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第1編第4部

第7章 軍部のクーデター


「さてさて、自由と言うのは、いとも簡単に壊れる物なんだな」

暗い表情をしているスタディンが言った。横にいたクシャトルが、

「そんなものなんだよ。大事なものはあまり変らないけどね」

「大事なものって何だよ。お前の大事なものって」

「自分の…ううん。なんでもない」

にこやかな笑みを浮かべて、やってきた電車に乗り込んだ。

「おい。ちゃんと教えろよ」

電車の中は、軍服を着た人達で一杯になっていた。

「なんか、すごい圧迫感が…」

「気のせい、気のせい」

偶然開いていた隙間に、二人は身を縮めた。


がたごとと電車は進んでいった。そして、いつしか軍の基地の中に入っていった。


「えっと、君達は?」

軍の受付の所で、名前を言い、中に入った。そして、所属軍ごとに場所が分かれていた。スタディン達は、宇宙軍だったので、そこに行った。そして、指示を待った。


その間、何も言われていなかったので、部屋の中で、みんな好き勝ってやっていた。

「なんか、女性の人が少ないね」

ぱっとみて、全体的に、男性の方が多いように見えているクシャトルが言った。

「確かに…いまだに、男尊女卑の世界を引きずっていいるのかな?それよりも、これをみてみろよ。いま、携帯を開けて、首都にいる友人に問い合わせてみたんだが、どうやら、軍事的なクーデターが起こったらしい。ただ、これはまだ未確認情報だけど」

周りの人達が、クーデターと聞いて、集まってきた。

「なんだ?クーデターだって?何でまたこんなご時勢に…」

「あれ?君達は…イフニ・クシャトルとスタディン兄妹じゃないか。最年少将補。期待の星。俺達はみんな、30代とか40代とかだけどな」

「で、どんな状態なんだ?いま、首都は」

「誰か他に携帯もってないのか?もっていたら、首都に友達か知り合いかいたらそこに問い合わせてくれ。どうなっているのかが知りたい」

「どうしたんだ?」

さらに人が寄ってきた。どうやら、スタディン以外にも何人か携帯を開けているらしい。それらの情報をつき合わせてみた。

「今の時点で分かっているのは、首都でクーデターか何かが起こった。自分達は何かのために呼ばれた。非常事態宣言の公布もそれが原因だろう」

「なるほど。つまりは軍部の政治になると」

「それはまずいと思うな」

一人、壁によりかかっていた人が言った。

「あなたは…第2師団宇宙軍軍隊長の、蔚木大将殿。なにがまずいと?」

「まずひとつ。軍部のクーデターによる政治手段は、民意が得られない。第二に、古今東西、クーデターによる長期政権は誕生していない。ただ、元から軍部独裁は別だけどね。最後に、我々が呼ばれた理由だよ。自分もまだ聞いていないけど、もうすぐ連絡がある事になっている。その時まで、しばらく落ち着け。それに、そのクーデターは未確認情報だろ?確定情報が出るまでは、その話をやめておくべきだろう」

有無も言わせない雰囲気を体から出していた。

「…分かりました。では、情報が入り次第、お知らせください」

その直後、蔚木大将の携帯電話が鳴った。みんな息を呑んで、待った。

「ああ…本当か?ああ…うん…そうか…分かった。じゃあ、こちらもそれで動く事にしよう」

電話は、3分ぐらいしていた。

「みんな、聞いてくれ。さっきの情報、首都でクーデターがあったと言うのは、本当だと言う事が分かった。みんなには、このまま、軍に残るか、それとも、一時的に軍から離籍するか好きな道を選んで欲しい。そして、軍から離籍する人は、受付で徽章を全て返却して欲しい。残る人は、このまま残って欲しい。今後の連絡をしておく」

誰も、この部屋から出なかった。スタディン達も出なかった。

「そうか。みんなの気持ち、よく分かった。では、今後の連絡を行う。これより、1ヶ月間は、全ての教育機関、交通機関、全て停止する事になっている。そして、その間に、憲法制定会議が招集される。その会議に出席するのは、全員軍属となる。つまり、軍が中心の政治システムになるのだ。そして、この中から、3人、その会議に出席して欲しいと受けとっている。この中で、憲法関連の話が得意なやつはいるか。いなかったら、適当にくじで行ってもらう。10秒以内に出て来いよ」

その間、1人しか出なかった。

「じゃあ、あと二人は、ここに、この人数分の棒が入っている。この棒を、ジャンケンで勝った順で抜いて行って欲しい。そして、このように、赤い印が先端についているのを引いた人に行ってもらう。では、してくれ。なお、自分は、必ず出る事になっていて、計4人だ」

そして、部屋の外に出て行った。その後、無事にジャンケンが行われた。そして、順々にくじを引いていった。


「なんで、こうなるのかなぁ」

「あきらめようよ。お兄ちゃん。これも、人生なんだから」

「人生を語ると、人間もうじき死ぬって聞いたことがあるような…」

「気のせいでしょう」

「決まったか」

師団長が入ってきた。

「そうか。もう他の人達は帰って行ったか。さてさて、君達3人と、自分の計4人が、この宇宙軍第2師団の代表として、会議に出席する。えっと、端から名前を言ってくれないか?」

「前憲法改正論議時に論文を提出した経験があり、現在、大統領私的諮問会議憲法委員会委員の、川居桃亮少将です」

「世界最年少将補になった、イフニ・クシャトルです」

「同じく、史上最年少将補の、イフニ・スタディンです」

「そうか、川居桃亮と、イフニ兄妹だな。自分は、この宇宙軍軍隊長をしている、蔚木鴻卦だ。さてと、みんなには、急だが、さらに、2〜3人ほど、連れて行きたい人達がいたら、別にかまわない。そして、その人達は、恐らく、この憲法会議における委員の一人として行く事になるだろう。さて、明日の午後12時に受付前に集合してくれ。あさってから会議は始まる。みんな、心してかかれ。この会議はこの国の根幹を作り出す事になる」

「はい!」

敬礼して答えた。


家に帰ってから、

「なんだかな〜。何でこんな事になるかな〜」

肩をがくりと落としているスタディン。そんなスタディンに、クシャトルは、肩に手をかけて言った。

「まあ、いいんじゃないの?こんな経験多分二度とないと思うし。いま逃すと、真剣に憲法について考える事なんてないだろうしね」

「そうだな。いままでの憲法は、あの初代連邦大統領の大島さんが作ったんだったな。じゃあ、その人に聞いてみたらどうだろう」

「ああ、そうか。あのAIがあったね」

「そう。団長が言っていたよな。2〜3人ぐらいなら連れて行ってもかまわないって。それに、嘉永兄妹は、公民の点数が高かったからな。恐らく力になってくれると思う」

「じゃ、連絡してみるね」

「番号知ってるのか?」

「もちろん。お兄ちゃんが知らない間に、しーちゃんと、メルアド、交換していたの」

「じゃあ、よろしく頼むよ。自分は、アダムに大統領のAIを持っていっていいか聞いてみるから。それと、憲法関連の事も少し調べておくよ」

「分かった」


そして、翌日。

「そういえば、とっくりたちは、なんて返ってきた?」

「大丈夫だって。今日の12時、宇宙軍第2師団前で待っているって」

「そうか」

「お兄ちゃんの方は?アダムはなんて答えた?」

「ああ、別に連れて行ってもいいって。ただし、この端末の中に、直接データが送れるようにプログラムされたソフトを入れてくれたから、AIごとじゃなくて、このソフトを通してだったらいいって」

「じゃあ、憲法関連の事は?何か分かったの?」

「ああ、今まであった、連邦憲法は、当時あったあちこちの憲法の個人的にいいと思うところを寄せ集めて作ったんだって。それに、軍の規定についても、元々考えていたのは憲法改正と同様の手順によって、警察の一機関にできるって言う事もかかれていたらしいよ」

「今とはちょっと違うんだね」

「そう。ネット上で得られた情報を基にして何度か改正をしているらしいからね。そのうちのひとつが軍部存続だったらしい。ただこれはいい面もあるけど、悪い面もあるからね」

「どういう事?軍の存続のいい面と悪い面って」

「例えば、この前のあの宇宙戦争は軍がいたからこそ、この星はぎりぎりの所で助かっただろう?それは、軍と言う大きな盾によってこの星を守っているって言う事なんだ。ただそれは、軍があるからこその悲しみもある。戦争で戦うのは軍だ。警察は、治安組織ではあるが、軍ほどの力はない。だから、ほとんどの国では防衛のための軍をおいていた。一番安心なのは、軍がなくなる事だという事も知らずに…」

「まあまあ、そんな事書いてあったの?」

「ああ、いろいろと書かれていたけどな。ただ、この中には自分の意見も入っているから。ま、大雑把に言うと、憲法なんて言うのはどうとでもなれると言う事らしい、と言う事だな」

「あら。二人とも。昨日はお疲れさま」

「由井さん。おはようございます」

「ねえ、昨日の非常事態宣言の公布って、あれから、3惑星国全域になったらしいわね。それに、軍のクーデターもあったって言うし、その上、あなた達は憲法制定会議とか言うところに出なくてはならないんでしょう?大変よね」

「まあ、大丈夫ですよ。これぐらいなれていますから。それに、今日から、1ヶ月間は、24時間の外出禁止令が出ていますし。でも、食べ物は、どうするんでしょうね」

「実は、あなた達がいなくなってから、私達が来るまでの間、誰かがこの家を借りていたらしくて、その誰かさんは、この家の地下室にとても便利な地下道を通してくれたの。そして、その道は、この辺り一帯の当時あった家の全てを通っているの。だから、スーパーにもいけるし、別の家に行く事も出来るの」

