第17話 脅迫!これはしょうがないよね
◇2日目ー午前の仕事
「本日もボウラ様、タイゼック家のために頑張りましょう!」
メイド長の話が終わり、2日目の仕事が始まった。
*
今日も先輩2人と挨拶してから掃除を担当してる部屋に行った。今日も午前はヒラムがついてくれる。
「ソルト、クイキ、喧嘩でもした? 仕事はちゃんとしてるからいいけど、なんかやりづらいから早く仲直りしてね」
これは喧嘩なんかじゃない。クイキは俺の何かを知っているが俺はあっちの秘密を何も知らない。だから秘密をばらされる可能性があるし、取り引きを持ちかけられても不利になる。
クイキは7歳だからと言って油断してはならない。この世界では5歳でも人を殺す人がいる。
ここには奴隷の制度もあるが、その奴隷を主人が殺しても罪にならない。さらに平民が殺されてもその人の身内が冒険者ギルドや国にお金を払ってお願いしない限り殺した奴は罪にはならない。
この世界は命を金でやり取りすることができる。そういう世界だ。
だから、例え幼く見えても、優しそうにみえても簡単に信用するとすぐに自分が死んでしまう。どんな人にも油断は禁物、この世界で生きて行くにはこれは絶対条件だ。
でも確かにクイキとずっとこの雰囲気じゃあ嫌だな。これは俺とクイキの関係とかじゃなくて、ずっと警戒しながら生活するのは疲れて俺が嫌だからだ。
クイキは将来超キレイな宝石になるだろうと、原石の状態から仲良くなれればいいな程度だった。だが、それよりも命の方が大切だから嫌われてでも、クイキには秘密を絶対にばらされないための対策をうっておこう。
ちょうどクイキがバケツで雑巾を洗っていたからそこに歩いていって、しゃがんで話し始める。
「...クイキ昨日はごめん。でも大丈夫だよ、イメージ通りの白パン――」
べちゃッ
また顔に濡れた布が飛んできた。今度は雑巾だったがどっちにしても汚い...。
クイキは俺を凄い形相でにらみつけていた。
「冗談だよ。とりあえず...昨日は触れられたくないことに触れたみたいでごめんね」
まずは先に謝る。子供相手ならこの方法が話しを進め安くなる。
「...それは別にいい。...私も脅すようなこと言ってごめん」
そこに謝るってことは秘密をばらまく気はないってことで良いのか?
なら核心に迫っていいかな。
「クイキの知ってる俺の秘密ってなに?」
「...言わない」
...情報の価値は見極められる...か。
クイキ、意外にやるな。それなら...
「俺もクイキの秘密知ってるよ?」
「......!? なん...で...!?」
「それは言わないさ。でもそっちが俺の秘密をばらさない限り俺もばらさないから。これからも仲良くしようね!」
...もちろんハッタリだ。ただまったくの嘘ではない。だって“クイキの昨日のパンツは白リボン”っていう秘密を抱えているからね!
クイキにも何か事情があるらしいから、わざわざ秘密を探るよりもこうすれば簡単で確実にストップをかけさせれる。少しやりすぎだが、もしもを考えてこのぐらい保険をかけても悪いことはない。
大人気ないかも知れないが、俺の秘密って言うとこの世界で生きていけなくなるかも知れないレベルの秘密だからしょうがない。俺はまだ死ぬ気ないよ。
......それにしても大分簡単に俺の言葉を信じたな...。まぁいいか。
俺は立ち上がるとクイキに微笑んでから自分の掃除場所に戻った。
「...ソルト、仲直りできた?」
戻って掃除を始めようとしたらヒラムが話しかけてきた。
「...“仲直り”はできてないですね。むしろ悪くなったかも」
ヒラムは俺の額に向かって指を弾いた。
「いっ!?」
「ダメじゃない! こういう時はね、男の方が折れるべきなのよ! なんで喧嘩してるのか知らないけど、女の子を悲しませちゃダメよ」
これはそんな簡単な問題じゃないんだよ。
「返事は!」
「...はい。でもヒラムさんはあまり気にしないでいいですよ。ぼくも頑張りますから」
ヒラムは「ならいいけど」と言って戻っていった。
前々から思っていたけど、ヒラムってお姉さんって感じするな~。うちの姉さんも見習って欲しいよ。
俺のことを思ってくれているのは伝わるんだけどね。教育をしてくれるのは兄さんだったからな。姉さんは俺を徹底的に甘やかすだけで、鞭なんて1本も無かった。まぁ、そんな姉さんでも、俺は好きだったんだけど。
*
「ん!!!」
「どうしました?アミリスおねえさま」
「カライヤ、私ソルトに愛されてる!」
「え...。なんですかいきなり...。聞いてます? おーい、アミリスおねえさま? おーい」
「フフフっ! ソルト♡私も大好きよ~!」
ソルトの想い(?)はちゃんとアミリスに届いた。
*
あれから1時間ぐらいたったころ、メイド長が俺らの掃除していた部屋に入って来た。
「ソルト=ヨーベクマ、話しがあります。ついて来なさい」
「...わかりました」
お呼び出しですか。
今回はおとなしくついて行くことにしよう。
「ソルト...気をつけてね」
「.........」
「俺の分も掃除お願いします」
2人とも俺を心配したような顔をしてない。
クイキが俺を心配してないのはわかる。だが、ヒラムは一見心配してるように見えるけど、全然その気がない様にも見える。...思い違いだろうか?
