記念話 家族!ソルトが家族を愛するまで
祝!ブックマーク100件突破!
という訳でこちらの話はブックマーク100件突破記念の話となります。閑話感覚でお読み下さい。
転移させた話なのでもう読んだ方はいると思いますが......何気にこの話を投稿したときが一番ブックマーク増えたっていう伝説があります。読む気になったらもう一度読んでみてください!
舞台はソルトが3歳のころ。
ソルトが家族を愛するに至った大きな出来事を取り上げています。
それではスタートです。
「こら! ソルト、何故1人で庭に出たの!」
「なんでわかるの?」
少しお腹の張った母さんが腰に手を当ててこちらを見下ろしていた。
それさえも母さんなら絵になるんだから美人って凄いと思う。前世の俺のおふくろがこの体制しても何も感じないからな。
お腹が張っているのは母さんに赤ちゃんができたからだ。出産予定日は6ヶ月後。今からでもすごい楽しみにしてる。
前世でも兄弟は上にしかいなかったから、年下の兄弟というものに憧れていたのだ。
それはそうと、母さんが怒っている理由は出ては行けないと言われた庭に俺が出たと思ったから。
確かに俺は庭に出ていた。
でもバレないように裏口から風呂まで直行したはず。
「簡単よ。私のベビースラリーのがソルトを見つけたから」
スラリーとは母さんがテイムしているスライムの名前だ。
このスラリー、割りと強く、ただのスライムから二回進化して、アサシンスライムになっているらしい。
アサシンスライムとは普通のスライムと違い、ほぼ無色透明で一撃で確実に殺すことのできる鋭利触手なるものを持っている。さらに言えばスライムだから感知系の能力も高い。
何気に本物の暗殺者より強いモンスターだ。
そんなスラリーの持つスキルに、スライムしか修得できない[分裂]なるものがあるらしい。
ベビースラリーとはそれでスラリーが産み出した分裂体のこと。
‘分裂’といってもサイズは本体より小さいものの、強さは本体とまったく同じ。
そんなモンスターの分裂体が何体もうろうろしてんだから俺の家の防犯は完璧。
さらに、[魔物支配]のレベルをあげれば、テイムしている魔物と意識を結合させることができるらしく、ベビースラリーが得た情報はすべてスラリーに、スラリーが得た情報は母さんに入るから、どんな奴かもばれてしまう。
便利だな。
ただこれをよくよく考えてみて欲しい。ベビースラリーが家をうろうろしてるということはつまり、俺達家族の行動は全部母さんに筒抜けになっているってことだ。
さらにベビースラリーを服やら荷物やらに忍ばせておけば、父さんの浮気や兄さん姉さんの恋愛事情などまでがすぐにわかってしまう。
プライバシーのプの字もない。
「それで? 庭で何をしていたの?」
「とくになんにも。おひさまがあたたかいなぁって」
「......ホントに?」
「ほんとだよ」
だけど母さんもそこら辺はわきまえていて、遠出しない限りベビーを忍ばせることはしない。
まぁ、うろうろしてるベビーが見張っていることに代わりはないんだが。
今回はたまたま俺が家に入る所だけ見られたらしい。
「奥様、旦那様がお呼びです」
「わかった、今いく。はぁ、ソルト、次庭に出るときは誰かと一緒にいなさい。いいわね?」
「......」
その言葉に俺はニコッとだけして答えた。
母さんは怪しみながらもひとまず俺の下から去った。
*
さて、俺がわざわざ隠れて庭に出ていく理由。
それは魔法の練習をするためだ。
一応魔導書は読んだが、それだけで魔法が使える訳では無い。
赤ちゃんの頃からやっていただけあって魔力はまるで手足のように使えるが、それでも魔法の発動はできない。
魔法の発動はやり直せない編み物に例えるとわかりやすい。
魔力があるとは、糸があると言うこと。
魔力を操れるとは、糸を動かせるということ。
魔法を発動するということは、編み物を完成させるということ。
そして魔法発動の要となる詠唱とは、その編み方のことと言い替えることができる。
例えば[火球]を発動したいなら
1.火属性の糸(魔力)を用意する。
2.編み方(詠唱)通りに糸を編み込む(魔力操作で魔法の組み立て)。
3.完成(発動)
こんな感じ。
だから大きい魔法を発動したいならその分詠唱が伸びるし、組み立ての難易度も上がるし、使う魔力も増える。
特に詠唱なんて暗記ものだから上級でさえ大変。一言でも噛んだり、忘れたりしたら、やり直せないからその魔法は完成しない。
つまり魔法は反復練習あるのみなのである。
俺は魔力はもう操作できるし、属性も全部持っているとわかっている。
ならもう使ってみたいと思うのが普通だろう?
