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転生!貧乏貴族の下剋上物語  作者: かめねこ
第一章 タイゼック家の使用人
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第43話 幼女!見覚えのないこの娘は

「それで? 願いは何?」


 スイレンとの約束は勝った方の言うことを聞くというものだ。

 俺はそれを破るほど悪い性格をしていない。

 最悪解放しろと言われる可能性もあるが、例えどんな願いであったとしても、その願いは聞き入れるつもりだ。


「そうだな。……我を解放してくれ」


 やはりか。


「わかっ――」

「十日だけ」


 あれ?


「短くない?」

「いやそんぐらいで十分だ」

「期限つけなくてもいいんだぞ?」


 俺からしたら構わないというか、むしろ嬉しいぐらいなんだけど……。


「別に我はお前から逃げたい訳じゃないぞ」

「え、そうなの。いつも酷いことしてるからもう俺から解放されたいのかと……」

「自覚あるなら治してくれんか⁉」


 そうかそうかスイレンは逃げ出したい訳じゃないのか。


「もし解放してくれってお願いされても、無理矢理連れ戻すつもりだったんだけど……そんなことにならなくてよかったよかった。スイレンと全力で戦闘とか一歩間違えてスイレンが死にそうだし」

「お前じゃなくて⁉」


 しかし俺は一回本気でスイレンと戦ってみたいな。

 真面目にどっちが勝つかわからないからな。


「はぁ。とにかく我は十日の休暇できる権利が欲しいんだ」

「権利? てことは今すぐからじゃないってことか」

「そうだ。だいたい秋の終わりらへんだな。その時期になったら一度自由にさせてもらいたい」

「もちろんだ」


 そんだけのためだけにわざわざ勝負などをする必要はない。うちは超ブラックというわけではないからな。

 好きな時に食べて、好きな時に寝て、好きな時に好きなように行動すれば良い。俺はただ飼い主としてそれらの管理を、責任を持って行っているだけだ。

 こう言うと聞こえは良いが結局スイレンの行動を制限しているのは事実であり、少し可哀想だと感じたこともある。


「そのぐらいなら普通にお願いしてくれて構わないぞ。休みぐらいいつでもとってやる」

「うぅむ……テイムしている魔物に休みを与えるのか? へんなところだけ優しいなお前」

「“だけ”だって? 俺は優しさを具現化したような奴だろう」


 お願いは断れないし、傷つく人がいたらほっとけないし、敵にも情けをかけてやるし。

 ほら俺ってすごい優しい。


「ただただお前に冷たいだけだ」

「だからそれを止めてくれ!」


 *


 スイレンと競争した翌日、俺は約束より少し早めに教会へ来ていた。

 今はクリアさんの事務室に来ている。


「早いですね」

「そうですかね? 早めに来るのは基本だと思いますけど」


 昨日はケンカっぽくなって口調が砕けていたけど、今は雇い主と雇われている関係だ。こちらも一応敬語で話す。


「あら、基本がわかっているのですか?」

「......ケンカ売ってます?」

「いえ、基本ができる人を雇えてよかったなと......」


 それ言外に「期待してません」って言ってるよね?

 いいだろう。俺も少し本気出してあげるよ。


「そうですか。それで今日の仕事は?」

「あなたの今日の仕事は庭の手入れです」


 ああ。雑草ぼうぼうだし、木も好き勝手伸びてるし、土も荒れてるし、花壇もぼろぼろだしってあそこね?


