第1編第6部
第16章 2学期
「この2学期には、いろいろと大きな行事があるからな。みんな、心してかかれよ」
担任の金田先生が最初に言った言葉だった。
「例えば、どんな行事ですか?」
「そうだな、遠足、体育大会、芸術鑑賞会。他にもいろいろとあるな」
みんな、楽しそうな顔をした。
「だが、今日から、それぞれの授業で、テストもあるし、まあ、ない教科もあるがな、それに、今学期は、定期テストが、なんと、3回もあるんだ。さて、こちらとしてはとても楽しみだな」
生徒の顔は一様にして哀しそうだった。
「さて、それよりも、早速歴史の時間だ。これから、歴史のテストを行う。みんなー、準備してくれ」
出席番号順になる。
「では、これから私語はテスト終了まで禁止だ。した者は、問答無用で歴史のテストは0点になる。覚悟しとけよ。それと、携帯も確認しておけ」
配られた歴史の問題は、こんなものだった。ちなみに、答えは、一番最後に表示する。
「?初代連邦大統領の名前は?」
「?宇宙戦争において、最終戦闘地となった場所は?」
「?クーデターによって、政権を奪取した人の名前は?」
以降略…
50分が過ぎた。チャイムがなり、試験が終わった事を知らせた。
「よーし、そこまでだ。悪あがきはよせよ」
回答を整え、そのまま帰っていった。
あっという間に、一日が終わった。
「あ〜あ、また一日が終わったよ。なんか、テストばかりだったな…」
スタディンが愚痴っていると、横からクシャトルが抱きついてきて、
「しょうがないじゃない。だって、テスト週間よ」
と言った。影は、夕日によって細長くされ、道に張り付いていた。
さらに、1ヶ月と2週間が経った。ある日の事。
「明日、遠足だからな」
唐突に、終礼の時間と言う時に、金田先生が言った。
「先生、そんな事は、先に言ってくださいよ。準備があるんですから」
「あり?準備も何も、テスト週間明けに配ったプリントに書いてあったはずだが?とにかく、遠足先は、明日発表という形を取る。大丈夫だ。だが、遠足といったって、3泊4日だが集合は、午前7時。ここに集合してくれ」
スタディン達は、家に帰り、そして、準備をした。途中、沢井が遊びに来たため、中断したが。
翌日、スタディン、瑛久郎、アダム、シュアン、愛華、クシャトル、イブは、3泊4日の旅に出かけた。
「いってきまーす」
「はいはい、いってらっしゃい」
由井さんに見送られ、彼らは遠足に出かけた。
「でもさ、遠足って言ったって、また、どこに行くんだろうね」
「さあな。自分らは知らないからな」
スタディンとクシャトルが話していた。
「多分、普段行かないようなところだろうな。そうじゃないと、遠足っていう意味がないからな」
後ろから口を挟んだのは、アダムだった。
「じゃあ、アダムはどこに行くと思う?」
「そうだな…別の宇宙空間に行って見たいな。だって、7つの宇宙空間があるんだろ?それが、激しく絡み合っていて、成り立っているんだろ?じゃあ、この宇宙空間だけじゃなくて、別の所に行きたくなるだろ?」
「そりゃそうだけどさ、そんな金、どこから出るんだ?」
「政府じゃない?」
再び意見を言ったのは、愛華だった。そうこうしているうちに、学校に到着した。集合時間の10分前だった。
「さて、誰か来ているかな?」
クラスの半分ぐらいがいた。
「結構いるね。じゃあ、私達、クラスの所に行くから」
「ああ、また」
クシャトル達は、別のクラスに行った。その場に残ったのは、1組の人達だけだった。
第17章 遠足
「さて、全員揃っているな」
金田先生が、7時と同時に集合場所に入った。そして、点呼終了後、全員を集めて、話した。
「さてと、今回の遠足は、クラスによって行く場所が違う。我らが1組は…」
行く場所が違うと分かった時点でみんなは嫌な顔をしたが、文句は誰も言わなかった。そして、場所が発表される瞬間、とても静かになった。
「1組は、宇宙軍を見に行く事になった。しかも、ただの宇宙軍じゃないぞ。スタディンが所属している第2師団宇宙軍の、えっと、なんていう名前の船だっけ?」
先生がスタディンの方を向く。スタディンが素早く答える。