しかしこの世界では4歳を越えた辺りに自然に自分の魔力の量と属性がわかるハズなのだ。
それなのにこの年齢から魔法を使えると気味が悪いだられて追い出されかねない。
こんな小さな身体じゃ1人で生きていくことなんてできやしない。
ここを追い出され無い為にも、魔法は隠れてやる事にした。
だが魔法は、火を使ったり水を使ったりと、木製の室内でやるのはとっても危険だ。
そのためいろんな目を掻い潜り庭でこっそり練習していたのだが、最後の最後で見つかってしまったらしい。
でも魔法を使っているところはみられなくてよかった。
ギリギリセーフ。
*
母さんに庭に出たことがバレた日の晩。
いつも通りみんなで食卓について食事をしている。
そう、みんな。使用人たちも一緒に食事をしている。
最初はこういうのって使用人は別で食べるんじゃないの? と疑問に思った。
やっぱり違和感があるのは前世の記憶を持ってる俺にはしょうがないと思う。
家族水入らずの食事に使用人がいること。下で働く人が偉い人と同じ料理を食べていること。
だから昔、思いきって聞いてみたことがあった。
~
~~~
~~~~~
「父さん、メイドさんたちがぼくらといっしょにごはんを食べるのってふつうなの?」
父さんはナイフとフォークを動かしていた手を止めて答えた。
「普通は違う。けどうちはこれでいいんだ。いいかソルト、上に立つものは下で支えてくれる人がいるからこそ成り立つんだ。そんなありがたい人達を無下に――ああ、難しいか。...そうだな.........偉い人はみんな沢山の人に助けられてる。その人達への“ありがとう”という気持ちを絶対に忘れない事が偉い人には大切なんだ。わかるかい?」
「うん」
~~~~~
~~~
~
こんな感じのこと言われた。
つまり部下にも優しくしろってことでしょ?
まぁ、使用人のみんなは家族みたいなものだし異論は全く無いけどね。
っていっても、使用人が一緒に食事するのはそこまでの頻度じゃない。
詳しい条件は知らないけど、たぶんそれぞれの用事やらなんやらが関わっているんだと思う。
今日はたまたま条件がそろったらしい。
「ソルト、食べないのか?」
「食べるよ」
ぼーっとしてたら父さんに注意された。
「そうだ、ソルトには言うの忘れていたが、父さんとウルクは明日、タイゼック家の長女成人記念会にいってくるからな。母さんたちの言うこと聞くんだぞ」
「はいはい」
タイゼック家ってどこの誰だよ。
成人記念会? こういうパーティーに父さんが喚ばれるところを見るのは初めてだな。
まぁ、窓の外を見る限り近くに人の住んでいない辺境の地域っぽいから、そのせいでなかなか喚ばれないのかな。
「お父様、気をつけて言って来てくださいね」
「ああ。......本当ならイルマ、お前も連れて行きたかったのだがな」
「いえ、俺はいいですよ。俺にああいう場所は似合いません」
「まったく......せっかくこういう機会ができたんだから、積極的に貴族のご令嬢と関係を持っておいて欲しいものだ。お前もそろそろいい年齢だろう」
確かに、イルマ兄さんは今年で13歳だ。
14歳で成人のこの世界の貴族はこの時期にある程度相手を決めておいて、成人してから婚約。16歳になってから結婚という流れが普通なのだ。
何故か知らないがうちは平民の学校に通っているから貴族のご令嬢と会う機会がほとんどない。
いくらそういうのに疎いと言っても、関係を全然持たないというのはいろいろなことにおいて危険だ。
俺の家族はみんないい顔してるから、関係さえ持てばモテるはずだから参加すればいいのに。
「俺は騎士として頑張りたいのです。今からそのような相手を持ってしまうと、もし死んでしまった時に相手を悲しませてしまいます」
「そうか。まぁ、お前の好きなようにするといい」
「はい」
兄さんも兄さんなりに考えているんだな。
*
次の日。
