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第29話 ルカのはなし・いつかあのふんどしを思い出してきっと泣いてしまう

 非常に、まずい気がします。この前、保健室の先生=白魔導師のイェルク先生にもお話しした件です。


 守護者のみんなや、パティや、ナキル様や、取り巻き三人娘ちゃん。みんな戦巫女と伯爵令嬢に対して、『何だか変だぞ?』と感じ始めています。ロビンちゃん辺りも、怪しんでいるかもしれません。あの子無口だから、かえってこわい……。


 まだ死んでいないから誤魔化せているのでしょう。でも、いつ本物の事故が起きてもおかしくないのです。


「……というわけで。ちゃんと成りすまして、疑いを払拭しないといけないと思うんですよ」


 フューゼンと会った翌日でした。

 恒例の人払いをして、私は昼休みの大講堂の隅っこに、戦巫女ヴォルディシカと入れ替わっているディアベラちゃんをお呼び出しして提案したのです。


「それにジョシュア先生たちに任せるばっかりじゃなくて、私たちも、もっと犯人探しとか協力した方が良いのかも……って、聞いてる? ディアベラちゃん?」

「聞いてますわ」

 ヤバいほどつまらなそうな顔で、ピンク髪の戦巫女にお返事されました。やる気というものが感じられません。ヒロインとして忙しいのでしょうけど、頼むから危機感を持ってください……。


「ほ……ホラ、そっちも成りすますの大変でしょ? 早く戻れたらその方が……」

「……このままでいたい」

 危機感が伝わってほしいと私が話している途中、ディアベラちゃんがボソッと言いました。


――何ですと?


 このまま。お互い入れ替わった状態のままでいたいと、彼女は言ったのです。


「え……? だ、だって正体バレたら即死ですよ? 困るでしょ?」

「どうせ今まで何度も死んだし」

 待て待て待て待て! お待ちになりたまえ! 何で急に投げやりになり始めましたか、お嬢様!

 戦巫女わたしの姿になっているディアベラちゃんは、赤い瞳を逸らして、ふて腐れたみたいな顔をしています。これは冗談ではなく、本気のやつです。


「いやいやいや……! それを免れる『隠しルート』のエンディングを目指すって、お話しでしたよね?」

 何故か突然、目的を見失ってしまいましたディアベラちゃんを私が説得にかかると、戦巫女は頬を膨らませて顔を背けてしまいました。


「貴女がやってよ。わたくしは、もうさんざんやってきましたわ」

「はい!?」

「そうよ、これは今まで頑張ってきたわたくしへの、神様のサービスですわ! きっと生まれ変わるときに、神様が何かしでかしたのよ! それでループしたり、変な事になっていたんですわ! ようやく神様が間違いに気付いて『ごめんなさい謝りますお詫びに特別サービスして、これからは楽々ハッピーライフにしてあげるから許してね、えへ!』ってなって、こうしてわたくしがヒロインの座に……!」


 唖然としている私を無視し、ディアベラちゃんは両手を握り締め天井を見上げて語り出します。現実逃避しています。


(あ、うん。そうか……わかった。『悪役令嬢』に戻りたくないんですね?)

(それはわかる。わかるよ?)


 そこは理解します。戦巫女わたしなりに、何かお力になれることがあるなら協力もしたいです。でも。だけど。だがしかし!


「ちょ、ちょっと落ち着いて。今の状態は、地雷原で暮らしてるようなもんですよ? どこがサービスなんですか? 私が神様だったら、『悪役の解除』をサービスしますけど?」

 ディアベラちゃんがお忘れになっているみたいなので、言わせて頂きました。他に言う人がいないんだから、しょうがない……。


 正体バレたら即終了。下手すれば再び謎の『悪役令嬢ループ』で、フリダシへ戻る可能性有り。こんなの人間の精神衛生的に健やかじゃないのは明らかです。肉体が精神の付属物みたいになっている状態で、不健康の始まりです。だからこそ、ディアベラちゃんは本能的にこれを嫌って、ループから抜け出そうと努力していたのでしょうし。


「わ、わかってますわよ! 言ってみただけじゃないの! ちゃんと隠せばいいんでしょ!?」

 ぶーぶー言いつつも、伯爵令嬢は理性を取り戻してくれました。良かった。危なかった……。


 まぁ乙女ゲームの『悪役令嬢』なんて、やりたくないと思います。行き着く先は良くて『国外追放』です。でも今までディアベラちゃんはパン屋さんの準備をしたり、イベントを着々とこなしたり、結構『エンディング』へ向けて前向きでした。何ゆえいきなりこうなった?