「宇宙船「ベルジュラック」号です」
「そうそう、ベルジュラック号ね。その船に乗せてもらって、4日間、体験学習という形を取るから。ああ、スタディンは、その間艦長に復職してもいいって言う特別な許可があるからな。それと、スタディン。お前は軍服があるから、後で取りに帰ってから、第2師団に来てくれ。他の者はこの俺について来い」
「そうですか…」
「じゃあ、みんな、これから、遠足に、出発だー!」
だが、盛り上がっていたのは、先生だけだった。他の生徒は、ただ単なる遠足ではないと気づいていたが、体験学習までさせられるという事を聞いて、すごく落ち込んでいた。その時、諒ちゃんが近づいてきた。諒ちゃんというのは、騎虎諒太郎という名前の同じクラスの男子である。ちなみに、卓球部に所属している。
「なあ、スタディン」
「なんだ?諒ちゃん」
「宇宙軍って、どんな事してるの?」
「まずそこか。ま、向こうについたら嫌でも教えられるよ」
スタディンは、ここで、みんなと別れ家に軍服を取りに帰った。
軍服と徽章を身に付けるのは、1ヵ月半ぶりだった。
「やれやれ、かびてないといいんだが…」
袋に入っていたので、そのままの格好で、持ってきた。
第2師団の中は、他の学校からも人が来ていた。
「おいおい。本気かよ」
スタディンは、その人達を割り込んで、清正美高校1年1組の元へ駆け寄った。
「先生。持ってきました」
「おお、そうか、じゃ、早速着替えてきてくれ。それまでここで待ってるから。これが、スケジュール表だ」
渡されたのは、A4サイズの紙一枚だった。そこには、初日から、最終日までの航程表になっていた。
「分かりました。では、ちょっと待ってください」
本部の中に入るのも、1ヵ月半ぶりだった。
「やれやれ、なんでこんな事しなきゃならないんだ…」
ふと、前を向くと、女性更衣室から、クシャトルが着替えて出てきていた。
「あ、お兄ちゃん」
「なんだ。クシャトルも、副船長に復帰か?」
「うん。そうなの。なんか知らないけど、宇宙軍についてもっと良く知ってもらおうっていう上からの意向らしいよ。それで、私達が動員されたんだって。ちょうど、遠足の時期だし」
「はあ、そう言う事か…」
「良く知っているじゃないか、イフニ・クシャトル将補」
男性更衣室から出てきたのは、第2師団師団長だった。
「あなたも、ですか?」
彼の軍服姿を久し振りに見た。前政権の、キャサリン大統領によって、拷問をされて、1ヶ月間入院していたのだった。いまでも、腕の袖口からちらりと包帯を巻いているのが見えた。
「それよりも、お前も早く着替えて来い。今回は、宇宙軍、陸軍、海軍、空軍、全て動員させての軍の公開実習みたいなものだ。それに、軍についてこんな機会じゃないと触れ合う事なんてないと思うからな」
「了解しました」
1回敬礼してから、更衣室に向かった。
「うわ、しわしわだ。しょうがないか」
服のしわを取ろうと、何回かその場で振ってみた。見た目は、ごみがついたからそれを取ろうとしているように見えるだろう。驚くべき事に、しわが取れた。
「ふ〜、ま、これだといいだろう」
そして、胸に徽章を付けて、更衣室を出た。
玄関では、まだ師団長が待っていた。クシャトルは先に外に出て行ったらしい。
「なかなか、決まっているじゃないか。スタディン将補」
「あなたもいいですよ。師団長殿」
そして、二人は顔を見合わせて笑った。しかし、数秒後、師団長がスタディンを外へと誘った。
「了解しました、師団長」
そして、スタディンは、一足先に、クラスの所に戻った。
クラスに戻ると、スタディンの軍服姿がよほどいいのか、よく分からないが周りに人だかりが出来た。
「すごいな〜、こんな服なんだ〜」
「なあ、写メとってもいいか?」
さまざまな言葉が飛び交っていた。その中で、師団長が本部の建物の中から出て来た。
「気を付け!」
号令によって、一瞬で静かになり、整列をした。
「礼!」
「お願いします!」
そして、師団長が話し始めた。メガホンもマイクもなかった。
