちゃった?)


 ふわふわ金髪美少女お嬢様になっている私は自室の机の前で、集めた資料を手に固まっていました。


 現国王シャール陛下は、相談したり頼れる人がいなくなってしまいました。

 ますます親友のクロード・パリス様を頼りにしているようです。クロード様は国王陛下と一緒に、事実上の共同統治する状態まで持って行っています。っていうか国王陛下、殆どお城の奥に引きこもって出てこないらしいのです。


 パリス伯爵様が、権力の中枢に居座るための舞台設定が揃いまくっているではありませんか。都合が良過ぎます、過剰なまでに。


 しかも城付きの典医がいるのですが、これが『セシル・ロットバルト』というお医者さんでした。


『セシル先生』。名前をどこかで聞いたことがあると思ったら、パリス家のかかりつけのお医者さんじゃないですかと気付いたときの私の気持ちを誰かお察ししてください……。


(え、先生も手伝って暗殺……? 暗殺……!? したのか? っちゃったのか!?)

(『証拠』なんていう凡ミスは残っていないから、闇の中ですけど!)


 私は机に突っ伏して、悶えていました。

 ちなみにこちらのセシル先生は、あちこちの貴族のお屋敷にも呼ばれています。それにしてもパリス家によく来ています。カーミラ様とセシル先生は、結婚する前から仲良しだったのです。愛人ですね、わかります……。定期診察って診察時間長いんだなーとは思っていたんです……。


 こんな感じで、王家暗殺の香りがぷんぷんするのですが、物的証拠はありません。王家の不幸が続いた当時も、怪しむ噂は多少ありました。でも消えてしまいました。言い出した人と一緒に丸ごと消えました。


 というわけで、ゆるめの独裁にして軽めの傀儡政権というのが、アマンディーヌ王国の中央政界でした。

 いえ、王様がキモいレベルで廷臣を寵愛していようと、傀儡だろうと私個人は良いんです。システムが回って問題が解決して、みんなが一定のご飯を食べられるなら良いんです……けれども。


 国王陛下は、今日も引きこもっていらっしゃるようです。

 伝説の戦巫女ヴォルディシカが召喚されるという、結構な非常事態なのに出てこないのです。あんまり頼れる王様のイメージではありません。


 その隙に、カイ様たちは立派な『クロード・パリス派』にすくすく成長しました。

 伯爵様は彼らの心も掴んで、完全に私兵化しています。辺境のスフレ領は力を貯めています。莫大なお金が領地へ流れ込んでくる仕掛けを作り、傭兵も集め、準備も軍備も整っています。きゃー、お父様ステキいー!


 これは何かちょっとした切欠で、「クロード様を統治者に!」と推す声が出てきておかしくないです。むしろクロード様がタイミングを見計らって、どこかで着火する予定があるとしか思えません。


 クーデターですね! 軍事クーデターですね!

 新しい王朝を建てれば、カーミラお母様も念願叶って一国の王妃様ですよ、おめでとうございます! エライ人達も実はみんな薄々わかってて、抹殺されたくないから黙ってるんじゃないの!? やだー、こわーい!


 カイ様たちが喋っていた内容からして、決行するのは邪神ソルトの戦いが片付いた後とかかな!

 そういえば前にクロードお父様が「戦巫女に鉄槌を」って言ってたっけ!

 異世界人のルカもレクス王家と一緒に処分するつもりなのかな、あはは、うふふ!


 クーデターといえば、私とディアベラちゃんの『魂魄スピリット転換魔法カンバーション』の件もあります。もしもクロードお父様が他国の魔導師とかと、この事件でも絡んでたりしたらどうしようかしら~、楽しいわあ~!


 ……とか、ヤケクソっぽく考えていた私は、ある事に気がついたのです。

 クーデターが成功するためには、まだ一つ大きな邪魔が残っているのです。


 諸外国に友人知人も多く、父親のように遠慮がちな性格でもなく、選ばれし『風の精霊の守護者』にして、多くの国民からも愛され将来を嘱望されている王太子フューゼンの存在です。


 現在の国王シャール陛下が統治者として相応しくないなら、それは仕方がないです。しかし、まずは正統な継承権を持つ人に、君主の座を譲位をするのが道理です。


 でもそれって、クロード様的に面白くないですね。絶対イヤですね。王太子殿下、邪魔ですね。ではそんな邪魔を排除するため、最も手っ取り早い方法は何でしょうか。


 …………暗殺しちゃう?

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