第22話 帰還!疲れたので3日目は休暇にしてください
「ぼくですよ!! 下働きのソルト=ヨーベクマ!」
「え?貧乏貴族? 何でここにいるんだ?」
なんと答えようか悩んでいるとさらに使用人が増えて来た。この屋敷の使用人が全員出たんじゃないかって位だ。
その中にはクイキやラリアたちもいた。取り敢えずその知り合いたちの方に向かおうとすると上の窓からメイド長が顔を出した。
「まだ追い出せてないんですか!? ボウラ様が不安で寝れないですよ! 死体にしてでもいいから追い出して!」
おいおい、おつかいに出した俺が帰って来たという考えはまったく無いのかよ。
「メイド長! ぼくです! ソルトがおつかいから帰って来ました!」
「ソルト? ...みんな戻って良いですよ! ソルト、あなたには卵を買って来てって言ったじゃない! おつかいもまともにできないの!? これだから貧乏貴族のガキは...」
「いえ、買って来ましたよ。渡されたお金分」
「...はぁ!?」
メイド長に言われて屋敷の中にぞろぞろ戻って行く使用人。それとは逆に、メイド長は窓をしめドタドタ階段を下りてくる音が聞こえる。
大きな巨体が人混みを掻き分けてこっちに迫って来た。
「嘘ですよね?」
「いえ、冗談じゃないですよ?ほら」
そういって狐を頭に乗せると足元の木箱を拾い、中身を見せる。
「...どうやって...?」
「企業秘密です」
メイド長は無言で木箱をむしり取ると踵を返して屋敷に向かって歩き出した。
だが、俺はメイド長を呼び止めた。要件は動けないぐらい疲れたから今日1日は休みにして貰いたいと言うこと。
それを聞いたメイド長は怪訝そうな顔をした後すぐに口の両端を吊り上げた。
「ダメです。許してもせいぜい3時間までなら良いですよ?」
そんな、それでは十二支剣技の反動の必要睡眠時間に全然足りないじゃないか。
オークとの戦いでは重ねて4つを約1時間、森からここまで2つを3時間半、この狐を運ぶのに1つを1時間。たまに他のものも使っていたがほとんど誤差の範囲内だ。
つまり反動で必要な睡眠時間は約12時間。今は大体5時頃だから、今から寝るならやはり夕方の5時までは寝かせて欲しい。
そのためにどんな言い訳をこじつけて眠ろうかと考えていた時、後ろから声がした。クイキだ。
「...メイド長...ソルト...休ませてあげて...下さい」
「何を言って...」
「...私とソルトは2人で1人として扱う。...なら私がソルトの分も働く...だからソルトは寝ても大丈夫...です」
「そんなの...」
クイキが俺の味方をする言葉を言ってもメイド長は折れるつもりは無さそうだ。
だがそこに追い撃ちをかけてくれる人物がいた。
「カールさん! いいじゃないですか! ソルトさm―んも頑張っておつかいに行ったんですよ!」
「ラリアさん!?」
カールとはメイド長の名前だが、ラリアは何故名前で呼んでいるのだろう。
メイド長はラリアが俺の味方をしたことに心底驚いた様子だったが、クイキとラリアが俺の要求を押し通してくれたから、メイド長は嫌々といった感じだが俺は今日は休んでいい事になった。
メイド長は卵の木箱を抱え直し、俺を睨んだ後、俺の頭に乗っているものに気づいたらしい。
「その汚い狐は何ですか?」
「ぼくのペットです」
「汚い!? しかも我をぺっt――!?」
いきなり喋り出した狐の口を押さつける。
狐は小さな声で唸っているがこいつが妖狐なんてバレたら面倒くさいから我慢して貰おう。
「今その狐喋りませんでした?」
「き、気のせいですよ! 汚いー しかもわれをペットー」
少し狐の声に自分の声を似せてごまかす。意外に似てる気がする。
後頭部を狐の尻尾で叩かれているが声真似が上手いって事?