「おはようございます。この第2師団の師団長をしている、川草大明大将です。皆さんは、軍についていくらかの知識はあると思いますが、それを目の当たりにした事がないと思います。今回、体験学習を通して、軍について、少しでも分かってもらえるのならば、こちらとしても幸いです。では、早速、体験学習に移らせてもらいます。それぞれの組ごとで行く軍の種類が違うと思いますので、まず、左から、陸軍、空軍、海軍、宇宙軍と言う順で、並び直してください」
わらわらと人が動いてくる。スタディンとクシャトルは、並び終わる直前に師団長に呼ばれた。
「なんでしょうか?」
とても静かに話し始めた。
「いいか、スタディン将補。今回、君達の船に乗員する生徒の名簿だ。それと、今回は、君達の船には、同じ学校の生徒しか入れないから。人数も出来る限り抑えてる」
名簿を受け取りながら、スタディンは答えた。
「分かりました。精一杯努力させていただきます」
師団長は1回うなずいてから元のクラスに帰るように言った。スタディン達が戻る頃には、既に並び終わっていた。仕方がないので、一番最後に並んだ。再び、師団長が話した。
「皆さん、並び終わりましたね。これから、それぞれの軍の団長から注意と振り分けがあるので、それをよく聞いてください。では、お願いします」
宇宙軍は、蔚木鴻卦大将だった。
「では、皆さん。これから、宇宙軍の船に乗りますが、少しだけ注意です。まず、それぞれの船長に対して、礼儀や節度を守る事。それと、皆さんも、体験学習と言う事なので、仕事をしていただきます。その事に対し、全力を出す事。あと、船の備品を破損又は盗もうとした場合は、軍法会議に問う可能性もある事をお忘れなく。では、これから、それぞれの高校のクラスごとで行動します。私の前に並んでいる人達と、一番後ろで立っている二人が、それぞれの船長になります。今回は、この師団の船が彼らのを除いて出払っているので、太陽系第4惑星の特殊作戦用艦隊から、一部、船を借りています。では、皆さんから見て左端から、「エリザベス」号船長、田井御田。「エリザベス」号副船長、田中昇覇。「飛魚」号船長、イフニ・ステ−ニュ。「飛魚」号副船長、イラクサ・イアン。「フリーダム」号船長、大飯和家。「フリーダム」号副船長、大飯家久。「ターゲット」号船長、家元和久。「ターゲット」号副船長、カヒス・カトール。「フェムト」号船長、モスカウ・モツキ。「フェムト」号副船長、カクチ・シャンド。「大海」号船長、ガンジス・チェリー。「大海」号副船長、カイン・ファインド。「東沢」号船長、鎌琴雄途。「東沢」号副船長、海丘皆生。「メーレブ」号船長、覇月付会。塊状附界「メーレブ」号副船長。イコ・リコ「泰平」号船長。アイ・サン「泰平」号副船長。「ベルジュラック」号船長、イフニ・スタディン。「ベルジュラック」号副船長、イフニ・クシャトル。では、それぞれの船長の元に行ってください。簡単な説明の後、それぞれ、単独行動を取ります。まず、この師団の施設を見学した後、船に乗り込みます。今回の任務は、周回偵察任務。簡単に言うと、見周りです。では、解散」
すぐにそれぞれの船長の下に集まった。スタディンの周りには、同じ高校の1組と5組しかいなかったので、話しやすかった。
説明が終わると、プリントを配り、それぞれの持ち場を確認した後、施設見学に行った。
説明役は全てスタディンがした。
「ここは、本部棟。ここには、それぞれの軍の作戦会議室や、更衣室、食堂、受付、それと、一番最初に説明していた人の、部屋がある」
「受付でどんな事してくれるの?」
「それぞれの人への取次ぎや、あと、贈り物の手配もしてくれる。他に質問がないんなら、次に行ってみよう」
「ここは、倉庫。弾薬や、火薬や、食料や、水も、この倉庫に入っている」
「何日分ぐらいなの?」
「食料は、1万人の人が一ヶ月間が暮らせる量。水も同じぐらいだね。弾薬と火薬は、管理者の許可無しには説明が出来ないんだ」
「スタディンは、管理者じゃないの?」
「ああ、違う。火薬類管理者と言う人がいて、その人の許可がないと、倉庫から、弾薬の一発、火薬のひとつまみも持っていけないようになっているんだ。じゃあ、次。行くよ」
「ここは、陸軍兵舎。自分はここに入った事がないんだ。その横は、海軍兵舎、空軍兵舎、宇宙軍兵舎となっている」
