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第20話 ルカのはなし・攻略、イベント、エンディングの前に今さら聞けない乙女ゲームの超基本

『乙女ゲーム』。それは異世界という名の四角いジャングルで、ヒロインと悪役令嬢が己の限界に挑戦し、時に拳で語り合いながら「お前のパンチ効いたぜ!」と切磋琢磨して、世界を平和にしていくゲーム……。


 私は、そういうゲームだと思っていたのです。 ディアベラちゃんから、『十番勝負』とか挑まれていましたし。


 全然違いました。少なくとも【君のいる世界と戦巫女ヴォルディシカ】は、そんなゲームではありませんでした。私の認識が、根本的に間違えていたと教えてくれる書物に出会いました。ここで教えてもらわなかったら、ずっと誤解していたと思います。


 乙女ゲームとは、男子を攻略するゲームだったのです。戦いもメインの一つではありますが、それだけではなかったのです。


『攻略』。ディアベラちゃんの『悪役令嬢ノート』にあった、その殺伐とした単語を見て一瞬


 ――攻略……? 殺すの……?


 と戦慄しましたが、意味が違いました。


 ヒロインである戦巫女が周囲の素敵な人と楽しく交流し、恋をしてお付き合いをして結ばれ、幸せなエンディングを目指すのです。それが乙女ゲーム内で言うところの『攻略』でした。ヒロインは意中の相手と会話をしたり関わっていく中で、好感度を上げたり下げたり、距離を縮めたり広げたりしていくのです。


 乙女ゲーム【君のいる世界と戦巫女ヴォルディシカ】における攻略対象は、全部で八人います。そしてまず最初に出てきたのが、この四人。


【攻略対象・四大精霊の守護者】

・風の精霊の守護者、王太子フューゼン・ソール・ド・レクス。

・水の精霊の守護者、水蛇の魔導師セト・ペングリーヴ。

・炎の精霊の守護者、流浪の犬獣人剣士アイザック・バステタ。

・土の精霊の守護者、土木偶ゴーレム使いマキアム・フォーサ。


 この世界には様々な奇跡を起こせる『魔法』があります。普通は精霊とコンタクトするために、自分の魔力を消費しなければなりません。魔力は体力と同じく個人差があり、訓練で増やせるとはいえ、限度はあります。


 でも極稀に、精霊に気に入られて『加護』を受けられる人がいます。そういう人を、精霊に守られた者という意味で『守護者』と呼びます。彼らは魔力の消費を気にせず、魔法を使いまくれるのです。魔法の属性は限られますが、非常に便利です。特に戦闘においては、残弾や装填を気にせず撃ちまくれるようなものなので、かなり有利です。


 異世界から召喚された戦巫女は、滅多に現れないこの『守護者』を率いて戦うと予言されていました。なので私が召喚されて真っ先に集めるよう言われた、『守護者』の四人。彼らが攻略対象だったのです。余談ですが戦巫女の私はオールマイティー型だそうで、訓練の結果、全ての属性の魔法が使えます。更に。


【攻略対象・ダックワーズ学院教諭】

・学院黒魔法教諭、孤高の鬼才ジョシュア・カッツ。

・学院白魔法教諭、奇跡の癒し手イェルク・コンウェル。


 先生、攻略対象だったんだ……と驚いている暇も無く。


【二周目から攻略対象】

・異国の留学生、気高き黒獅子ナキル・ラゴ・グリオール。


 ゲーム二周目からは、ナキル様も攻略可能になるのでした。ディアベラお嬢様のお話だと現在は十一周目だそうですので、この前ナキル様が登場したのも余裕の納得です。


【三周目から攻略対象】

・万能の執事メイド、ディアベラの腹心ロビン・クーシー。


 いよいよやり込んで三周目以降は、ロビンちゃんまでもが攻略対象でした。


「…………」

 何度確かめても、そこには『攻略対象』と書かれています。


「そうだったのッ!?」

「え!? はい!? 何でしょうかお嬢様……!?」

 読んでいたノートを手に大声を出したら、ロビンちゃんがびっくりした様子でこちらを向きました。綺麗に切り揃えられた亜麻色の髪が、肩の上ではらりと揺れます。


 傍らのワゴンの上には白磁のティーセットと、パステルカラーのころんと丸くて可愛いお菓子。お茶の時間になったので、お嬢様の部屋へ戻ったロビンちゃんは支度をしてくれていたのでした。


「あ、いえ……な、何でもないの! ひ、独り言ですわ……!」

 私は我に返り、慌てて言い訳して目を逸らしました。 ちょっと訝しげに様子を伺っていたロビンちゃんでしたがそれ以上は言わず、またお茶を淹れ始めます。


 指先まで神経の行き届いた、洗練された動作。端正な横顔。凛々しい女の子だと思っていたら、完璧に女装している綺麗な男の子だったのです。大変失礼しました。


(はへー、この子が……)


 ロビンちゃんが、ヒロインの攻略対象でした。ということは、場合によっては、ルカとお付き合いをしていた可能性があったってことです。


 ちらちら盗み見て、これまでの日々で、そんな機会があったか考えました。お嬢様の侍女メイドと護衛を兼ねているロビンちゃんは、最初からディアベラちゃんに付き添っています。対立関係にあるルカとの接点など、無かったように思うのです。しかし何か工夫すると、お友達になれたみたいです。


(そうか……そうだったのかぁ)

(自分の思い込みで、人間関係の可能性を狭めちゃいけないよね)

(もっとポジティブに考えて、注意も払わないと……)


 そう自戒しつつ、次のページをめくったら。


『隠しルートのエンディング後。パリス家は断罪され領地財産没収の上、国外追放』

『執事ロビンは、ディアベラお嬢様を止められなかった自責の念から自殺』


「ナンダッテーーーーッ!!?」

「は、はいぃ!? どうなさいましたお嬢様ッ!?」

 再びのお嬢様の叫び声で、ロビンちゃんが危うくお茶をこぼしそうになっていました。普段は冷静なミントグリーンの瞳が、ディアベラ様の奇行でうろたえています。


「な……なななッ、何でもありませんわよ! 独り言って言ってるでしょ!」

 大急ぎで強めに否定したディアベラお嬢様(中身は他人です)は、急いで『悪役令嬢ノート』を閉じて机に仕舞いました。これ以上狼狽すると、身の危険が増えそうです。後は用意されたお茶を優雅に飲んで心拍数を調節し、何とか誤魔化せました。落ち着け。落ち着くのだ私よ……。


 備忘録日記、『悪役令嬢ノート』。

 これによると、攻略対象達との会話や行動、お茶会、パーティー、デートなどが『イベント』。その素敵な思い出の一瞬を切り取った記念撮影的な映像が、『スチル』と呼ばれるそうです。知らないよそんなの……。


 エンディングは攻略対象ごとに、八種類あります。この他に、みんな仲良く(特定の人とお付き合いをせず)世界が平和になるのが、『トゥルーエンド』。戦巫女ヒロインが、戦いに負けて世界が終わってしまうのが、『バッドエンド』。

 そして今回、ディアベラちゃんが目指している『隠しルート』で、全十一種類あります。


 これだけの情報を、全部暗記しているディアベラちゃんです。前世で、相当ゲームをやりこんでいたのでしょう。

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