第47話 沈黙!僕も好きだよ
クリアから逃げてきた俺はシスローネさんの洗濯物の取り込みを手伝っていた。
「ありがとう」
「いいよこんぐらい」
どうせ俺は届かないから籠を運んでいるだけだし。
……いつも思うけど服って意外に重いよな。
やっぱり5歳児じゃ普段の筋力が足りないよな。
努力だな。俺には努力が足りない。
まだ5歳でなに言ってるんだって感じだろうけど、スキルはあくまで補助だから自分自身のポテンシャルが低いままだと同じスキルレベルの人と並んだ時、相手の方が上を行ってしまうのだ。
スキルのレベルが限界突破しちゃってる俺は努力が補助に負けるんだけどね。
スキルレベルの低いうちとか、もしもの時の為にスキルに頼らなくてもある程度の力は欲しい。
そんなことを考えていたら洗濯物も籠に入れ終わった。
「重くない?」
「大丈夫です」
光魔法のパワーアップを自分にかけたからな。
……結局チートに頼ってるな。
まぁ今はまだしょうがない……かな?
俺とシスローネさんは衣類保管所に向かって歩き出した。
「そういえば、結局あの庭はどうやってあんなに綺麗にできたの?」
「だから本気で頑張ったんだよ」
「そんなので納得できる訳ないじゃない」
あ、やっぱり?
昼前は有無も言わさず納得したよねって脅迫紛いな感じだったからな。
でも脅迫されたのにもう一度聞くって、結構図太いねシスローネさん。
「ま、話したくないなら無理にとは言わないけどね」
「ごめんね」
「いいわよ。貴族なんて秘密を持っていない方がおかしいんだから。むしろあんな庭を綺麗にしてくれてありがとう」
「シスローネさん……」
やはり溢れんばかりの母性と包容力。
今は若いから素敵なお姉さんって感じだけど、歳を重ねると図太さも相まって近所のおばちゃんって感じになりそうだな。
シスローネさんは何かを感じとったのかこちらをじっと見つめてくる。何か他の話題を……
「と、ところでシスローネさんはいつからここで働いているの?」
「え? そうね……確か三年ぐらい前よ?」
「そんなに前から? その時からこんなにボロボロだったの?」
ボロボロって失礼かもしれないけど、なんか年季の入ったって表現するぐらいならボロボロって言った方が良いような気がするんだよな。
この前シスローネさんも自分で使ってたし。
「そうね。ここまでではなかったけど、あの頃より少し前からすでに監督不届きって感じはしてた」
「へぇ、よくそんなところに就職しようと思ったね」
ちょうど目的の場所に到着したので、シスローネさんと一緒に取り込んだ洗濯物をたたみながら会話を続ける。
「私の場合、それが夢だったからね」
「子供好きで光魔法の才能があるんだもんね。ぴったりだよ」
「そうだけど、でもそれだけじゃないんだよ?」
「じゃあどんな理由?」
確かにそれだけならここじゃなくて本部で働いた方が給金も多いし、もっと綺麗でちゃんとした設備のあるところに就けるだろう。
「私はもともとこの教会の孤児だったの」
「へぇ」
「もっと興味持ってくれて良いのよ?」
「持ってますよ」
ただ他に理由があるって聞いた時にその可能性もあるんじゃないかと推察しただけだ。
そのせいでたいして驚かなかっただけだ。
「でもここで育ったからと言って、ここで働く必要は無かったんじゃない?」
「……いいえ、私はここで働かなくちゃいけなかったの」
「どうして?」
「…………」
シスローネさんはそこで押し黙ってしまった。
洗濯物をたたむ手も止まっている。
「シスローネさん」
そう呼びかけるとシスローネさんはハッとして作業を再開した。
「あ、ごめんね。そうね、私がここで働かないといけなかったのは――」
「シスローネさん」
言葉を遮って再度呼びかける。
「シスローネさんも話したくないなら話さなくていいんだよ」
「っ……!」
さっきシスローネさんが言った通り貴族は秘密を持って無い方がおかしい。だがそれは貴族だけに限った話ではない。
人は生きている限り秘密をひとつは抱えるものだ。
それがどのくらいの規模の秘密かはわからないが、その人が話したくないことならば無理矢理に話させるべきじゃない。
だってそれは何か理由があって隠しているのだから。それは自分のプライドを守る為かも知れないし、他人を庇う為かも知れない。
どういう理由にせよ、それを聞くと不幸になる人がいるから隠しているのだ。
もし絶対に必要になった時はその時に自分から教えてくれるだろう。もしくはその人を深く信頼したとき。
俺は今その情報を必要としていないし、信用されている訳でもない。
シスローネさんのその秘密を聞く必要はないのだ。
「あなたは本当に子供っぽくないわね」
「よく言われる」
「でも何故か嫌いじゃない」
「ぼくもシスローネさんのこと好きだよ」
俺がそう笑いかけた途端、シスローネさんは手を止めた。
いや、自分自身でもだいぶキザなこと言ったなとは思ったよ?