「スタディンとクシャトルは、なんで兵舎に入らないの?」
「家が近いのに、入る必要がないだろう?では、次だね」
「今回は、宇宙軍の説明だから、その関連の施設しか案内できないからね。ここは、宇宙軍船のドックになっている。帰ってきた直後は必ずここに停泊する決まりになっている。ここでは、他に、エネルギー類の注入作業、食料、水などの搬入作業、外壁清掃などの清掃作業、あと、部品の交換もしてくれる。何にも質問がないようだから、次に行くよ」
「さて、これで施設見学会も最後だ。ここが、船の停泊場所。それぞれの船専用の停泊地になっている。そして、我々が乗り込むのが、あそこの白い正方形をした船だ」
みんなから、クレームがついたが、一切を無視した。
「さて、それぞれの船専用の停泊場になっているから、他の船は入れないんだ。だから、今日だけ特別に来た船は、外の滑走路に止まっているはずだ。では、乗り込もう」
船の中は、全く変わってなかった。
「お帰りなさい。スタディン船長」
天井から声が聞こえた。
「ああ、ただいま。ベル」
みんなはざわついていた。突然、上から声が聞こえてきたのだ。落ち着けるために、スタディンが説明した。
「発射前に一通りの図面は渡すけど、その前に紹介しておこう。彼女は、この船のAIの「シラノ・カノエ・ベルジュラック・?世」だ。長ったらしいので、ベルと呼んでいるんだ。ベル。この場にいる全員の簡易生体情報の入力を開始せよ。それと、彼らの部屋に案内させてくれ。荷物を置きたいだろう」
「了解しました。瞳孔、入力完了。指紋、入力完了。静脈、入力完了。全ての入力を完了しました」
「了承、では、図面を出してくれ」
玄関の目の前にあるスクリーンに、図面が現れた。
「それを78枚コピーしてくれ。それと、船内連絡だ。「これより、名札を首から下げた私服を着た者達が4日間歩き回るが、彼らは、私の許可を受けて入船している。それと、高校の授業の一環として、体験学習に受け入れさせられた。それぞれの部長は、30分後までに、作戦室に集合せよ」以上だ」
「了解しました。図面は縮小版でいいですか?」
「ああ、もちろんだ」
3秒後には、全ての放送と、コピーを終了していた。
出航は、乗船から一時間後と決められていたので、全員乗った事を、師団長に報告した。そして、30分後、部長達は作戦室に集合した。
「みんな、最初に久し振りだと言っておこう。それと、すまないな。これは、予想していなかった」
「いいですよ、船長のせいじゃないんですから。それより、体験学習ってなんなんですか?」
「それを聞くなら、自分じゃなくて、上の方に聞いてくれ。それと、体験学習の一環として、働かせる事になったらしいから、その名簿をそれぞれに渡しておく。但し、児童酷使をするなよ。したら、宇宙空間でも関係無しにその場で放り出すからな」
「分かっていますよ、船長。話は以上ですか?」
「ああ、それだけだ。毎日、点呼を欠かすなよ」
「了解しました」
「では、それぞれの持ち場に戻れ」
作戦室は、誰もいなくなった。
さらに30分が経ち、出航の時間になった。スタディンは、船長席に座り、横にはクシャトルが座った。少し人数が増えた部屋を見回し、そして、言った。
「出発だ」
この指令は、同時に師団長にも届いていた。
「まず、ベルが出発したか。さて、ちゃんと船長として、行けるかと言う試験もかねているんだがな…まあ、いいか。彼以上の人材は、恐らく見つからないな」
そして、船は、太陽系を通り抜けた。
「これから、特異点を通り、縮空間に入ります」
いちいち、説明をするのがまどろっこしいと感じているような、そんな感じのシアトスが船内放送を入れていた。
「さて、何人倒れるかな?」
「船長、あなただけだと思いますよ。最初の時、大変でしたよ」
そうしている間も、船は、特異点を通過した。
何個かの特異点を通過し、Lv.6の縮空間まで来た。
「さて、これから、戻っていくわけだな」
「船長!緊急事態です」
直接、コミワギが言った。
「なんだ?」
「超新星によって生じた、なぞの空間があります。そこに船が吸い込まれていきます」
