第31話 推理!縛られながら推理披露って......
本編に戻ります。
あらすじ:縛ったら縛られた。シリアスです。
「まず、ヒラムさんがメイド長と組んでいたことですが、これは少し前から知っていました。理由は単純、お二人の 話し合いを聞いていたからです」
「......いつ聞いたのか知らないけど、私達はわざわざ通路を挟むようにして会っていたはず。そして、密会の部屋に入ったドアの周辺には風魔法でアリ1匹でもその範囲内に入ったらわかるようにしたのよ? どうやって聞いたの?」
ヒラムが口を開いた。
答えてくれてありがとう。1人でやるのは恥ずかしかった。
推理は相手がいないとただの独り言になってしまう。でも俺縛られてるんだけどね。
「...[盗聴]スキルを持っているのでたまたま聞こえてしまったのですよ。って言って信じてくれます?」
「無理ね。もし[盗聴]スキルを持っていたとしてもその年なら精々レベル2が限界ってところ。レベル2の[盗聴]スキルじゃ[拡聴]スキルと違って隠った声を矯正して聞き取れるようにしてくれるだけ。私の魔法圏外からじゃ聞こえないわ」
ほぅ。よくわかってるじゃないか。
ただカラクリは簡単だぞ。ローブと[隠密]スキルで隠れて、風魔法使われても物のようにじっ...とその場を動かなければいいだけだ。まったく動かず数十分突っ立てるのは辛かった。
......[拡聴]スキル欲しいな。
「そうですよね。まぁ、今はそんなことどうでもいいです。これはクイキから聞いた話ですけど、ヒラムさんはぼくとウキリさんが相席したとき、ぼくが出てったドアをずっと睨んでいたらしいですね」
「ええ。あなたが憎かったからね」
「ぼくを憎んでいた? 違いますね。憎むことになりそうで怖く、悲しかったのではないですか。もしかしたら俺がウキリをいじめるかも知れないから」
「いいや。私はあなたを憎み恨んでいたわ」
本当に憎んでいたかもしれないけど、次の質問には答えづらいだろう。
「それは何故ですか?」
「な、何故ってそれは...その...」
言葉に詰まった。仕掛け時だな。
「これはぼくの勝手な想像です。だから違っても最後まで聞いてください。...ウキリさん落ち着きましたか?」
ウキリはコクンと小さく頷いた。
ウキリもだがヒラムの方は心の準備ができてるだろうか。できてなくてももう後戻りはできない。担架きっちゃったし。
「ヒラムさん。ウキリさんがいじめられてるのは知っていますよね」
「そ、そりゃまぁ」
「その原因は?」
「ボウラ様に気に入られているからでしょ?」
そんなの誰でも知ってるわよ、とヒラム。
「そうです。しかしメイド長はこれを黙認しています。何故黙認しているのでしょう。それはヒラムさんがお願いしているからじゃないですか?」
「――っ! ...............そうね。正解よ。でもね、実の姉が妹にそんなことすると思う? 言ってることが可笑しいわよ?」
ヒラムは少しドキリとしたような顔になったがすぐに冷静な顔になった。
罪を認めることで姉を否定する方向に出たらしい。
でもそれは俺の前では愚策だったな。
「言ってることは可笑しくないですよ? そんなことをするのは実の姉だからでしょう? ウキリさんをこの屋敷から出すために」
「.........」
「え? それこそおかしいじゃないですか。それだとお姉ちゃんであるハズのヒラムさんが私を追い出したいみたい...... ――!? まさかそういうこと...ですか...!?」
ヒラムの方は押し黙ってしまったが、今度はウキリが答えてくれた。
「それは違いますよ。ヒラムさんはウキリさんを恨んでるわけではなくむしろ逆。あなたを想ってのことなんです。主人に好意を抱かれた使用人の末路は知っていますか?」
「え? 側室になるのではないのですか?」
「そうですね。基本的にみんな側室になると思います。でもこの中で幸せになれた人は一握り、いや人つまみにも満たないでしょう。
使用人から一気に側室という貴族にまで格上げされた人は、正妻から他の貴族、さらには一緒に働いた使用人までもから恨まれ、憎まれ、妬まれます」
なんだろう。今日はなんだかよく舌が回る。
俺もそれだけ必死になっているのだろうか。
「それでも夫に愛されてさえいればいいという強い心の持ち主はなかなかいないでしょう。もしくはみんなから愛されているからそんないじめはない、なんて人もこの世界にいた方が不思議です。
そんなお伽噺みたいに『めでたしめでたし』なんてなる程この世は甘くありません。大抵の人は真っ当な寿命を迎える前に命を落としてしまいます」
違うな。俺なんかを想ってくれている平民が身近にいるからだ。
そういえば前にしっかりと考えたことがあるな。
この世界じゃ年の差婚は割りとある話しだ。これだけで断り続けるのは辛いと思ったから必死に言い訳を考えていたらこのことにたどり着いたんだ。
「死んでしまうのですか? どうしてです...?」
どうやらウキリはクイキやラリアと比べて頭が回る訳ではないようだ。
まぁウキリがあの2人並に頭良かったらいじめもなんとかなってるわな。
「理由は色々ありますよ。いじめに耐えれず自殺。いきすぎたいじめでモンスターの餌に。貴族に罪を被せられて斬首。あり得る死に方はうん万通りとあります。
結局それで死んでしまっても正妻は負い目を感じることなく、死んだ彼女の唯一の味方だった夫にこう言ってよりを戻すんです『あの子の分も幸せになりましょう』ってね」
「っ!?」
やっと事の重大さを理解してきたのかウキリは息をのんだ。
「ウキリさん。あなたはボウラ様に好意を寄せられています。今は子供だから冗談半分ですんでいますが、これが大人になっても続いたら辛くなるのはあなたです」
「で、でも断り続ければ...」
「それで諦めてくれればいいんですけどね、ぼくの親とここの主人の話を聞いたあなたならわかるでしょう? 粘着質な親から爽やかな青年が産まれるとは考えづらい。蛙の子は蛙って訳ですよ」
「か、カエルの子はカエル? オタマジャクシですよ?」
ここでその質問ですか!? この世界にこのことわざはないのか?