父さんとウルク兄さんはもうそのタイゼック家とやらのパーティーに向かった。
もちろん俺はバレないように庭に出た。
ちなみに無色透明のアサシンスライムの監視から逃れる方法は、庭なら草が折れたり倒れたりしているところに注意すれば良い。そこにアサシンスライムがいるってことだからな。
今日も庭で魔法の練習をしようとおもったが、昨日みたいにバレてしまう可能性があると気づいた。
ならば見張りのいないところに行けばいい。
俺は裏門に向かった。
裏門から出て家から少し離れた高原にきた。
高原と言っても周りは森に囲まれている。上から見るとちょうどこの辺りだけぽっかり空いて、ドーナツの穴みたいになってると思う。
ここなら小さい魔法を使ったとしても気づかれないだろう。
まずは火魔法から......。
「我授かりし赤の魔力を放ちて炎つけし 渦巻き回り暴れる炎を押さえつけ 小さな燃える球となれ [火球]」
そう詠唱すると俺の手のひらの上に火でできたボールができた。
この詠唱、俺が[完全言語理解]を持っているから意味で聞こえるだけで、本当はもっと何言っているかわからない変な言語が集まってできている。
確か魔法言語とか言ったような。
俺は意味をとらえて言うからやりやすいけど、普通の人は何でこうなるのかわからない上に、発音しづらい単語を暗記しないといけないので凄い大変だ。
......これ、同じ意味になれば別に違う言葉でもいいんじゃね?
発音は魔法言語だけど、日本の漢字を使って意味を詰め込めばもっと簡略化できるのではないだろうか。
ためそう。
俺は左手を構える。
「我授かりし赤の魔力――」
ここら辺は決まり文句みたいなもんだから省略できないけど、問題はこの先。
「――放出、着火、球体状に圧縮 [火球]」
するとさっきと同じ様に火の球ができた。
右と左のファイアボールを見比べるが見た目の違いはない。
魔法言語は日本語よりも単語1つに使う発音の数が倍近く多いからほんの少し短くしただけでかかる時間が全然違う。
両手にあるファイアボールのせいでだんだん暑くなってきた。
とりあえずこの2つをどこかに放ちたいな。
下......は俺が危ない。横は木があって怖い。
ならば上しかない。
2つのファイアボールを上に向かって放つ。
打ち上がった2つのファイアボールは空中でぶつかり合う。
すると詠唱を短くした方のファイアボールがあり得ないほど大きな炎を作り出した。
あり得ないほど大きなってどのくらいか?
少し小さめの一軒家ぐらいだよ。
こうボウッていうより、ボンッからのゴウッって感じに。
もう爆風という名の嵐が一瞬吹き荒れるぐらいの威力。
まさかこんなに凄いファイアボールになるとは。
この威力でもまだ初歩のファイアボール。
これあれか、編み物で言うと「簡単な編み方知ったから大きめの作ちゃった♡」的な。「すぐにできちゃうから気づいたら多めに作っちゃってた♡」的な。
......詠唱省略コワイ。まぁ使うけど。
次に水属性の魔法を練習しようと思ったら、頬の横を火が高速で通っていった。
髪が少し焦げた。
「え?」
飛んできた方向を見ると、そこにはてっぺんに赤い魔石が付いた杖を持つ人が歩いて来ていた。
なにすんだよ!
そう言おうと思ったがやはりやめた。
別に魔法が恐い訳じゃない。問題はそこじゃないのだ。この人、肌の色が深緑色で、フードを被ってよく見えないが鼻は大きい。
いやこいつ、ゴブリンやん。
いわゆるゴブリンメイジというやつだろう。
ゴブリンメイジの持つ杖の赤い魔石が赤く輝き、再びファイアボールが飛んできた。
今度は真っ直ぐ俺の頭に向かってきた。
俺は咄嗟に横に転がりスレスレで避ける。
しかしその先でもゴブリンメイジのファイアボールが襲ってくる。
今度は逆方向に転がり逃げる。またスレスレ。
俺に何の恨みがあるってんだよ!
アレか! お前、自分が使う魔法より俺の方が強い魔法使えるからライバル心燃やしてるのか!