「ディアベラちゃん……何かあったんですか?」

「別に何もありませんわよ」

 私の質問に答えたディアベラお嬢様の表情に、変化はありませんでした。でも返事の速さと強さが、今までと微妙に違った。絶対何かあったでしょ、これ……。不安しか湧いてきません。


「あー……そうだ。正体隠すのもそうですけど……ちょっとナキル様の好感度、上げ過ぎじゃありませんか?」

「え? 何で?」

 先日の事件を思い出して私が申し上げると、ピンク色の髪を靡かせディアベラちゃんが振り向きました。目が真ん丸になっています。


「『クッキーもらったけど、どうしたらいい?』って相談されましたよ?」

「んぶふ……ッ!?」

 マナー完璧なお嬢様に不相応な音を出したディアベラちゃんは、両手で口を覆って蹲ってしまいました。他人に知られてダメージ受けるなら、何でクッキーなんて渡したのですか。


「ていうか、どうしてクッキーなんですか? そこはパンじゃないの? もしかして手作りクッキーは、好感度が高くなるとかですか? でも一人だけ好感度が上がり過ぎたら、それも問題あるんですよね?」

「や、ややや、やめ……! わ、わか、わかった! わかったから、も、もうやめて……!」

 気になっていた箇所について私が矢継ぎ早に尋ねると、お嬢様は膝を抱えて縮こまってしまいます。丸まってぷるぷる震えている様は、うさぎさんのようです。自分の姿だから変な感じ。


 でも真っ赤になっているところ申し訳ないのですが、他にも聞いておきたいことがありましてですね。


「それから、フューゼンに送ってた二百六十四ページとかいう、長いお手紙。あれ放置しておいて大丈夫ですか? 回収しておきます?」

「いやあああああ!! 何で知ってるのよおおおーーーー!?」

 叫んだディアベラちゃんは叫ぶ声も掠れ、悶えていました。


「フューゼンに、『あれは何だ?』って直接質問されて……」

「ちが、違うの……! あの……あれは、こ、心がいっぱいになっていた時期でッ!!」

 弱りきって必死に言い訳している様は、我ながらちょっとおもしろかったです。心がいっぱいだったのではないかという私の予想は、おおかた合っていたみたいです。


「まぁ、それならいいです。無かった事にしておきますね」

 可哀想になってきたので、私もこれ以上をツッコムのはやめました。苦笑いしていると、茹でたみたいに赤い私の顔が、膝を抱えて恨めしそうにこっちを見上げ睨んできます。


「な、何で貴女ばっかり色んな情報握って有利なのよ! 貴女のお部屋って、殺風景なくらい何も無いし! こんなの不公平ですわ!」

「そんなこと言われても……」

 お嬢様から悔しそうに言われて、困ってしまいました。自らおもしろネタをバラ撒いておいて何を……自業自得ですよ伯爵令嬢。でも話題とネタの宝庫な悪役令嬢は、まだ納得いかなかったようです。


「う~……! 攻略対象の好感度が下がらない範囲で、ヒロインの成績下げちゃおうかしら?」

「バカなこと言ってると、パンツ全部ふんどしにするくらいの嫌がらせはしますよ?」

「やめてーーーーッ!!」

 更に逆ギレしようとしたお嬢様を止めるため、大きめの釘を刺すと絶望の悲鳴が返ってきました。


 異世界のおばあちゃん達ご愛用品アイテム、『むすめふんどし』。前にいた世界の、越中ふんどし? とかいうアレと似ています。色は赤のみです。お嬢様はお下着の購入も使用人経由ですので、これを全て入れ替えるよう、私は指示をするだけです。決して表沙汰にはならないけれど、お屋敷内で『ディアベラお嬢様ふんどし着用説』が広がるわけです。

 私は痛くも痒くもありませんが、伯爵令嬢は危機一髪なのでしょう。


 ふんどしはさて置き。

 ディアベラちゃんの態度その他で、不安要素が減るどころか一つ増えてしまいました。

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