第40話 教会!あのね、ぼくのかぞくはね
ヨーベクマ家を発ってから3日、特に問題もなく町にたどり着いた。
「さて、俺がついていられるのはここまでだ。本当に大丈夫なんだろうな?」
と、イルマ兄さん。
「うん。大丈夫だよ」
やることの目処は立っているし、お金もむしろ少し多すぎるぐらい持っている。
保護者同伴じゃないのは何か言われそうだが、まぁ問題ない。
『気をつけよ』
「ああ。ありがとう」
気遣ってくれるというのは、たとえ誰からでも嬉しいな。
「今何て言った?」
「ううん、なんでもない」
俺の呟きに反応する兄さん。耳の良さは人並み外れている兄さんだが、それでも俺が呟いた言葉はわからなかったようだ。
そりゃそうだろう。今俺が答えたのはのはイルマ兄さんでもスイレンでもなく、馬のホースだ。
最初はホースが無口なタイプだから気が付かなかったが、どうやら俺の[完全言語理解]は馬にも発動するらしい。
「次......」
すぐそこからやる気の無さそうな兵隊の声が聞こえた。
この町はだいたい10年ほど前に建設されたばかりの外壁で囲まれているのだが、入り口は東と南の2箇所で、どちらの場所でもこのように兵隊が立って町の中に入る人の入門検査をしている。
検査と言っても自分の身元を証明できるものを開示するだけでいいので、たいして時間はかからないが。
「はい確かに......」
俺ら二人と一匹も問題なく東の門を通過し、町へと入る。
「俺は落ち合う時間まであと少しだからもういくぞ。何かあったら領主の館にいくんだぞ。一応俺が顔見知りではあるからな」
「わかってるよ兄さん」
「お金を要求されたら少し渡してすぐに逃げろよ? 知らない人に声をかけられたら気を付けろ? 少しでも変な動きをする奴がいたら極力避けるようにな? それと――」
「大丈夫だって」
もうこれは5回ぐらい聞いた。
このあと続く言葉は「人の少ないところにはいくな」で、この不審者編が終わると今度は施設の使い方だの働き口への礼儀だのと、まだまだ続き、最終的に「一番大事なのは命だからな」となんとも騎士らしいお言葉で終わる。
そしてしばらくしたらまた最初からこれを語り始める。
ほとんど言っている内容が変わらない兄さんを見てると、実はこいつNPCなんじゃね?と思い始めるぐらいだ。
「でもだなぁ......」
「まったく。ぼくが大人並みの身体能力を持っているのは知ってるでしょ?」
「そうだけどなぁ。やはり年齢がまだまだ――」
「あーもぉ! 早くいきなよ! 相手を待たせたら悪いでしょ!」
「それも、そうか。じゃあ俺はいくが......本当に気を付けろよ?」
「わかったわかった。じゃあね。楽しんで」
ホースを連れて度々後ろを確認する兄さんに手を振って、角を曲がってようやく見えなくなったところで俺はため息をつく。
「だいぶ心配性だなあの兄も」
足元でその終始を見ていたスイレンがこちらを見上げながら言った。
「本当だよ。心配してくれるのはいいんだけどねー」
過剰なのはだいぶ疲れる。
「それで? これからどうするんだっけ?」
「とりあえず高台に向かおうか」
働く場所がどこにあるか把握するためだ。
本当なら[世界地図]で確認したいんだけど、残念ながらこのスキルでは建物の名前まではわからない。
幸い向かう場所は高台からみればわかりやすい建物なので、早速探しにいこうと言う訳だ。
*
「わぁ~!」
高台の階段の最後の一段を上り終え、そこにいた鳩たちを追い払うとそこには圧巻の町並みが見えた。
この町、街と言っても過言ではないぐらい発展している。町が出来た当初も多少の発展はしていたらしいが、近年はさらに活気付いて来ており、今ではここの領主も準男爵という最底辺な爵位にも関わらず、伯爵並みの権力を持っているんだとか。
この急成長の理由は勇者召喚に関係する。
勇者召喚をする意味、それは隣国である悪魔の国――フィレセリアで魔王が代替わりしたからだ。
悪魔の国と言ったら裏世界とか魔界だとかをイメージする人が多いと思うが、実際は人間の国と同じで、違うのは住んでいる種族の割合だとか、実力至上主義だとかそのぐらい。
別に常に人と睨み合っている訳でもない。
じゃあ何故わざわざ勇者を召喚するのか、それは単純に人間が代替わりした魔王が怖いからだ。
今言った通りフィレセリアは完全な実力至上主義なため、血筋や権力は関係なく、その時の魔王に勝った者が新しい魔王になるのだが、その新しい魔王がどのような考えを持っていて、どのような行動に起こすのかは誰にもわからない。
しかもその国で一番強い魔王に逆らう奴は悪魔にはおらず、もし全戦力を持って世界を征服するなんて無理な命令を言われても仰せのままに、と文句も言わず自分の命を差し出すのである。
なのでそれの対策としてこの国は勇者を召喚するのだ。
といってもいくら悪魔でもそんな噂や情報だけで「そうなんだ。じゃあ逆らえないね」なんて言う訳もなく、実力を示して魔王がフィレセリア全土を掌握するまでかかる時間は約2年かかる。
もしその魔王が好戦的、野望持ちであっても対応出来るよう、その間に勇者は旅をして力を付けて行く。
ここで話は力をつけていくこの領土へと戻る。
