第28話 拷問!あなたに赤いサプライズ
◇5日目-昼食(?)
午前の掃除も完了し、昼食時間になった。
俺はスイレンと一緒にあの子の指定したさっきの場所に来ていた。
「上手い飯って嘘だと思うが...まさか騙されたんじゃないだろうな」
「そんな訳あるか。自分より爵位が上の貴族に呼ばれたら、何用でも行かないといけないのが貴族のしきたりなんだ」
「面倒だな、貴族というのは」
「まったくだ」
俺が地面にあぐらで座り、その上に丸まっているスイレンと他愛もない話しをしていると、遅刻のお嬢様がやっと現れた。
「待ったかしら?」
「いや全ぜ――」
「場所を変えるわ。ついて来て」
聞いたくせに無視ですか。
俺はしょうがなく立ち上がり、スイレンと共にお嬢様の後ろをある程度の距離を保ちながらついていく。
「...何処に行く気だろうな」
「さあね。俺の[世界地図]には行き先まで教えてくれる機能はないからな」
「はっ。 それまでできたらもう未来予知の領域に入ってしまうだろ」
「...その類いを手に入れたら作って見ようかな」
「.........未来予知のスキルなんてこの世にあるのか?」
「ないの?」
「そんな馬鹿げた力、我は見たことも聞いたこともないな」
*
スイレンとお嬢様の後ろをついて行くと廊下の端っこの行き止まりについた。3方を壁に囲まれ、薄暗い場所だ。
ここの近くには部屋もないし、人もあまり来ない、どう考えてもお昼ご飯をするような場所じゃない。
一応彼女より俺の方が壁のない、開けている方に近いため、逃げようと思えば逃げれる。少し警戒度を高め、常人には分かりづらい構えの体制をする。
「ここでお昼を食べるのですか?」
「違うわよ。ここじゃないわ」
俺はてっきりここでいじめが始まるのだと思っていたが、違うようだったので少し肩の力を抜く。
でもだとしたら何故こんなところに?
「もしかして迷った?」
「そんな訳ないでしょう。私はここでの自由を許されているのよ。この屋敷は自分の家と同じぐらい知り尽くしているわ」
そういうと彼女は右側の壁のいろんなところを叩き始めた。
...何かを探している?
そう見えなくもない行動の意味はすぐに分かった。
お嬢様の何回目かに叩いたレンガが、ガコッと言う音と共に奥に引っ込み、それにあわせて彼女はすぐに下がった。そして彼女がもともといた場所がゴゴゴ......と開き、そこには地下へと続くスロープが現れた。
......ここは階段の方がよかったけど、それでもこの屋敷にこんな場所があったなんてびっくりだ!
しかも現れ方超カッコいい!!
魔法を使ってこんなことができるのかな?
調べてみたい...!
俺が目を輝かせていると、お嬢様は優越感からか、仁王立ちで腕を組み、超上から目線でフフンと鼻を鳴らした。
「凄いでしょう?さぁ、気になるなら入ってみなさい」
どう見ても罠だが、ここで入らないのは流れ的につまらない。どうせなんとかなるだろうとしょうがなく付き合ってあげることにした。
「......少し楽しんでないか?」
何を言ってるんだスイレン! 別に誰も秘密基地みたいで面白そうなんて言ってないじゃないか!
*
スロープを下るとある部屋についた。壁に付けられた蝋燭の火が揺れ、部屋にある数々の珍しい道具を照らす。
手錠、鞭、三角木馬、ペンチ。俺が知っている道具はこのぐらいしかない。他にも様々な刃物や拘束具、中にはまるで何に使うかわからないものもある。
ここはどう見ても...
「拷問部屋」
なるほど、目を隠して連れて来ても転けずに入れるようにスロープなわけか。
「正解よ。安心して、回復魔法を使える子もいるわ」
お嬢様がそういうと、スロープの方から残りのボウラの取り巻き2人が下りてきた。
「立場をわからせてあげるのね?」
「私、回復魔法は3回しかできないわよ?」
どうやら俺はこの3人に回復魔法を3回使うぐらい拷問されるらしい。...この子達は本当に幼女だろうか?
「...だいぶ余裕のある表情ね。拷問がどれ程恐ろしいか知らないのかしら?」
そんなまさか、床にこびりついた赤黒いシミがその恐ろしさを表しているよ。
でも女の子3人に負けるような訓練はしてないからな。
「そんな簡単にぼくが捕まると?」
「ええ捕まるわ。...やってちょうだい」
そういうとバックのとりまき2人のうち、回復魔法を使えない方が杖を持ち上げ、詠唱を始めた。
......"回復魔法が使えない方"ってなんか面倒だから、リーダーっぽいのが <とりまきA> として、回復魔法を使えるのが <とりまきB>、残ったもう1人の回復魔法を使えない方を <とりまきC> と呼ぶことにしよう。
とりまきCが唱えている詠唱、声が小さく聞こえづらいが、端的に『闇』『眠り』と聞こえてきた。
そして杖は狙いを定める。狙いは俺ではなく...