側から見れば口説いているように見えるかもしれないけど、こっち5歳児だからね。
第一こんなの口説いたにも入らないでしょ。
家ではよく父さんが母さんにもっと熱い愛情表現で口説き直してるし、イルマの書いていたこの領地の娘さんへの手紙は少女漫画でもキザ過ぎて書かないようなこと書いてあったし。
ただただ好意的に思っていると伝えただけだ。
「くっ……大人っぽい子供はタイプじゃないはずなのに……!」
「タイプって……」
子供相手にタイプとかいう言葉をだすな。
普通に好き嫌いで言ってくれないと怖い。
まさかシスローネさん、既にそっちに行ってしまった人なのだろうか……。
これからはシスローネさんの行動に気をつけないと。最悪襲われる。
いや、さすがにそれはありえないか。
…………ありえない、よな?
……まぁシスローネさんは美人だから構わないが。
何故かその場に妙な沈黙が流れた。
「……作業始めよう」
「……そうね」
その後俺らはただ黙々と洗濯物をたたんだ。
*
洗濯物もたたみ終わり、特にやることがない俺は、庭で子供達を見守ることにした。
というよりも、俺はフルリアちゃんと話をしに来たんだがな。
「こんにちはフルリアちゃん」
「こんにちは」
昼間からずっと同じ本を読んでいたらしいフルリアちゃんは、声をかけると顔をあげてこちらを向いた。
「天才だっけ? その年齢でもう中級魔法が使えるんだね」
「天才だなんてそんな大層なものじゃないよ」
やはりフルリアちゃんは照れた様子で、今回はさらに謙遜までしてきた。
「もしかして上級魔法ももう使えるんじゃない?」
「……そういえば君の名前聞いてなかったね。名前はなんて言うの?」
「言って無かったけ? ソルトだよ」
露骨に話を逸らされた。
やはりこの子何か隠しているな。
こんなに露骨に逸らされると分かっちゃうけどね。
フルリアちゃんはすでに上級まで使えるっぽい。
「上級魔法は使えなくても、風魔法ならもう全部暗記してたりする?」
「うん。風だけなら覚えてるよ」
「超級は? 覚えてる?」
するとフルリアちゃんは首を横に振った。
「上級魔法までしか読んだことなくて」
「なんで?」
「ここには超級以上の魔法書が置かれてないから」
フルリアちゃんは心底残念そうに呟いた。
なるほど。それは覚えられんわ。
「じゃあさ、ぼくの魔道書貸そうか?」
「え⁉︎ いいの⁉︎」
これだけをみると普通の女の子って感じがするな。
目をキラキラ輝かせて、上目遣いで。なんとも保護欲を刺激される表情だ。
「いいよいいよ。もしなんならあげてもいいけど」
「え、いや、それはさすがに……。そんなに高価なものを貰うのは……」
どうやら値段が高いことは知っていたらしい。
あれは超級以上となると急激に値段が上がるのだ。理由は王族のメンツのため。
超級ともなれば使うために沢山の魔力が必要だ。というのは嘘である。
実はこの世界は魔法に使われる魔法量が定まっているわけではない。
正しく言えば魔力消費の大きさに違いはあるが、その量はその魔法を使う術者の技量によって大きく上下するのだ。
超級魔法でも術者の技術が高ければ、技術の低い術者の下級魔法と同等の魔力しか消費しない。
さらにその技術は簡単に高めることができる。
この情報は貴族にさえ知られていないが、例外として王族や公爵はみんな知っている。
昔、初代国王はこのことを初めて解明したが、自分の立場を守るため自分の家族にしか教えなかったからだ。
