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転生!貧乏貴族の下剋上物語  作者: かめねこ
第一章 タイゼック家の使用人
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第35話 推薦!新任メイド長

「ん......」


 えーと......ああ、ゴーレム倒したんだった。

 体の感覚がない。目も開けられない。口は動く。

 鬼の副作用だよな。あの後はどうなった? というか今はあれからどのくらい経った?

 何をするにしても動けるようにならないと。


「光魔法 中級回復(ミドルヒール)


 俺は無詠唱ができるからホントはこの魔法名もいらないんだけど、言った方がカッコいいから基本的に属性と魔法名だけを詠唱するようにしている。効果に差はないけどね。


 それと、使うのに慣れた魔法は明確なイメージは必要なくなる。

 なんて言うのかな。感覚で体が覚えるって感じ?体っていうより魔力かな。

 今使ったミドルヒールも回復するところをイメージって言うよりは、完全回復した俺の姿を想像して使った。

 その内自分の身体ならイメージをしなくてもできるようになるだろう。


 回復して感覚と筋肉が戻ってきた。

 ん?俺の両側に(ぬく)もりがあるけど...。もしかして。

 右に顔を向けるとラリアが、左に顔を向けるとクイキが俺をサンドイッチするように眠ってる。

 特に右肩には大きくはないが小さいとも言えないモノがあたってきもちいい。

 左はまあ、成長期の前だからこれからに期待かな。


「.........む。......何か嫌な気配が」

「や、やあ。クイキおはよう......?」


 あれ?そういえば今っておはようであってるか?


「!?..ソルト起きたの?..身体(からだ)は大丈夫?」

「うん。今さっき回復したよ」


 クイキは俺が起きてることに驚いたのか、いつもより会話の前の()が少なくなっている。

 いや、心配してくれてるのかもな。


「あれからどれだけ経って、何があった?」

「......あれから数時間経った。......今は日が(のぼ)る少しまえ」


 つまり今は最終日の朝って訳だ。


◇7日目ー朝


 クイキから聞いた話だと、俺が倒れてからメイド長を拘束したこと以外に大きな出来事はないらしい。

 一応今日の仕事をみんなで終わらせて、この事件と深く関わる人たちも俺がいない限り話を進められないからと、俺が目を覚ますのを待って眠った。

 俺をつきっきりで介抱してくれていた二人もだんだん眠くなってきて、気づいたらこの形に寝ていたんだとさ。


「クイキ...起きたの?......ってソルト様!?」


 説明を受けているうちにラリアも起きてきた。

 最初は超重症だった俺の身体がすでに治っていてびっくりしていたが、クイキのソルトだからと言う言葉に直ぐ納得していた。

 君たち俺をなんだと思ってるの?


 日も上り、そろそろ朝礼に向かおうとしたらクイキたちに引き留められた。

 今日はメイド長がいないから朝礼はなく、昨日と同じところを担当するらしい。

 いや、昨日あんなことあったのに仕事を続けるこの使用人たちの図太さが凄いと思う。


「......――だからいろいろと話し合うのはお昼休みね。治ったばっかだけどちゃんと掃除してね」


◇7日目ー夕方


 という訳でお昼休み。

 俺を含めた事件関係者はメイド長の部屋に集まっていた。

 集まったメンバーは俺、クイキ、ラリア、ウキリ、ヒラム、何故か料理長とフェイル、そして縄に縛られたメイド長だ。

 最近大活躍中のお縄さん。だんだん扱いにも慣れてきました。


『スキル[操縄]を修得しました』


 スキル修得しちゃうぐらいにね。


「それで? なにから話そうか」

「それなら何でお前はそんな強いんだ?」


 そう聞いてきたのは料理長だ。

 事情をある程度知っているラリアとクイキ以外はそれぞれ興味があるような顔をしている。


「......我が儘言って剣術スキルをレベル20になるまで買って貰っただけですよ」

「貧乏貴族で金がないのにか? あ、別にバカにしてる訳じゃないぜ? それにそもそも剣術スキルをマックスまであげたとしてもお前の年じゃ一筋縄じゃいかねぇよ? 年と言えばお前、年齢のわりに達観し過ぎじゃね?」


 おおう。気になってること全部聞かれたのかな?