それを見ていた師団長は、想定外の出来事で焦った。
「頼む、吸い込まれないでくれ!」
だが、神は無情にも、船をその穴に入れてしまった。
ベル号は、一切の音信を断った。
「いてて、ベル、損害報告」
椅子から飛び出しながら、言った。他の人達は、元々の乗組員ですら、椅子や机にしがみついていた。
「なんだったんだ?あの穴は?」
「損害報告です。被害箇所は、発見されず。但し、周囲は、なぞの空間です。どうしますか?」
「周囲に着陸可能な惑星はあるか?」
「皆無です。最低でも、周囲200万光年以内には、何もありません」
「それは、真空のエネルギーすらないと言う事か?」
「そうです」
周りの人達は、何を話しているか分からないような顔をしていた。
「そうか…緊急招集をかけてくれ。「部長以上の全乗組員を作戦室に緊急招集」以上だ」
「了解しました。放送します」
放送を聞きながらも、スタディンとクシャトルは、作戦室に向かった。
「さて、困った事になった」
開口一番、スタディンが作戦室で言った言葉だった。
「どう大変なのですか?周りの事が窓がないのでよく分からないんですか…」
「この空間は、ボイドだ」
「つまり?」
「何もない空間。虚無の空間だ。この世界の7つの宇宙空間外の空間だ」
「それって、おかしくありませんか?だって、宇宙空間以外の場所に我々が行けるわけがありませんもの」
「だから、困った事なんだ。ベル、エネルギー反応を探知してくれ。何でもいい」
「了解」
数秒後、返事が帰ってきた。
「エネルギー反応は微弱ながらも察知しました。本船絶対座標系、X軸方向に−670、Y軸方向に510、Z軸方向に908地点です」
「そこに急行せよ」
「了解」
船は、動いているのか、動いていないのかが分からなかった。
「さて、最初から、説明しよう。今分かっている事と、自分の仮説をつなぎ合わせた結果だ。まず、あの超新星でできたと言われたあの穴なんだが、あれは、超新星でできた物ではない。偶然あそこにできてしまった穴だ。我々は、偶然そこにはまっている。さらに問題なのは、ここが、虚数時間軸系だと言う事だ。その影響で、この空間は、光はおろか、真空のエネルギー自体が存在していない、完全なる真空状態だと言う事だ」
「ならば、我々は、宇宙で最初に、完全なる真空を発見した者達になるわけですか?」
「そう言う事だな。さて、さっきから扉の前に、何人かいるみたいだな。ベル、そいつらをここに連れて来い」
「了解」
ドアが開いて、強制的に、中に入れさせられた。そして、ドアが閉まった。
「あれ?金津ちゃん?」
「クシャトル、知り合いか?」
「知り合いも何も、同じクラスよ。なんで、こんなところに?」
「それに、自分の所のクラスメイトも何人かいるしな。さて、どうしようか…」
「どうしようもないんじゃない?」
その時、ベルがスタディンに報告した。
「エネルギー点に到着しました。そちらの方に、外部映像を表示します」
現れたのは、なぞの浮遊物体だった。色は、黄色で、丸い球を描いていた。
「あれは?」
スタディンの声が変わった。
「あれは、エクセウン神だ。確か、第5宇宙空間の神のはずだが?なぜ、あそこに?」
すると、誰かが、現れた。すこし、おどおどしたような感じの、見た目年齢は30歳半ばだろう。ヲタク系の風体の人が、現れた。
「久しぶりだな、エクセウン神」
「ひ、久しぶりだね。イフニ神」
他の人達は、この不思議な状況に見入っていた。
「お前は、なぜあんなところにいた?」
「さあ、わか、分からないな。なにせ、第5宇宙空間にいた時、突然吸い込まれたからね」
エクセウン神とイフニ神が話していた。イフニ神は、エクセウン神が現れた時、同時に実体化していた。
「さて、これからどうしたものか…ベル、宇宙の膜はどこにある?」
「ここから、離れている事だけは確かです。近くにあるのか、遠くにあるのかは、全く分かりません」
「エネルギー反応は、確認できるんだな」
「そうです」
「ねえ、スタディン。どういう事?何が起こっているの?」
指揮室勤務の役になった、イブが言った。横には、他の同級生もいる。スタディンは、作戦室で聞き耳を立てていた事については何も言わずに言った。
