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転生!貧乏貴族の下剋上物語  作者: かめねこ
第一章 タイゼック家の使用人
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第26話 恋心!料理長の想い人

◇4日目-午前の仕事


 使用人の朝礼も終わり、折り返しの4日目の仕事が始まった。

 仕事って言っても、いつも通り各部屋をひたすら掃除するだけなのでとっても簡単。今日の午前中はヒラムが付き、早速ボウラの父親、つまりタイゼック家の家長の部屋を掃除している。

 ...薄い本とか隠されてないかな...うへへ。


「いやらしい顔になってるぞ」


 おっといけない。スイレンに注意されてしまった。

 だがしょうがないだろう、精神年齢は5歳よりも大分高いのだから。

 まず第一に薄い本が頭で読めないのが悪い。本だったら頭の中で読み放題のはずなんだけど、神様の変な気遣いか、本にR設定ができているのだ。いらない気遣いは迷惑だ。

 でもまぁ、この世界の人は顔の偏差値が平均的に高いことが唯一の救いと言うべきか。この屋敷にもレベルの高い人がいるからな。ウキリとかヒラム...とか。


 ヒラムとはクイキにここに来た理由を教えてもらってから、何故か引っかかり、極力避けるようにしている。だがヒラムは俺とクイキの教育係に任命されているので、今日のように接触することは幾度もある。

 ヒラムに怪しまれないようにいつもと同じ様に接してはいるが、いつボロを出すかわからないし、まず俺ができている様に思っているだけで、ヒラムからしたら不自然に見えているかもしれない。


「―さて、ここの掃除は終わったわね」

「...ホコリだらけ...疲れた」

「ぼくたちより先に掃除した人はちゃんとやってなかったんですかね?」


 そんな感じで部屋を出て、廊下を歩いている時、何もないところでクイキが急に(つまず)いた。


「...!」

「おっと。まったく、危なっかしいなぁ」


 クイキがそのまま前にこけそうになったので、腕を前に出して肩と腕で受け止める。

 クイキは落ち着いた性格の割にドジなところがある。それも男なら助けてやりたくなるかわいいドジだ。


「...ありがと」

「あら、カッコいい! 仲直りできたのね」

「...仲直りって言うか...まぁ、ぼくが悪かったってわかったんですよ」

「そう、えらいえらい!」


 隣にいたヒラムに頭を撫でられた。やはりヒラムはお姉さんみたいだ。

 こんな人が怪しいことなんてやる訳ないと信じたいのだが、何故か完全には信じることができない。現場をみたり聞いたりしたんじゃないのになぁ。

 でもどうやら俺はヒラムに対して自然に見えるように接することができているようで、ヒラムの動きや話し方におかしなところは今のところ見つからない。


◇4日目-昼食


 今日の午前の仕事も完了し、昼飯の時間がやってきた。

 俺とクイキとヒラムでやる仕事はどれも丁寧かつ迅速で、他のメイドや執事よりも少し早く昼食時間に入ることができる。そのお陰で食堂にもちらほらとしか使用人が居らず、落ち着いて食事ができるので2人には感謝してる。

 ただ、その2人はまだ用があるらしく、今は俺とスイレンだけで席についている。


「今日の昼食はいつもより豪華だね」

「そうだな」


 いつもはパンとスープ、夕飯ならたまにサラダが出るぐらいなのだが、今日の昼食にはなんとステーキがついているのだ。しかもだいぶ美味しい。

 しかし周りを見てみるとステーキがついているのは俺だけのようだ。

 ...何故? 誰が?

