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第1編第7部

第21章 銀行強盗


数週間がたち、前よりも、暑くなってきた頃、銀行に、スタディンは、預金残高の確認をしに行った。軍から支給されている給金と、学校に支払っている授業料の確認であった。


銀行の中に入ると、とても涼しく感じられた。中には、数人の客しかいなかった。そもそも、そのような時間帯を狙ってきているのだった。しかし、その客の中でも、怪しい格好ををした、3人組がいた。スタディンは、それらを横目で見ながら、ATMへ向かった。その途端、怪しい風体をした男達が歩き出した。気づいた時には、既に、一人が銃を行員に向けていた。他の犯人達は、周りに伏せるように言った。

「金をこれに入れろ」

どすが聞いた声で、脅しにかかった。

「は、はい」

応対した男性行員は、おどおどした様子で、中に入れていた。

「早くしろ!」

「す、すいません」

スタディンはそれを見て、いったんは伏せたが、とある場所に電話をかけていた。


家の中で電話がなる。

「はい、宮野です」

「あ、由井さんですか?銀行強盗です、警察を呼んでください」

通話に気がついた犯人は、銃で、威嚇射撃をした。向こう側にもその音は聞こえていた。電話を切り、由井さんは、警察に連絡を入れた。


「何をやってるんだ?死にたいのか?」

「自分は、軍人だ。軍が一般人を守れなくてどうする。殺すならまず自分を殺せ」

「…どうします?」

「さっさとヤレ、見せしめだ…」

銃を構える。しかし、それを静止した。

「いや、やめろ。警察に連絡を入れるように頼んでいたな、だったら、警察が来てからすればいい。どっちにしろ、ばれちっまったんだからな、おい、お前の名前は?」

「イフニ・スタディン将補だ」

その声で、銀行内は凍りついた。

「イフニ、スタディン」

「本物?」

客の中で、驚きの声が、さざなみのように広がって行く。

「ああ、もちろん。イフニ・スタディン将補、世界最年少で宇宙軍将補に昇格した、その本人だ」

「ハハハ、こりゃいい。人質にはな。お前、こいつを生かしておけ。その代わりに」

ふと、一人の老婦人に目が行った。

「こいつを殺せ」

老婦人の目には静けさと覚悟が浮かんでいた。

「そうですか…まあ、それも運命でしょう」

ゆっくりと老婦人は立ち上がった。

「最後に、私の名前を覚えといて欲しいんですよ」

「言ってみろ。まあ、どうせ殺すのは警察が来てからだがな」

「私の名前は、WPI機関特殊執行部隊P-DE8003号。本当は、スタディン将補を殺す目的でしたが、まあ、ここで爆破すれば、どちらにせよ死ぬでしょう」

いつの間にか手には赤い爆破スイッチが持っていた。

「みんな、ここで死になさい」

スイッチを押した。爆発は起こったが、周りに行かなかった。

「ふ〜、間に合った…」

スタディンが、どうにか、物体硬化の魔法をかけた。

「これで、自分の命が続く限り、爆発は周囲に行きません。その上で、周囲に結界を張ります。その中で爆破します」

それを言いながらも、実行した。


警察が来たのは、由井さんが通報してから、4分後だった。部隊の配置を済ました上で、中に投降の呼びかけを行った。しかし、誰も出てこなかった。

「やはりな。誰も出てこないか…中の様子が分かるか?」

「いいえ、残念ながら」

「そうか…スタディン将補、がんばってくれ」

マスコミも続々と駆けつけていた。


中では、スタディンが、老婦人の爆破処理を完了したところだった。

「さっきの人は?」

「P-DE8003号、ロボットだよ。連邦政府直轄、WPI機関。すでに、消滅したと聞いていたが、まだ、残りがいたんだな」

「そんな事よりも、お前、ここに来い」

銃を構えた犯人が、隅っこにいた青年に言った。恐々として、こちらに向かってきた。

「これを、警察に渡せ。それだけだ。お前はそれで解放する」

えっ、と言う顔をした後、少し、恐々とした自分を恥じていた。

「さあ、早く」

銃で小突かれながら、外に出て行った。


外では、マスコミが誰か出てくると言う事だったので、一斉に、カメラを向けていた。

「人質が一人、解放されました。警察に対して、武器を持っていない事をアピールしています。警察が周囲を取り囲み、保護しました」

そして、彼は、犯人側からの手紙を警察側に渡した。内容は、速やかに発表された。すでに、事件は分かっているからである。

「印がついていない紙幣10000GACで、3000万GAC。逃走用の宇宙船、安全に新中立国家共同体からの脱出。これを要求してきました。12時間以内に返事を要求しています。しない場合は、人質を一人ずつ、殺すとも言っています」

「それに対して、警察はどうするつもりですか?」

「テロリストと交渉する余地など無いが、人質の全員開放を要求しています。現在、銀行の電話とこちらの電話が、直通電話にしてもらうように、通信会社に連絡を入れているところです」

発表はそれで終わった。


銀行内では、時間がたつにつれ、疲労感が出て来た。人質は、一箇所にまとめられており、動けばすぐに、発砲する事だった。人質同士で、スタディンに再び魔法を使うようにせがんだが、こう反論した。