理由は色々な説があるが、魔物はフィレセリアに近づくほど強くなる。
そしてこの町は勇者召喚がされる王都からフィレセリアまでのちょうど中間辺りに存在する。
つまり魔物は強すぎず弱すぎない成長するのに持ってこいな場所。
もともと力を付けたい冒険者や騎士団の拠点としてよく使われているこの町。ただでさえ栄えているのに、さらに勇者が拠点にすることで関係者や話題性で人がひっきりなしにやってくるようになる。
するとさらに栄え、栄えると人が来て、と嬉しいループに突入。しかも今代の領主は腕が良いらしく領地以外でも素晴らしい結果をのこしているらしい。
ここまで凄いと準男爵から抜け出してそうなものだが、王家がここの家系を嫌っているらしく、上の爵位に上がらせてくれないんだとか。それだけじゃなく政略結婚とかで娘、息子の爵位を上げても王家にいちゃもんつけられて婿、嫁ごと準男爵に落とされるらしい。
「......なんか可哀想だな」
「なんじゃいきなり」
ま、権力の強い奴なんてそんなものか。
政治に私情をはさんでくるが、でもだれも指摘できない。相手は国の最高権力者だもんな。
もしやるとしたら沢山の味方をつけないといけない。もしかしたらここは俺のヨーベクマ家より険しい道のりなんじゃ......。
............いや、他に味方がいるだけましか。町も栄えているしお金はいっぱい入り込んでいるんだろう。
「なぁ、そろそろ景色も見飽きたんだが......」
「あ、そうだった。本題は俺の職場探しだ」
俺の目的の建物は教会だ。
もともとは村の小さな病院でお手伝いしようと思っていたのだが、予想以上にお金が手に入り、これなら町の教会の方が稼ぎも交通も良いから最適だろうと変更したのだ。
小さな村なら少しでも人材が欲しいだろうから泊まる場所も食事も出してくれるが給料は安い。
町の教会は泊まる場所も食事も与えないが給料が高い。
まとまった金を手に入れたなら町の教会の方が断然お得だ。
「あれじゃないか?」
「ん?」
スイレンに指された場所を見ると、青い屋根に六角形の対角線が引かれたシンボルマークのようなものがついた、少し大きめの建物が見えた。
なるほど。なんとも教会っぽい。
「とりあえず行ってみるか」
*
俺はスイレンを抱えて、早速教会と思われる場所に来ていた。
しかしこの建物、遠くから見て少し草が生い茂っている気はしていたが、近くでよく見るとだいぶボロボロだ。大通りに面してはいるが、蔦は思うがままって感じで壁に張り付き、庭は雑草でぼうぼう。建物自体もヒビが入っていたり、屋根も何枚か剥がれていたり、窓は沢山の補強がされている。
......本当に国営の建物なのだろうか。まずそもそもこの教会は機能しているのだろうか。
............場所を間違えた可能性も考えたが、中では子供たちの昼食を摂っているらしき声が聞こえてくる。
「......まぁ聞いてみないことには始まんないよな」
「我はまた術を使うのか?」
「俺と話したいならね」
スイレンとはスイレンの[幻覚]という技を応用して、周りに話しているのを悟られないようにしている。
でもそれをするのは意外につかれるらしい。だから人が前にいるときはあまり話さないのだが、最近はずっと黙りだったから人と話すことに飢えているとさ。
「森にいたときは誰とも話していなかったのにな」
スイレンはなんとも言えないような表情で呟いてた。
キツネの表情はよくわからんけども。
すると建物の前で迷っている俺に気がついたのか、中から白と青を基準としたシスターっぽい服を来た20代ぐらいの女性が出てきた。
「どうしたの? 1人? ママとパパは?」
「............」
おお、凄い美人さんだ。
包容力がありそうな感じを醸し出していて、一緒にいると妙な安心感がある。
何より目をひくのは包容力の固まりとも言える大きな胸。うん。母さんより大きい。
「だ、大丈夫?」
「......あのね、パパはね、お仕事にいってるハズなのにね、さっき知らない女の人と歩いててね、声かけたら邪魔するなって言われた。ママはね最近お化粧するようになって、僕にお小遣いをわたしてどっか行っちゃうからね、どこにいるかわからないの。お兄ちゃんは、家にいてもお砂糖さんを舐めたり吸ったりしててね、構ってくれないの」
「っ!!!?」
目の前のシスターさんは驚きと悲しみ、そして慈愛の籠った目でこっちを見たあと、唐突にハグしてきた。
「......くるしい」
けど幸せ。
ちなみに抱えていたスイレンは既に横に逃げた。
「大変だったね......! 大丈夫、大丈夫だから。一緒にお昼食べよ?」
「まあ嘘ですけどね」
「は?」
やっと俺を放したシスターさんはとても面白い表情をしていた。
............それでも絵にはなっている。これだから美人は......。
ま、面白い顔を見れただけでもよしとしようか。
なんかシスターさんを見た途端、からかいたくなったソルトです。
美人さんのレアな顔、なんか良いですよね。
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