「単純な事だ。宇宙は、電子のひとつなんだ」
「どういう事?宇宙が電子のわけがないじゃない。あんなに大きい空間なのに、電子って、すごく小さいんだよね」
「だから、原子核はどこかにあるはずだ。そして、自分達が今までいた7つの空間。あれらは、電子になる。さっき、ベルに聞いていた事を思い出してくれ。エネルギー反応はあるが、距離が分からない。これは、ハイゼンブルグが言った、不確定性原理と言うものに従う。つまり、エネルギーの値が決定したら、位置が分からなくなる。逆に、位置がはっきりしたら、エネルギーが分からなくなると言うものだ。それぞれの宇宙同士は、長細いトンネルでつながっていたな。それに、向こう側と相手側で調子を合わせる必要がある。これは、電子同士のつながりでも言える事だ。つまり、電子同士は、わずかなつながりを残して、光速に匹敵するほどの速度で回っている。そして、それらは原子核との重力関係やその他、いろいろな要因によって擬似周回軌道のような、不規則な軌道を描いている。それを結び付けているのが、重力子だ。これは、つい最近に発見されている粒子で、それぞれが原子核から飛び出さないように、正確には、原子がイオン化しないように、結びつける働きがある。ほかにも、磁石のように、磁力で結び付けている物もあるが、あれは、粒子ではなく、波になる。宇宙は、それぞれを重力子と言う小さな粒子によってつながっており、それに乗る事によって、それぞれの宇宙空間に行き来出来るんだ」
その時、拍手の音がした。
「おめでとう。君は、この瞬間に、神々が作り上げてきた最高傑作のなぞを解いた。だが、どうやってここから脱出するかな?」
「それが問題です。さて、ここから、どうやって出て行くか…」
その時、船が唐突に揺れだした。
「うおっとっと」
スタディンは、椅子に座った。イフニ神とエクセウン神が怖がっているような顔をしていた。
「もしかして、あの方か?」
イフニ神が言った。
「そ、そうだと、そうだとすると、僕達、とても、とっても、危ないね」
「いや、危ないのは、こっちも同じ事だ」
出てきたのは、100歳に見えるが、腰も曲がっておらず、とても元気そうだった。
「宇宙と言うばかげた存在を作ってから、140億年ほど経った。そいつらが、その宇宙とやらから来た者か?」
二つの黄色い目が、こちらをにらんだ。まばたくたびに、目の色が変わっていった。さまざまな色だった。体は、ほぼ変わらないが、毛を自由に動かし、色を変える事が出来るようだった。
「さてさて、この者は?」
「自分は、軍のイフニ・スタディン将補だ」
「イフニ、そうか、お前、このイフニの息子か」
「遺伝子的なつながりならあります」
「そうか、そうか、さて、俺の方の名前を言いたいが、俺には名前を憶えていない。誰かが、俺の名前をいうやつがおるだろう。そいつが俺の間接的な後継者だ。だが、ここ最近は、疲れてきた。なにせ、宇宙とか言うばかげたものをこさえやがったからな。だが、こんなやつらが生まれるんなら、悪くないかもな。今回は、俺の招待だ。どんなやつらが生まれたか気になったからな。さて、もうそろそろ、帰ってもいいぞ」
そして、みんなの意識がなくなった。倒れる直前、最後にスタディンが見たのは、目の前が白くなっていったことだけだった。
次におきた時には、この事の記憶がなくなっていて、別の記憶が埋め込まれていた。
「えっと、小惑星帯に船が突っ込んで…それから、どうしたんだっけ?」
スタディンが起きる。
「それからは、船は振動に晒されて、その衝撃でみんなは気絶したんだったな」
だれもが、その記憶を埋め込まれていた。フライトプラン、ベルの記録、何もかもがそれが正しいと言っていた。
「ベル、被害報告」
「エネルギーバリアの一部が損傷。ですが、他は正常です」
「そうか、今は何日だ?」
「離陸から、2週間経過しています。すでに、遭難信号を発信しましたので、まもなく、援助船が到着するものと思われます」
「そうか、では、船内放送、「これより、本船は現位置で停止し、援助船を待つ」以上だ」
「了解」