「自分は、実は、正式な訓練を受けていない。もしも、暴発すれば、自分の魔力の量から見て、周囲最低50m以内の建物は、跡形もなく、中の人もろとも、消失するだろう」

ふと、一人の男が、犯人にトイレに行かしてもらうように頼んだ。

「まあ、いいだろう。お前、ついていけ。なんか、不穏な動きがあったら…分かっているな」

「了解、隊長」

銃でこつきながら、男をトイレに行かせた。その時、誰かのおなかがなった。

「腹が減ったな」

犯人だった。電話を取り上げ、警察に昼飯を取るように言った。


警察側は、ピザとおにぎりを持ってきた。その時、犯人の一人が取りに行った時、周りの事を見た。

「そう言えば、周囲は、警察に囲まれているんだったな」

急いで中に入ると、テレビをつけた。国営放送をはじめとして、民放各局も、この立てこもり事件の事を大々的に発表していた。

「現在、立てこもり開始から、2時間が経過しました。現地時間、12時半ですが、依然として膠着状態のままです。犯人側は、食料の調達を指示し、警察側はそれにしたがっています。今の所、犯人側の要求は、一番最初に提示した手紙と、食料のみとなっており、意図がまったく分かりません。動機をはじめとして、犯人の性別、出身星、体格、年齢、氏名、一切不明です。さらに、未確認情報ですが、連邦宇宙軍将補の、イフニ・スタディン氏が、人質になっていると言う情報も、寄せられております。なお、解放された、青年によりますと、中には、3人組の犯人グループがおり、人質は、ATMの前にある、ソファーに、かたまっていると言う事です。犯人は、火器を所有し、警察側も、うかつに近づけない状況になっております……」

その後は、何も聞かなかった。


警察の交渉人が、銀行に近づいてきた。手には、拡声器を持っている。

「犯人の皆さん。そちらの要求をがんばっているところだ。もう少しで達成できる。だから、まず、人質を解放してくれ」

中から、ドアを少し開け、リーダー格の人が、外に向かって叫んだ。

「それよりも先に、ブツを持って来い。それで、一人解放しよう。さらに宇宙船のところで、一人。最後に、新中立国家共同体から脱出を果たした時点で、残り二人を解放する。そう言う事だ。他の時点では対応できない」

そのままドアを閉め、一切聞かなかった。


警察側は、どうにか、要求物を揃えた。それを伝え、中から出るように促した。

「もしも、攻撃なんかしたら、人質もろとも自殺する」

マスコミは、銀行から出てくる様子を見て、いっせいに報道した。


警察が、銀行の中をみると、人質の一人が、中で縛られていたので、それを確保した。


飛行場につくと、宇宙船が一隻用意されていた。すぐにそれに乗り込み、出発した。その際、さらに、一人の人質を解放した。結局、スタディンは、最後まで残った。


宇宙船の中で、犯人達は、札束の山を見て、楽しんでいた。その隙に、スタディンは、手首を縛っていた縄を自力で抜け、もう一人の人質の縄も全てほどいた。そして、犯人の後ろに回りこみ、一気に二人取り押さえた。しかし、もう一人の犯人が、銃を構えた。

「動くな!動くと撃つぞ!」

スタディンはやめなかったが、もう一人は、すぐに手を離した。そして、スタディンも、腰にさしている銃を取り出し、スタディンが取り押さえている犯人の右側頭部に当てた。そして、スタディンもまた、犯人側を脅し始めた。

「こちらとて、同じ事。さらに、こちらは宇宙船の破壊と言うおまけがついている。さっさと、船を第3惑星の宇宙ステーションへ向けるんだ」

スタディンと犯人が、にらみ合っていた。そして、犯人達はゆっくりと銃をもう一人の人質の方に向けた。

「これが、我々の答えだ」

そして、発砲した。


しかし、玉は人質に当たらずに、そのまま素通りした。宇宙船の壁に穴を開け、空気が抜けて行った。

「どういう事だ?なぜ、当たらない?」

「自分を忘れたか?イフニ・スタディン将補。将軍クラスになると全員、魔法が使える事は最低条件だ。ただ、この魔法、今は気まぐれに発動する」

その時、スタディンの力が一瞬、全て抜けたような感じがしたが、すぐにスタディンから別の声が聞こえてきた。

「だが、それも正式な訓練を受けるとなくなるだろう。さすがに神の申し子、我がイフニ神の力を得し存在。神の遺伝子の内、精確にイフニ神の遺伝子のみを継ぎし者。それがスタディンだ」

「お前は誰だ!」

「我が名はイフニ神。お前達を許すわけにはいかぬ。神罰を下すためにここに参った。お前達、どうやって死ぬのがいい?言ってみろ。出来る事ならそれをしてやろう」

犯人は、笑い出した。

「スタディンがイフニ神の申し子?そんな事はない。なにせ人は神になれないんだからな」

「そうか?だったら、こういう事はどうだ?」

犯人達は、全員、意識を失った。

「さてと、この間に船を第3惑星に戻そう」

戻した時、少し動いたような感じがした。


船が第3惑星にある宇宙ステーションに到着した時、すでにスタディンはイフニ神の憑依状態から回復していた。もう一人の人質は、その事を後になって本として出版した。人が神になるというのは新しい事ではなかったが、神の力を得た人というのはほとんどいなかったからである。しかし、スタディンは非常に疲れていたのですぐさま家に帰った。


スタディンは、それから、1週間の間、学校を休んで家で眠っていた。おきた時には、すでに、11月になっていた。


第22章 夏休みの体験学習の宿題


終業式の日に、ぎりぎり間に合った、スタディンは、宿題を渡された。

「みんな、よく聞いてくれ。この前の体験学習と言う事での、遠足は随分な物だった。だから、全員に同じ宿題を出す。但し、今回の夏休みの宿題はこれだけだがその代わりに、夏休みの内の過半数、つまり3ヶ月間ある夏休みだが、そのうちの1ヶ月半は体験学習をして欲しいと言う事だ。それと、スタディンは受け入れ側として回ってもらう。他の軍関係者も同様だ。では、次会うのは来年の2月5日だ。じゃあ、元気にしておけよ」