そうか。それなら俺もそれに応えてやるよ。
「我授かりし赤の魔力 放出、着――」
「いた! ソルト!!」
「――きゃ、.........」
格好つけて手を前に突き出して詠唱していたのに後ろから声をかけられたせいで噛んでしまった。
振り向くとそこにはイルマ兄さんと姉さんがいた。
イルマ兄さんは俺をかばうように前にでて、姉さんも俺をかばうように俺を抱えた。
「イルマ兄さん、姉さん。今だいじなところだかr――」
「!? こ、こいつはゴブリンメイジじゃないか! 姉さん! お母様に知らせてくれ! スラリーを呼ぶんだ!」
聞いてくれない。
「え、みんなで逃げた方が良いでしょ! その後にスラリーに倒して貰いましょうよ!」
「ダメだ。見ただろさっきのフレイムボール。フレイムボールが使えるゴブリンメイジを野放しにするのは危険過ぎる。俺がここで足止めしておくから早くお母様に...!」
「でもそれじゃあイルマが......いえ、何でもないわ。確かにあのフレイムボールは危険ね」
それ多分俺のファイアボール。
まぁいいや。どっちにしてもこいつをこのままにしとくのは危険だから。
にしても姉弟愛がいいね。
危険だけどみんなのために残って足止めをする弟。
弟が心配だけど、その弟の覚悟を受け入れる姉。
カッコいいな。
「気をつけてねイルマ。いくよソルト」
「あ、ぼくはここにいるよ」
「え?」
「足のおそいぼくがいっしょにいったら母さんをよぶのもおそくなっちゃう。そしたら兄さんの危険がふえるよ」
姉さんは目を瞑って考えるようなポーズをとると、すぐに目を開けた。
「そうね。イルマ、ソルトをちゃんと守ってね」
「もちろんだ」
そういうと姉さんは屋敷の方に走った。
兄さんは戦闘準備に入る。
人が増えて動揺していたゴブリンメイジも攻撃体制にはいった。
「ソルト、その木の影にいろ」
俺は言われた通り木の影に逃げた。
*
それからは割りと早く片付いた。
兄さんがメイジの攻撃を避け続けて、少ししたらすぐにスラリーと母さん、姉さんが駆け寄ってきた。
メイジはスラリーに一撃で殺され一件落着。
そして今は屋敷で俺が母さんに怒られていた。
「なんで家の外に出たの!! 家の外はあなたにとって危険がいっぱいなのよ!」
「ごめんなさい。ほんの出来心で...」
「出来心で命をかけるんじゃありません!」
はい。正論です。
「何であなたって子は他の兄弟と違ってこんなにも――」
そういうと母さんは腕を持ち上げた。
俺は叩かれると思ったが母さんを見つめ続けた。
何故か?ただの強がりです。
しかし、母さんは叩くことなく俺を抱き締めてきた。
「私を心配させるの。本当に、本当に心配したんだから......」
緊張の糸が切れたのか、母さんはぼろぼろと泣き出した。
この世界にも心配してくれる家族がいる。
俺の為に泣いてくれる親がいる。
今思うと凄いよな親って。見返りも求めずに子供――言ってしまえば他人を育てているんだから。
母さんはまだ泣いている。後ろでは姉さんまで泣いていた。
身体が小さくなって涙脆くなったのかな。
何故か俺までつられて泣いてしまった。
愛してくれるなら俺もその恩を返さないといけないよな。
だからこれからは家族としてちゃんと向き合おう。
追い出されない為とかじゃ無くてさ。
いや、違うな。こんなのカッコつける為の言い訳だ。
俺はこの家族が好きだ。
自分の家族を愛し、大切にするのは普通だろうが、俺の場合重みが違う。
だって他の家族がいたのに、さらに家族を上書きしろなんて言われても、そんなの大人だって――いや、大人だからこそ上っ面だけになってしまう。
でも俺はこの家族を本当の家族として認めた。その前にワンクッションおいた俺の愛は普通より大きい。
......なんかヤンデレみたいになってる。
まぁ簡単に言うと普通の人より家族を大切に思うってことだ。
「ありがとう母さん。これからは心配させないように気を付けるよ」
どうだったでしょうか?
なんか設定の補足を入れていたら思っていたより長くなってしまいました。
ソルトは中途半端が好きでは無いのでよく極端になることがあります。これはその大きな例ですね。
ちなみに無詠唱は3Dプリンターみたいなものです。イメージさえできればできてしまう。編み物関係ないですね...。
「面白い!」「更新がんばれ!」「もう一度読んだよ!」って方は是非ブックマークと評価をよろしくお願いします。
それを糧に作者も頑張りますのでこれからもこの作品をよろしくお願いします!