 そんないっぱい聞かれても全部答えられないよ。

 そんな訳でまとめて応えることにしよう。


「そんなのどうでも良いじゃないですか」

「俺らからしたら全然どうでも良い問題じゃねぇんだけどな。なんたってタイゼック家(うち)のゴーレム倒されたんだから、どんな奴に倒されたかがはっきりしてないと面目がたたねぇ上に安心できんぞ」


 そんなこと言われても俺自身の事を追及されて答える気はないからな。


「ぼくはわりと強いんじゃないだろうか。そんな感じでいいじゃないですか。ゴーレムの素材はほとんどお残ししますから」

「............いやそれは全部貰ってもいいんだぜ? お前に助けられたのは事実なんだから主人も文句は言わねぇハズだ。たぶん......」

「不安なのでいらないです。その事は置いといて、他は?」

「そうね。とりあえず契約書に署名させてちょうだい」


 おや? 早速話の()らしてくれたのはヒラムだが、まさかウキリのことをもう了承してくれているとは。

 最悪裁判並みの討論会になると思っていたんだが。まあ本当の裁判にまだ行ったことないからどれぐらいか知らないけど、俺の予想では『意義あり!!』って指差して暴風を起こすと思ってた。

 そんな冗談はさておき。


「え、署名してくれるの?」

「それはそうでしょ」


 ヒラムは当たり前みたいな顔で理由を説明してくれた。


「あのゴーレムを倒すほど強い貴族のお膝元に置かせてあげられるのよ? しかも接した感じ使用人も大切にして頭も割りとキレる貴族。さらにはウキリの人権を保障してくれる。姉としてここまで安心して妹を任せられるところはないわ」


 あれこれってもしかして......。


「――最愛の妹とまた離ればなれになってしまうのは少し悲しいけど、いじめを(うなが)すようなことをした私が一緒に暮らしたいなんて我が儘が過ぎるわよね。私もあなたとゴーレムの戦いを見ながらいろいろ考えた結果ウキリにはこれが一番だと思ったわ。だから署名することにしたの」


 おぅ......!

 俺またやっちゃったか~。

 クイキのことがあったというのに学ばないな俺。

 人を疑いやすくなるのは俺の癖というか性格というか。

 いじめという手段には出たものの、ヒラムは超妹想いの良いお姉さんじゃないですか。自分より妹優先で考えているじゃないですか。

 最大限に警戒していた俺が恥ずかしいぐらいだわ。恥ずかしいどころか軽い自己嫌悪レベルに達するぞ、これ。


「そうですか。話が早く終わって助かります」


 まさかそんな格好悪いこと言えないから冷めた感じの物言いにして誤魔化す。

 俺はアイテムボックスから契約書とペンを取り出してヒラムに手渡した。


「まさかゴーレムと戦うところまで読んでいたなんてないわよね?」

「それこそまさかですよ。もう少しで死ぬところだったんですから」

「どうだか......」


 自分の名前を書きながら答えるヒラムだが、言葉とは裏腹に顔は微笑んでいたので冗談なのだろう。


「はい。書いたわよ」

「ありがとうございます。じゃあ早速契約しちゃいます?」

「そうね。ウキリもそれでいい?」


 自分の問題であるはずのウキリだがここでようやく口を出した。


「えっと......つまり私はあなたのところで働けばいいんですか? そうすればお得なんですよね?」


 まったく、自分のことなんだからしっかりして欲しいものだな。

 まぁ言っていることは間違っていないので頷いて肯定はしとくが。


「それならいいですよ。お姉ちゃんにもまた会えると約束されてるとのことですので」


 そこだけ覚えてるんかい。

 会おうと思えば(いつかは)また会えるって言ったんだから俺、嘘はついてないよ。だから気づいた時に怒らないでね。


 ウキリからも了承をもらったので、アイテムボックスからウルセルクを取り出すと自分の指先を軽く切り、プクゥと出てきた俺の血をヨーベクマ家の紋章に一滴たらす。

 すると契約書は輝き、見るのも難しいぐらい(まぶ)しくなると、契約書は4つに別れて、3つは俺とウキリとヒラムに、もう1つは窓から外に出て行った。


「これは......!?」

「契約の内容が頭に......」


 これは契約が完了した証拠だ。

 おさらくあの外に出たやつは父さんのところに向かったのだろう。勝手に家の紋章判子を使ったことバレたけど、大丈夫かな? というか父さんに契約したことバレたけど、大丈夫かな?