...あれ? ああ、口だけじゃなくて鼻も塞いでた。ごめんごめん。
「あなたの一人称って我でしたっけ? ...とにかくその狐は屋敷を暴れ無いようにちゃんと首輪で繋いでおいてください」
「ハハハ...た、たまになっちゃうんですよね~...。この子はしっかりと躾しますから安心してください」
メイド長はのしのしと屋敷に帰って行った。
クイキが味方をしてくれた理由や、ラリアがメイド長を名前で呼んでいる理由など気になることはあるが、今はいち早く寝たい。それらは起きた後か明日にでも聞こう。
「取り敢えず、ありがとう」
「ええ!」
「...どーいたしまして」
ラリアは嬉しそうに、クイキは照れたように返事を返してくる。
「さぁ!後の事は私達に任せてソルト様は寝室にいって!」
「...様?...というかそれは"私達"じゃなくて"私"...!」
「いいじゃない。私も手伝ってあげるから」
「...むぅ...」
クイキの最後の唸り声は認めたく無いが、手伝ってくれるのがありがたいのも事実だから言い返せない、といったところだろうか...。かわいい。
俺はその日2人に甘えさせてもらい午後5時までぐっすり寝た。
◇3日目ー昼休み
十二支剣技の副作用を完全に回復し、今はラリアに会うために廊下を歩いている。
狐は今はおとなしく腕に抱かれている。これから毎日このモフモフを触れると思うと心が弾む。
「あ、起きたんですね!」
「はいっ!!!」
心が弾んでいたから思わず大きな声で返事をしてしまった。周りの変な奴を見る時の視線が痛い。
声のかけられた方を向くと、若干顔のひきつったウキリが立っていた。
「ごほん。はい、もう完全回復しました」
周りに他人がいるから丁寧に喋ったが、ウキリは察してくれたのかその事に引っ掛からなかった。
「フフ...! 疲れて半日も寝るなんて、意外に子供っぽいところもあったんですね」
「そう...ですね...」
十二支剣技の副作用なんて言えるわけもなく、特に損にもならないから肯定しておく。でも、俺はもっと子供っぽく過ごした方が良いのだろうか? そんな大人っぽい行動してないと思うんだけどな...。
まぁ、精神が大人だからなぁ。自然とそうなってしまうのかもしれないな。ここを出てからはもう少し気にかけよう。
「それで? 今はどちらに?」
「ラリアに会いに行くところです」
「起きてまず会いに行くって...やっぱり恋人ですか?」
この人まだそんな事思ってたのか。そんな訳無いって言っているのに。
実はそう言う特殊な恋愛話が好きな感じの人なのかな?個人の好き嫌いにあれこれ言うつもりは無いけど、この見た目でそれは少し残念だなぁ。
「...今、私がおかしいって顔しましたね。おかしいのはあなたですから!」
「そ、そんな事無いですよ」
「本当ですか?」
ウキリはしゃがむと覗き込むように顔を近づけてきた。
だから近いって! あともう少しでキスできそうなぐらいの距離だぞ! しないけど。いやしたいけど。でもやっぱりこんな美人がすぐ近くに来るとだいぶ緊張する。俺も美人耐性まだまだだな。
「あ、ぼくラリアのところに行かないと」
「ああ、そうでしたね。じゃあ私もついて行きます。どうせ暇してたので。それともお邪魔ですか」
「とんでもないです」
*
そこから俺とラリアは他愛も無い会話をしながらラリアの部屋の前まで歩いた。
コンコンと扉を二回ノックし、再びウキリとの会話の続きを話し始める。ウキリは聞き上手なのでついつい要らん事まで話してしまいそうになることが何回かあったが、それでもウキリと話していると楽しくて中々止める事ができない。
すると視界の端でドアが開いたのが分かった。
「はい。あ!ソルト様! 目が覚めたのね! 良かった。このままずっと目が覚めないの...か...と...」
「――それでね、その時に父さんが通りかかって...!」
「まぁ! フフフ」
おっといけない。ついラリアをシカトしちゃった。
もの凄く落ち込んで、その場で膝を抱えているラリアを立たせて3人で裏庭に向かう。
時々ラリアが「へぇー!」とか「そうだったんだー!」とか、わざわざ俺とウキリの会話に無理やり入って来る。正直言って鬱陶しい。
...ああ、鬱陶しい。......そろそろ止めてくれないかな。............いつまで会話の邪魔をしてくるんだ。
「ウザいわ!」
だんだんイライラしてきていた俺はついに感情を爆発させ、大きな声でラリアを注意してしまった。するとラリアは「だって羨ましいんだもん」と言ってまたしゃがんでいじけだした。
少しキツく言い過ぎたと感じた俺は素直に謝罪して、手を差しのべる。ラリアは目をウルウルさせながら俺の手を取って立ち上がった。
「どっちが年上ですか...」
「ラリアに決まってるじゃ無いですか」
「それはそうですけど...」
横で見ていたウキリが変な事を聞くので、何かそう思わせる行動があったかを考えるが特に何もなかった。何故いきなりそんな当たり前の事を聞くのだろう? 俺は5歳でラリアは――...
「あれ? ラリアって何歳だっけ?」
「ソルト様! そんなことレディに聞いちゃダメよ! まぁ18歳だけど」
「言うんかい!」
でも18歳、姉さんと同じぐらいか。...年の割に子供っぽい性格してるよな、ラリア。
「でも恋愛に年齢なんて関係無いと思うの! 私はたとえ相手がおじさんでも幼くても気にしないわよ!」
「いや、聞いてないけど」
わざわざ"幼くても"ってところを強調して言ってくる。叶わない恋だとはっきりさせた方がいいかな?...いやいつもしてるな。それでも折れないって凄いメンタル持ってる。
そんな感じでいつもの裏庭についた。




