第1話 ゴブリンの社会
第二位階上位
朝。
俺含む総勢30匹のゴブリンは、洞窟の外にいた。
辺りには草木が溢れ、吹いている風には若草の香りが混じっている。
春か夏かは知らないが、太陽は燦々と輝いていた。
洞窟から出たばかりで慣れていない網膜には、ちと刺激的に過ぎる。
外にいる理由は単純ーー
「腹減っタ」
ーー食料探しだ。
◇
あの後、目が覚めた俺は、横に置いてあったボロ布を腰に巻き、取り敢えず体を動かしてみる事にした。
立ち上がってラジオ体操を行い、腕立てや腹筋したり跳躍してみたりと跳ね回っていると、うるさかったからだろう。
周りにいた同胞達も起き始めた。
楽しそうに見えたらしく、殆どの同胞は俺の真似をして並走して来たり、ラジオ体操もどきをしたりと騒ぎ出した。
中にはただ此方を見ているだけの者や、騒がしさを物ともせずに寝に戻る者もいた。
対して違いがある様に見えないが、個人差はしっかりあるらしい。
また、どうやら女ゴブリンは髪の毛が生えて来るらしかった。羨ましい限りだ。
……取り敢えずお前ら、布を巻け。肌を隠せ!
「全員注目!」
声を張り上げると、寝に入った奴も合わせて全ゴブの醜悪な顔が俺の方へ向いた。
怖い上にキモい。しかし、やっぱ注目無し! と言う気は無い。
俺は自らの腰に巻いたボロ布を指差し、続いて周辺に転がっている大小様々な布を指差す。
ゴブリン達は素直な物で、刺された方向しっかりと見てくれる。
「巻け。布を」
合点が行ったと言わんばかりに全ゴブがコクリと頷き、布を拾いあげる。
その布を腰にぐるりと巻き付け、手を離した。
パサリ。
『……?』
首を傾げて俺の腰に注目する全ゴブよ……。
結局、腰布の巻き方を一から説明したが、やり方を理解したゴブリンは少なく、しっかりと教え込むまで少しの時間を要する事となった。
全ゴブが腰布の巻き方をマスターし、男女で別々の服装になった所で、俺達よりも少し大きなゴブリンが部屋に入って来た。
「オ前達、食料、自分デ取って来イ」
つまりそう言う事である。
◇
腹減っタと妙なイントネーションで呟いたのは、他よりほんの少しガタイが良いゴブリン。
昨夜俺の隣で寝ていた奴だ。
何と無く覚えている記憶を手繰るに、どうやら俺は生まれて3日目。
3日で此処まで成長するのも驚きだが、3日で自給自足を強要されるのも驚きだ。
かくも厳しいゴブリン社会。
最底辺カーストに分類されるらしい俺達は、自力で食料を集めるしか無いのである。
「全員注目!」
駄菓子菓子!
いや、だがしかし。
俺は1人では無い! 周りには俺含めて30もの醜悪な顔ががががーー
ーーコホン。取り乱した。
日の元で見ると凶悪さに拍車が掛かるな。
顔付きはともかくとして、サバイバルの基本原則と言えば、水、寝床、食料、の三つだろう。
幸い寝床はあるので、後は水源と食料だ。
一応は生き物である筈のゴブリンが巣を構えている事から、水源は近くにあるだろうと推測出来る。
取り敢えず水場を探し、続いて食料を探すとしよう。
ワラワラと集まって来た若ゴブ達に指示を出す。
4ゴブ1組で8チームを、足りない所は3人で……と説明し、好きなゴブと組む様に言ったが、理解して貰えなかった様だ。
全員首を傾げてやがる。
此方もまた俺がチーム分けをして、賢い奴を1ゴブ、強そうな奴を1ゴブ、後の2ゴブは適当に、で8チーム作った。
俺のチームは、俺、隣で寝ていたゴブ、賢い女ゴブ、の3ゴブチームだ。
あまり遠くに行かない様に厳命し、何度も復唱させ、出発させた。
さて、俺達も行くとしよう。
「行くぞ、ついて来い」
「わ、わかっタ」
「マ、待って」
ゴブリンの社会
弱肉強食