 あ、この心配は俺自身じゃないよ。俺は怒られて当然のことをしたから覚悟ができている。


 ならば誰か。それは、前者はちゃんと管理できていなかったからと母さんに怒られる“父さん”を、後者は契約を破ったら俺に呪いがかかるとわかって騒ぎ出すだろう家族をなだめる“メイドたち”を心配したものだ。

 うん。そっちはそっちで頑張れ。


「それじゃあ契約が完了したし、次の議題に移りましょうか」

「だからお前の強さのワケを――」

「却下。しつこい男は嫌われますよ」

「何で俺は一回りどころか三回りぐらい年下の坊主に(おとこ)の道を教えられてるんだろうな」


 (むな)しくなったのか、料理長は端にあった椅子に俺たちに背を向けてもたれかかった。

 そこにクイキが近づき背中をポンポンと叩いて励ましている。

 少年に注意され、少女に慰められる。はたからみるとだいぶ可哀想だな。


「さぁ、気を取り直して次の話はありますか?」

「やっぱりメイド長の処罰でしょ」


 そう言ったのはラリアだ。


「そうですね。じゃあどうやって(つぐな)ってもらいますか?」


「こんなことしたのですからクビは確定ですよね」

「......奴隷落ち」

「うーん。臓器売ってお金にする?」

「スキルすべて没収は?」

「貯金はすべて回収ね」


「んん――!!?」


 おお? ちょっとまて。誰だ今怖いこと言ったやつ。臓器売る?こええよ。

 こちとら一応5歳でやらせて貰ってるんですけど。ホント、そんなこと言わないでください。

 メイド長も怖がってるじゃないですか。


「......じゃあそこら辺は新しいメイド長さんに任せましょうか」

「え!? ソルト様はこのメイド長になんか要求ないの!? いじめを受けた張本人なのに」

「うーん......そう言われても」


 ここでそんなに貰ってもなんかいやしい人みたいでいやなんだよな。

 あ、でもどうせもう会わない人ばっかか。じゃあ遠慮なく貰うことにしようかな。


「それじゃあメイド長の貯金の1割が欲しいです」

「それだけ? もっと貰いなよ。せめて3割とかさ」

「なら3割貰っちゃっていいですか?」


 その場にいる――メイド長以外――全員が納得してくれた。


「あ、でも一応新しいメイド長に許しを貰わないと......」

「そうですね。じゃあここでメイド長を指名しちゃいましょう」


 まだ新しいメイド長は決まってない。ならここでメイド長に次を任されたと言っても文句はでないだろう。


「じゃあよろしくお願いしますねフェイルメイド長」

「は?」


 ここにいる中だと、まず俺と料理長は考えるまでもなく男の時点でダメ。

 クイキとウキリはここを出ていくからダメ。

 ヒラムとラリアは貸し出されている状態だからダメ。

 そうすると消去法でフェイルになる。まぁ、なんとかなるだろう。


「そうだな。フェイルでいいんじゃねえか?」

「え?」


 少し復活した料理長がそう言いながら部屋から出ていった。

 ああ、もう昼休みも終わりの時間か。


「そうですね。みんなからの印象もいいですし」

「信頼もあついわね」

「え?え?」


 ウキリとヒラムもそう言い残して部屋をあとにする。


「ゴーレムが起動したとき一緒に呼び掛けてくれたからね。私から執事長とかに推薦しておくよ」

「......ぴったり」

「えええ?」


 ラリアとクイキも認めた。


「じゃあこれから頑張って下さいね。フェイルメイド長」

「ぇ......ぇ......えええええええ――!?」


 俺たちが出ていった部屋では耳が痛くなるほどの声が響いていた。

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