スタディン達は考えた。しかし、彼らが作った物ではない事は、はっきりと分かっていた。

「いやはや、全く外出禁止令って、無駄なものに聞こえてくるね」

「でも、食べ物がないと、やばいからね」

「それよりも、いいの?いまはまだ9時だけど。飛行機とかどうやって行くか知らないけど、とりあえず、途中で寝ないでね。それと、いつ家から出るの?」

「ああ、あと1時間ぐらいしたら」

「そう。まあ、ゆっくりしときなさいね。多分、これから、すごく忙しくなると思うから」

テレビをつけると、全国に非常事態宣言としての戒厳令の布告の事しか言っていなかった。


それから、1時間経った。

「さて、服も着替えたし、携帯も持ったし、ノートも持ったし、徽章も付けているし。忘れ物があったら、連絡するからね」

「はいはい。しっかりしなさいよ」

「では、いってきまーす」

そして、スタディン達は、師団の駐屯地に向かって走って行った。ただ、すぐに力尽きたが。


「交通機関が停止されて、この電車も止まったと思っていたのに、止まってなかったね」

「多分、便数は、すごく減っているはずだけどね。一日2便、朝と晩だけとか」

「それは、きついな」

後ろから、とっくり達の声が聞こえた。

「ああ、おはようとっくり。どう?昨日はよく眠れた?」

「まあまあだな」

ひょこっと、顔を出したのは、定位置にいるしーちゃんだった。

「ああ、しーちゃんも、おはよう。今日もいい天気だね」

「この会議は、危ない。憲法の改正論議も再び起こるクーデターで幕をひく。その時には、私達の出番。ずっと、未来を読める。でも、こんなの能力は、本当はいらない」

「どうして?とても便利だと思うのに」

「あなたは、この能力が無いから言える。もしも、人の一生が全て分かるとするなら、とても嫌な思いになる」

「まあ、そんな事よりも、よろしく頼むよ。この会議で、憲法自体が決まってしまうんだからね」

「分かってるよ。とりあえず、出発しないといけないな」

電車が到着したのを見て言った。中は、誰もいなかった。


司令部の受付の前に到着し、他の人達が到着するのを待った。

「そう言えば、この新しく出来た国は、どうなって行くんだろうな」

「クーデターで出来た国は、すぐに、消滅して行く事になる。その真ん中にいる人達は、とても危ない事になると思う」

スタディンの言葉に、しーちゃんが反応した。

「どういう事?君の発言は何もかも分からない」

「あなたにとっての意味不明は、他の人にとっても同じ事なのかな?それとも、違うのかな?それと同じ事。それほどまで遠い未来は私には分からない。ただ言えるのは、このクーデター政権は、長くは持たず、遠からず未来に瓦解していく」

「いつかは…分からないんだね。ただ、必ず消滅する、そう言う事だね」

「そう」

「来たみたいだな。あの人はここの師団長であり総司令官の川草大明大将だ」

みんな、その人の方向を見ている。肩の徽章は、大将を表していた。服装は四軍統合長の下にいる事を指し示していた。四軍統合長の指揮下で、大将の地位にいるのは、師団長か、もしくは、副師団長や師団長補佐官などの、最上級指揮官と言われている人たちに限定されることが法律により決まっていた。

「みんな、今日はよく集まってくれた。さて、ここにいる人達は、全員、憲法制定会議に出席する者達だ。選ばれた人と随員は、本第2師団からは、宇宙軍が7名とAI1名。陸軍が5名。空軍が3名。海軍が4名だな。それと、それぞれの軍隊長か。間違いや訂正があれば、この場で言ってくれ。無ければ、直ちに出発する。……………ないんだな。では、それぞれ、荷物を持ち、第5ゲートに20分以内に集合。では、解散」

それぞれ、ばらばらと分かれていった。


スタディン達は、解散した直後から、移動しながら話し合っていた。

「憲法なんか、よく分からないな〜」

「この国の根幹を成している基本法だからね。憶えておくべきだよ」

「よく分かりますが…ただ、なぜ、憲法なるものが存在するのかが分からないのです。そのようなものは、法律で定めればいいと思いますが?」

「憲法あっての法律だからね」

スタディンは、川居桃亮少将と話していた。他の人達は、彼らの歩調と合わせて歩いていた。

「そもそも、憲法というのは、国の最高法規であり、形式的に最も困難な手続きで、変更、改正されるんだ。慣習法といって、そのままの慣わしが憲法として存在している国もあった。ただ、そんな場合は文章が無い憲法、つまり不文憲法として存在していたみたいだけどね。そして、いまのこの国のようにれっきとした文章として存在している憲法、これを成文憲法というんだけどね、こんな憲法の方が多かったって伝わっているね。それに、成文憲法の中は、権力者が一方的に制定した欽定憲法、国民が制定した民定憲法、一種の協約として成立した協約憲法、条約を結びそれを条約締結国の憲法とした条約憲法というのがあった。それぞれに、いろいろな利点や欠点があったらしいけどね。さらに資本主義と社会主義としての差もあったらしい」

「よく分かりませんが…一言でまとめると、憲法って何なんですか?」

「一言でか…そうだな…憲法とは、一言で言うと国家存立の基本的条件を定めた根本法の事だな。まあ、自分がこの国のあり方を定めると言うのは、一生に1回あるか無いかの物だからな。これを有効利用しない手はない」

気がつくと目の前には、第5ゲートがあった。


第5ゲートをくぐると、中には、一機だけ飛行機がおいてあった。

「これは何ですか?」

「これは、戦闘要員輸送用航空機だ。ただ、戦闘要員だけでなく、物資も輸送できるし、民間人も運ぶ事が出来る。最高輸送量は、20tだったはずだ」

一面迷彩柄で、エンジンのところには、横に小さな機関銃がついていた。

「あの機関銃は?」

「ああ、一応武装しているんだ。ただ、あんなの、いまとなってはお飾りに過ぎないけどね」

「え?今となってはと言うのは、どういう意味ですか?」

「この飛行機は、第3次世界大戦時に活躍したと言われているんだ。ただ、それを証明する方法は一切無いけど」

「いや、それを証明する方法はこの儂自身じゃ」

空軍大将の人がこちらに歩いていた。

「あなたは?」

「儂は、空軍大将、池林直人だ。この飛行機は、儂が、運転しておった」

「ちょ、ちょっとまってください。あなたは、いま何歳ですか?第3次世界大戦が起こったのが、西暦2290年でしたよね。今年は、西暦で言うと、2381年です。そして、軍に入隊するには、当時15歳以上と決まっていました」

「その通りじゃな。おぬしはよく勉学に励んだと見える。そうじゃ。儂は今年で、96歳になる。聞いた事が無いか?世界最年長の現役飛行機乗りの名前を」

はっとした表情になった。

「そうか…そうでしたか…あなたが伝説の…」

「そうじゃ」

「すみませんが、その伝説と言うのは何ですか?」

「知らないのか?第3次世界大戦時、立方体の白い箱状の船が舞い降りた。そして、それまで戦っていた人達を、救出する任務に当たったのが、当時第4航空隊の特別救出任務部隊だったんだ。そして、その時最年少で部隊に抜擢されたのが…」

「当時、入りたてだったこの儂だったと言う事なんじゃな。その時の白い箱の船は、今思い出すと、スタディン達の船とよく似ていたんじゃがな…なんか憶えてないか?」

「いえ、第3時世界大戦の場所に入った事がありません。いまは、まだ」

「そうか…まあよい。こんな老いぼれた儂にも仕事が回ってくるんじゃからな」

「いえいえ、まだそこまでは…」

順次人が入ってきていた。そして、15分きっかりたって、威勢のいい声が聞こえた。

「全員集合したか?」

「総司令、まだ5分ほど余っておりますが?」

「5分前行動だ。いままで、軍内ではそうしておっただろう。とりあえず、出発だ。池林直人空軍大将、飛行機の操縦を頼みたい」

「喜んで受け入れよう。こんな儂にも仕事がある事自体が奇跡のようなもんじゃがな」

いそいそと、飛行機の中に入り、エンジンをかけた。

「昔と変わってないのう。この感覚、この音、この椅子。何もかも昔と同じじゃ」

「作りも何も動かしていないからな。油も燃料も入れたてだ。では早速入ってくれ。これより、憲法制定会議第2師団議員発足式を平行して開始する。名前を呼ばれたら飛行機の中にこの認証を付けて入ってくれ。ただし、これは安全ピンだから」

一人づつ呼ばれた。そして、全員が飛行機の中に入った。総司令は、周りに誰もいない事を確認して扉を閉めた。そして、飛行機はゆっくりと動きはじめた。普段は空軍が使っている滑走路を通り、そのまま離陸した。ぐんぐんと高度を増しながら、体にかかる圧力も強くなっていた。しかし、それは我慢できる範囲内であった。