それが代々続き、今この国は公爵家と王族が強く貴い存在となっている。
そして平民がそれに気が付き急激に強くなるのを防ぐため、保険として超級以上の魔道書の物価を高くさせているのだ。
それでも市場に出回っているのは魔力の多い人や、魔法について研究している人がいるからである。
「そっか。ま、とりあえず明日持ってくるよ」
「ありがとう!」
そうフルリアちゃんが返事をした時だった。
「おい、お前そいつと何やってんだ」
声がしたので振り返ると、そこにはガタイの良い少年がその他の少年を侍らせて立っていた。
ガタイの良い少年が10歳ぐらいで、その他の少年はそれと同じぐらいかそれよりも下の年齢がバラバラに集めっている。
「こんにちは。お前じゃなくてソルトだよ」
「知るか。お前がその[パンくず]と何をやってるか聞いてるんだよ」
フルリアちゃんは[パンくず]ちゃんって呼ばれてんの?
「ただのお話だよ? でもまぁ君たちにはまだ早いかな」
「は? 俺らより年下のくせに何が“まだ早い”だ。なめてんのか」
だってまだ中級魔法も使えないだろう。
「お前年上なめてっと痛い目見るぞ」
「ハイハイ。それで? そちらはなんの用?」
「お前、“ハイ”は一回って習わなかったのか!」
うわ、面倒な奴だ。
「はーい。いいから質問に答えてくださーい」
「おまっ……まぁいい。俺はそいつといない方が良いってお前に教えてやってんだよ」
なめきった感じで答えたが、どうやら突っかかってくるのを諦めたらしい。
このままじゃ話進まないからな。
俺も突っかかり続けるなら話続けるつもり無かったしな。
何故か? こっちがなめられないようにだ。
結果的に成功したかは置いといて……。
「なんで関わっちゃいけないの?」
「なんでか? 教えてやるよ。そいつはなぁ……」
少年がちょうどその先を言うってところで「コラーッ‼︎」という声が飛んできた。
シスローネさんだ。
「貴方達、またそうやって女の子を囲んで! ダメでしょ!」
「うえ、シスターだ。逃げるぞ!」
少年たちはだーっと蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
同じ教会で暮らしているのに逃げれるわけなかろうに。
「まったく」
「いつもこうなんですか?」
「え? あ、ソルトもいたのね」
気づいてなかったのかよ。
「そうね。あの子たちはここの孤児でも最年長なのだけど、なぜかこの子にちょっかい出すのよね」
ほぅ。日常的に近寄ってくる……と。
そして俺には近くな……と。
これは確定だなぁ。
「なにニヤニヤしてんのよ。気持ち悪い」
気持ち悪いとは失敬な。
「あの子、きっとフルリアの才能に嫉妬してるのね。フルリアもあんなのに負けないでね」
「私はだいじょうぶだよ!」
シスローネさんは「偉い子ねー」とフルリアの頭を撫でた。
「あ、そうだ。ソルト、今日はもう帰って良いわよ」
「そうですか?」
「ええ。今日はもうやることないしね」
じゃあお言葉に甘えて。
「さよならー」
「そのまま⁉︎ さては帰る気まんまんだったんじゃ……!」
いや、準備するものなんて無いし。
帰る気が無かったといえば嘘になるがな……。
読んでくださりありがとうございます。
今回はどうだったでしょうか。
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これからもこの作品をよろしくお願いします。
※訂正:闇魔法のパワーアップ→光魔法のパワーアップ




