第18話 激走!走るー 走るー 俺1人...
俺は今、メイド長に命じられて"おつかい"に走ってる。否、走らされてる。
おつかいに行かされることに文句はない。ただ、その内容が5歳児にやらせていいものじゃないぐらい鬼畜だったのだ。
安全な道を通ると1日かかり、危険な魔物が出る森を一直線に進んだとしても半日はかかるところが目的地。帰りの分も合計すると、少なくとも1日はかかるってことだ。
これだけならまだ良かったものの、すでに昼頃なのに明日の日が昇る前には帰ってこないとクビという条件付き。
「無理じゃね?」
俺のこと辞めさせるき満々じゃねぇか。
いっそのこと、この金を給料としてバックレるか? いや、給料が安過ぎるし、なによりヨーベクマ家の家名に傷がつく。やめとこう。
なら前進あるのみ!
あと少しで森に着くはずだが...
「見えた!」
第一印象は"とても広い"だ。
地図で見た感じだと楕円を横にした用な形だった。だから少し広いとは思っていたが、まさかこれ程広いとは思わなかった。これでも結構離れてるはずなんだけど全然端の方が見えない。
*
「ゼェ...っ、ゼェ.....っ!!!」
あれからさらに走って今は森の目の前にいる。
どっちのルートで行くかを決めるために一回止まったとたん、さっきまでの疲れがどっと押し寄せて来た。
いくらチートを持っていても、体力や筋肉は5歳児のものだ。いくら全力をだしてもスピードは遅いし、すぐに疲れる。
光魔法で体力や脚力の底上げをする事もできるが今はしてない。補足だが、この魔法はかけてる時間に比例して魔力も失うから、やり過ぎるとさらに疲れる。魔力の少ない人には使い勝手の悪い魔法だ。
「さて...どっちでいこうか」
別にここの森は俺でも倒せる程度の魔物しかいないが、この疲労困憊の状態で魔物に出会うとミスをする可能性がある。
逆に森を避けて通ると期限に間に合わない。俺のスキルを使ったりして全力で走ったとしてもやっぱり間に合わない。馬車を探すのもなかなかこないここら辺では難しいだろう。
......なら森を突き進む。そして、今日中に帰ってやる。その為に...
「スキル[剣術] [剣術技・十二支剣技 午] さらに、[剣術技・十二支剣技 丑]」
俺は[亜空間収納箱無限]から剣を取り出すと技を使い、森の中に走って行った。
この技は[剣術]スキルがLv9とLv10で使える技だ。昨日の[子]と同じ十二支剣技だが、[午]は自分の走る速度が大幅に上がるもの、[丑]は体力を大幅に上げるものだ。
なぜ今まで使わなかったのかというと、もしかしたらタイゼック家の奴が見ているかも知れなかったからだ。この[剣術]スキルは剣を持たないといけないし、さっきも言ったようにこの技は、スキルレベルが10を超えてないと使えないので見つかるととても厄介なことになる。その為使えなかったのだ。
この十二支剣技はスキルの技の中ではとても特殊な技で、その名の通り"十二支"になぞって作られた技だ。
低いレベルの時に使えるものから{子→卯→午→丑→寅→酉→亥→未→巳→戌→申→辰}となっている。
それぞれ違う効果の技だが、俺はLv25だから全部使うことができる。
最初の頃は自身の能力を上げるものばかりで「剣関係ないじゃん」と思っていたが、この技は剣の技術を高めるための技だと分かってからありがたく使わせてもらっている。
[剣術]スキルの技は十二支剣技以外にもあるから文句は全くない。
がさっ...
