第51話 到来!ネコさんだよ、キャピッ♡
お久しぶりです。
なにも言うまい。今回もこれからも。
あらすじ:クリアが怒り狂ったらソルトが怪我した。
シスローネさんに光魔法で怪我を治療してもらった俺は、シスローネさんと泣く子供たちをあやしながら、なんとか教会の庭までたどり着いた。
「ソルト、怪我は大丈夫ですか?」
「うん! もうどこも痛くないよ!」
シスローネさんの問いに大袈裟に答える。
いつもの俺なら“お前が光魔法で治したんだから大丈夫に決まってるだろ”的なことを言っていたが、今は俺が無傷無事であることを周りに知らしめないといけない。
泣き出した子供たちをあやすためだ。
子供たちが泣き出した原因として、雰囲気だったり、クリアのいつもと違う怒り方だったりと、色々なものに対する不安が俺の怪我を引き金にして流れ出してしまったのだと思う。
今までのストレスが俺の怪我で出てきたのなら、俺の怪我が治ったと知れば泣き止み、落ち着いてくれるだろう。
ただし中にはそれだけで不安を忘れてくれない子供もいる。むしろそっちの方が多い。
こんな方法で不安を無くせるのは子供の中でも本当に幼い子たちだけだ。
少し大きい子供たちはすでに泣き止んではいるものの不安は未だピークのようですぐにでも泣き出してしまいそうだ。
「なぁスイレン、お前子供は好きか?」
『……そやつの性格によるな』
「そうか。つまんない答えだな」
『そっちから聞いといて酷くはないか? ぁん?』
あまりスイレンと内緒話ししていると、俺が声を出さずに口を動かしている頭のおかしい人に見えてきてしまうから、要件はさっさと済ませないと。
「よしスイレン。お前が一番可愛いと思うものに[変化]しろ」
『は? ここでか?』
「ああ。それと[幻覚]は解け」
「……わかった」
真面目な話だと感じとったのだろう。すんなり了承したスイレンはボゥンッと音を立て、煙を放った。
これにはクリアも驚いたようだ。教会に帰ってからずっとだんまりとしていた顔が驚愕の色に染まった。
「なっ……⁉︎」
少し待つと煙幕は自然と消え、現れたのは小さくなったスイレンよりもさらに一回り小さくなったネコの“ぬいぐるみ”だった。
子供たちは急に現れた「可愛い」にびっくりして、さっきまでのうるささが嘘のように静まっている。
「いいかいみんな。このぬいぐるみ、なんでも言うことを聞いてくれるんだよ」
スイレンが隣で「聞いてないぞ」と目で訴えてくる。
「ほらネコさん、皆さんに挨拶して?」
俺は隣に「いいから従え」と目で促す。
「……こんにちは」
「あれ、みんなの前だから緊張しちゃったのかな? ネコさん、いつものように“全力で可愛く元気にポーズも入れて”挨拶しようか!」
スイレンは全力で「やらないからな⁉︎」と目を見開く。
「さ!早く!」
俺は圧力をかけて「やれよ」と目を細める。
「み、みんな〜こんにちは〜♡ 今日はみんなと遊びたいなぁってここまで来ちゃいました! みんなの妖精“ネコさん”でーす♡」
短い腕を顔の方に曲げ、片足を外側に曲げ、キャピッとポーズをとるスイレン。
これには子供たちもみんな一様に微妙な顔をしている。
「お前がやれって言ったのに!」
俺は全力で目を逸らした。
「えー、挨拶も済んだし、このネコさんが言うこと全てを聞いてくれるって証明を少ししようかな?」
何がいいだろうか。
まぁ三個ぐらいやらせれば充分か。
「じゃあネコさんまずはでんぐり返しして?」
スイレンはコテンッと前に転がる。
「次は側転」
スラリと流れるようにこなすスイレン。
「最後は後方かかえ込み2回宙返り3回ひねり」
「お前は我に何を求めてるんだ⁉︎」
とか言いながら側転→バク転という流れまで作って、空中で2回回り、その間に曲げた身体を3回ひねる行為をやり遂げるスイレン。