機内では、ごわごわの椅子に、長さの変更が出来ないシートベルトを付けて、扉が壊れて、開きっぱなしのトイレを背にして、発足式が続けられていた。

「では、この憲法制定会議において、最も若い議員の、イフニ兄妹」

それぞれの紹介がされていた。ただ、それ以外は外を見てもただひたすら海しか見えない状態だったので、スタディン達は暇を持て余していた。

「なんか起きないかな、例えばさ、突然どこからか、好戦的な種族がやってきて、この飛行機を攻撃していくとか」

「そんな話、いまはしないほうがいいと思うけど?なにせ、総司令、そんな話に敏感らしいからな」

この飛行機内で行われるひそひそ声は、エンジン音でかき消されてしまう。それほどまでに、防音設備がなっていない機体であった。しかし、それはしょうが無いと思われた。この飛行機は、現在最年長の飛行気乗りによって運転されている、現在最年長の機体だったからである。発足会はいつの間にか終わり、続いて憲法の構成について話し合いがされていた。

「まず、この憲法は恐らく軍事色が強まるだろう。ただ、それは防ぐ必要があるだろう」

「それは、いったい何故でしょうか?」

空軍中将の人が聞いた。

「我々は軍人。軍事色が強まれば、我々に有利ではないのでしょうか」

「君は、国民をどう見ている?現在、この惑星は50億の人口を有している。この連邦全体の1万分の1ほどだ。しかし、その中心はこの惑星だ。さらには、この銀河中に存在している連邦側の種族達は、我々が定めている憲法や法律に従っている。その人達を無視して、君は、軍事色を強めようとしている。まあ、この憲法は、新中立国家共同体のみに通用すると言っても、先ほど言った通り、憲法の言葉を遥かに越えた広い範囲で機能している。さらに、君は、この連邦側の全人口の内、どれだけの人が軍関係の職業に属していると思う?50兆もいながらも、たかが、10億程度だ。そのもの達を優先するように君は言っているのか?」

「し、しかし総司令。今の状況を見ると、我々には不利。そしたら、我々に有利なように憲法を変えるべきなのでは?」

「さて、ここで、他の人の意見も聞いてみるべきだろうな。討論には、多種多様な意見が不可欠だからな。さて川居宇宙軍少将。君は、大統領私的諮問会議憲法委員会委員と言っていたな。君からみて憲法はどのような構成になるべきだと思う?」

全員の目が、彼の方に集まった。彼は、話し始めた。

「はい。その質問に対してお答え致します。まずは初期の連邦憲法についてですが、最終的な軍事力の放棄がかかれていました。そして、それを再び書くすべきかと思われます。さらには、平和構築部隊の設立、これは現在の軍組織をそのまま引き継がすべきでしょう。それと、さらには三惑星連邦としての成立に関する事も入れる必要があるでしょう。他にも、いろいろと入れたい物があります」

「そうか、さてと、ここでひとつ聞きたいことがある。ここらでいったん意思統一を図りたい。これは、総司令としての意志ではなく、川草大明、一個人としての意見だと受け取ってくれ」

ここまで言って、総司令は深呼吸をした。そして、気持ちを落ち着けてから話し始めた。

「俺、個人としてはこのクーデターは、いずれ破錠をきたすと考える。憲法を制定する際に対しても、全ての事を決定する際でも、我々、第2師団は、軍部独裁政権をやめさせ、一般人による政権を目指す。そして、憲法をそのままにさせ改正の特別投票を行わす。何か問題が生じれば、徹底して一般人を優先して考える。俺は、そうする。お前達は、どうする」

それからしばらくして、誰ともなく拍手が起こった。拍手は機内全員に広がった。

「これで決定か…では、これがこの第2師団の総意とし、すべてはこの議決に基づいて遂行される。以降は、私語を許可する。以上だ。では到着まで、ゆっくりしときたまえ」

全員、極度の緊張状態におかれる事が分かりきっていただったので、運転している人を除いて全員一瞬で寝た。


スタディンがおきたのは、着陸し、みんな起こされている時であった。

「ねえ、お兄ちゃん。おきてよ。到着したよ」

「いつもスタディンはこうなのか?まあ、自分も他人のことは言えないけどな」

スタディンは、うっすらと意識が戻った。どうにか立ち上がり、飛行機の外へと歩いて行った。


第8章 憲法制定会議


「久し振りに来たね」

「そうだな」

地上に足をつけたとたん、はっと、目覚めた。今までいた所は、もう冬であったが、こちらは、ちょうどその逆、夏に向かっているのであった。

「第2師団の人はこちらに来てくださーい」

案内の人の声がかかる。

「行かないと」

「そうだな」

彼らは、歩いていった。ゆっくりと、足をなじませるように。


空港の建物の中は、とても冷えていた。

「さむっ」

クシャトルは、スタディンの腕を抱くようにつかんだ。

「おい、何しているんだ?」

「えへへ〜、いいでしょ?私達兄妹なのは、もう周知の事実なんだし」

周りの人は、それをみると少し気持ちが和んだ。その時、向こう側から総司令が歩いてきた。

「さて、これより全体会合がある。それぞれの惑星から来たこの会議の出席者で、ドンちゃん騒ぎをする事が目的のパーティーだ。まあ、そのままの格好でいいからな。場所はエア・ワシントンホテルの、受付のお嬢さんにでも聞いといてくれ。では、俺自身はちょっと、用事があるから」

すばやく去っていった。

「自分達は、どこに泊まるんだろうな」

「好きなところでいいんじゃないの?」

再び、総司令が帰ってきた。

「そうそう、言い忘れたが、宿泊地は好きな場所でかまわないから。それと、会議の場所は、連邦議会の議事堂になってるから」

再び、すばやい身のこなしでどこかへ消えた。クシャトルは、スタディンに言った。

「ね」

「クシャトルの言うとおりだったな」

「ま、とりあえず、そのエア・ワシントンとかいうホテルに向かいましょう。そこがパーチィー会場らしいですし」

公衆の面前と言う事もあって、とっくりは、一応敬語を使ってスタディンと会話をしていた。

「そこに泊まる事にしよう」

周りに人がまばらになってから言った。

「実はな、そこの経営者とちょっと顔見知りでな。ちょっと、安くしてくれるかもしれない」

「では、なおさら行きましょう」

スタディン達は、飛行場から出て、タクシーを拾い、エア・ワシントンに向かった。


到着し、受付の人に社長の所在を聞いたら、偶然にも、ホテルにいるという。早速連絡を取ってもらい、降りてきてもらった。


「いらっしゃいませ。イフニ兄妹様と、その御連れ様」

「紹介します。こちら、嘉永徳鋭とその妹の清水です」

徳鋭とだけ握手を交わした。清水は、服の中で眠っていた。

「さて、どのような内容で?」

「軍のクーデターがありましたよね。その関係で、仕事としてこちらに泊まらせてもらいたい。まえ、このホテルに泊まる時は、ちょっと安くしますって言っていましたのを思い出しましてね」

「はい。では、どのような部屋がご所望でしょうか。その結果如何によっては、多少、お勉強させていただきます」

「とりあえず、この四人が泊まれるぐらいの部屋で、まあ、安くてもいいけど、シャワーとベットがついている部屋がいいです」

「分かりました。では、ちょっとお待ちください…」

彼は、受付の奥にある事務室に入っていった。

「なあ、スタディン」

「なんだ?とっくり」

「確か、どこかの本で読んだんだが、このエア・ワシントンと言うホテルって、五つ星ホテルだったはずなんだが…」

「ああ、そうだ」

「じゃ、何でそんなホテルの経営者と知り合いなんだ?」

「まあ、話せば長くなるからまたいずれ話すよ」

その時、奥から彼が出てきた。

「お待たせしました。え〜、この部屋が空いていましたね。どれほどお泊まりになられますか?」

「分かりません。この憲法制定会議が終わるまでは、いると思いますが」

「左様ですか。では、お帰りになられる際に、合わせてお支払いください。それまでは、お待ちさせていただきます。では、この321号室をお使い下さい」

鍵をスタディンに渡す。

「ありがとうございます」

「では、これで…」

彼は、去っていった。

「すごいな。あの人が、このホテルの経営者か…」

「このホテルだけではない、エアグループの統帥者であり、自分の父親の、エア・クリルだ」

後ろを振り返ると、そこには、アダムとイブがいた。

「あれ?アダムじゃないか。どうした?イブも連れて」

「どうしたもこうしたもないよ。軍部が新しい憲法制定に着手するって聞いて、ちょうど学校も休みになる上に、オブサーバーとして出席する事になっているんだ。他のクラスの連中も心配していたけどな。いつもはして無いけども、自分達の身も安心じゃなくなってきたと言う事に気づいたのかな」

「まあ、それよりも、オブサーバーか。じゃあ、アダムとイブもとりあえず出席するんだな」

「そう。とっくり君としーちゃん、君達も出席するんだろ?ま、君達はちゃんとした出席者だ。こちらの意見も取り入れてもらう事を望んでるよ」

スタディン達は、目を合わした。

「そのつもりだよ」

そして、彼らは、別れた。


数時間して、1階に降りた。すでに、軍服を来た人達がうろうろしていた。

「あ、スタディン君。君達はここに泊まっているのかい?」

「そうです」

話しかけてきたのは、陸軍統合長官の、磯柿丙洋大将であった。

「まあ、まだまだ君達は先が長いんだから、今を精一杯楽しみなさい。ところで、君達は、どのような案を出すつもりなんだい?」

「え?何の案ですか?」

「なんだ、まだ聞いてないのか?憲法草案は、軍の中から選び、良い所同士をつなぎ合わせて、ひとつの憲法として公布する事にしているんだが…そうか、君の所属は、第2師団だったな」

「はい、そうですが?総司令を左遷させるのは、先に言わせてもらいますが、私、個人としては、猛反対を表明させていただきます」

「はて、どうしてだ?彼は、自分の部下に、必要な情報を与えなかった。それは、十分罰するに値すると思うがな。そうか、君がそこまで思っているのなら、今回は見逃そう。ただ、次回があるかどうかは、別問題だからな」