技を頼り、大人の2倍並の速度で走っていると少し先の草が揺れた。
自分に急ブレーキをかけて様子を伺うと、木の影から出てきたのはゴブリンという魔物だった。耳は先が尖って、顔の真ん中には大きなかぎ鼻がついていて、手には木でできたこん棒を持っている一般的なゴブリンだ。
ゴブリンは俺の1.5倍ぐらいの身長だ。だからかゴブリンは完全に上から目線で口の端をつり上げて笑った。
完全になめてんな。まぁいいや、そっちが殺る気ならこっちも遠慮なく。
そこまで問題の敵じゃないから適当に真っ二つにする。ゴブリンは最後まで舐めきった顔で崩れ落ちた。
*
そんな感じでザコの相手を何回かして、問題なく森を抜けることができた。もちろん素材は必要部位がわからないから体全部を[亜空間収納箱無限]にしまってある。
「やっと見えた!!」
まだ小さくだが少し大きな村が見えた。
保険のためここの時点で技をとく。するとスピードが急に下がったせいか、バランスがとれずに前につんのめって顔から地面にダイブした。
...いたい。俺もまだまだだな。これからも訓練は怠らないようにしよう。
「光魔法 [初級回復]」
自分に傷を癒す魔法をかけてまた走り始める。体力はもうほとんどないが、太陽はすでにタイゼック家を出た時より大きく傾いている。
結局、村に着いたのは空が紅に染まった頃だった。
もう、やばい。疲れ過ぎて死ぬ。しかも十二支剣技を使った反動で睡魔が一気に襲ってもくる。
十二支剣技は使うと、使った後に使った時間分寝ないといけない。今ではこの技もコントロールできるようになり、今すぐ寝ないといけないってわけじゃなくなっている。
昔は使った後、眠気に勝てずに技をといた瞬間ぶっ倒れて数時間死んだように寝てしまうことが何度かあったもんだ。そのせいで姉さんを泣くほど心配させてしまった。
さて、懐かしむのはこのぐらいにして...。
お、第一村人発見。鍬を担いだじいさんだ。話してみよう。
「すいません...」
「おぅ? 見慣れない坊やだな。こんな時間にどうした?」
「えっ...と、この村の卵と少し寝る場所が欲しいんですけど」
「おつかいにきたのか? 1人で?」
「そうです」
「そうか。...分かった。卵と寝床、それと夕飯もやるからうちに来い! まだ食べてないだろう?」
「え!? いいんですか!? でもぼくお金も何も出せないです...」
「はっは! 子供が遠慮なんてするもんじゃない! それにうちには今、君と同じぐらいの孫がいる。相手をしてやってくれ」
「そうですか、じゃあありがたくお邪魔します」
「おう! してけしてけ」
そう言うとじいさんは俺の背中を平手打ちしてきた。
疲れた体にこれは効くなぁ...少し涙がにじむ。
*
「お邪魔します」
「ひっ...!」
「おい、デール!」
はい。逃げられた。
デールちゃんか...じいさんと違って、おしとやか系でかわいいな。
「すまんな、あの子にも色々と事情があっての」
あの歳で事情って...。あ、俺も人の事言えないか。
「ああ忘れてた、儂の名前はアルジニアで、あの子がデールだ」
「あ、はい。ソルト=ヨーベクマです。ソルトって呼んでください」
「!? き、貴族様でしたか! 服があれでしたのでてっきり...申し訳ございません!」
俺が自己紹介をしたとたん、アルジニアは深く腰をまげた。
ああ、俺の今の服は転んだりしてぼろぼろになった使用人用の服だからなぁ。でもまぁ、貴族とかどうでもいいから断っておこう。
「そう言うのいいですから...!」
「ですが...」
「いらないですって。普通に接してください。ぼくそう言うのホントに苦手で...」
アルジニアは「そ、そうですか......?」と頭を上げる。
苗字まで言うとかしこまれてしまうんだな。次から気をつけよう。
「あの、お夕飯にいたしますか?」
「だから...敬語はいいですって。ご飯はそちらの都合でいいですよ。ただ、できるだけ早いとありがたいですね」
「わ、わかりまs――」
「だから...」
「お、おう。じゃあ今から食べるか?」
「お願いします」
「じゃあ少し待っててな」
その後、俺とアルジニアとデールの3人で鍋っぽい料理を食べた。卵料理を期待したけど、少し残念。美味しかったけどね...。
しかもデールは俺が話しかけても全然返してくれない。悲しい。
食べ終わって片付けの手伝いをしようとしたら、ほぼ強制的に部屋に連れてかれた。思ったよりきれいな部屋だった。どうやら客人用の寝室らしいな。
申し訳ない気もしたが時間がないのでありがたく寝させてもらう。
起きたのは6時間後の真夜中だった。