俺はヒラムの本性をつかめないままメイド長について行った。
*
メイド長について行くと、少し小さな部屋についた。
ここでなにを話すのだろう? 昨日、ボウラ様に口答えしたことを叱るため? それならまだいいけど。まさか、何かと理由をつけて追い出そうとしないよね。
「あなたは今日、お――」
本当に追い出し!? さすがに給料もらえないとかないよね!? あぁ!こんなことなら使用人達と少しは仲良くなって、一緒に頑張ったって証人になってもらえば良かった。 じゃあ、せめて最後にメイド長の情をうったえよう。
目に涙を溜めて、こぼれるとわざとらしいから瞳をうるうるさせる。そして上目遣いで手を合わせて...
「や、止めてください! ぼくお仕事はちゃんとやってました! そんな悪いことしてないのに追い出すなんて、酷いですよ!」
「...何言ってるの? まだ追い出しませんよ。 今日は"おつかい"に行ってください」
「へ? おつかい?」
泣き真似していたのも忘れて、俺は変な声をあげた。
涙が嘘だったのは...バレてないな。
「そうです。おつかいです。明日ボウラ様と近くの貴族の御息女様をお呼びして、お茶会を開く予定だったのだけど、そのお茶会に出す料理に使う卵を料理人が落としたの。それで、あなたにある村に行って卵を買って来て頂戴?」
「そういうことでしたか。でも、他にも人はいるのに何故ぼくなんです?」
「うっ...! そ、それは...あ、あなたが一番暇そうだから。でもそこら辺はどうでもいい!!! とにかく、ここに行く村とその周辺の地図を渡すからそれを見て行って来て!」
そういうとメイド長は1本の筒状になった紙を渡して来た。
「明日の太陽が昇る前に持って帰って来なさい。間に合わなかったら解雇よ。か・い・こ! 分かりました?」
「は、はい」
解雇かよ...。ひどいな。間に合う様に頑張らないと。
「それとこれ卵を買うお金。ぴったりだからそのまま出せばいいです」
「え、もしもの時用に多めに...せめて倍はもらいたいです」
割れたり、値段が変わってたりするかも知れないからこれは必要経費なはずだが
「は!? なんでそんなにあげないといけないの! ダメです!さっさと行ってください」
ダメらしい。
◇2日目ー昼休み
「......ソルト様遅いな...。ちょっと探しにいこうかな」
私、ラリアは報告とスキルの稽古のためにいつもの裏庭に来ていたが、時間になってもソルト様がこない。
見捨てられたかも知れないという考えが頭をよぎる。
心配に思った私はまず食堂によってみるがソルト様はいなかった。
「おかしいな。ソルト様に限って暴力沙汰でもないだろうし...。ん?」
食堂を出ると丁度ウキリとクイキちゃんが廊下を歩いていた。
「あ! ウキリ! ねぇソルト様見なかった?」
「あ、それがね...」
なんと、ソルト様がこないと思ったらおつかいに行ったらしい。
じゃあ少しぐらい声かけてもらいたい(シクシク)と思ってたら、ソルト様に出されたおつかいは今日中に戻ってこないといけない仕事で、しかも地図を見ると普通は行って帰ってくるのに2日かかる場所だったんだって。
それを聞いたソルト様は超急いで村に向かったらしい。
良かった見捨てられた訳じゃなくて。
でも大丈夫かな? ウキリ曰く、1日で終わらせるには遠回りしないで魔物のいる森をつっきるしかないらしい。
...大丈夫だよね。年下だけど、幼いけど、それでもソルト様は私のヒーローだから。