「その点については、重々承知しております」

「そうか、それならばよろしい」

彼は、別の人達の所へいった。

「さて、パーティー会場は、どこだろうな」

受付の人に聞いたら、あのレストランだった。

「いやはや、ここに来るのも久しぶりだ」

「あれ?スタディン、前にもここに来た事があるのかい?」

聞いたのは、とっくりだった。

「ああ、褒章を授与される時に、ここを利用させてもらった。そして…いや、いまはこの目の前にある大量の晩御飯の事を考えておこう」

レストランに入ると、既に何人かが席に座っていた。席順は軍の種類に関係なく階級順となっていた。ただし、オブサーバーとして参加する人達は一番料理に近い場所にいて、それ以後、四軍統合庁関係者、各師団の総司令官、そして、大将から将補までの各階級の人達がずらりと並んでいた。ただ、ところどころ、順番が変わっていたり、将補未満の階級の人達も混ざっていた。どうやら、招待客としてこの会議に参加する人達は、その招待した側の階級の席に座るらしい。オブサーバーの人達も、一応の場所は決まっていたが、終わるころには、そんな場所なんて言うのは無くなって、全ての階級の人達が好きなもの同士で食べていた。

「さて、このホテル、ネット環境はばっちりだったよな」

スタディンがアダムに問いかける。アダムは、空の皿を横に追いやってから答えた。

「当然じゃないか。前来た時もそうだっただろう?」

「いや、確認したかっただけさ。それと、サイトを開設したいんだが、どうすればこのネットから作れる?」

「そうか…ウェブページを作りたいと、たしかにこんな憲法関係の事は、一般人の知恵も必要だろうな。いつまでに作って欲しい?それと、どんな内容にして欲しい?」

スタディンは、それらを伝えた。

「そうか…まあ、やってみるよ。任しときな」

「よろしく頼むよ」

アダムは、その言葉を聞くと、携帯でどこかに指示を出し始めた。


パーティーに出された料理の数々は、ほんの1時間で食べ尽くされた。そして、四軍統合庁所属第2師団師団長の川草大明が、マイクを握って立ち上がり、話し始めた。

「みなさん、お楽しみいただけましたか?では、第1次憲法草案の提出期限は1週間後に私に届けてください。それまでは、それぞれの師団にて話し合ってください。では解散」

ばらばらと帰り始めた。

「オブサーバーの皆様は、少しお待ち下さい。権利について、確認したい物がありますので」

「じゃ、スタディン。また後でな」

「どこの部屋に泊まっているんだ?」

集まっていく背中に声をかけたが、彼には声が聞こえていないようだった。


「第3惑星第2師団の人は、このホテルの、321号室に集合せよ」

伝言ゲームみたいにして伝わっていった。

「第3惑星第2師団の人は、このホテルの321号室に行く事」

「第3惑星の第2師団の人は、このホテルの321の部屋に集合」

その伝言ゲームの結果として、全員集合した。

「では、本憲法制定会議にオブサーバーとして参加する事になっている、エア・アダムとイブの兄妹より、ひとつの提案があるようですので、お言葉をいただきます」

司会は、とっくりとしーちゃんがしていた。発言は交代にしていた。

「えっと、エア・アダムです。率直にお話させていただきたいと思います。私は、ある人物より提案を受け、それを実行に移させていただきました。その人自身の意志により、匿名にさせていただきます。さて、その提案というのは、この広い3惑星中の国民から新憲法の草案の提案をいただくと言うものであります。すでに、いくつか送付されております。現在、インターネットにて明後日までの期限を設け募集しております。それぞれ、現在お手元の試料をご覧になって下さい」

ぱらぱらと紙をめくる音しかしなかった。

「お分かりになられましたか?現在、5つの民間の委員会及び組織から草案をいただいております。もしも、全文ご覧になられたいのなら一言申してください。宿泊先さえ言っていただければ、そちらにまでお届けいたします。さて、それともうひとつ。これは、個人的なものなのですが、軍部独裁を出来るだけ避けてもらいたいのです。それとこのままの自由資本主義のままにしておいて欲しいのです」

「その点については、すでにこの師団では、統一された意志がある。その点は安心しなさい」

発言したのは、空軍総司令の池林大将であった。

「憲法草案を一般に求めるのか、時間的なものは大丈夫なのか?」

「こちらの方に言っていただけるのならば、重複しているところを重要なものとしてピックアップさせていただきます。それをそちらに渡しましょう」

「期日は明後日までだったな」

「インターネット公募は」

「よし、それでいこう。エア・アダムとイブといったな。よろしく頼むぞ」

「承知仕りました」

お辞儀をして、部屋の外へ出て行った。もう、自分達の用は終わった。そう考えているのだろう。

「では、次です。えっと、現在提出されている、憲法草案で、既に5組に共通している物があるので、それを取り上げたいと思います。では、第2師団宇宙軍指令の、蔚木鴻卦大将、よろしくお願いします」

「蔚木鴻卦大将です。手元にある資料の34ページをご覧になってください。そこに記載されている通りです」

「質問がある方は、挙手をしてください」

何人かが手を挙げた。

「では、池林総司令」

「この、「民主化に取り組む」というのは、どういう意味で受け取ればいいのかな?」

「お答えします。この民主化に取り組むというものの意味は、現在、官僚主義や拝金主義が横行していますこの世界、それらを是正し、一般から見て透明化をはかり、予算などの使い道を、一般に募集するというものと受け取っております」

「ありがとう」

手は全て下がっていた。

「他に質問はありませんか?………ないようなので、次に行かせていただきます。次の議題は…………………………………」

今日も、夜が更けていった。


その日は、全ての人が、スタディン達が泊まっている部屋に泊まった。そして、翌日、鳥が鳴いている頃、会議は終わった。

「では、そういう事でいいですね」

決を取ろうとしているとっくり。しーちゃんは既に寝ていた。

「はーい」

起きていた者は、半数にも満たなかった。

「では、明後日まで…いえ、明日まで、ちょっと、休息を入れたいと思います」

「さんせー」

総司令は、いま、全くやる気を無くしていた。

「とりあえず、宿泊先に帰ってるわ。なんかあったら、プリンス・ディーゼルに、連絡してくれ」

「分かりました。プリンス・ディーゼルですね。ですが、明日にはまたここに帰ってきてくださいね」

「分かってるよ」

総司令は一人抜け駆けをした。

「あの人、最初に帰っちゃったよ。いいのかな〜?」

「ま、いいんじゃない?」

一番最後まで起きていたスタディンとクシャトルが言った。他の少数の人々も、白ばんで来る朝日を見ながら、すっと、意識が無くなった。


次に目が覚めたのは、もう、正午になっていた。外では、暑い日差しが照っていた。

「あつっ」

最初におきたクシャトルが言った。

「あ、そうか。徹夜で会議していたんだった…」

クシャトルは、誰も起こさないようにして、外に出て行った。


次におきたのは、ドアの閉まる音に反応して起きたスタディンだった。

「あれ?クシャトルがいない…」

スタディンも、誰も起こさないようにして、クーラーをつけ、そして、外に出て行った。


クシャトルは、ロビーにいた。アダムと話しているようだった。横には、イブもいた。

「おはよ〜」

スタディンは声をかけた。

「ああ、おはよう。でも、もうおはようって言う時間じゃないけどな」

「そうだよ〜。それに、明日からまた徹夜が続くと思うよ?今の内に体力をつけとかないと、後が大変だと思うよ」

アダムとイブが言う。

「それは分かっているんだけどね、今日も、徹夜しちゃったし、明日だけが、唯一休めるかな?」

「だったら、休んどきなよ。これあげるからさ」

アダムはそう言って、一枚のチケットを渡した。

「これ、一枚で2人までしか行けないしさ、今日が期限なんだ。あげるよ。いろいろとあった分の借りをいま返したからな。これで、チャラだぞ」

「いいけど…これ、どこにあるの?スペース・スパってさ」

「そこに、タクシーがあるから、乗せていってもらうといい。昨日、臨時大統領が軍人の公共料金は全額無料にするようにっている命令を全国に布告させたんだ。だから、どこまでいっても、君達はただで行ける。もちろん、お金を払ってもいいけどね」

「そうか、ありがとう」

スタディンとクシャトルは、チケットを手に持ちその温泉に行く事にした。とりあえず、今日と明日だけしか休みがなさそうだったから。


ホテルの前にあったタクシーに乗り、運転手さんと話していた。

「そうですか…やはり、一般の人達はこのクーデターを快く思ってないんですね」

「それはそうですよ。突然、独裁を始めた大統領ですからね。なにせ、軍属の料金は全額無料とか言っていましたがね、ありゃ、無理がありますよ。こちらだって生活がかかっているって言うのに…」

「まあ、確かに分かります。いま、憲法を定める会議をするための草案を作っているところなんですが、何か意見とかありますか?ありましたら、今言っていただくか、ネットで、「第3惑星第2師団 改憲草案募集」って、検索してみてくださいそこに、書きこんでくだされば、それらをまとめて草案にするつもりですので」

