第10話 面接!タイゼック家で働かせてください
「いやー! いやぁ! いやだあぁぁ...」
カライヤの泣き声が家中に響き渡ってる。
出発の準備が終わって、玄関でみんなとお別れの挨拶をしていたら、だんだん現実味が出てきたのかカライヤが俺に泣きついてきた。
「おにい...ヒック、さま...っ、がいなく...んっ、なっちゃう...ヒック、やぁだぁ!」
あ~あ、まったく...服が涙と鼻水だらけ。これは一回洗わないと...。
「別にいなくなる訳じゃないよ。1年後には帰って来るから」
「...やーぁー...ヒッ...全然会えない...ヒッ」
少しは落ち着いたみたいだけど、まだ放してくれないな。
「じゃあ、カライヤの誕生日には仕事抜け出してでも来るよ」
「...ホント?」
「ああ、約束だ」
「うん!約束」
よかった。機嫌なおしてくれたみたいだ。
なんか、視界の隅で姉さんが「私は?ねぇ私は?」って言ってるけど気にしない。
それにしてもこの服どうするかな。
「スキル[洗濯] [洗濯技・一点洗浄]」
いきなりサラヌギが俺に何かした。
みるかぎり何もかわってないが...あ!
「服がキレイになってる」
「[洗濯]スキルを10レベルにすれば魔法みたいに離れていても汚れをとることができます」
「それはすごいね」
「はい。なのでソルト様もスキルは頑張ってレベル上げた方が得しますよ」
「そうだね。頑張るよ」
「じゃあ、改めて...行ってきます!!」
「「「「「「「「行ってらっしゃい!」」」」」」」」
「気をつけてね!」
「誕生日に待ってるね!」
「タイゼック家に負けるなよ!」
「いつでも帰って来て良いからね!」
みんな口々に叫んでいて誰が何を言っているのかわからない。
...おかしいな。たった1年離れるだけなのにこのみんなの声が気持ちを寂しくさせる。
よし! これから1年頑張るぞ!
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フゥ! やっとついた。
俺は今タイゼック家の家の前にいる募集期間は明日までだから今日も受付中のはず!
もし違ったらここまでの苦労はなんだったって話になる。
うちからここまで馬車で2時間。タイゼック家はうちよりは街に近く、結構大きな村がすぐそばにいくつかある。
そのためか、タイゼック家の他にもここら辺にはあと4つぐらい貴族の家がある。この前の取り巻きもこの辺の貴族の娘だろう。
「よし、入るか」
俺はタイゼック家の玄関の前に立つ。誰かいますように、と願いながら
「すいませーん」
............。出ないな...。いないのかな。フラグ建てたからな。じゃあ村で時間でもつぶそうかな。
「はーい。どちら様でしょう? あれ?誰もいない」
わ!キレイなメイドさんだなぁ。 じゃなくて...
「あのー。こっちですこっち」
「あら。小さいお客さんね。どうしたの?」
「下働きの仕事に就きたいんですけど...」
「え? 下働き? 君が?」
たぶん小さいうえにキレイな格好だからタイゼック家の坊っちゃんの客だと思っていたのだろう。心底驚いている。
「はい。雇ってもらえますか?」
「...お待ちください。いま、メイド長と執事長呼んできます。外だとなんですので中でお待ちください」
威厳を見せつけないといけない相手だと認識を改めたのか、口調が変わった。
そのメイドについていくと小さな客間に案内された。
そわそわしながら待っているとコンコンとドアが叩かれた。
「...どうぞ」
思わずそう言ってしまったが普通は逆だよな。くそ、もう失敗した。
ここからはちゃんと日本の{面接で有利に持っていくコツ大紹介!!}に載っていたことを頭に入れて動こう。
まずは...【相手があとから入る時は立って迎える】
スクッと立ち上がるとすぐに相手が入ってきた。
相手は穏やかな雰囲気にどこか鋭さを持つ白髪のピチッとした70歳ぐらいの男性と、少し厳しそうなぽっちゃりな40代ぐらいのメガネの女性。それとさっき出迎えてくれたメイドさんが入ってきた。
立って出迎えたことに少し驚いたようだがすぐに
「座りなさい」
と言ってくれた。
「失礼します」
執事長たちはまた驚いたようだった。でもすぐに戻り質問が始まった
「君は何歳ですか?」
「はい。昨日5歳になりました」
「君はその年のわりにだいぶ礼儀正しいですね」
「いえいえそんな」
「で、本題だけど...君、ヨーベクマ家の子ですよね?」
「ヨーベクマ家!? この子が!? じゃあダメじゃない!」
「メイド長、君は黙ってろ」
「っ......!」
メイド長はおとなしくなった。おそらく執事長の方が立場が上なのだろう。
でも、家の関係で雇ってもらえないのは困る。多少の不安を残しながら質問は続く。
「すいません。もう一度聞きます。ヨーベクマ家の子ですよね?」
「はい」
「うちとヨーベクマ家の関係は知っていますか?」
「...はい」
「それでも入るのですか?」
「はい」
「お坊っちゃまたちにいじめられるかも知れないのですよ?」
「...はい」
この人はたぶんタイゼック家とヨーベクマ家の仲が良くない理由をわかっているのだろうか?
でもどっちにしろ、自分がつかえている家よりも敵対視している家の子供を心配してくれる。
この人はどんな相手でも冷静に正しい判断ができる良い人だ。
「...そうですか。ではこの契約書に名前を」
「ちょっと待って!! 執事長!ヨーベクマ家の子をうちで雇うのですか!?」
「ほんの1週間だけですよ」
「私はいやですよ! 何であんな貧乏貴族の子なんか...」
「黙りなさい。仕事に私情を持ってこないでください。こんな小さな子がなんとしてもやると言っているのです。何か理由があるのでしょう。大丈夫、1人分ぐらい誰かでカバーできます」
「そういうことじゃなくて......!?」
メイド長は何か言いたげな顔だったけど、執事長ににらまれて何も言わなかった。
かわりに俺をにらんできた。怖いんだが。
「よし書けましたね。では明日から1週間よろしくお願いします」
「はい。お役にたてるよう全力で頑張ります」
はい。頑張ってください。と執事は満足そうにうなずいた。隣の方は不満だらけらしいけど...。
「今日は部屋の場所を覚えたら、ここで休んでいきなさい。明日からは貴族など関係なしに頑張ってもらいますからね、しっかり休んでください。 じゃあ君、あとはよろしくね」
「はい」
執事長たちはきれいなメイドさんにお願いすると出ていった。
「では案内をしますね。ついて来てください」
「あの、敬語...」
「?」
「もうぼくしたっぱなのでしなくていいです」
「...あぁ! フフッ謙虚ね。わかった、普通に話すわね。私はヒラムよ」
「ソルトです。よろしくお願いします」
その後いろんな部屋を案内してくれた。うちよりも広かったがなんとか覚えた。
「そして最後にここから先は全部使用人用の部屋よ」
廊下の半分から突き当たりまで部屋があり、そこはキッチン、食堂、男使用人用寝室、女使用人用寝室、などがあった。
「ぼくが寝る部屋ってどこですか?」
「あなたは下働きの人だから他の人と雑魚寝部屋なのよ。ごめんなさいね」
「いえ、全然大丈夫です」
「そう? ならいいんだけど...貴族が雑魚寝っていやじゃないの?」
「ぼくは大丈夫ですよ?」
「じゃあ私はいくわね困ったことがあったら頼ってもいいから」
「はい。ありがとうございました」
いよいよ下働き生活か...頑張ろう!!
とりあえず雑魚寝部屋に入ろう。
ガチャ
「............え?」