放送が終わる頃に、続々と起きはじめた。
「いててて、何が起こったんだ?」
「さあ、小惑星にぶつかったのは憶えているんだが、その後が、あまりはっきり憶えていないんだ」
「当然でしょう、あんなに激しい振動に晒されて、その上、激しい上下動。確実に、死を思いましたね」
「この船で、そんな経験はたくさんして来たじゃないか。まだまだ、死なないよ」
船は、無事に救助された。そして、なぞの小惑星帯について調査されたが、一切発見できなかった。
その後、さらに1週間かけて、第3惑星に帰航した。そして、この事は、永遠のなぞとして人々の記憶に残される。この地域を航行禁止地域にして、精密な検査を続けた。だが、何一つ、小惑星のかけらすら見つからなかった。
スタディン達が家に帰る時には、軍から手紙が来ていて、謹慎の期間が終了した事を伝えていた。そして、この件についての報告書を提出する事も書いてあった。
「やれやれ、ようやく帰ってきたら、今度か報告書か」
スタディンが文句を言いながら、2階に上がった。クシャトルも続いて上がった。
部屋に入ると、自分のパソコンが置いてあった。
「久しぶりだな。ここに来るのも」
「2週間だけどね」
後ろの扉が開いて、瑛久郎達が入ってきた。
「あ、帰ってきていたんだ。下で玄関が開いた音がしていたから、誰か来たのはわかっていたけどね。それよりも、見せたい物があるから、ちょっと、屋根裏部屋に来てくれるか?」
瑛久郎が言った。スタディン達は、それについて行った。
第18章 双方向性デジタル3Dディスプレイ
屋根裏部屋に上がると、さまざまな顔があった。なぜか、軍の人も上がりこんでいた。
「なぜに、ここに師団長がいらっしゃるのですか?」
「手紙を届けた時に、呼び止められてね。それで、これを見ていたんだよ」
師団長が指差したのは、水晶玉のような形をした、直径が1mぐらいありそうな巨大な球だった。
「これは?」
スタディンは、誰かに聞いた。瑛久郎が答えた。
「昔から、こんな画面を作りたかったんだよ。これは、双方向性デジタル3Dディスプレイと言う名前で、AIを搭載していて、デジタル画質で、相手とこちらが360度いかなる方向からでも、見る事が出来る。もちろん、立体的に」
「これて、特許ものだよね。取ったらどう?」
「軍の方から言うと、敵艦の位置が把握しやすくて、攻撃もやりやすくなるな。それに、プログラムしたら、搭載されているAIが、自動的に攻撃目標と非攻撃目標を選別できるだろうな」
「さっそく、特許局の方に連絡を入れておきましょうか?」
その翌日、すぐに、特許局の人が、特許申請を受理した。
「早くなったね。昔は、5年ぐらいしていたのに」
特許申請の受理によって、この発明は世界中に広く知られるようになった。だが、瑛久郎達は、軍需転用が可能であると言う理由で、軍関係者やマスコミ関係には一切その概要を発表しなかった。無論、スタディン、クシャトル、それと偶然知ってしまった川草師団長は別である。
第19章 体育大会
そして、次の週の土曜日、体育大会が待っていた。
「そんな、自分達は、ついさっき帰ってきたようなものなんですよ」
先生に対し、文句を言いながらも、すぐに出場する種目が決まっていった。
さまざまな練習を重ねて、当日を迎えた。
体育大会当日、晴れ晴れとした春の陽気に包まれて、始まった。
最初に、生徒会長の佳苗莉子が、一番前にこちらを向いて立った。
「新春の青空にも恵まれて、今日、無事に体育大会をする事が出来ました。皆さん、がんばってください」
次に校長が出てきた。
「体育大会をするに当たっての保険局からの注意が届いています。熱中症に注意する事。適度な水分補給を心がける事。気分が悪くなったらすぐに医務室か近くの教師に申し出る事。それと、ここ最近、不審者がいるようなので、体育大会中、不審な動きをしている人を見かけたら、すぐに、近くの保護者か、先生に言う事」
最後に、選手宣誓だった。
「宣誓!ここにいる全員は、スポーツマンシップを守り、正々堂々戦う事を誓います。新暦366年10月5日。生徒代表、川住雪」