そのまま解散となった。


「やれやれ、やっと2学期が終わったよ」

「何かといろいろあったからね。お疲れさま」

「もう、家に帰って寝るよ。じゃあ、また3学期に」

そのまま、校門から、吐き出されるように出て行った。


「ただいま〜」

「あら、お帰りなさい。手紙が来ていたわよ」

「え?」

スタディン達が家に帰ると、スタディンとクシャトルに対して、軍から手紙が来ていた。封を切ると、案の定、軍の体験学習の受け入れについてだった。明日からするそうなので、来て欲しいと言う内容だった。

「明日か、また軍の生活だな」

「そうだね」


その夜、スタディンは屋根で夜空を見ていた。

「お兄ちゃん、まだ寝てなかったの?」

「ああ、眠れなくてな」

クシャトルは、スタディンの横に座った。会話は無かった。ただ、二人して夜空を見ているだけだった。ふと、クシャトルが聞いた。

「ねえ、お兄ちゃん。今の生活に、満足しているの?」

「なんだよ、突然さ」

「だってここ最近、いろんな事件に巻き込まれているでしょ?この前だって、銀行に行った途端に、強盗が来るし、軍の方にも行っているし、他にも…」

「大丈夫だって。これまで、それで生きてこられたんだから。これからだって、生きていけるさ」

「………」

スタディンとクシャトルはそう言いながらも、ずっと夜空を見上げていた。時々、流れ星が見えた。その度に二人で騒いでいた。気がつくと東の空が白くなりつつあった。

「もうそろそろ戻ろうか。もう、朝だし」

「うん」

二人は、屋根からおり、家の中に入った。


そして次の日の朝、とても眠たそうな顔をした二人が上から降りてきた。

「おはよ〜ございます〜」

「おはよう。二人にお客さんが来ているよ。川草さんだって」

「君達、いつもこんな調子なのかね?」

見たら、テーブルに、川草師団長が座って、こっちを見ていた。

「師団長、どうしてここに?」

「軍の所に行っても、暇だったからね。それに、君達にこれを渡したかったからね」

師団長は、手紙を二人に渡した。

「これは?」

眠い目をこすりながら、封を切った。

「それは指令書だ。このあいだ、高校生を乗せて体験学習をさせただろう?君達の船にもう一度乗せるようにと言う事だ。今回の任務は、第2宇宙空間の訓練攻撃だ。要らない惑星系をひとつ貸してくれて、そこで第1・第3・第5・第7宇宙空間対第2・第4・第6宇宙空間の軍同士を戦わすそうだ。主戦場は第3惑星で、ここの第3惑星と同じような惑星だが生命が育たなかったらしい。今回は第1宇宙空間の軍代表として、我が第2師団が参戦する事になった。第1宇宙空間の宇宙軍代表としては君が指揮をするんだ。第1宇宙空間宇宙軍将補イフニ・スタディン及びクシャトル。君達に対し今を持って辞令を交付する。これがその辞令書だ。指令書と合わせて読みなさい。では」

師団長は出て行った。そして、クシャトルとスタディンは、とにかく第2師団へ行く事にした。


第2師団では、まだ誰もきていなかった。ただ、軍の人が場所をセットしているだけだった。

「おお、来たか。二人とも。もうそろそろ集合時刻だから、みんな来る頃だな」

師団長が、スタディン達を見つけて声をかけた。

「お、来た来た。じゃあ、並ばして。向こう側から、陸軍、空軍、海軍、宇宙軍の順番で行きたい所に自由で」

「分かりました」

師団長はどこかへ消え、スタディン達が誘導をした。


全員が並び終えると師団長が現れて長々と説明をした。それが終わるとそれぞれの軍についての説明をした。その後、ようやくそれぞれの軍に分かれた。そして、スタディンは船に案内した。


スタディンの所に来たのは清正美高校1年2組と、近くの小学校から来たと言うアントイン・ヨウクス・シャンドールだった。この前は散々だったから、その代わり今回に賭けると言う事だった。それに、他に体験学習をしているところが無かったと言う事もあった。一行は、玄関に入った。

「さて、ベル、ここにいる全員の生体データを照合、一致しない人をリストアップ」

「了解、照合開始……………………照合完了、1名以外、一致しました。一致しないものに対しては、どうしましょうか?」

「アントインだろう。通常通りの手段を」

「分かりました。瞳孔、入力完了。指紋、入力完了。静脈、入力完了。全ての入力を完了しました」

「じゃあ行こう。ああ、その前にみんなこの紙に行きたい部署を書いてくれ。第3希望までだからな。ベル、自分とクシャトル以外にここの部署の名前を内容の紹介を頼む。終了後全船放送「10分以内に、ホールに集合。今回の任務について説明する」以上だ」

「了解しました」

スタディン達は彼らをその場に置いて、指揮室に行った。


指揮室に行くとすでにシアトスが操縦席で何かしていた。

「あ、船長。おはようございます」

「ああ、おはよう。後で、船内放送かけるようにしたからそれを聞いてくれ」

「了解しました。ところで…今回も体験学習とかで…」

「ああ、自分の同級生ばかりだ。行きたい部署を書かせているところだから、いずれ決まるだろう」

その時、船内放送が流れた。

「全船放送、10分以内に、ホールへ集合する事。今回の任務について説明する」

スタディン達は、ゆっくりと、エレベータの方向へ向かった。


きっかり10分後。ホールには、全乗組員と体験学習のために乗船している生徒一行が集合した。どうにか全員はいる事に成功した。そして、スタディンが一番前のステージに立ち説明を始めた。