「ほほう。それは本当かい?うそだったら、とても怖い事になるよ」

「大丈夫です。もしかしたら、その草案自体が否決される恐れがありますが、草案はちゃんとまとめて会議に提出します」

そして、タクシーは止まった。

「ああ、これ、代金です。受け取ってください」

「え?いいんですかい?あんた達は、軍属だから、料金はただだけど…」

「じゃあ、チップと言う事で、渡しときますね」

クシャトルは、呆然としている運転手にウインクを送った。

「あ、ありがとうございました…」

ドアを開け、タクシーから降りた。


「これが、スペース・スパだな」

「そうみたい。とりあえず、入ってみましょう」

自動扉を通り中に入る。中では、人がまばらしかいなかった。しかし、その全員が軍服を着ていた。

「どうやら、戒厳令はまだ生きているみたいだね」

「じゃあ、何であのタクシーの人達は、つかまらないの?」

「それは、軍人がそのまま歩くわけがないじゃないか。だから、その足としてまだ働いているんじゃないかな」

「そうか〜。確かにそれはありえるね」

下足箱に靴を入れ、靴下で上がった。そして、顔見知りの人とであった。

「あれ?第3惑星第2師団総司令ですか?」

後ろを振り返った人は、確かに、総司令だった。

「なんだ。君達もここに来ていたのか」

「総司令、何故ここにいるのですか?あなたは、宿泊しているホテルに帰られたはずですが?」

「その質問、そのまま君達にも出させてもらうよ。なんでここにいるんだ?君達の方こそ、いなくてもいいのか?みんな、大変だと思うが?」

「その点は安心下さい。ホテル側に伝言を伝えるように頼みましたから。それに、今回、オブサーバーとして参加している、エア・アダムから、ここの優待チケットをもらいましてね。それで、ここに来た次第で…」

「そうか、たしかに、ここは、良質な温泉で有名だからな。疲れとか、一発で飛んでいくぐらい、いい温泉だ。これに匹敵するのは、おそらく日本にしかないだろうな」

「とりあえず、入りましょうよ。話し合いは、それからでも遅くはないでしょう」

クシャトルの提案で、さきに、スパの中に入る事になった。


中は、浴槽が、12〜3個あり、人は、ほとんどいなかった。いたとしても、その人達は、全員軍人であった。ただし、タオル一枚で、どしどしと歩いていく軍人なんて言うものを、誰が想像できようか。

「ここのスパはな、おれが、ここに来るたび、使っている保養施設でな。常連なんだ」

「そうなんですか。じゃあ、この辺りにも詳しいんですか?」

「いや、全く詳しくない。それどころか、司令部と本部とホテルとこことの4角だけが行動範囲だからな」

誰一人として、ここに残ってはいなかった。そこに、誰かが入ってきた。

「あ、あの人は…」

「どうしたんですか?知り合いですか?」

「あの人は、WPI長官だ。法律に決して書かれる事のなかった幻の組織、世界人間力改善機関、略して、WPI機関だ。この宇宙だけでなく、他の宇宙にも進出している闇機関の代表。人造人間の研究とかをしている機関だ。なんで、そんなところの長官が?」

「おや〜、そこにいるのは誰ですか〜?」

「やばっ、見つかっちゃいましたよ。どうするんですか、総司令」

「恐怖心は、逆に人を弱くしてしまうものだ。ここは、真正面から行くしかないだろう」

湯船から立ち上がり、総司令が、WPI機関の長官に言った。

「これはこれは、誰かともえば、泣く子も黙ると言われている、WPI機関の長官殿ではありませんか。なぜ、このようなところに?」

「偶然だがな。まあ、面白い人もいるもんだな。なあ、憲法制定会議議員、川草大明宇宙軍大将と、イフニ・スタディン宇宙軍将補」

猫なで声で、語りかけてきた。しかし、そのような闇機関の重鎮であったとしても、公共マナーは、ちゃんと守るようであった。武器も一切携帯せずに、堂々としていた。しかし、スタディンは、声を聞いて、背筋が凍る思いであった。

(この人が、WPI機関長官、大杭並筒。噂どおりの人だ。何事に対しても動じず、何事も冷静に受け取ると言う)

スタディンは、この二人を見て、あまり変わらないという印象を受けた。そして、スタディンに話が振られた。

「そういえば、スタディン君〜、きみ、憲法にどんな物を入れるつもりなんだい〜?」

「いえ、まだはっきりとした事を考えてはおりません」

「そうか〜。残念だな〜、第2師団のホームページに、憲法草案の受付が書かれていたのに〜。まあ、そんなものかな〜?」

「質問させてもらっても、いいですか?」

「ええ〜。どうぞ〜」

「WPI機関というのは、何をしている機関なのですか?」

二人の表情が硬くなった。

「何をしている機関かって〜?それはね〜、人が、どれだけ機械化しても耐えれるかと言う事をしているんだよ〜」

「それは、違法性が極めて高いと思いますが?違うのですか?」

「そうだね〜、我々のWPI機関はね〜、例えば、他の場所から、戦争が起きたとしよう〜。その時に、人を機械化して、どのような戦果が得られるかと言うシュミレーションとかね、実際にしていたりね〜」

スタディンは、再び、背筋に氷を落とされたような感じになった。

「それは、政府も認めているのですか?」

「認めてるも何も、第3次世界大戦以前に設立された、由緒ある機関ですからね〜。政府ももちろん知っていますよ〜。あなたも、手術を受けますか〜?もちろん、お代は要りませんがね〜」

「いえ、遠慮させていただきます。それに、湯冷めもしそうなんで、ここで、失礼させていただきます」

スタディンと川草さんは、速やかに、外へ出て行った。


「ふー。あんなところに、あんな人がいるとは、いやはや、気づかなかった」

「なんですか?あの人は。噂でしか聞いた事がなかったですけど」

脱衣所で、息を切らせて話していた。他には誰もいなかった。

「あの人はな、どこのデータを当たっても、何も出てこない人なんだ。逆を言うと、何が出てきてもおかしくない人なんだ。しかし、あの人もここを利用していたのか…どこでも、安心して入れる場所はもうないんだな」

「一箇所だけありますよ」

「どこだ?」

「宿泊しているホテルの部屋にある風呂」

「そこに入ったら、終わりだよ。友達もいなくて、寂しく教室で泣いている頃を思い出してしまうよ…」

「傷つきましたか?すみませんでした」

「いや、いいんだ。もう、昔の話だし。それよりも、君達はこれからどうするつもりだ?まだ、12時半だが」

「これから、妹と合流して、そのまま帰ります」

「そうか、自分の所は…まあ、気が向いたら遊びに来いよ。喜んで、歓迎するよ」

「分かりました。気が向いたら、そちらに行かせてもらいましょう」

そして、二人は、分かれた。


ロビーで、クシャトルを待っている間、暇だったスタディンは、自販機で、缶ジュースを買っていた。腰をかがめて、ジュースを取り、後ろを振り返ったら、クシャトルが、頭から湯気を立てて出てきていた。みていたら、誰かと一緒に出てくる。スタディンは、近づき、話し始めた。

「クシャトル、この人は?」

「ああ、この人?WPI機関とか言うところに所属している、ベンチェスト・サラさんだよ。サラさん、こっちは、自分のお兄ちゃんの、スタディン」

「こんにちは、スタディンさん。ここ最近あなたの噂をよく聞きます」

「そうですか。ところで、WPI機関に所属していらっしゃると聞きましたが?どのような事をしてるので?」

「人体改造ですね。一言で言えば」

「具体的には?」

「例えば、精力絶倫にしたり、筋肉を思いのままに着けたり、さらには、機械化させ、戦場に連れていくと言う事もしています」

「まるで、昔の漫画みたいだな…」

少し考え込むような顔をするスタディン。それをみて、サラは、スタディンに対して言った。

「どうかしましたか?」

顔を覗きこみながらいった。

「いえ、別に何でもありません。機械化させると言ったって、いろいろとあると思いますが?」

「そうですね。結論から言うと、自律系自立型無補給完全兵器とでも言っておきましょうか」

「それをされる人達は、どのような人たちなんですか?」

「基本的には、希望者を取っていますが、時には、強硬手段を用いる事もあります。全ての責任は、なぜか誰も取りませんが」

さらりと、何の感情もないかのように言った。いや、本当に感情がないのかもしれない。

「あなたは、それを善と考えていますか?それとも悪と考えて?」

「必要悪だと思います。このような事は、必ず誰かが作るでしょう。私達はそれを先にしただけ。だからこその必要悪なんです」

「彼らの人権は?」

「法的保護を受けております。人権は保障されています」

「その中には、まだ、10代とかの少年や少女とかがいるのか?」

「あなたには、そこまで係わり合いになる権限がないと思われますが?」

「実は、あるんだな」

スタディンは、ポケットにいつも入れている高校の生徒手帳の中から、一枚の紙を出した。

「これは?兵部省大臣の印と直筆署名…」

「これは、昔、兵部省大臣から直接手渡しされたものだ。ただ、クーデターが起こったせいで、その人は、いなくなったがな。この紙は、全ての人権侵害と思われる者に対する、査察請求権を無制限に認めている。いわゆる永久保障付きの令状みたいなものだ。これがあれば、君達の機関に行く事が出来るし、告訴も出来る。さて、ここまで言っても係わり合いになる権限がないと言い切れるかな?」

「そうですか。たしかに、この紙によると、あなたにはその権限があり、いつでも認める旨も記載されている。なるほど。あなたには、その権限があるようですね。しかし、私はそこに係わりあっている訳ではないので、よく分かりません」