「道具は物置小屋にあります。それと、私かシスローネに頼まれたことは欠かさず行ってください」 

「わかりました。......作業着はありますか?」

「............あなたの大きさだとウチの孤児たちのおさがりしかありません」

「じゃあそれください」

「え、良いのですか?」

「別に良いですけど」


 別に俺潔癖症じゃないし。汚すぎるのは嫌だけど洗濯はちゃんとしているだろう。

 作業着は後で庭に持って来てくれるとのことなので、俺は道具を取りに物置小屋へと向かった。


 *


「ここか……?」


 目的の場所に到着した俺はスイレンと一緒にその物置小屋を見上げていた。

 見上げてないでさっさと中に入りたいが、それがそうもいかないのだ。

 今まで使って来なかったのか、全体的に(つた)が巻きついていて入り口のドアが開かない。

 低いところはむしりとったが、高いところに張り付いた蔦が低身長な俺らでは届かない。


 スイレンが元の姿に戻ったり、俺が十二支剣技の卯を使えばできるが、どちらも目立つ上にバレた時が面倒くさい。

 やはりここは無難に魔法だろう。


 今回はドアとドア又は壁を繋いでしまっている蔦を切れれば良い。物置小屋が木と石でできているので燃やしたりはできないしな。

 切ると言って思いつきやすいのはやはり風魔法だろう。


 自分の中にある風の魔力を引き出して発動したい魔法をイメージする。

 思い浮かべるのはカマイタチ。伝説なのでもちろん実際に見たことはないが、マンガとかではよく出てくるだろう。

 チートの[全世界図書館]で調べてみたがやはり科学的証明はされていないらしい。

 実はあかぎれではないかという説もある中、俺が採用したのは極度な低圧によって切り裂かれるという説だ。


 物理的に旋風を引き起こした際にそこまでの低圧が生まれることはないが、ここはファンタジーな世界である。

 意識的に低圧を作れてしまうのだ。


 まず俺の前方に、ちょうど飛行機の翼を凄く薄くしたような膜を魔力で作り、その中の空気を中に新たな空気が入らないように抜いていく。理想は真空。

 真空までは行かないが、それに近い低圧を作ればそれで完成。簡単なお仕事だ。

 あとはそれを目標に向かって放てば――


「風魔法[風刃(エアカッター)]」


 スパパとちょうどドアとドアを繋いでいた部分の蔦だけをカットする。

 それをドアと壁を繋いでいる蔦にも行い、数回やったところでドアを開けるのに邪魔するものはなくなった。


「相変わらず無詠唱で流石の精度だな」


 スイレンが感心とも呆れとも取れるように呟いた。

 俺はそれを褒め言葉として受け取るからな。


「まあ、魔力操作は小さい頃からやっていたからな」

「それでもお前はまだ5歳だろ? その若さでこの精度ができるのは才能だ」

「そっか。ありがとう」


 普通に褒められた。

 褒められたら嬉しくない訳がない。

 今日のご飯は豪華にしてやろう。


 *


 物置小屋から必要な道具を取ってきた俺は早速庭に来ていた。


「お待たせ」

「いえ、今来たところですよ」

「そ、そう」


 服を届けに来てくれたシスローネさんにニコリと返すと彼女はその場でピタリと止まった。


「どうしたの?」

「い、いえ。あ、これマザー・クリアに渡して来てと言われたので……」

「ありがとう」

「でも本当にこんなもの着るの?」

「洗濯してあるんでしょ」

「だって私のお下がりよ?」


 むしろありがとう! 着れて嬉しいです!

