第7話 ゴブリンの戦い(真)
第二位階上位
10日目。
今朝は弓を作った。
細い木を伐り、二つに割って、真っ直ぐになる様に削って行く。
朝からコンコンやっていたからか、ケンキちゃんとダイキ君が起きて来たので、矢柄の作り方を教えた。
真っ直ぐに整えたら、持ち手を太いまま上下を削って細くする。
弓の両端に、引っ掛ける為の円を作った紐を取り付け、完成。
矢は真っ直ぐな物だが、重りも羽根も付いていないのであまり真っ直ぐには飛ばない。
繊維質の木の皮を使って矢筒を作り、紐を結んで肩掛けにする。
こんなんでも投石よりは断然マシだろう。
それをケンキちゃんに渡した。
鏃は今夜作ろう。
その後、ここ数日で早起きになって来た同胞達と共に森へ入り、落とし穴を作って回る事になった。
◇
突進して来た超巨大な猪を、すんでのところで避ける。
猪は背後の木に衝突し、木を粉砕して通り過ぎた。
恐ろしい攻撃力だ。
どうしてこんな事になったのか?
考えてみれば当然だ、なにせここは猪が良く通る獣道なのだから。
「おっ」
此方へ振り返った猪の顔に、矢が突き刺さった。
やったのはケンキちゃんだ。
他の同胞達は、巨大な猪を見て悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らす様に逃げ出してしまった。
しかし良く周りをみると、草むらの中や木の陰から此方を覗く醜悪な顔が幾つか……。
逃げるならしっかりと逃げて欲しいんだがね。
「ダイキ君!」
「お、オう!」
ダイキ君含む同胞達に指示を出し、狩りの体制を整えた。
武器があって、仲間がいる。
決して勝てない相手では無い! ……筈だ。
◇
突撃、突撃、突撃。
回避、回避、時折攻撃。
その重量で大地を穿ち、その突進力で木々を粉砕する大鎧猪。
奴は、ちょこまかと避けてはチクチクと攻撃する俺に、酷くお冠な様子だ。
「っ! らっ!!」
怒り狂った様に突進して来た化け物を避け、すれ違い様に目玉へ槍を突き立てる。
「ブギィィイッ!?」
「死ぬ……! まじで……!」
猪は、何度と無く投じられた石や矢を殻の無い部位に当てられ、少しずつ刻まれるダメージに焦りと怒りを重ねている様であった。
対する俺は直撃こそ無いものの、
何度も何度も地面を転げ回り、
時には突進が掠って吹き飛ばされ、
擦り傷だらけになっていた。
その上、当たれば即死の攻撃に何度も晒されたおかげで疲労もピークに達しようとしていた。
しかしーー
ーー状況は整った。
「くくっ」
疲労で視界が狭くなっている中、俺の口元には笑みが浮かんでいる。
何故ならーー
「ブギッ!?」
ーー誘導に成功したからだ。
聞こえた悲鳴に振り返ると、其処には、片足が落とし穴にはまって地面へつんのめる大猪の姿がある。
そして、その近くの草むらにはーー
「殺れっ!」
ーー斧を持つ同胞達。
「オォォッ!!」
ダイキ君の雄叫びが響き渡り、振りかぶられ斧は大猪の足に直撃した。
「ブギィィィイッ!?」
森に響き渡る猪の悲鳴。
ダイキ君の一撃は、猪の足へ突き刺さり、大きなダメージを与える事に成功した。
ダイキ君以外の体が大きい同胞達も、雄叫びを上げながら猪の後ろ足へ斧を振り下ろす。
度重なる斧の連撃は、大猪の強靭な足の骨をぐちゃぐちゃに破壊した。
これで大猪は動けない。
後は煮るなり焼くなり俺の自由だっ!
「掛かれっ!」
その声に応じて飛び出したのは、体格に劣る同胞達。
皆は手に手に黒曜石の槍を持ち、雄叫び……と言うより悲鳴を上げながら猪の体に攻撃していく。
ゴブリンに囲まれて、碌な抵抗も出来ずにボコボコにされている猪。
それへトドメを刺すべく、立ち上がった。
疲れで悲鳴を上げる体に鞭打って、
近場の木を駆け上がり、
斧を振りかぶって、
ーー飛び降りた。
ーーゴッ!!
辺りに響いた鈍い音。
それを最後に、俺は意識を失った。
ゴブリンの戦い(真)
大猪との戦い