「今回、全宇宙空間の各軍によって第2宇宙空間上で戦闘訓練を行う事になった。要らない惑星系をひとつ貸してくれて、そこで第1・第3・第5・第7宇宙空間対第2・第4・第6宇宙空間の軍同士を戦わす事になった。さらに、この船は第1宇宙空間から派遣された軍の旗艦として機能する事になっている。今回の戦闘訓練は模擬弾を使用するが、実践さながらの訓練となる。それと、第3惑星上では陸海空軍がそれぞれ、戦闘訓練を行っている。以上だ。これより本船はその模擬戦闘訓練実施場へ向かう」

そして、ホールからは全員出て行った。


第2宇宙空間。そこはひとつしか銀河が存在しない宇宙空間だった。果てしなく広がる漆黒の空に、ひとつだけ輝いている銀河。それが第2宇宙空間の姿。その中の31腕/第398惑星系にて、模擬戦闘が行われる事になっていた。そこに到着する前に奇数の宇宙空間番号が振られている、それぞれの軍の指揮官が一堂に会する機会があった。スタディンとクシャトルは、第1宇宙空間宇宙軍指揮官としてそこに出向いた。


「こんにちは。失礼ながらも、お名前と階級と軍の種類を話してください」

にこやかに、話しかけてくる会場の扉の前に立っている警備員が言った。

「イフニ・スタディン、階級は将補。第1宇宙空間宇宙軍より模擬戦闘に参加するために来た。こちらは、自分の妹で、イフニ・クシャトル。以下同じにつき省略」

「分かりました。どうぞ、お入りください」


中に入ると、宇宙船のホールの広さぐらいのところに、白いテーブルクロスをかけた丸いテーブルがあり、その上には花や食べ物が置かれていた。どうやら立食パーティーのようだった。

「さて、どうしようか」

スタディンが次の行動を考える間も無く、後ろから声がかかった。

「イフニ・スタディンですね。史上最年少で将補になった少年。そのお隣のあなたは、イフニ・スタディンの妹のイフニ・クシャトルですね」

その声の主を見ようとスタディンとクシャトルは後ろを振り返った。こちらを見ていたのは海軍の服を着ていた青年だった。

「はじめまして。自分は第4宇宙空間海軍のゲツダン・コロッサムです」

そうして、コロッサムは、握手をしようとして手を伸ばした。スタディンもそれに答えた。


そして、そんなパーティーも終わり、模擬戦闘の概要について発表があった。発表者は全宇宙空間軍代表、新中立国家共同体つまり旧3惑星連邦国の特別自治省大臣でもある大垣泰三だった。

「今回の模擬戦闘の概要について、ここで発表します。今回、第2宇宙空間国のご好意によって惑星系ひとつそのまま借りる事が出来ました。この場を借りてお礼を言わせていただきます。ありがとうございました。さて、模擬戦闘についてですが、範囲は31腕/第398惑星系全域とします。ただし、陸海空軍については第3惑星上のみの戦闘とし、惑星系の範囲は第14惑星の軌道までとします。それを1000km以上出た時点でその船は失格とします。撃沈と同じだと思ってください。それと陸海空軍については、それぞれに同一プログラムを入れる事になります。それが撃破されているかどうかを調べます。撃破表示されたらプログラムがすぐさま周囲の船に対する攻撃を強制的に終了させる事になっています。それと同時に近くの陸地に着陸又は自動停船し、信号を出します。それを出している船及び飛行機又は陸軍車両に対しての攻撃は、戦争法違反として模擬戦闘反省会時での軍法会議にかけられる事になる事が決定されています。宇宙船についても同様とします。さて、船体には見た目で敵味方が分かるように、色を塗ります。特殊な塗料だから偽装は不可能ですが、これも偽装した場合は、戦争法違反とします。質問は?」

誰も言わなかったので、それぞれのグループに分かれて作戦会議をした。


スタディンとクシャトルは、第1宇宙空間の宇宙軍としてここに派遣されているので、奇数軍側に行く事になった。


第1宇宙空間、第3宇宙空間、第5宇宙空間、第7宇宙空間。それぞれの宇宙軍の指揮官が集まった会合にて、次のことが決まった。総指揮官は、最も熟練している、第5宇宙空間の厚木幽鬼大将。作戦参謀として、他の指揮官がつく事になった。但し、第1宇宙空間の指揮官である、スタディンとクシャトルは、周囲から見て、年齢が低すぎたので、厚木大将の下で、その腕を見る事になった。


「よろしく頼むぞ。クシャトル君、スタディン君」

厚木大将は挨拶をした。

「こちらこそ、よろしくお願いします。厚木大将殿」

クシャトルとスタディンは敬礼をした。それを見て厚木大将はにやりとしたが、何も言わずに出て行った。スタディン達はその後ろを追いかけた。


この模擬戦闘については宣伝もされていた影響で、すぐ隣の第397惑星系にて生中継がされていた。そして、そこには赤城沢井の姿もあった。(がんばれ、スタディン、クシャトル)声に出さずに応援をしていた。


そして、時間になった時。大垣泰三が全ての参加している人々に対し、戦闘開始の宣言をした。

「これより模擬戦闘を開始する。なお、期間はこれより1週間とし、再び合図で停戦とする。では、始め!」

こうして、模擬戦闘が開始された。


第23章 模擬戦闘・テロ攻撃?