 って流石に5歳のときに来たやつからシスローネさんの香りはしないか……。

 いや、これは気持ちの問題なんだ。シスローネさんが着ていた服を着ている……その物事自体が大切なんだ。


『おい、顔が崩れそうだぞ』

「はっ……!」


 危なかった。スイレンが指摘してくれなかったらシスローネさんの前でニヤけるとこだった。

 ここでニヤけたらシスローネさんに変態だと思われるところだった。

 危ない危ない。俺は紳士だ。そんなことになってはいけない。


「大丈夫。逆にシスローネさんは良いの?」

「何が?」

「服汚しちゃうけど」

「全然大丈夫よ。服なら毎年新しいのを古着屋からもらってるわ」


 そこは国から支給とかじゃないのか。そこら辺についてもいつか聞きたいな。

 ま、聞いたところで積極的に助けるつもりはないけどな。


「それじゃ私は仕事があるから。何かあったら子供たちに聞けば私の居場所は分かるから」


「頑張って」そう言い残してシスローネさんは教会の中に戻っていった。


「……さて始めるか」

「手伝うぞ」

「ありがとな。じゃあまず何からやろうか」


 とりあえず子供たちが遊べるところを作ってやりたいよな。

 じゃあまず地面からだな。


 俺は庭をぐるっと見渡してみた。

 やはりどこも雑草ぼうぼうで、ここら辺で寝そべれるかと聞かれたら絶対に嫌だと言えるぐらいだ。

 どうしてやろうかこの土地を。


 そうだな少し雑草を残しておいて、芝生(しばふ)みたいな感じにしたい。

 野原らしさを感じてもらえるような庭にしたいんだよなぁ。


「とりあえず雑草を短くするか」

「そうだな」


 俺とスイレンは物置小屋から持って来ておいた(かま)を使って雑草を刈り取っていく。

 それにしてもこの鎌、刃こぼれしていて刈りづらい。人間の俺でこんなに大変なんだ。狐のスイレンはもっと大変だろうな。

 ふとそんなことを思った俺は自然とスイレンがいる方向へと視線を向けた。


「ン?」


 しかしそこにいたのは鎌で一生懸命草刈りをしている同い年ぐらいの女の子だった。

 ……誰だろう? 俺にこのぐらいの年の知り合いは取り巻きABCしかいない。

こんなところにいるわけないし、まず後ろ姿が違う。

 俺はその幼女に近づいて行って声をかけた。


「ねぇ君誰?」

「ぅん? 私?」

「そう君」

「私はねフルリア!」


 いや誰やねん‼︎

 てっきりスイレンかと思ったわ!

 ラノベでよくあるペットの人化だと期待したじゃねーか!


「なんでフルリアちゃんが芝刈りしてるの?」

「そこにいるキツネちゃんが大変そうだったから代わってあげたの!」


 フルリアちゃんの指差した方向を見ると、陽当たりのいい場所を陣取って寝息を立てるスイレンがいた。

 あいつ……手伝うって言ったなら最後まで突き通せよ。


「それにね、ここは私たちのお庭でしょ? 自分でキレイにしないとなぁって思ったんだ!」


 うんいい子だ。


「他の子と遊ばなくていいの?」

「うん。私あなたとお話ししてみたくて」

「そっか。まあ無理はしないでね」

「うん!」


 俺はもとの場所に戻り、再び切り(にく)い鎌で芝を整えていく。

 しばらく黙々と作業していた時にその声は聞こえた。


「痛い‼︎」


 声がした方向を見るとフルリアちゃんが左手を大事そうに抱えた姿があった。

 痛そうにプルプルしているが泣かないのはこの子の強さがうかがえる。


「大丈夫?」


 心配になってフルリアちゃんに傷口を見せてもらう。

 傷口は深くない。よかった。どうやら鎌じゃなくて雑草で手を切ったらしい。

 声を聞いたのかシスローネさんも駆け付けた。


「シスおねーちゃん!」


 フルリアちゃんが救いを見つけたように笑顔になった。


「どうしたんですか⁉︎」

「この子が手を切っちゃったらしくて」


 傷口を確認したシスローネさんはすぐさま詠唱を始めた。


「――……光魔法 [初級回復(ファーストヒール)]!」


 その言葉とともにフルリアちゃんの怪我はみるみる治り、怪我なんて無かったかのように元通りになった。


「ありがとうっ! シスおねーちゃん!」


 そう言ってフルリアちゃんがシスローネさんに抱きつくと、抱きつかれた方は恍惚としたような声を出した。

 ああこの人、子供誘拐しそうだな。

 その姿を見た俺は何故かそんなことを感じたのだった。

読んでくださりありがとうございます。

今回はどうでしたか?

魔法の説明難しいです……伝わってくれたら嬉しいです。

たぶん伝わらなくても話自体に大きな支障はないのだろうけど……やっぱりそれは悲しいなと感じます。


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