「そうか…まあ、今はいい。クシャトル、とりあえず、帰ろう」

スタディンは、歩いた。

「う、うん。分かった。じゃあね。サラさん。また会う日までね」

「ええ。クシャトルさん。近いうちに会えると思いますけどね…」

最後の言葉は、クシャトルには、聞こえなかった。


「ねえ、あの紙って…」

タクシーが拾えなかったので、仕方無しに歩いてホテルに帰っている間に、クシャトルが話しかけてきた。

「どうした?ああ、この手帳に入れていた紙か?これはな、高校に入って最初の時に、ホテルに立てこもられて、やった時があっただろう?あの時に、もらったんだ。それに、いつまでって言う期限も書いてなかったし、そのまま使わせてもらっているっていう次第だよ」

ジュースを飲みながら答えた。

「そう、それならいいんだけど…」

「これが、偽物かって言うのかい?ま、疑うのも無理ないか。だって、あの時は、自分一人だったし、クシャトルはいなかったからな」

「そうだったね…」

心配そうな顔をしていたのが、一転して、爽やかな笑顔になった。

「あ!あそこに、タクシーがいるよ」

手を挙げて、こちらに止まらせる。

「お客さん、どこまでですかい?」

「エア・ワシントンまで」

二人同時に言った。


ホテル帰ってきたのは、1時を少し回ったぐらいだった。

「あれ?早かったね」

「まあ、いろいろとあってね。缶、どこに捨てたらいい?」

「ああ、そこのゴミ箱にでも捨てといてよ。また、回収するからさ」

スタディンが捨てにいっていた。その時、エレベーターから、軍服を来た人達が出てきた。

「ああ、おはようございます」

「ああ。おはよう。でも、もう午後1時だけどな」

「皆様、いかが致しましたか?」

一瞬で、ホテルの接客に当たりだした。

「すげ、自分絶対まね出来ないよ」

すぐに、さばいていった。そして、5分もしないうちに、クシャトル達以外、誰もいなくなっていた。

「さてと、自分達も、部屋に帰るよ」

「そうか。分かった。夕食はどうする?」

「とりあえず、ここのレストランを予約しときたいんだが。出来るか?」

「このホテルの事なら、不可能はないよ。特にいまは、誰もいないしね」

アダムは、どこかに書きつけた。

「じゃ、321号室だったね。そこに連絡入れるよ。何時からがいい?それと、どんな料理がいい?」

「予約入れると、料理まで特別なのに出来るのか?」

「そうだよ。たいていの店だったらしているけどね。ま、どんな料理がいい?和食?洋食?それとも、中華?」

「洋食がいい」

クシャトルがいった。

「そうだな。洋食で頼むよ。中身は何でもいいから」

「了解。将補殿」

「その呼び名って、軍の中ならいいけど、ほとんど、一般人化している時にされるととても恥ずかしいんだな」

「そうなのか?まあ、321号室に連絡入れるから、ゆっくり寝ときなよ」

「そうさせてもらうよ」

そして、彼らは、321号室に上がり、ベットで寝た。


スタディンが起きたのは、それから30分ぐらいしてからだった。内線電話が鳴っていた。スタディンは、ベットから這い出て、電話を取った。

「はいはい。321号室ですが?」

「ああ、スタディンか?アダムだ」

「おお、アダムか。どうしたんだ?」

「一応、料理が決まったのを知らせるのと、予約をいつにするかというのを聞きたくてな。いつがいい?」

「そうだな…5時半は、空いてるか?」

「5時半、5時半っと…ああ、空いてるな。その時間でいいんだな」

「ああ。で、料理はどんなんが出るんだ?」

「えっとな…ああ、舌平目のムニエル。白ワインソース。取れたて野菜のスープ。ホウレン草の胡麻和えと玄米のリゾット。たまねぎのサラダ、シェフ特製ドレッシングがけ。レモンの絞り汁がかかったレモンシャーベット。あと、お好みで、紅茶かコーヒーのどちらかが選択できるようになっている。以上だな」

「そうか、ありがとう。アダムはどうするんだ?夕飯は」

「自分は、パソコンと向き合っておくよ」

「そうか、じゃ、またな」

電話をおいた。そして、アラームを4時半にして、ベットで寝た。


そして、4時35分、アラームがなりはじめてから、5分間丸々寝ていた。

「なんだよー、もう」

アラームを止めて、クシャトルが起きた。スタディンは寝ていた。クシャトルはリビングの机を見て、紙が置いてあるのを見つけた。

「今日、5時半、晩御飯、ここのレストラン」

とだけ書かれていた。

「そうか…晩御飯、ここで食べるんだね」

そこまで言って、ひとつ気づいた。

「あれ?とっくりとしーちゃんは?」


スタディンが起きたのは、それから25分たった、5時だった。

「あれ?クシャトル、もう起きていたの?」

「もう起きていたのじゃないよ。アラーム付けて、そのまま寝ていた人ほど、眠くはなかっただけだよ」

「そうですか…さて、机の紙、みた?」

「ええ。みましたよ。で、しーちゃん達は、どこに行ったの?」

「ありゃりゃ、まだ帰ってきていなかったか。すっかり、忘れていたよ」

「どうするのよ。もう、間に合わないと思うよ」

「ここは、彼らは、別の所で食べている事を願って、そのまま行くことにしよう」

「いいの?後で、恨まれるかもしれないよ。「なんで、自分達を呼ばなかった」って」

「大丈夫だ。彼らは、そんな人じゃないし、それに、しーちゃんは気づいているだろうしね」

「ああ、そうか…そうだよね。じゃあ、まだ早いけど、ゆっくりしたに降りておこうよ」

「そうだな。遅れるよりも、早いほうがましだもんな」

二人は、部屋から出て行った。そして、ゆっくりとした足取りで、1階を目指した。


「どうも、お待ちしていたよ」

15分かけて、ゆっくりと降りていくと、アダムが下で待っていた。横には、イブもいた。

「あれ?アダム、パソコンと向き合っているんじゃなかったっけ?」

「いや、時には休息も必要だと言う事に気づいてね。それで、君達と一緒に夕ご飯でも食べようかとね」

「そうか。まあ、いいんじゃないか?席さえあればさ」

「そうだな。席は既に準備してあるし、料理も準備されつつある。5時半まで、ゆっくりしていたらどうだ?」

「いや、遅れるよりも、早い方がいいだろ?」

「まあ、それはそうだがな…」

「とりあえず、入らせてもらえるかな?」

「いや、もうちょっとまってくれ。開店が5時半からなんだ。君達が、最初なんでね。それに合わせる事にしたんだ」

「そうか、じゃあ、ロビーでテレビでも見ておくよ。時間になったら教えてくれ」

「分かった。そこにテレビがあるから」

テレビでは、青い蛙が見つかった事について話していた。

「やれやら、こんな時分なのに、青い蛙の事か…ま、いいか」


15分間はあっという間に過ぎた。

「スタディン、クシャトル、5時半だから」

「あ、うん。分かった」

スタディンとクシャトルは、同時に立ち上がり、ソファーの両側からアダムとイブの所へ行った。

「そうか、もう5時半なのか。あっという間に時間が過ぎるな」

「当たり前だよ。楽しい時間は、あっという間に過ぎていくものだよ。逆に、きつい時間は、ゆっくりとしている。そんなものだよ」

そして、彼らは、レストランに入った。


レストランの中は、夕食の準備をしていたところだった。しかし、昨日のようなバイキングの跡形もなく、その代わりに、椅子とテーブル置かれていた。

「すぐに変えたからね。準備はいつも完璧だよ」

威張るのは、アダムだった。

「とりあえず、席、どこでもいいの?」

「いや、どうぞ、こちらへ」

案内されたのは、テラス席だった。

「ここで、食べる事になっているんだ。予約した人達だけね。これは、こちらの規則だからね」

スタディンは、席に座りながらいわれた。

「ま、規則には従うしかないからな」

言っている間に、料理が運ばれてきた。

「これが、とれたて野菜のスープでございます」

「何が入っているんですか?」

「ごぼう、かぼちゃ、トマト、それに、その他数種類入っております」

「そうですか」

スタディンは、スープを飲みはじめた。


飲み終わる頃には、中は盛況していた。

「やっぱり、戒厳令とか守られていないみたいだね」

「そうだな。それに、もうすぐ、夜間外出禁止令は解除されるだろう。多分、朝と夕方の、短時間だけは、行動自由になると思うよ」

「そうなってもらわないと、こっちが困るよ」

皿を下げに来たのと同時に、次の料理を持ってきた。

「これは?」

スタディンは、もって来たシェフの人に聞いた。

「こちらは、たまねぎのサラダ、かかっているドレッシングは、本ホテル料理長のオリジナルとなっております」

「…………」

「どう?クシャトル」

「……おいしい」

咀嚼を続けていたクシャトルに、みんな注目していた。

「そうか、おいしいか」

アダムは、静かにガッツポーズをした。見ていたのは、シェフとスタディンだった。


サラダを食べ終わると、外は、暗くなってきていた。

「もう、暗いね」

「そうだな…」

「そういえば、同席していたとっくりたちは、どこに言ったんだ?」

感慨にふけっている所にわざわざ何か言ってきたのは、アダムだった。

「正午に姿を見て以来、一回もみていないな」

「さて、どこに行ったんだろうな」

そうこうしているうちに、同じシェフが料理を運んできた。

「次は何ですか?」

「舌平目のムニエル、白ワインソースがけでございます。この白ワインは、ボルドー産のブドウを使っておりまして、フラッペして、風味のみをお楽しみいただけるようになっています」