「―っ! スイレン!!」
「なんだ? こいつら殺すか?」
スイレンは魔法の詠唱に気がついてないようで、検討違いなことを聞いてきた。
その間に相手の詠唱は終わり、とりまきCは魔法を放った。
「――闇魔法 [睡眠]」
「へ?」
その瞬間、スイレンは倒れてしまった。魔法からしておそらく、眠っただけだとは思うが、心配してしまう。
近寄って安否を確認しようとしたが、お嬢様がスイレンを抱え上げてしまった。
「あの使用人の男たちが妖狐に襲われたと嘆いていましたので、念のためよ。ああ、こんなかわいいのに妖狐だなんてあり得ないわ。決めた、私がこの子を育てます」
「スイレンはぼくのです! 返して下さい!」
「この子はスイレンって言うのね? でもね、スイレンちゃんも貧乏貴族の元で暮らすより、私のところで暮らした方が絶対に幸せだわ。何不自由なく暮らせるもの」
いかん、このままじゃ俺のモフモフが連れてかれる。
テイムはしてるけど、呼び出しの契約はしてないから連れてかれたら色々とめんどくさいことになる...。
奪い返すにしても女の子を傷つけるのはな...。
どうしたものかと考えていると横からさっきと同じ言葉が聞こえた。
「――闇魔法 [睡眠]」
どうやらスイレンを眠らせた後、すぐに俺に向ける魔法の詠唱を始めていたらしい。スイレンを奪われたことに気が向いていて気付かなかった。
そのため、避けることも防ぐこともできず、いとも簡単に浅い眠りに誘われ、それに抗うこともできない俺はスイレンと同じように眠ってしまった。
くそ、スロープの前でスリープをかけられてしまった。
*
バシャァ...!
俺はいきなり水をかけられ目覚めた。
ぼやぁ...とした視界には3人の女の子と薄い黄色のモフモフが映っている。
「やっと起きたかしら?」
朦朧とした意識の中でこの現状を把握しようと試みる。
だんだん脳が活性化し始め、とりまきAがスイレンを奪ったことを思い出した時には、自分のおかれている状況も理解できてきた。
俺の手首には手錠がついている。その手錠も鎖で壁に繋げられ、俺は身動きを取れない。さらに俺の口には布で作った簡単な猿轡もつけられ、喋れないようになっている。
[不死鳥の加護]の効果の1つ、"状態異常無効"で睡眠魔法も無効してくれればこんなことにはならなかったのに。眠くなるのは普通、疲れるのは普通って...確かにそうなんだけどさ。
そんなこと考えていると早速、とりまきAが俺のお腹を蹴ってきた。
か弱い女の子から放たれたとは思えないほど強い蹴りだ。
「んっ......!」
「痛い? 爵位が高いボウラ様にタメ口きいて...貴族社会を舐めてるからそういうことになるのよ」
そういうととりまきAはまた俺のことを蹴ってきた。
「――クフッ!」
しかし今度は靴の先が俺の溝にクリティカルヒットした。
「痛いでしょう? 私お父様に護身用として[蹴撃技]スキルを買って貰ったの。試して見たい技があるのだけどやってもいいかしら?」
「.........っ」
嫌だと言いたいがさっきの溝うちが痛すぎて声にならない。もともと猿轡があって言葉にはならないのだけど。
せめてもの反抗でとりまきAの目を睨み付けるが、彼女は気にしないふりをして続ける。
「......喋らないのは良いってことよね。じゃあ押さえて」
とりまきAが合図を出すと、とりまきCが俺の肩を抑えてきた。これで俺は体がガラ空きだ。
「じゃあいくわよ。フウゥゥゥ......[蹴撃技・後ろ回し蹴り]」
とりまきAはきれいなホームで1回転半するとその勢いを殺さずに足を俺の方に突き出した。
勿論それは俺の体に当たり、ミシミシとたててはいけない音をたてる。
「グフッ...!」
「は?」
とりまきAの技は後ろが壁であることもあり、俺の内臓にダメージを与えてきた。ただそのせいで思いっきり口と鼻から血が吹き出した。口の血は猿轡で防がれたものの、鼻血は止めるものがなく、俺の腹に突き立ててあったとりまきAの足にかかった。
どうやらこのサプライズはお嬢様のとりまきAはお気に召さなかったようで、付いた血そのままで、俺の傷ついた腹に連続で蹴りを入れてくる。
ああ、痛いな。とっても、痛いよ。死にそうなぐらい、痛いであります。痛覚耐性欲しいでやんす。
『スキル[増血]を修得しました』
ちゃうやん...。それじゃないねん。確かに血が増えるのはありがたいけども...。
それからだいたい十数回追加で蹴られたぐらいでとりまきBがとりまきAを止めてくれた。
「そろそろ止めないと本当に死んじゃうわよ! 回復魔法かけるから少し待って!」
「......そうね、私としたことが...取り乱してしまったわ」
とりまきBは俺に手をかざすと[初級回復]をかけてくれた。
ただ、一番低い光回復魔法だと折れた骨までは戻してくれないため、バレないように無詠唱でさりげなく[中級回復]を同時に重ねがけする。
光回復魔法は行使すると回復させた対象が少し光るので、同時にやらないと魔法を使ったことがすぐにわかってしまうのだ。
「はい。終わったわ。もう再開していいわよ」
「さて、続けるわよ」
止めてはくれたけど、止めさせてはくれない。
一方的な暴力は回復魔法を使いきるまで...いや、使いきってからとどめを刺すまで終わらなかった。




