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第09話 ルカのはなし・これからの「隠しルート」の話しをしよう

 【破滅はめつ

 その人の存在が、社会的に全く意味を持たない状態になること。


「破滅していたんですか」

 人生完全勝利みたいな、伯爵令嬢ディアベラちゃんです。その人から「破滅していた」と打ち明けられ私が驚いていると、ディアベラちゃんは拳を握り、深く頷きました。

 何度も言いますが、彼女の外見はピンク色の髪をしたルカです。


「ええ……乙女ゲームの悪役になって、かれこれ十一周目……」

「十一周目!?」

 思わず復唱してしまいました。


「それも五周目までは、自分が悪役であるとさえ気付いていませんでしたわ。悪役六周目で、わたくしが六歳のときよ。障害エラーが起きたの。家の階段から落ちて、そのショックで前世の記憶が蘇って。そこで乙女ゲームの、『悪役令嬢』になっているという自覚を持つようになりましたわ……。ちなみに魔獣化してヒロインたちに退治されるループは、十回ほど嗜んでおりましてよ」

「ベテランだったんですね……だけど、どうしてループなんて、そんなことに?」

「ふん、ループなら珍しくも何ともありませんわ。乙女ゲームの『悪役令嬢』には、よくあるパターンですのよ……」

「え? そ、そういうもんなんですか……??」


 私はサッパリでしたが、お嬢様は納得していらっしゃいます。

 乙女ゲームの『悪役令嬢』とは、何度もループをするものらしいです。そしてディアベラちゃんはこれまで十回、およそ二百年の長きに渡り、乙女ゲーム【君のいる世界と戦巫女ヴォルディシカ】の『悪役令嬢』として気高く咲いては、美しく散ってきたというのです。

 ご苦労様でした以外の言葉が思い浮かびません。


「でも、倒されるって言っても……死んじゃうわけじゃないでしょ?」

 伯爵令嬢にして、王太子殿下の許婚です。何だかんだ言って、学友でもあるディアベラちゃんです。ヒロインが一発殴って正気に戻って終了、と思っていたら、そうでもなかったのでした。


「死にますわよ! わたくしはゲームで明確に『敵』認定されているの! 魔獣化して、ラストダンジョンで『中級ボス』として登場するの! そして戦巫女ヒロインに倒された後、また悪役令嬢に生まれ変わるループを繰り返しているのよ!」


 ムキイー! と、青筋を立ててお嬢様は喚いていらっしゃいます。

 かつての学友が敵として登場し、ヒロインの前に立ち塞がり、それをたおす。意外とキツめにハードな展開のゲームでした。


「ヤバイですね……」

「そうよヤバイのよ! それでもこうやって、最後の十一周目まで来たの! 『隠しルート』へ進んできて、やっと悪役令嬢が終わると思ったのにッ! 何でこんなところで入れ替わったりするのよ! 新種の障害エラー!?」

 ピンク髪の戦巫女じぶんに肩を掴まれ、小柄な金髪美少女になっている私は、がっくんがっくん振り回されます。


「い、いや、私に言われても……!」

 叫びたくなる気持ちはわからなくもないですが、勢い込んで怒られても困ってしまいます。


「そ……それで、その『隠しルート』というのは、何か特別なんですか?」

 さっきから出てくる謎の単語、『隠しルート』。ディアベラちゃんを引き剥がして尋ねると、彼女は大きな溜息と共にこれも解説してくれました。


「『君シカ』は、エンディングが全部で十一種類あるの。中でも特殊な選択をして、条件を全て満たさないと辿り着けないのが、『隠しルート』ですわ。そして『隠しルート』だけは、悪役令嬢が生き残るの。パリス伯爵家は、一族粛清から国外追放へ減刑。今回は、その『隠しルート』を進んでいるのよ」

「はあ……そうだったんですか(知らなかった)……」


 私は自分に正直に、普通にやってるつもりだったのですが、相当に特殊レアな選択をし続けていたようです。

 ぽかんとしていると、ディアベラちゃんが再び顔を近づけ、声を潜めて言いました。


「だから、いいこと……? ここでもし『隠しルート』から外れると、またやり直しになってしまうかもしれませんわ。入れ替わっている貴女だって、ループに巻き込まれる可能性がありましてよ?」


 赤いジト目で囁きます。何ゆえ、こちらが脅され気味なのか。

 ていうか


「でも、国外追放とかって大変じゃありません? それで良いんですか? 破滅を回避した方が良いんじゃ……」

「その回避が出来ないって! 嫌になるほどわかってるからッ!! 言ってるんですのよッ!!!」

「あ、はい、すいません……」

 私の安直な思いつきは、お嬢様の悲鳴にかき消されました。


 何度も繰り返した悪役令嬢の運命。回避不能という条件は確定している中で、『隠しルート』だけはディアベラちゃんも確実に生き残る。だからそのルートを目指すということでした、わかりました。みんなハッピーになるなら大変結構で、私も別に文句はありません。


「うん、それじゃ……どうします?」

「協力して」

「へ?」

 真顔のディアベラちゃんから、凄みのあるお願いが出てきました。


「こうして入れ替わってしまった以上、仕方ありませんわ。貴女はゲームの『悪役令嬢ディアベラ・パリス』として、わたくしの仕事を間違えずに継続してちょうだい。やるべきイベントは、もうほとんど終わっていますわ。難しくないから大丈夫。後は毎日、学院の神殿でお祈りしていれば、『邪なる神ソルト』が現れますわ。その勧誘さえ断わってくれれば良いの。くれぐれも他に余計な真似はしないでね。もちろん他の人に、『前世』や『乙女ゲーム』について打ち明けるなんて、論外ですわよ? 頭がおかしいと思われるし、万が一ループに影響が出たりしたら取り返しがつかないもの」


 懇々と説明されました。

『隠しルート』の悪役令嬢に残された、最後の任務。それは学院の神殿で毎日お祈りするだけの、簡単なお仕事でした。休日は除外が適用されるようです。


「……邪神ソルトに、勧誘されるんですか……?」

「そう、『お前に力を与えよう』ってね。それをお断りすればいいだけですわ。簡単でしょ?」

 お嬢様は爽やかに仰いました。


 ところで『邪なる神ソルト』とは言いますが、ソルトは必ずしも『極悪な神様』ではありません。『正なる神シュガー』と対を成す、大切な存在です。光と闇のようなものです。しかしソルトは死と破壊も司るため、均衡が破られると世界が崩壊してしまいかねません。

 そこで現在、ちょっぴりパワーバランスの偏ってしまった邪神ソルトをぶん殴って弱らせ、崩れかけた均衡を元に戻すために異世界に召喚されたのが、戦巫女ヴォルディシカというわけです。


 ディアベラちゃんは、いつも神殿へ行ってお祈りをしていました。偉いなー、熱心だなー、と思っていたのです。


――ディアベラちゃん……邪神に何を『お祈り』していたんですか?


 とは、私もこわくて聞けませんでした。

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