第44話 魔法!秘密だよ?
「ところでシスローネさんはどこまで光魔法が使えるの?」
「え? 上級までよ?」
シスローネさんは、ハグを終えて芝をうんしょうんしょと刈るフルリアちゃんを眺めながら質問に返してきた。
上級となるとミドルヒールまで使えるというわけだ。
まあ中級と言っても内臓の傷まで治せるからそんぐらい持っていれば十分なんだろうな。
「何よその冷めた反応は。平民の出なのにこの若さで上級を使えるのは凄いんだからね」
そんなこと言われても俺全属性上級以上使えるし。
最近はまず光魔法を極めようと頑張っている。この前のゴーレム戦で必要になったからな。その次は扱いやすい水魔法を極めようかな。
「そっか。この仕事向いているのかもね」
「……芝刈りしながらじゃなくてもっと関心持ってよ。これだから貴族は」
「これだから何?」
「はっ! ご、ごめんなさいっ」
シスローネさんは俺が貴族だと思い出したのと同時に、不機嫌にさせてしまったと勘違いしたらしい。
さっきまでの気さくな感じから、ガラリと変わってか弱い感じを醸し出している。
俺この人のキャラなんとなくわかってきたかもしれない。
「別に怒っているわけじゃないよ。単純に興味でその先を聞きたいだけ。何を言っても怒らないよ」
「本当に?」
「ぼくは嘘をつかない」
「……貴族は好きじゃないのよ」
嘘をつく人は“嘘をつかない”という言葉自体も嘘なのだけれど、シスローネさんは気がつく様子もなく正直に答えた。
俺以外の貴族にそんなこと言ったら首が飛ぶってことはまだ伝えなくていいかな。
俺自身平民にも受けの良さそうな雰囲気で接しているし、こういうことになる回数はそう多くあるまい。
「なんで?」
「クリアさんは昔貴族に何かされたそうよ。貴族が来る時はいつも無理して対応しているもの」
この情報は一応覚えておいた方がいいかな。
俺が貴族だと知っても強く当たって来た理由がここにありそうだ。
「それにね?」
「うん」
「貴族の子供って大人っぽいでしょ? 貴族だろうがなんだろうが子供は泣いて笑って怒って喧嘩して、自由にしてればいいのよ」
それなのに、とシスローネさんは続けた。
「貴族の方々はさ、子供に枷をつけて、これ貴族らしい振る舞いをしろだの、これ泣くことは一家の恥だからやめろだの、子供はしたいことをやらせてのびのび育てた方がいいと思うの」
「そうかな?」
「そうよ。無邪気に育てておけば、大人になっても小さい頃は自分もそうだったって広い心を持ってくれるはずよ」
確かにそれは一理あるかもしれない。
その子自身が厳しく躾けられたら、他人ができないことを受け入れ難くなるだろう。
「それだけじゃなくて、貴族は子供のレールもほとんど引いてしまうでしょ?」
まだあるんだ。
「子供はいろんなことに挑戦して、その中から自分の好きなものを選んで、その道を自分で進ませないと。親がレールを引くのは途中まででいいから、仕事とか結婚相手とかまでを親が決めるのはその子の自立心が小さくなってしまうかも知れないじゃない」
「シスローネさんはそういう考えなんだね」
シスローネさんは言いたいことは言い切ったようでスッキリした顔付きになって、元の仕事へと帰っていった。
でも子供については一存にそうだねとは言えないよな。
俺も教育方針としてはシスローネさんと同じで、自由に育てて、いけないことしたら怒って、たとえどんな道に進もうとも応援して、踏み外しそうになったら助けてあげる。そんな感じだ。
ただ貴族にとってそれは難しいのだ。
ヨーべクマ家は親の教育方針で仕事も結婚も自由なのだが、他の貴族――特に力を持つ貴族ほど自由というのは厳しくなっていく。
これは例で考えるとわかりやすい。
例えば公爵家の娘が男爵に嫁いだら?
例えば王族と子爵が結婚したら?
どちらも国の権力バランスが一気に崩れてしまう。
権力バランスが崩れると、今まで拮抗状態だった貴族同士で戦争を始めたり、国の政治を新しく見直す必要が出てきたりと国が不安定になってしまう。
それを見逃す他国ではない。国が不安定になった瞬間攻め込まれてしまうだろう。
みんなそれをよくないとわかっているから政略結婚をさせるしさせられる。
中には兄さんの相手見たいに恋愛結婚主義者だったり、俺見たいに成り上がりを目指す人だったりがいるがそれはほとんど夢物語りみたいなものだ。それが叶ったという話はここ十数年ないらしい。
まあ国を思うなら普通しないよな。
だがしかし俺はやるぞ。
俺の場合貴族学校で地盤というか、俺が力を持つだろうという匂いを漂わせるつもりだから国のバランスもそう簡単に崩れないだろう。
そう考えるともしかしたら、兄さんの相手の親御さんもそういう手配をするために時間をかけているのかも知れないな。
そうこうしているウチに芝刈りは完了した。
うんちょうどいいんじゃないだろうか。
「フルリアちゃん。手伝ってくれてありがとうね」
「いいよ! でもこれだけじゃまだ遊べないでしょ?」
「そうだね」
まだ芝を刈っただけ。野原感を出す方向でやろうと始めたがまだ全然荒れた土地のままだ。
「フルリアちゃん。今から見せることは秘密だよ?」
「? わかった!」
「土魔法[土柱]そして[落とし穴]」
まず凸凹している地面。土魔法で石を持ち上げる感じで掘り出し、これまた土魔法で地面を地面を均すように凹ませる。これでコケにくい地面の完成。
「わぁ! すごーい!」
側から見れば地面が勝手に動いているように見えたのだろう。
さて次に少し強い風を風魔法で起こして、地面から掘り出した石と落ちていたゴミを一箇所に集める。
「きゃあ」
少し離れているとはいえ、石を飛ばすほどの風を受けてコケそうになったフルリアちゃんを受け止める。
「えへへ。ありがとう」
「どういたしまして」
地面の後は木だ。伸び放題の木は剪定あという無駄な枝を切り取る作業をしなければならない。
しかしいちいち脚立のぼって切って降りて移動してというのはめんどくさい。
だからここでも風魔法の出番だ。
同じくエアカッターではあるが大きいと切らなくていい木まで切ってしまいそうだから小さくする。
さらに何回も打つことも面倒なので、操作できるようにちょこっと手を加える。
「風魔法[機動型風刃]」
「おおー!」
スパパパパと枝が切られて、あっという間にスッキリした感じになった。
芝刈りもこれでやれば……いや俺は何も思いついていないぞ!