「………………」

スタディンとクシャトルが食べてみる。固唾を呑んで、アダムが見守る。

「おいしいな、これ」

「うん。とってもおいしいよ」

「よっしゃ」

シェフは、別のテーブルに行っていた。

「実は、この料理は、まだ誰にも食べてもらっていなかったんだ。だから、少し心配していたんだがな」

「大丈夫だよ。ちゃんと、おいしいから。メニューに載せても大丈夫じゃないんかな」

「そうか。それはよかったよ」

そして、すぐに食べてしまった。


「次は、なんだっけ?」

「予定では、ホウレン草の胡麻和えと玄米のリゾットだね」

すぐに、料理が運ばれてきた。

「お待たせ致しました。ホウレン草の胡麻和えと玄米のリゾットでございます。お好みで、バジルソースをかけて下さい」

「バジルソース、ねぇ」

それぞれ一口づつ食べてから、バジルソースをかけて食べた。

「どっちも、おいしいね」

「そうだな。確かにおいしい。さすがだな」

「ここの、シェフに言ってよ。そのせりふは」

アダム達も、到着した料理を食べながら答えた。外は、少しづつ、確実に、暗くなりつつあった。街灯には灯がともり、幻想的な雰囲気を漂わせていた。ホテルのテラス席から見える通りには、誰もおらず、ただ家々に静かに電気がついているだけであった。

「……静かだね」

「え?どういうこと?」

リゾットを食べ終わり、ホウレン草を食べていたクシャトルが、全て食べ終わって、ちょっと小休止状態になっていたスタディンにいった。

「ここは、夜中になるにつれて、だんだん音があふれてくる通りだった。私達が、将補に昇進した時、ここに泊まった時を憶えてる?私は、ずっと憶えている。このテラス席だって、もっと人がいた。いまは中にすらほとんどいなくなっている。いたとしても軍服を着た私達よりも階級が高い人達だけだし」

「確かに、でも、それは、24時間の外出禁止令が出ているからじゃないかな」

スタディンが反論した。

「それで、この通りもいなくなっていっているんだと思うよ」

そこで、アダムが話しだした。

「実は、他にも理由があるんだ」

「え?どんな?」

スタディンが、アダムの話に身を乗り出した。

「実は、人攫いが会ったらしいんだ」

「人攫い…犯人が、まだ捕まっていないんだな。それで、こんなに、静かになっているんだな」

「いや、犯人は分かっているんだ。ただ、それが相手が、連邦政府だと、手出しが出来ない」

「連邦政府が、人攫いを…?」

「そう。ある人から聞いた話なんだが、どうやら、警察じゃないらしい」

「じゃあ、だれなんだよ」

「連邦政府直属機関、闇機関の筆頭の、WPI機関というらしい。さらっていくのは、通りを歩いている人だけらしい。ただ、警察と違うところは、それらならば、必ず帰ってくる。彼らは、誰一人として帰ってきていない。それに、警察車両じゃなく、装甲車で来ているから歯も立たない」

「そうか…WPI機関については、いろいろと聞いているからな。この機会に解体するべきだな」

その時、皿が下げられ、最後の料理が出てきた。

「大変お待たせしました。デザートのレモンシャーベットです。チョコレートシロップと共にお食べ下さい」

頭を一回下げ、帰っていった。それを食べながら、ここ最近の情勢について話し合っていた。


「ふ〜、ごちそうさま」

「お粗末さまでした」

シャーベットを完食し、立ち上がった。ふと、上を見ると、星が見えなかった。

「この周辺で、星が見える場所って、あるか?」

「ああ、一箇所あるぞ。でも、今は、24時間の外出禁止令が出ているが?」

「いや、ひとつ忘れてはいけないよ、アダム」

スタディンが話した。

「自分は軍人だ。軍人に対しては、外出禁止令は出ていないんだ。それに、軍人についている人達については、軍が優先される」

「なるほど…それを使うか」

アダム達は、中に入っていった。


「ここが、星が見える場所だ」

人工の丘みたいなものがあった。一番上まで登ると、周りの光は、なくなり、星の光を体中で感じる事が出来た。

「きれー…こんなにきれいな星を見たのは久しぶり…」

イブが言った。したから、誰かが上がってきた。

「これっ、そこで何をしている…こ、これは。イフニ・スタディン将補殿とクシャトル将補殿ではありませんか。いかが致しましたか?夜にここまで出向いていたのは」

「いや、少しばかし、星が見たくなってな…それで、ここにいるわけだ。自分達には、外出禁止令は公布されていない。そうだろう?」

「確かにそうです」

「それに、今の状態で、軍人とその連れを逮捕したら、君の立場がものすごく悪くなるが?」

「確かに…分かりました。ごゆっくり、星空をお楽しみ下さい」

彼は、それだけ言うと、静かに去って行った。


スタディン達は、丘に横たわり、上をずっと見ていた。

「……………………」

誰も話さなかった。そして、クシャトルが、話しだした。

「あのね。お兄ちゃん」

「なんだ?クシャトル。突然さ」

なんの鳥か分からないが、空気を震わしていた。周りは、それぞれの呼吸している音とそれしか聞こえていなかった。

「このまま、成功すると思う?」

「何が?このクーデター政権か?まあ、言っちゃ悪いが無理だろうな。なにせ、軍は治安を守る事が任務であって、組閣して政治をする事じゃないからな」

「確かにそれは言えるかもしれないな。だけど、そんな事を言っても大丈夫なのか?」

「自分を逮捕なんて出来ないさ。アダム。だから、安心してくれ。もしも、自分が逮捕された時は、この政府が次に変わる前後だろう」

スタディンはそう言うと、すっと、目を閉じた。

「目を閉じても見えてくるものがあるか?」

「なんだい?目を閉じても見えてくるものって。スタディンには見えているのか?」

「ああ。手をつかんでも届かないが、確実に見えている物がある」

「それは何?」

「それは、夢だよ」

「夢?そう言えば、スタディンの夢って何だ?」

女子の二人からは、整った調子の呼吸音が聞こえてくる。

「自分の夢は、神々を探す事なんだ」

「神々を探す?神を探してどうするんだ?」

「遥かに遠い時にした約束事がある。中身は既に忘れられている約束だ。神すらも忘れて、忘却のかなたにしか存在していない約束だ。自分は、その記憶だけが存在している」

「なんで、その記憶だけがスタディンの頭の中にあるんだ?」

「そこまで知るかよ。ただ、これだけは分かる。これは神との約束だ。自分は守る義務がある」

「守る、義務ねぇ」

「あ、信じていないな?」

「自分は、生憎と、神なんていないと思っているんでね」

「宗教学者が聞いたら、絶対反論されるな。間違いなく」

そして、夜は更けていった。いつまでも、星空は、きれいだった。


「あ、やべっ。もうこんな時間?」

最初に起きたのは、スタディンだった。時計は、ちょうど、1時を指していた。

「おい、みんな起きろって。腹痛くするぞ」

「…ああ、今何時だ?」

「今は、夜の1時だ。まだ、太陽は出ていない」

「まじでか。自分達は、何時間寝ていたんだ?」

「6時間弱って言うところか」

「ほら、イブ、クシャトル。起きろ」

「あれ?お兄ちゃん?どうしたの?」

「今は、午前1時だし、このまま寝ていたら、ホテル側に迷惑をかける事になる。起きて帰るぞ」

「うん」

そして、全員が立ち上がった。少しふらつく足取りで、ホテルへと帰っていった。


ホテルは、既にドアが閉まっていた。

「当たり前か。裏口に回ろう。あそこなら、合鍵がある」

そして、ぐるりと回り、無事に中に入った。そして、エレベーターが止まっていたので、階段で、上に上がった。

「とりあえず、自分の部屋に帰っているから」

「ああ、分かった。じゃあ、また明日」

「うん」

スタディンは、ホテル側から借りている鍵を使い、321号室のドアを開け、中に入った。音は、何もしていなかった。ベッドをみると、既に、とっくりとしーちゃんは寝ていた。

「起こさないようにして、自分達も寝よう」

「そうだね」

そして、スタディン達は、そっと、ベッドに入り、そして再び眠った。あの星空を夢見ながら…


そして、朝の9時になった。スタデインの部屋のドアが叩かれた。

「スタディン将補、起きてますか?起きていたら、ドアを開けてください」

ドンドンとドアを叩いている。スタディンは、その音で目が覚めた。とても目覚めが悪かった。

「なんだ〜?人が気持ちよく眠っているっていうのに、まったく…」

何かもごもごと文句を言いながら、ドアを開けた。

「はいー。何かご用でしょうか?」

「イフニ・スタディン将補だな」

「そうですが、あなた達は?」

「我々は、WPI機関のものです。この部屋の人、全員を呼んで頂きたい。出来るだけ、早めに」

「はあ、分かりました。少しお待ち下さい」

スタディンは、みんなを起こし、リビングにあるソファーに座らせた。

「実は、WPI機関に、君達を招待しようと、そう思いましてね」

「招待と言うといいですけど、実の所、脅しも含まれていると思いますが?」

「いやはや、あなたは、確かに賢い。しかし、その賢さが仇になる事もあるのですよ」

少し口調が変わった。

「申し訳ありませんが、今の職場でも十二分に満足しております。どうか、お引き取りください。言っておきますが、この決意は揺るぎませんからね」

スタディンが、堂々と言った。

「さて、どうしたものですかね。軍でいつ死ぬか分からない今の状態で、なぜ固執するかが分からないんですね。我々の所は、厚待遇致しますし、死ぬような事なぞ、ありはしません」