 そう思っていると、料理長が近づいて来て、俺の前に座った。


「どうだ、美味しいだろ?そのステーキ、お前のために隠すの苦労したぜ」


 どうやら料理長の仕業らしい。


「とっても美味しいですけど...何でぼくにこれを?」

「少し相談ごとがあってな...」

「...ぼくが受けるとでも?」

「美味しかったんだよな?そのステーキ」


 ...面倒だがステーキにはもう口をつけてしまった。これは受けざるを得ない。...料理長きたねぇ。


「.........はぁ、わかりました。相談って何ですか?」

「...お前、ラリアちゃんと仲良いんだろ? あの()、俺が好きっぽいんだよな」

「........................は?」


 ラリアが料理長を好き? いや、自分で言うのもアレだが、ラリアは俺にぞっこんなはずだが...。

 やっと諦めてくれたのか...?それなら嬉しいが...


「なんでそう思ったんですか?」

「いや、それがな? ほら俺、お前たちを助けて称賛されたろ?」


 お前は助けてないがな。よく本人の前で堂々と言えるな。


「――それで、その時ラリアちゃんが"カッコいい!"って言ってくれたんだ。しかも俺の筋肉アピールにみんなが呆れて帰る中、最後まで残ってたんだぜ? これは俺に惚れてるとしか考えられねぇ!」