ここでベルに乗り込んだ人達の部署の紹介をしておこう。清正美高校第1年2組及びアントイン・ヨウクス・シャンドールで、部署名の次に本名を書き出していく。本章の中のみ、呼称は、苗字又は、通例呼称している名称とする。但し、アントイン・ヨウクス・シャンドールのみは、ヨウクスと呼称する事にする。

食堂部、麻井正平、諏訪来瑛、焼森乾。

機関部、宇川章吉、嘉永徳鋭、嘉永清水、成和也好、年台俊三、守宮美弥子、野志捌甘苦楼。

医務部、井上加奈子、江西沢東、菊川憲太、騎虎諒太郎、口貝幸之助、宮野瑛久郎。

実験開発部、エア・アダム、竿灯佐和子、ヨウクス、興国空、師走正之助、勤背加子。

栽培部、蛍池香子、靄野野原、伊口康平。

攻撃部、岡島衿子、小埜陽子、草成奈留子、館沢花音。

防御部、九対九太郎、兼好国重、沢口早苗、蘭近先達。

指揮部、万年忍、媛洲歓喜、手谷一郎、東南有子。

通信部、夏目科涙、西紀子助、智呂恭介、弧川利恵子。

指揮官、イフニ・スタディン。

なお、クシャトルについては、副指揮官という役職になる。


「戦闘開始だ」

厚木大将の声が響く。これから1週間は生き残りを賭けた、サバイバル同然の戦闘が続く予定になっていた。


初日、両方とも様子をうかがっており行動に出てこなかった。時々、射撃を試みる程度。船体に傷がつくと言うレベルではなく、すべてバリアで消滅した。


二日目、午前中は初日と同様だったが、午後に入ると相手側が動き出した。


「動いたな。第3、第7は、散開。第1、第5と共についてくるように」

宇宙軍のみしかこの戦闘には参加していないもの同然だったので、第1とか、第3とかで通用した。

「了解」

速やかに、返事が帰ってくる。


第2側が陽動作戦のような行動に出てきた。第4、第6が後ろで待機しているようだった。どうやら、これでいけると踏んだのだろう。

「では、こちらも行くか」

厚木大将は、スタディンに魔法を使うように指示。スタディンとクシャトルは、初めて、宇宙空間上で、光輝剣を発動した。

「魔法準備できました」

「よろしい。そのまま待機。相手も、こちらの様子をうかがってるはずだ」


すると、第3、第7が交戦に入ったと言う情報が入った。その直後、第3、第4、第6、第7が交戦の結果、相撃ちになったと言う情報が寄せられた。

「そうか、第3、第7が、やられたか」

「どうします?厚木大将」

「スタディンならどうする?」

「自分ならば……」

その時、スタディンはふと見た画面に釘付けになっていた。

「すいませんが、厚木大将。本船より右下の方向、380万km付近に船影がありますか?」

「ああ、そうだな」

「第3、第4、第6、第7は、やられました。すでに、域外へ脱出済みです。それに、第2は、目の前にあります。だとすると、このこちらに向かっている、この謎の船は?」

厚木大将は、速やかに行動に移った。

「現在の状況を確認。模擬戦闘本部へ連絡、同時に第2の方へ連絡。さらに全方位暗号通信、内容「不審船発見、迎撃許可申請」以上だ」

「了解、ベル、分かったか?」

「承知済み、既に実行しました」

本部からは、すぐに返事が来た。

「厚木大将、本部より入電です。第1種暗号文、内容「不審船確認完了。船籍不明。確認後、威嚇射撃を経て迎撃許可」以上です。なお、第2より入電。内容「一時戦闘の中止、不審船確認済み、迎撃協力要請」です」

「分かった。では、これより、第1、第2、第5は、模擬戦闘を中止し、不審船を確認に行く」


不審船は、超光速旅客機のような姿をしていた。近づくと、中から生体反応があった。

「生体反応有り、人数…確認終了。総人数398名。女性が半数を占めております。船籍、不明。現在、不審船側のAIへ接続中。………接続完了。非常事態発生、船籍、依然不明。所有者、キャルロット・マンバース。現在、第1種指名手配犯です。罪状、テロ攻撃の指揮、革命の指導者、殺人43件、強盗32件、強姦確認済みで136件。全宇宙空間より、30秒以内で集合可能。なお、エンジンの過負荷を確認。縮空間への移動は不可能。さらに、異空間航行時には、エンジン性能を大幅に超過。結論として、通常運転のみと言う判断です」

ベルがすぐに調べた。

「どうしますか?厚木大将」

「さて、どうしようか。まずは敵に対しての威嚇射撃だな」

「そうですね」

第2の、船長の、ノトハニ・ナラハが言った。

「応援に来ました」

「誰だ」

「第1宇宙空間宇宙軍、作戦参謀長、ルイス・カルートルンです。応援要請を受けて、ここに参りました。厚木大将の指揮下に入る事も合わせて伝えられております」

そうして、次々と船が来た。


「さて、第1〜第7の、宇宙軍各位について、迅速な対応、感謝の意を表す。しかし、こうして話している間も、こちらの方に近づいている。何をするつもりか分からないが、とにかく、周囲を固め、この宙域から出させるな。では、散開せよ」