「私達の意見は先ほど言った通りです。私達が高校生だからと言って、なめてもらっては困ります。私達は、軍人です。私達は、あなた達に従う事は一切ありません」

クシャトルが相手の言葉に対して、言った。

「そうですか。では、今日の所は引き下がります。でも、気を付けてくださいね。夜道、一人で歩いているようなことがあれば、我々は、あなた達を招待しますよ。考え直したなら、ここに来てください」

名刺を一枚、机の上に置いてから帰っていった。スタディンは、一応名刺を見た。

「「WPC機関副長官;フィヨルド・モノドック。WPC機関所在地:本連邦国首都特別行政区35丁目29番地3階」だとさ。どうする?これ」

「捨ててもかまわないよ」

「そうだね。捨てても大丈夫だよね」

スタディンは、みんなの賛同を得てから、名刺をゴミ箱に入れた。そこに、アダムとイブが来た。

「ああ、おはようみんな。どうしたんだ?それよりも、何があったんだ?なんだか、朝からとても疲れる事があったみたいだが…」

「いや、なんでもない。で、なんか用?」

「ああ、朝ご飯食べないか、て言おうと思ってね。どう?」

「いいね。今から準備するよ」

だが、準備らしい準備もなく、そのまま下に降りていった。


「で、アダムさ、あのウェブは、どうだった?」

「ああ、憲法の?」

「そうそう、それそれ」

「12時までには最終報告が出来ると思うよ。それまでは、ゆっくりとしといたら?」

朝ご飯を食べながらの会話である。

「確かにそうだな」

周りにいる人は、ここの従業員か軍人であった。それも、憲法制定会議に出席している人達である。

「でも、アダムはどうなんだ?オブサーバーとして、とりあえずは参加するけど、この際、入隊すればどう?」

「ハハハ、やめておくよ。自分には、軍みたいな堅苦しいところは合ってないと思うよ」

「まあ、そうか」

そして、いつの間にか、朝ご飯はなくなっていた。


「とりあえずは、部屋で待っているよ。他の人達もくると思うし」

「じゃあ、会議室でも貸そうか?お安く致しますよ」

アダムは商売の顔をしていた。

「そうだな。いくらぐらいのを借りれるんだ?」

「ご所望のものに応じまして、大きさは変っていきますが、何人で行きますか」

「たしか…25人だったな」

「でも、一人は、AIで、アダムの所にいるよ」

「ああ、そうだった」

クシャトルの指摘によって、24人の会議室が借りれた。無論、低価格だ。

「いつまで借りられるんだ?」

「とりあえず、お客さまのお好きな時間まで…とまあ、茶番はそれくらいにして、スタディン達に、なんか小包が届いていたぞ」

「小包?だれから?」

「さあ、軍の人が持ち込んだらしいけど…とりあえず、渡しておくよ」

アダムは、受付の下から、茶色い袋に包まれた小包を取り出した。

「誰からだろう。いったい」

スタディンは、とりあえず、自分の小包を破いた。中から出てきたのは、箱であった。手紙がついていた。スタディンは、それを読み上げた。

「「イフニ・スタディン様。憲法制定会議開催時には、こちらの服を着て、おいで下さい。現在、他の者にも送付しております。以上」なんか、胡散臭い手紙だな〜」

そう言いつつも、箱の中を開けてみた。中には、新しい軍服が入っていた。

「他の人にも、本当に届いているのかな。とりあえず、他の人達に、荷物が届いていないの?」

「ああ、届いていないな。取りに来た形跡も無い」

「だとすると、この服は、自分達のみに送られてきたと言う事になる。なんでだろうな」

「それに、あて先もかかれていないし、送り主もかかれていないからね」

クシャトルが、横から言った。

「とりあえず、これを着ていくしか無いかな?それとも、元々のを着ていく事になるかな?」

「今日、みんな集まるから、その時に聞いてみましょうよ」

「そうしよう。そうしよう」

とりあえず、スタディン達は、部屋に戻った。


そして、正午になった。用意された会議室に行くと、すでに、半分の人が集まっていた。

「ああ、スタディン将補。来たか」

「はい。ちゃんときましたよ。師団長」

「おお。新しい服だな。しかしおかしいな。この服」

「何かあるのですか?」

「うーん。この服のこの部分、肩の徽章は、これは、少将相当官の徽章になるんだがな…これを決定するための機関は、今は、停止している」

「だとすると、この服はどこから送られてきたと思われますか?」

「さあな。ん?このマークには、見覚えがある」

「この、胸の丸いマークですか?」

師団長が指差したのは、金色に彩られた、ライオンの刺繍であった。ライオンの周囲には、WPIの文字を加工したものが踊っていた。

「このマークは、WPC機関のマークだ」

「しかし、私達は、WPC機関に入っていませんが?」

「だとしても、このマークは、間違い無いな。君達の所へ、職員が来なかったか?」

「ええ。一回だけ来ましたが?」

「君達は、ずっと、つけられている。その機関の人達にな。なんか、不自然な事がなかったか?」

「いいえ。何も思い当たりませんが?」

「そうか。ならいいんだが…」

そして、30分後、全員が揃った。


「これより、第3惑星第2師団憲法制定会議議員による、憲法草案作成会合を開始します。司会は、私達、嘉永兄妹が行います」

とりあえず、拍手が起こった。

「まず、本ホテル支配人の息子と娘であり、私達とイフニ兄妹の同級生でもある、エア兄妹より、本憲法草案の一般意見の報告書の発表がございます。では、よろしくお願いします」

横の扉から、アダムとイブが出てきた。そして、アダムがマイクを譲られ、イブは、資料を配りだした。

「現在、資料を配っていますので、お手元に届くまで今しばらくお願いします」

そして、マイクの先を手で覆い、少しの間待った。末端まで資料が行き届いたのを確認した後、アダムが話しだした。

「では、発表させていただきます。まず、本憲法制定に関する一般意見の大多数は、軍の放棄並びに交戦権の否認と謳った、日本国憲法を元にして作る事、と言う意見でした。これについては、自衛権を有する軍を創設し、なおかつ、自発的な戦争を永久に放棄する旨、記載すべしとの意見もございました。次に、連邦議会及び連邦政府関係機関の規模縮小及び地方分権の積極的な関与と言う意見でありますが、これにつきましては、賛否両論が激しくございます。まず、賛成派のご意見ですが、要約致しますと、「現在の連邦政府では、憲法前文に記載されている、国民の権利の守護者としての政府が正当に機能していない」と、言う意見でした。一方で、反対派の意見と致しましては、「現在の連邦政府によっても、国民の財産は保護されており、なおかつ、連邦政府期間の規模についても、無用の混乱を避けるため、現在の規模が望ましい」と言う意見でした。続きましては、少数意見でしたが、重要な意見として取り上げさせていただきます。連邦政府を消滅させ、銀河を単位とした新たな連邦政府、又は共和国制を基盤として、新たなる国を作ると言うものです。しかしながら、この意見につきましてはさまざまな惑星の住民より、ご意見を頂戴しております。即ち「クーデターという非人道的な方法によって、施行された憲法によっては、銀河中にそんする政府は承知せん」との事でした。詳しくは、お手元の資料をご覧下さい。以上を持ちまして、新憲法草案制定に関する一般意見報告を終了します」

「エア・アダムさん、エア・イブさん、協力深く感謝します。まず、彼らに暖かい拍手をお願いします」

全員が拍手をして、彼らを見送った。

「続きまして、この意見を元に、憲法草案を制定したいと思います。前文から…………………………」

そして、憲法草案は、前文以下第10章まであり、さまざまな分野に分かれていた。翌日の午後3時になって、ようやく、憲法草案は全て出来た。

「……以上で、憲法草案作成会合を閉幕します。なお、この部屋は、翌日まで借りておりますので、遠慮なく眠ってくださって結構です。では、お休みなさい…」

この部屋にいた全員がぐっすりと眠った。夢も見ず、一瞬で時が過ぎた。


次起きた時は、なぜか、次の日の午後6時少し前だった。

「ああ、27時間ほど寝ていたのか…」

スタディンが、最初に起きた。その衝撃で、ゆっくりと、しかし確実に全員起きた。さまざまな起き方があった。そして、ゆっくりと立ち上がり、会議室の外に行った。


「とにかく、飯を食いたい。朝飯だが、昼飯だが、晩飯だが分からんが、飯を食いたい」

師団長が、スタディンとクシャトルの横に来た。

「ちょうどよかった。だったら、ここのホテルのレストランでご飯を食べませんか?無論、おごりますよ」

「だったら、行かせてもらおう」

そして、1階にあったレストランに入った。


「いらっしゃいませー、あれ?スタディンか、どうしたの?」

「ここで、夕飯食べようと思って。空いているか?」

「ああ、こっちにどうぞ」

そして、とてもうまい料理を食べ、大満足で、師団長は帰った。スタディン達は、久しぶりの自室に帰って行った。


「あれ?とっくりと、しーちゃんは?」

「もう帰ってきているはずだけど…いないの?」

「ああ、二人ともな」

「でも、あの二人の事でしょう?絶対大丈夫だって。私達は、早く寝ましょう。あと2日、その日が、第1次憲法草案の締切日よ」

「そうか、まだ、下書きの段階だからな。早くしないと…」

「じゃあ、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

兄妹は、眠った。それこそ、石のように。途中、二人が帰ってきた時も気づかずに時の過ぎるのも気づかずに、ただ、ずっと眠っていた。


そして、何事もなく締切日が来た。そして、さらに時が過ぎ、第1次草案会議が開催された。

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