「クックックッ!!! 全部お前のためにあの女がやったことじゃないか!? そうとも知らず、この男は...!! プププ!!」


 スイレンが料理長に聞こえないのをいいことに、超バカにして笑っている。

 でも確かに、それはラリアが全部俺のためにやったことだ...。そうか、俺のせいで勘違いを...。


「そう思ってよく観察してみたら、2大美女には多少劣るが、十分に可愛くて俺の超タイプだったんだ。...だからそろそろ告白しようと思って――」

「ちょっと待てーい!!! それ今日の朝の話しですよね!? 早すぎません!?」


 俺がいきなり大きな声を出して、料理長も周りの使用人も目を見開いてこちらを見てくる。

 料理長になだめられ、少し落ち着いた俺は周りに謝ってからもう一度料理長に聞き直す。


「ごほん。さすがに早すぎると思いますよ?」

「そんなことないだろう? 両想いなんだぜ?」

「...はぁ。料理長、ラリアは伯爵家から一時的に送られた使用人って知ってますか?」

「え...。それは...知らなかったな。というかお前、ラリアちゃんと呼び捨てで呼び会う仲なのか...!?」


 料理長はことの重大さにきがついてないのか、要らんことに引っ掛かりを持ったようだ。


「こんな頭がオムツなやつにあの女を任せていいのか?」


 スイレンが俺に聞いてきた。

 確かに少しバカかも知れない。いや、バカだ。でもそこら辺はラリアがカバーできる。ラリアは普通の人より頭がいいから。

 ...これはラリアが俺を諦めてくれるいい機会かも知れない。


「...料理長、相手が伯爵家から貸して貰っている使用人だと、もし付き合ったとしてもあり得ないほど険しい道になります。それでも付き合いたいですか?」

「険しいってどのくらい?」

「最悪死にます」

「!? ...そう...なのか...? .........でも、それでも...俺はラリアちゃんと付き合いたい!」


 いい決意だ。こんなに愛しているなら任せても大丈夫だろう。最悪死ぬのは料理長だけだしな。

 これを上手く使えばラリアは料理長に惚れて、俺を諦めてくれるだろうか。


「わかりました。手伝いましょう」

「本当か! 助か――」

「ただし、1つ条件があります」


 喜ぶ料理長を遮り、俺は自分に迷惑がかからないようにストッパーをかけさせてもらう。


「ぼくが言うまでなにもしないでください。ぼくが最高のシチュエーションを準備します」

「...持ちかけた俺が言うのもなんだが、お前に何ができるんだ? せいぜいラリアちゃんに俺の長所をアピールしたり、俺にラリアちゃんの情報を教えたりぐらいしか―」

「いいから、ぼくが言うまでラリアとはできるだけ会わないでください」


 それは恋する料理長には酷い仕打ちなようで、料理長はキレてしまった。


「は!? 会うなだと!? 調子にのんじゃねぇぞ! 何でそんなこと...!!」

「...嫌われるからですよ」

「は?」


 そんな答えがくるとは思ってなかったのか料理長の顔が脱力したかのようにポカンとしている。


「いくら好きだったとしても、こんながたいの良い男が迫って来たら誰だって恐がって近づいて来なくなります」

「そ、そうなのか?」

「そうです。その男らしい長所を短所に変えちゃってどうするんですか」

「そ、そうだな。わかった。お前が言うまで動かない」


 料理長は納得してくれたようで、俺と握手をすると調理場に帰っていった。


「チョロいな」


 こらスイレン、思ってもそんなこと言っちゃいけません。


◇4日目-昼休み


 昼食後の掃除も終わり、早速ラリアのところに行こうとしたら


「...私も行く」


 と、クイキに言われた。

 クイキは俺の事情をこの屋敷、いやこの世界で唯一知っている存在だ。

 だけど、ウキリの事情の方は知らない。感謝と謝罪しかないクイキにはできる限り危ないことに首を突っ込んで欲しくないのだが...。


「...私も行く」


 と、この一点張りでしょうがなく連れて行くことにした。


   *


 クイキとなんとなく会話をしながら歩いて、クイキの部屋の前に着いた。

 コンコンと扉をならすと、中から顔を出したのはこの前、俺とラリアの関係を誤解したメイドだった。


「! ソルト、今度はその子が彼女?」

「何言ってるんですか!」

「...彼女...」


 このメイドの名前はフェイル。

 あの時誤解を解くために俺とラリアの2人で一緒にこのフェイルに話しに行き、さらにフェイルがスイレンのファンクラブに入っていることもあって、フェイルとは冗談を言い合える仲になっていた。

 隣ではなんかクイキが顔を赤らめている。何に怒っているんだろう?

 クイキだけは一向に感性や気持ちがわからない。掴めない人とはこういう人を言うのだろう。


 そんな感じでドア前で談笑していると、フェイルの後ろからヒョコとラリアが顔を出した。


「ソルト様! むっ...!? 何でクイキが...?」

「...ふっ」


 ラリアがクイキと目が合うと、クイキは微笑んだ。

 どうやらこの2人もすっかり仲良くなったようだ。


「そろそろ行こうか」

「あ、待って!」


 俺がクイキとラリアを連れて裏庭に行こうとしたらフェイルに止められた。


「最後に...ね?お願い!」

「...スイレンいいか?」


 そう俺が聞くとスイレンはコクンと頷いたため、持ち上げてフェイルに差し出す。

 同時にクイキとラリアには先に行っていて貰う。これは少し時間がかかるからな。

 スイレンを受け取ったフェイルはスイレンのお腹に顔を(うず)めたあと、抱え直して色々なところをおさわりし始めた。


「んっー!! 気持ちいい! ソルトと仲良くなっといてよかったわ! これはファンクラブの中では超羨ましがられるのよ?」

「ぼくは毎日してますけどね?」

「羨ましい!どこでこんなモフモフ拾って来たのよ」

「...道です」

「私も今度探してみようかしら」


 一通りフェイルのおさわりが終わって、スイレンが解放された。


「ふぅ...我にさわって何が良いんだか。まぁ、マッサージと思えば嫌ではないが...」

「気持ちよかった?」

「...お前の方がマシだな」


 このまま裏庭に向かおうとしたらまたフェイルに止められた。


「今度はなんですか?」

「あんまり変なことしない方がいいわよ?変態坊主」

「しませんよ!!」


 「またスイレンちゃんと一緒に来てねー」とフェイルに見送られ、俺は今度こそ裏庭に向かった。

いつもこの作品を読んでいただきありがとうございます。


ソルトがタイゼック家の屋敷にいる時の時系列を分かりやすくしました。

これで皆様にとってより読みやすいものとなってくれたら幸いです。


もし「面白い!」「続きを読みたい!」などと思ったら迷わず評価をしてくださると、作者もやる気がでます。はい、やる気です。とってもでます。ご飯忘れるぐらい出ます。ホントです。

それと感想などもぜひ気軽に寄越しください。

これからも精一杯頑張りますのでこの作品共々よろしくお願いします。

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