拍手の中、彼女は帰っていった。そして、体育大会の本番が始まった。最初は、玉入れだった。だが、単なる玉入れではなかった。
グラウンドに立てられた2本の棒の先には、かごがあり、その中に玉を入れるのだが、この玉は、いぼいぼがついており、触ると少しいたい仕組みになっていた。
「誰がこんなの考えたんだ?」
誰かが悪態をついたが、試合が開始された。
ホイッスルが吹かれて、玉が宙を舞いはじめた。頭や顔に当たるが、その度に少しいたかった。終わる頃には、みんな、あちこちが痛くなっていた。
そんなこんなで、普通とは一味違う体育大会だが、順調に行われていた。だが、お昼休み中に、一台のバイクがグラウンドに入ってきた。そのバイクは、本部席に行き、一枚の紙を手渡した。放送係の人が、その紙を見て、集合をかけた。
「生徒を含むこの中で、将補以上の軍関係者は、伝えたい事がありますので、本部席まで来てください」
スタディンとクシャトルは、ご飯を食べた後だったので、そのまま本部に来た。すでに、何人か集まっていた。
バイクで来た人は既に帰っていた。10分間待ってから、その紙を読んだ。
「将補以上の軍人各位に告ぐ。現在、軍の情報処理中である。それに伴い、それぞれのデータを入力したい。明日午前8時に第2師団本部に集合されたし」
という事だった。伝えられたら、そのまま帰っていった。
体育大会は無事に終わり、スタディン達のクラスは、学年1位、全校でも2位という好成績だった。
教室に戻り、帰ろうとした時、誰かに肩を叩かれた。スタディンが後ろを振り向くと、アダムだった。
「ああ、アダムか。どうした?」
「どうしたじゃなくてさ、ほら、一番前見て見たら分かるよ」
スタディンが黒板を見ると、さまざまな事が書かれていた。その中には、
「よくがんばった」
と言う先生からのメッセージも入っていた。
「あそこに、何か書けっていうのか?」
「そう言う事だ。何でもいいんだ」
アダムは、チョークを渡し、暗号文体でこう書いた。
「のらみみしらくちついみみのらなんななとんらなしち」
アダムがそれを見た時、
「何を書いているんだ?」
といわれた。スタディンは、暗号と答え、そのまま帰った。
第20章 データ
翌日は、日曜日で普通なら休みだった。だが、スタディンとクシャトルは、第2師団にいた。
「全員いるか?」
師団長が、人数を数えていた。それぞれの軍指令長はそれぞれの軍の人数と照らしあわしていた。そして、全員いる事が確認されると、改めて集合してもらった理由を言った。
「みんな、こんな爽やかな雰囲気の時にすまないな。実は、軍のデータ編集作業中なんだが、将軍データを誤って消してしまった。それで、再設定するために、いま、こうして集まってもらったと言うわけだ。さて、海軍は、309会議室。陸軍は、307会議室。空軍は、305会議室。宇宙軍は、303会議室に行ってくれ。では、解散」
師団長は、それぞれの軍に属していなかったので、別の部屋に行っていた。
「データは、個人データ、つまり、性別、年齢、階級、名前、身長、体重、その他もろもろだ。これから、それを取る。では、男は、303会議室。女は、304会議室に行ってくれ。終了後、そのまま帰っても構わない。もしも、待つ事があるようなら、受付で待ってくれ」
それぞれの部屋に分かれて行った。
スタディンの番になった。
「では、性別、年齢、階級、名前、身長、体重、血液型、兄弟姉妹の有無、いたら兄妹姉妹の名前、軍関係者ならば、階級又は役職、それと、自分の魔力の量。体重、身長は、これから取る。血液型は、知らない人は、血液検査を行う。魔力の量は、簡易検査を行うから、それを必ず受けてくれ。それと、この紙は、会議室から出る時に渡してくれ」
スタディンは、医務兵の人から、両面印刷の紙を一枚受け取った。それに、書いてゆくというのであった。
結果は次の通りである。
「性別:男、年齢:18歳、階級:将補、名前:イフニ・スタディン、身長:172.4、体重:62.9、血液型:A型、兄弟姉妹:有、兄弟姉妹の氏名:イフニ・クシャトル、階級:将補、自己魔力量:373」
そして、スタディンは、そのまま帰った。受付では、すでに、クシャトルが待っていたからだ。