2本目3本目と剪定を完了させ、次にボロボロの花壇を直す。
レンガが割れている。これもまあ土魔法でちょちょいのちょいっと。
「土魔法[岩石圧迫]」
圧迫とは言っているが要は原子同士の結合限界を無理やり増やしてそれぞれをくっつけさせている魔法だ。
主に固い岩石を作ったりするときに使うが、今回は密度ではなく“くっつけさせる”という部分が重要で、これでレンガに入っているヒビ割れをなくすことができる。
欠点としては小さくなってしまうことだが、それも魔法で解決できる。
「[岩石巨大化]」
これでレンガを元の大きさに戻す。これも原子同士の結合限界を減らして大きく見せる魔法。密度が低くなるので、主に威嚇にしか使えないが今回は元の強度に戻るだけだから問題ない。
荒れた土もさっきのソイルクラウンとソイルトラップを使ってふかふかにしておく。
「……――ふぅ。庭の手入れ完了」
「すごーい!」
フルリアちゃんは小さな手を全力で使ってパチパチと拍手した。
「フルリアちゃん。最初にも言ったけど……」
「秘密でしょ? わかってるよ!」
あとは集めたゴミを処理するだけ。
「フルリアちゃん手伝ってくれてありがとうね。もうみんなと遊んできな?」
「うん! またねー!」
フルリアちゃんはテテテ……と教会に戻っていった。
……よかった。俺とのお話しは忘れてくれたみたいだ。小さい子はいろんなことに興味を持つ上に想像力が高い。変に弱みを握られたら困る。
もちろんフルリアちゃん自身が弱みを握って何かをするとは思えない。あり得るのはその情報を引き出したクリアだろう。
「魔法ぐらいならあのぐらいの子の語彙力じゃ伝わりづらいからな」
しかもどこまで肥大化して話しているか判断しづらい。
さてこのゴミは……石だけアイテムボックスに入れて、燃やせるゴミは袋に、不燃ゴミはとりあえずアイテムボックスに入れておくか。
「おいスイレン!」
スイレンは名前を呼ぶとビクッと飛び起きた。
「なんだ⁉︎ 敵か⁉︎」
「違う。これぐらい手伝え」
「お、おお。悪かったな」
スイレンはトコトコと近寄って来た。
スイレンにも可燃物を入れた袋を運ばせて、焼却炉についた。中に袋たちを入れてファイアボールで燃やす。
それをボーっと見ているとスイレンが話しかけて来た
「それにしてもすごいな。こんな短時間であの庭がああなるとは」
「…………」
「い、いったいどんな魔法を使ったんだ?」
「…………」
「おい。何か答えてくれないか?」
感情の無い目でスイレンを見つめる。
「な、なんだよ。言っておくがあれはあの少女が我に休んでていいよと言ったのであって我が押し付けたわけじゃないからな! むしろちょっと抵抗したら、眠いんでしょ?と我の咥えていた鎌を奪い取ったのだからな!」
「は……?」
「う、嘘じゃないぞ⁉︎」
いいやそれはわかっている。俺のレアスキル[真偽の耳]も嘘ではないと言っている。
違うそこではない。今の言葉に違和感を感じたのだ。フルリアちゃんの優しさが伝わってくる話だと思うが、何かおかしい。
スイレンから鎌を奪ってまで俺に近ずいて来たことだろうか。いやそれも怪しいがそれだけじゃない気がする。
なんだ、何が引っかかるんだ?
まさか……いやでも。
「なにこれー⁉︎」
そんなシスローネさんの叫びによって、俺の黙考は遮られた。
ああ、そりゃ今の今まで荒れていた庭がああなったら驚くか。
俺が焼却炉を確認するとすでに火は消えていた。
「そんなに時間が経っていたのか」
「やっと喋ってくれた……」
何故かスイレンがホッとしている。
そこまで時間が経っていたのか?
空を見上げ、日が天高くに昇っているのを確認して俺はシスローネさんのところへ歩き出した。
読んでくださりありがとうございます。
今回はどうでしたか?
来週中には新作を投稿し始めるつもりですが、ファンタジーものを2作書いてわかったことがあります。
それはご都合主義な感じになってしまうということです。できるだけそうならないようにするつもりですが、作者は伏線張るのが苦手なので、最初から決めていたことでも最初から読み直してみるとご都合主義になっているのです。
この作品も新作も(←特にこっちを)そうならない用努力しますので、「頑張れ!」「それでも面白いよ!」「これからに期待!」と思ってくださった方は下のブックマークと評価ボタンをクリックお願いします。
これからもこの作品をよろしくお願いします。