厚木大将の命令により、すぐさま、散らばっていった。


中心には不審船。その周りを、一定の距離を開けて球状に取り囲んだ。厚木大将が、相手に連絡した。

「こちらは宇宙軍だ。今すぐ停船し、こちらの指示に従いなさい。応答しない場合は強硬手段をとる」

返事がなかった。さらに、向きを変え逃げ出そうとしていた。しかし、その方向にはこの惑星系の恒星があった。

「いったい、何をするつもりだ?」

ルイスが言った。スタディンは、いち早く気がついた。

「まさか、恒星を爆破するつもりなんじゃ…」

その時、新たに謎の船が現れ、発射しようとしていたミサイルを強制的にあらぬ方向へ飛ばした。その船体には、魔法教団のマークがあった。

「貴方達は、何をしているのですか?」

厚木大将が答えた。

「もしや、あなた方は魔法最高評議会の5会長ですか?」

「そうだ。まあ、不審船が来ていると言う情報を聞いて、まずい事になる事が分かったから、すぐに来たんだ。だとして、まずは停船ぐらいさせたらどうだ?」

この通信は、完全暗号対応していたので、解除コードを持っている船以外は聞き取れないようになっていた。

「すみません。自分の過ちです」

「過ちとは、気づいた時に直すもの。間違いと今分かったならば、今から直せばいい」

「分かりました」

「それはそうと、あの船、どこの船か検討ぐらいついているんだろうな」

「実は、まったく分からないんです」

「なるほど、では、教えてやろう。あの船は、早い話が、反政府組織の過激派が乗り込んでおる」

「今は、女性も過激派集団の一員ですか」

「そうだ。まあ、言えるのは早々に捕まえるのが得策だと言う事だな」

そして、彼らは、どこかへ去っていった。

「ここまで来たら、手伝えばいいのに」

スタディンが乗っている船で、指揮室勤務になった、手谷一郎が言った。

「そうもいかないのが、彼らなんだよ。さすがに魔法最高評議会の5会長ともなれば、相当腕も立つけどあちこちから呼ばれる事も多くなるからね。それもあるんだと思うね」


スタディン達、宇宙軍は、速やかに船の脇につけ中に乗り込んだ。


「ベル、どこに行けばいい?」

「第1宇宙軍についての指示は機関部の制圧。機関部は、そこから3つ目の4つ角を右に曲がった所にあるエレベータを3階下におりてそこから一直線に着き辺りまで行った所を左に曲がり3つ目の扉を入ったところの廊下を着き辺りのひとつ前の廊下まで行った右側にあります」

「………すまんが要所要所で指示を出してくれ。まず、エレベータまで行くことにする。では総員、攻撃態勢を取ってくれ。先ほど選抜したメンバーは自分と来てくれ」

スタディンは、不審船に乗り移った。


「こちら、異常無し」

「こちらも同様」

あちこちから、安全確認をしている声が聞こえる。

「了解した」

スタディンもその声にすぐに答える。

「3つ目の4つ角…ここを、えっと、右だったな」

曲がると、そこにエレベータがあったが、その前に、不審な物体が、いくつも落ちていた。

「あれって、地雷?」

攻撃部に所属している館沢花音が言った。

「恐らくは。安全圏まで退避。かっちゃん、手榴弾をひとつ貸してくれ」

「え、うん」

羽織っていたベストの内側に付けてある手榴弾をひとつ手渡し、廊下に投げ入れた。黒い煙と衝撃音と衝撃波が同時に来た。しかし、船はあまり揺れなかった。

「どういう事だ?」

「とにかく行こうよ。地雷は全て誘爆したと思うし」

「そうだな」

慎重に、エレベータの中に入り込んだ。

「3階下…ここって、何階だ?ベル、ここは何階だ?」

「今いるその階は、351階です。そこから、3階下に降りてください」

「351階から3階下…348階だな」

エレベータに乗り込んでいるのは、スタディン、クシャトル、館沢花音、智呂恭介、井上加奈子、小埜陽子だった。


「さてとこれからが長い廊下だ。ベル、これから先、人物を探知した場合はすぐに、自分、クシャトル、館沢花音、智呂恭介、井上加奈子、小埜陽子、計5名に連絡、さらに火器を発見した場合も同様の措置をとる事」

「了解」

ベルトの通信が終わりゆっくりと前に進んで行く最中、小埜が言った。

「そう言えばスタディンって、いつもこんな事しているの?」

「え?どういう事?」

「こんな戦闘行為とか、指示とか」

「戦闘は基本的にないけど、指示とかならいろいろしているよ。まあ、ベルに指示出す前に衝撃に弱いらしくてさ、自分自身が気を失う事もあったけどね」

「そうなんだ〜。将補とか言うから、てっきりいつも戦っているとか、そんなイメージがあったよ」

その時、ベルから連絡が入った。

「人影発見、武器所有、3名、右廊下、そこから3つ目です」

「すぐに隠れろ。クシャトル、館沢、井上は左。残りは、右だ」

すぐに、廊下の陰に隠れた。足音がゆっくりとこちらに来る。スタディンは、特殊暗号無線を使い、連絡を取った。

「こちらスタディン。現在、348階機関部付近にて交戦中。敵は3名。全員武装」

「厚木大将だ。スタディンの話、了解。現在、その他の地域にて、作戦を同時に執行中。既に、調理場、倉庫、弾薬庫は制圧済み。残りは、機関部、艦橋だ」

「了解。機関部制圧を目指します」

その時、向こう側から、声が聞こえた。

「さてと、楽しみましょうね。坊や達」

突然、機関銃を撃ってきた。スタディンは、指示を出し、特殊な爆薬を仕掛けた。そして、速やかに、そのばから、両脇に寄った。

「さん、にー、いち。爆破!」

そして、機関部付近まで一瞬で、穴が開いた。

「さすが、ヨウクスだな」

「これって、何?」

「アントイン・ヨウクス・シャンドール。ネットによると彼女の父親はアントイン・クランシドール。世界に名だたる発明家だ。しかも、専門は爆薬関係。この爆薬は実地テストも兼ねてここで爆破した。まあ、上層部への報告書の量が一瞬で2倍になっただけさ」

