第24話 強姦!ファーストキスはふわふわでした
◇3日目ー午後の仕事
ラリアとも別れ、今日の夕食後の仕事を知らない俺はクイキを探して屋敷内をさまよっている。
「どこにもいないな~」
「今日はどうせ休みをもらっのだろう? なら休めば良いではないか」
「そんな訳いくか。助けてくれたんだ、起きたなら彼女の負担を少しでも減らすのが筋ってもんだろう」
スイレンは俺の方を見上げてまるで当たり前かの様にサボることを勧めてきた。
今スイレンは俺の腕や頭の上ではなく、俺と一緒に廊下を歩いている。テトテト歩いく小さな狐のその姿はすれ違うメイドたちを次々に脳殺して行く。
俺もスイレンの方を見る度に頭がクラッとしそうになるので危ない。
確か『タイゼック家 狐ちゃんファンクラブ』なるものが寝てる間にもうできたらしい。後で入れさせて貰おう。
「そういうものなのか?」
スイレンは納得したようなしてないような顔をする。かわいい。
ちなみに人前で喋れているのはスイレンの[幻覚]という技を応用して、俺以外に聞こえない様に音を遮断しているらしい。それを知ったとき「最初からそうしてよ!」と言ったら「言われ無かったから」と返された。
本当なら屁理屈を言われてイラつくが、しゅん...と申し訳なさそうにしている姿がかわいかったから許した。
それから少し経ってお風呂でクイキとウキリを見つけた。もちろん裸ではなく、掃除用の服を着てる。どうやら今日の最後の仕事は風呂掃除のようだ。
「ごめん、探してて遅くなっちゃった」
「...寝てていいのに」
「そんな訳にはいかないよ」
ウキリにも挨拶をし、[清掃]スキルを使って湯槽をゴシゴシ洗っていく。
少ししてクイキが俺の隣で掃除を始めた。しばらく無言で掃除していたが、俺からしびれを切らして話しかけた。
「その...クイキ? えっと......ありがとう」
「...何が?」
「何がって...脅す様なこと言ったのに俺を庇うだけじゃなくて仕事まで代わってくれて...」
「...パートナーとして当たり前...お礼はいらない」
「いい子!!!!」
いけない思わず吠えてしまった。クイキが横で不思議そうな顔をしてる。
だってクイキただの超いい子じゃん! 俺、おもいっきり脅したから、罪悪感で押し潰されそう。大人げなく要注意人物だから、とか思ってた俺が恥ずかしい。
「クイキ...もう1つ、昨日はごめん、脅したりなんかして...」
「...大丈夫。...私は秘密を握っている。...そのくらいしょうがない。...むしろ意味深に発言した私が悪い」
「だからいい子!!!!」
◇3日目ー夜
「寝れない...」
今は風呂掃除も終えた夜中。雑魚寝部屋で横になっているのだが、日中ずっと寝ていたため、瞼を閉じて静かにしていても眠気が全然やって来ない。
どうしても寝れない俺はトイレついでに屋敷内を探索することにし、音を発てないようにそっと部屋を抜け出す。その途中で、1回男の手を踏みつけたが、男は起きる様子もなくいびきをかき始めた。
俺は男に謝り、スイレンにも一言言ってから外に出た。
「暗いな」
前にトイレに行った時も思ったが、屋敷の中は灯りがなくとても暗い。それでもずっと目を閉じて暗闇に目が慣れている俺は別に見えないほどでもない。たとえ見えなくても屋敷の地図は頭にインプットされてるから迷うことはないけどね。
そのままトイレに直行し、出すものを出し終えた俺は何処に行く訳でもなくフラフラと廊下を歩いている。みんなに迷惑をかけないように音もなく。
すると少し離れた曲がり角で誰かが曲がるのが見えた。
こんな時間に誰が何をしているのか好奇心に駆られた俺は急ぎ足でその人を追う。さすがに暗くて誰だかわからないが、格好を見るにおそらくメイドの誰かだろう。
追尾を開始してから少し経ったころ、そのメイドがある部屋の前で止まった。あわてて1人前の曲がり角に隠れた。あの部屋は確か...メイド長の事務室だ。
前に立っているのが誰かを見極めるために目を凝らしていると、脳内に声が聞こえた。
『スキル[暗視]を修得しました』
『スキル[遠視]を修得しました』
『レアスキル[世界地図]を修得しました』
うお!?一気に3つのスキルを手に入れた。さすが400倍、意識しなくてもスキルが修得できるのか...。
いや今はそんなことよりあのメイドだ!今なら誰だか判る!
そう思ってドアノブに手をかけたメイドを見たその時...!