本当に不思議そうな目で見返すなよ! くそぅ、真剣な場面でも可愛いもんは可愛いな!
「コホンっ! とにかく! きっとボウラ様もあなたが受け入れるまで諦めないでしょう。そもそも大前提に貴族の求愛を否定し続けると他の貴族令嬢から平民の癖にと妬まれます」
「えっそれじゃあ...」
「結局、貴族に好意を抱かれた平民は助からないんですよ」
「――っ」
ウキリは今度こそはっきりと今の状況の大変さを実感したらしい。
このぐらい恐がらせればウキリとヒラムに入るダメージも少しは軽減するだりうか。
「このままじゃあなたも同じような道を辿ってしまいます。でもそれを止めようと思ったのが実の姉であるヒラムさんです」
「え? でも助からないって...」
「それはその貴族が大人だった時の話ですよ。幸いボウラ様はまだ子供です。この時期にこの屋敷を辞めれば大人になったころには忘れているでしょう。
このことはヒラムさんも知っていた。そしてあの髪飾りを見て、ウキリさんが唯一の妹だと気づいた」
「何故それがいじめになるのですか...!?」
「簡単です。もうここには居たくないと思わせるためですよ。自分で辞めるならそれを止めれる人はいません。ボウラ様だけはいかないで欲しいと言うかもしれませんが、ただの子供が大人の事情に口をだすなと言ってやれば年齢的に何も言えないでしょう。
......ぼくの推理はどうですか?ヒラムさん」
「............大体合ってるわ」
やったね。
これで全然違うとか言われたら大恥ものだった。
ウキリは縄に括られながらうつ向いていた。泣いているのだろうか。
「そうなのですね...。ヒラムさんが私のお姉ちゃん。......でも!...そうだったとしても!! いじめ以外にも方法があったでしょう!? あれのせいで私がどれだけ辛いおもいをしたことか...!」
「私だってできることはしたわ! メイド長にお願いしたり、執事長にも伝えたり。でもメイド長は逆にそれを脅しに使ってくるし、執事長はメイドのことは知らないって取り合ってくれないし! どうしろっていうのよ!」
「私に話してくれればいいじゃないですか!!」
確かにその通りだ。
直接伝えてしまえばウキリも理解してすぐに辞めたハズだ。
「そ、それは......申し訳ないと思って...。あなたはここで大変な思いをしていたのに、私は伯爵様の家でほとんど不自由なく暮らせていて...」
罪悪感。
それは法的に罪であるかないか問わず、他の人の苦を踏み台にしているのに、自分は幸せに暮らしていいのだろうかという疑問から生まれる精神的不安である。
これが芽生える人は優しい人だとされる。確かにこれが芽生えない人は優しくないのだろうな。
だがヒラムの言った状況のときの罪悪感は少し変わる。
優しさがほとんどかも知れないが、その前に自分が他、又は比較相手と比べて良い待遇であると自覚し、その人たちより優れているという優越感が少しでも混じっていないとこの罪悪感は芽生えることはない。
「そんなことどうでも良かった! 私はいつかお姉ちゃんとまた会えるとだけ信じてやって来た! 貰ったお給料だってほとんど貯金に回してた! いつかこの屋敷を出てお姉ちゃんを探そうと思ってたから!」
「っ――...私はあなたが相応の覚悟を持ってここで働いていると思ってた! ボウラ様に気に入られてそのまま成り上がりを果たしたいのだと、それはあり得ないほど厳しい道と知っていながら進んでいるのだと...!
その覚悟があるならあなたより良い環境で過ごした私が言っても響かないと思ったから、心が折れてから打ち明かそうと思ったのよ!」
でも実際はウキリに好意を持たれることの危機さえ知らず、もちろん成り上がりをしようなんて覚悟はなかった。
伯爵家で色々と教え込まれたヒラムは、ウキリも貴族に対する知識があるものだと読み間違えていじめという手段に出てしまったのだろう。
形は良いとは言えないものの、深い姉の愛情に気付けたからだろうか。はたまたずっと気にかけていた安否のわからない姉と会えた喜びからだろうか。もしくはそれ以外か。
何を思ってかはわからないが、ウキリは肩を揺らして泣いていた。
読んでくださりありがとうございます。
今回は難しい内容だったと思います。よくわからなかったり、詳しい説明がほしかったりしたら遠慮せずに感想で聞いてください。
「面白かった!」「もっと読みたい!」「続きが気になる!」
そう思ったら下の評価ボタンをポチポチッと押してください。
それを糧に作者も頑張りますのでこれからもこの作品をよろしくお願いします。