みんなはその出来た穴を見た。

「この爆弾の種類って何?」

「元々は芯雷爆薬だったらしい。信管を中心として、いくつかの小さな爆薬をつめる。それぞれに、雷管、つまり発火装置を入れて、信管と連動するようにする。それで、ドカンだ。だが、これはそれをさらにヨウクスのてによって、改造を加えた物らしい。爆破率は、100%。絶対に爆発する」

「振動とかは大丈夫なの?」

「彼女によれば、大丈夫らしいんだが…自分自身は、あまり、な」

強烈な振動が船を襲っていたらしいのだが、この時点で、スタディン達はそれに気がついていない。それどころか、振動だけでなく、超強力な爆薬を開発している事すら気がついていなかった。この爆薬は、後々にヨウクス式といわれる爆弾へと変わる事になった。


「さて、前に進もう」

「でもさ、スタディン。前に進むって言ったって、どうやって?」

「こうやってさ」

スタディンは、練成をした。この爆発後の周囲に沿って、通路を作った。

「さて、これを通ればいいだろう」


スタディンが作った道を通り、一行は着き辺りまで来た。

「ベル、次はどこに行けばいい?」

「そこを左へ曲がり、3つ目のドアです」

「どちら側の3つ目だ?」

「両方合わして3つ目です」

「分かった。では、行こう」

そして、3つ目の扉が、右側にあった。

「これだな」

扉を開けると、両方に、枝分かれして行く通路があった。

「着き辺りのひとつ前の廊下だな」

どんどん進むと、着き辺りがあった。そこで、後ろを向いて、ひとついった所を進んでいった。

「ここであっているんだな?」

「はい。その道のつき辺りの扉が、機関部です」

数分後、ようやく扉を見つけた。

「この中か、行くぞ!」

扉を開けた。


中には誰もいなさそうな感じだった。

「ベル、誰かいるのか?」

「生体反応は感知できず熱反応も無し。そもそもエンジンすら動いていません。火器類は無し」

身構えていたスタディン達は、銃をおろした。

「やれやれ、これで制圧完了だな」

スタディンは、厚木大将に連絡を入れた。

「スタディンより、厚木大将へ」

「こちら、厚木幽鬼。スタディン、どうぞ」

「現在、機関部です。制圧完了しました」

「分かった。これで、君も…いや、後で教えよう」

「なんですか?今教えてくださいよ」

「いや、全員が制圧完了を伝えてきてからだ。そのまま、引き上げても構わん」

「了解しました。これより、ベルに引き上げます。交信終了」

スタディンは、良く分からないまま、帰った。


「さて、良く生きて帰ってこれたな」

「どういう事ですか?後で教える内容とは」

「もうそろそろ、本部の人が来る頃だ。その人達から直接教えてもらうほうがいいだろう」

スタディンは、そのまま引き下がった。すぐに厚木大将の声が聞こえなくなった。


そして、艦橋制圧が伝えられた時、同時に本部船が来た。本部からの船が厚木対象が乗船している船に接地したのと同じくして、今回参加した全ての船に同じ映像が送信された。スタディンはそれを指揮室から見た。


「皆さん、お疲れさまでした。今回の不審船は特殊なプログラムによって、あたかも人が乗り込んでおり、なおかつ人が操縦しているように見せかけるものでした。今回、このようなことをしたのはそれぞれの指揮官がその素質を持ち合わしているかどうかを実際にテストする事です。今回の結果は2〜3日後にそれぞれの登録している家の方に郵送します。さて、これから模擬戦闘はそのままお流れとして、最初にいた惑星にて夕食会を開きたいと思います。皆さん、そちらの方で集合してください」

そのまま、本部の船は、そちらの方向に進んで行っていた。


「なんだよ、それ。テストとか」

愚痴をこぼしている人もいたが、スタディンはテストされていたと言う事に、気がつかないようにする事がすごいと思っていた。

「さすがだな」

気がつくと、独り言を言っていた。

「何がさすがなの?スタディン」

近くにいた、東南有子が聞いた。

「敵をだますならばまず味方から。でも、今回の敵って、一体誰なんだろうな」

「さあ、良く分からないけど…とにかく行こうよ。それで、何か分かるかもしれないし」

「そうだな…」

スタディンは考え事をしているようだった。有子はそれ以上何も言わないことにした。


惑星到着後、同じような騒ぎにあわされていた陸海空軍も一緒になった、盛大な夕食会が開かれていた。しかし、それぞれの船に、それぞれの体験学習生を乗せているらしく、アルコール類以外の物も充実していた。スタディンは散々飲み食いして、お開きになるまで、ずっと他の人達といろいろ話していた。