「きゃああぁっん―――!!」
後ろの方から悲鳴が聞こえた。しかも、誰かに口を塞がれたっぽい。
咄嗟に隠れたおかげでメイドには見つかってないようだが...あの声は聞き覚えのある声だ。後ろ髪を引かれつつも俺は急いで声がしただろう所に走った。
*
「ん――!!」
「静かにしようぜ、みんな起きちまう」
なぜこうなったのか...私は今仰向けの状態で体つきの良い男に腕を上で押さえつけられている。さらには偉そうにしている男が覆い被さるように私の口に手を押し付けている。
「おい、誰か来たら言えよ? お前は腕ちゃんと押さえておけ」
「へい」「おう」
どうやらもう1人の男は部屋の外で見張りをしているようだ。...ソルトは?ソルトがこんなことに協力するとは思えない。おそらくソルトがいない時を狙ったのだろう。
ああ、もう無理だ。この状況から逃げだす力と頭は私にはない。これでも名一杯暴れているのだが腕も足も押さえつけられていて動かない。
私がもう抵抗しなくなったと判ると男は口から手を離し、自分の口を重ねてこようとしてきた。10歳以下の私を狙うなんてとんだ変態野郎だ。
私のファーストキスはこんな変態に奪われるのか...。せめて目に残らないようにと瞼を強く閉める。
ファーストキスはとてもふわふわで温かかった。
...ふわふわ?目を開けると私の口にはモフモフの尻尾があった。
「やめんか、変態共。それと、その気持ち悪い顔をさっさと我の尻尾から退けよ」
この子は確かソルトのペットの...スイレンちゃんだ。どうやらスイレンちゃんは私を庇うように自分の尻尾を男と私の間に入れてくれたようだ。
「な、なんだこの狐!?喋ったぞ!?」
「こ、この狐はあのクソ坊主のペットだ!」
「おい、この娘から離れろ。やめろと言ったのが聞こえ無かったのか?」
すると大男はスイレンちゃんが喋ったことに驚いたのか、掴んでいた手を緩めた。私はその隙にスイレンちゃんのいる方の壁に逃げる。
「...助けて...!!」
「うむ、あいつにお願いされたからな。安心するが良い」
やっぱり聞き間違いじゃなくてスイレンちゃんは喋っている。ただこんな小さなかわいい生き物に何ができるのだろう。それでも今はこのスイレンちゃんに望みを賭けるしかない。
「な、何が助けるだ! 所詮ただの狐だろうが! 殺しちまえ!」
「...我をただの狐と...?」
偉そうな奴がそう言うと大男がスイレンちゃんに殴りかかってきた。しかしスイレンちゃんはスラリとかわし、勢い余った大男の頭を踏みつけ転倒させる。
「なっ!?」
「我をただの狐と言ったな? ではこれでもそう言えるか?」
スイレンちゃんがそう言うとスイレンちゃんの体がだんだん膨れ上がっていく。さらに大きくなる行程で2本、3本と尻尾が増えていき、5本目が生えた頃には巨大化も止まった。最終的に部屋の3分の2がスイレンちゃんらしき巨大狐でうまってしまった。
「ヒーッ!! こ、こいつは妖狐じゃないか!!?」
「何でこんな所に!?」
男達が言うにはスイレンちゃんはこれが本来の姿というところだろうか。男達は尻餅をつき動けなくなっている。
「我に手を出して来たのだ、覚悟はできておろうな?」
「「う、うわあああぁぁぁ!!!!」」
男達は腰を抜かしたまま、ドアの方へ逃げて行った。しかしスイレンちゃんは動じる様子もなくそれを眺めている。
「...逃げていく...!」
「大丈夫。逃げれんよ」
「...?」
私もスイレンちゃんを信じて眺めていたが、ついに男二人はドアにたどり着いた。
「へ! 逃げればこっちのもんだ! 応援を呼んで来てお前なんかすぐに討伐してやる! そうすればチャンスはまたやってくるからな!」
すぐそこに敵がいるというのに長々とした逃げゼリフを吐いた男達がドアを開けようとした瞬間、ドアは独りでに開いた。
「よう、クソロリコン共。眺めるのはいいが手を出したら犯罪だぜ?」
開いたドアの先にいたのはソルトだった。ただ雰囲気と口調がいつもと違い、少し大人っぽくなっている。
「なんでだ!? 見張りがいただろう!?」
「こいつのことか?」
ソルトが何かを男達の前に放りだした。あれは...もう1人のヒョロっとした男だ。だが、首には斬られたあとがある。
「俺のパートナーに手を出したんだ、覚悟はあるな?」
故意か偶然かソルトはスイレンちゃんと同じような言葉を並べる。
これでもう大丈夫と安心した私とは裏腹に、男達は恐怖に挟まれて失神してしまった。
*
「まったく...無理やり押し倒して嫌々ヤっても楽しくないだろうに...」
「...それが好きな変態もいる」
「これは好き嫌いの問題じゃないだろう...」
クイキを助けてから数分後、クイキとスイレンも眠気が覚めてしまったらしいので、雑魚寝部屋で談笑している。
クイキにもこっちが地であると伝え、今は俺とクイキしかいないのでそっちで話している。
男3人は部屋の外でまとめて捕縛してある。ヒョロ男の首にあった斬られたあとは偽物で、よく観察すると息をしているのが判るだろう。あれは俺が森で採った赤い実を潰してつくったものを、先に気絶させといた男にペイントしたのだ。短時間でやった割に上手くできたと思う。おかげで他の2人と殺し合いになる前に勝負がついた。
「...そういえば...なんでスイレンちゃんに守るお願いしてた...?」
「ん?簡単だよ。前々から怪しいと思っていたし、抜け出す時に男が不自然にいびきをかいたから念のためってね。クイキには恩と謝罪しかないから、俺がここにいる間は守ってあげることにしたんだ」
「...ならソルトがいてくれたらもっと安心できた」
そんなこと言ったってトイレは生理現象だしょうがないだろ。え?メイドの追っかけ?なにそれ。
「...クイキ、そろそろ教えてくれないか? 何故俺の秘密を知っていて、そんなに信用しているのか」
「...?...秘密知ってるんじゃ...?」
「え...?」