最後の着地は足を揃え、両腕をピンと上に向けてその場から一歩も動かない。
文句の言いようがない。バッチリ決まった完璧な技だった。
「……と、まぁこんなかんじでなんでもやってくれるのでみんなも何かお願いしてみてね」
「え?」
てっきりこれで終わりだと思っていたらしいスイレンは、子供たちにわーっと集られて見えなくなった。
「さて、ぼくたちは屋内に入りましょうか」
クリアとシスローネさんにそう声をかけた。
子供たちは頼んだぞスイレン。
*
「まず聞いてもいい?」
「どうぞ」
教会の応接間で机を挟み、俺はクリア&シスローネさんと向き合っていた。
開いた窓からはネコのぬいぐるみになったスイレンと、子供たちのはしゃぐ姿が見える。
シスローネさんはそれを見ながら聞いてきた。
「あの狐は何?」
「スイレンはぼくのペットだよ」
「そういうことじゃなくて……」
「正しく言うとぼくがレアスキルで服従させた妖狐なんだよね」
「……やっぱりそうなるわよね」
まあ[変化]ができることを見てたんだからそのぐらいの予想はついていたのかな。
「まだ小さい赤ちゃんでもあんなことが出来るのね」
あんなことが[変化]を言っているのか後方かかえ込み2回宙返り3回ひねりを言っているのか知らないが、大きさや尻尾の数で判断したならそれは誤解だ。
「いや、あの姿も[変化]だよ? 本来の姿はもっと大きくて尻尾が5本だから」
「え?」
驚くシスローネさんに代わり、クリアが口を開いた。
「……待ちなさい。尻尾5本と言うと既に狐火まで使えるじゃないですか」
「そうですね」
使ったとこ見たこと無いけど。
妖狐は成長具合が一目でわかる珍しい魔物だ。
尻尾が多いほど強いというのはもちろんだが、尻尾が一本で[変化]、三本で[幻覚]、五本で[狐火]、七本で[憑依]、九本で[覚醒]と使える能力まで尻尾でわかってしまう。
成長具合がわかるなんて、魔物がはびこるこの世界では不利なように思えるかもしれないが、そんなこと気にしなくても生き残れるほどに妖狐は強い。
俺がスイレンと契約できたのも、あいつが油断していたからできたのであって、最初から真剣に戦っていたら……多分負けていた。
競走で負けたのが良い例だ。向こうは[変化]で本来より小さくなっていたにもかかわらず俺より速い。
素の力で差があるのだから、能力まで使われたら今の俺じゃ恐らく勝てないだろう。
「そんな話信じられる訳ないでしょう」
「別に信じるも信じないも自由ですけど」
「契約する事自体も無理ですが、奇跡的に契約できたとしてもあの狐が主人を喰い殺して契約を切ってるでしょう」
たしかに俺の[魔物支配]は魔物に対して高い強制力を持っているわけではない。
知能の少ない魔物に人並の知識と主人が誰であるかを教える程度のものだ。
なので最初から人並かそれ以上の知能を持つ魔物は潜在意識に主人を埋め込むだけで、反抗しようと思えば余裕でできる。
それなのにスイレンは俺を殺そうとしてこない。
でも反抗は普通にするし、あいつ実はバカなのか?
…………あり得る。
「おい!お前今失礼なこと考えただろ!!」
「ネコさん‼︎ いいからはやく空中で30回回ってよー!」
「流石に無理だと言ってるだろぉ⁉︎」
外が騒がしいな。
窓を閉めておこう。
そう思ったがシスローネさんが先に立ち上がり、窓に近付いた。
「まぁ私たちに危害を加えないならなんでもいいわよ」
「……それだけは保証するよ」
「だから無理だと言っているだろ!だから無理だって。だから……っお前ら!いい加減にしないと食うぞ‼︎」
「…………」
「…………」
シスローネさんは静かに窓を閉めた。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか」