船に戻り、そのまま家に帰ったのは、結局、模擬戦闘一週間と言う期間ではなく、たったの3日だった。


第24章 長い休み


家に帰ってからすぐに、スタディンは手紙が来ているか由井さんに聞いた。

「ええ、軍の方から手紙が一通来ているわよ」

それはあの戦闘テストの結果通知表だった。スタディンとクシャトルはその中をみた。

「イフニ・スタディン殿:360点満点中278点。なお、減点方式の採点。減点対象は以下の通り。

・船の大幅な損壊

・威力が弱いながらも、地雷破壊行為のみでの手榴弾の使用

・頻繁な本船との交信

結論:合格」

スタディンとクシャトルはどうにか合格していた。クシャトルの方も同じ事が書かれていた。

「やれやれ、結果としては良かったか」

その時、誰かが尋ねてきた。

「はいはい…あら、赤城さん」

「すいません、この子が、どうしても、ここに来たいと言うものですから…」

「構いませんよ。さあ、上がってください」

スタディンは、沢井と、他の人達がきた事を確認した。

「おっじゃましまーす」

楽しそうな声が聞こえてきた。その中で、一人だけ、船に乗っていた人が見えた。

「ヨウクス?」

「はい、そうですよ」

「あのね、この子ね、学校の宿題でね、船に乗っていたんだって」

沢井がみんなに説明する。周りは驚いた表情をしていた。

「でもね、私も乗りたかったんだけどね、身長制限があってね、乗れなかったの」

「身長、どれだけなの?」

クシャトルが聞いた。

「えっと、私、何cmぐらいに見える?」

「う〜ん、大体、140前後、かな?」

「当たってるよ。私ね、141.5なの。インターネットで調べた軍の規約によると、145以上じゃないと駄目なんだって。でも、特例措置として連邦内閣によって特別に認められた人なら、別に構わないんだって」

「良く調べたな、そんな事」

スタディンが言った。その言葉を無視するように、沢井が続けた。

「それよりも、すごかったね。あの、えっと…なんだっけ?」

「模擬戦闘」

「そうそう、模擬戦闘。私ね、特設スクリーンで見ていたの。あんまり見えなかったけどね」

「そうか、そんなものが用意されていたんだな。その中に、テロ攻撃の演習とかそんな説明、無かったか?」

スタディンが聞く。

「ううん。何にも無かったけど、その攻撃中、ずっと、スクリーンの右上に、訓練中って書いてあったよ」

「……………」

スタディンとクシャトルは黙ってしまった。


その後、いろいろ遊んだりゲームをしたりした。そして、彼女らと入れ違いに川草司令官が来た。彼は、出て行く沢井達を見ながら言った。

「彼女らは誰だ?」

「自分の知り合いです」

スタディンが言った。声で誰かは既に分かっていた。

「ところで総司令官。自分達に何のご用でしょうか」

「ああ、報告書の件だ。ま、今回は別に書かなくてもいいという事を伝えに来た。それと由井さんの、とてもおいしい料理を食べに来た」

「まあ、お世辞がうまいわね。でも、ほめても何も出ませんよ」

「ほめる前に、誰の家かをはっきりと認識したらどうだ?」

達夫さんが、玄関で立っていた。

「家の中でナンパでもしようって言うんなら、遠慮なく家宅侵入罪で警察に突き出す」

達夫さんはにらんだ。しかし総司令官は、臆する事無く言った。

「そんなつもりはありません。ただ、自分はあなたの奥さんの料理がとてもおいしいと言っているだけです」

誰かのおなかが鳴った。しかし誰も気に止めなかった。

「それよりも二人とも。そんなイライラしっ放しだったとしても、いい事なんか何にも無いわよ。さあ座って。夕食、まだでしょう?」

「そうだな」

達夫さんが言った。

「自分もいいのでしょうか?」

「ええ、もちろんよ」

総司令官が聞いた事に対して、にこやかに、由井さんが答えた。


総司令官が夕食を食べて帰った後、インターネットで軍の事を調べた。

「まあ、どんな風に見られているかなんて、中からだと分からないからな」

スタディンが言う。そして、見つけたのは、超巨大な情報集積所だった。

「えっと、ここには、古今東西、さまざまな情報があります。だと」

スタディンが説明を読みあげる。クシャトルが探した。

「軍については、ここにあるね」

ちょうど表示されていた場所の右下に、新中立国家共同体軍隊と書かれたリンクがあった。そこをクリックすると、宇宙軍、陸軍、海軍、空軍、各軍の情報板があった。スタディンは、その中で宇宙軍の所を選択した。すると2000件近くの情報が出てきた。批判的な文言の人もいたが、逆に肯定的な人もいた。数は大体半分ずつだった。

「さて、どれから見ようか」

「どれからでもいいんじゃない?」

スタディン達は、一番上から見始めた。


1時間ぐらいかけて、ようやく100件読んだ。

「長い、長すぎる!どうやったら、こんなにたまるんだ?」

「それだけみんなが意見を出したいっていう事だよ」

クシャトルがいさめる。

「とりあえず、今日も遅いし、寝ようよ」

スタディンが驚いて時計を見上げると、10時になっていた。

「そうか、もうこんな時間か」

スタディンはパソコンの電源を落とし、1回背伸びをして部屋に戻ってから、みんなと一緒にベッドの中に入り眠りについた。


そして、スタディンは夢を見た。クシャトルがすぐ横にいた。見知らぬ神々がいた。

「貴方達は?」

スタディンが聞いた。

「私達は未来の君達だ。世界は常に循環をしている。それに乗り遅れたものは奔流に飲み込まれ、歴史の渦の中に消え去る。しかし運よく乗れたものは、奔流にも飲み込まれずに、歴史というとても分厚い本の一ページに名を刻む。結果としては世界の乗り遅れてはならぬ。だが、運命は既に決まっておる。神はその運命を直す存在。一人の人間の生死を司っているのではなく一人の人間の運命を司り、その者の運命に抗う力に見合っただけの力を与える存在だ」

「さあ、もう、眠りなさい。起きれば、運が良ければこの夢を憶えているだろう。だが、これだけは憶えときなさい。運命と言うのは自分の努力次第でどうにでもなる。我々神はそれを見つめているだけだ」

声は遠ざかっていった。スタディン達はこの夢を忘れたが、最後の言葉だけは憶えていた。

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