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第1編第2部

第4章 1学期中間テスト前後


授与されてから、ちょっとしてから、中間テストがある事になっていた。そして、月曜日をはじめとして5日間、それぞれ2時間ずつ。テストがある事になっていた。


「テストまで、あと1週間だ。みんな、気合入れて行けよ」

1年1組の担任となった、今籐先生が、終礼時に言った。

「よ〜し。じゃあ、みんな帰ろうか」

「きりーつ、きをつけー、れーい」

そして、皆はそれぞれの家に帰っていった。


「ただいま〜」

スタディン達は、宮野さんの家に帰ってきた。ちょうど、家の時計が5時を告げていた。

「おかえり〜」

達夫さんの声が聞こえてきた。

「あれ?もう帰ってきているんですか?ここ最近は、中間テストの準備で忙しいと思っていましたが」

「ああ、もうテストは出来ている。あとは、印刷するだけだ」

「どんな問題なんですか?」

「誰が教えるか」

達夫さんは苦笑した。スタディン達は、靴を脱ぎ、荷物を置きに2階に上がっていった。


荷物を部屋に置き、着替え終わり、下に行こうと立ち上がった、そのとき、階段を転げ落ちる音が聞こえた。慌てて、扉を開け、下を見た。クシャトルが、倒れていた。左手が不自然な方向に曲がっていた。

「クシャトル!大丈夫か」

ただ、水が、ポタリポタリと落ちる音だけが、耳に鋭く刺さってくる。スタディンは、階段を慎重に降り、スタディンの下に駆け寄った。

「大丈夫か?」

すでに、達夫さんは、消防署に連絡をしていた。スタディンは、何も触らずに、ただ、おどおどしていた。

「すぐに、救急車が来るからな。それまで、我慢しろ」

とりあえず、気休めにしかならないかもしれないが、勇気付ける事が重要だとどこかに書いていたような気がして、ずっと話し続けていた。

「…お兄ちゃん…いたい…」

スッと、力が抜けていった。しかし、完全には抜けなかった。腕からは、暖かさが消え、既に沈黙していた。そして、永遠とも思われる静寂の後、救急車のサイレンが聞こえてきた。

「急患はどこですか?」

隊員の人が、クシャトルを見つけた。

「発見。閉鎖骨折、左上腕骨。救急搬送」

すぐに、ストレッチャーを運んできて、その場にいる人に聞いた。

「誰か付き添いますか?」

「自分が行きます」

スタディンが、名乗りをあげた。

「分かりました。では、来てください」

すぐに救急車に乗り込み、病院へと搬送された。


検査の結果、左上腕骨が何箇所か折れている事が分かった。

「まあ、全治1ヶ月といったところでしょうかな。とりあえず、今日と明日の午前中は、入院してもらう事になります」

「そうですか…」

クシャトルは、病院までついて来てくれたスタディンを見上げるようにして見た。

「自分も彼女について、病院に泊まる事は可能ですか?」

「親戚縁者か、友人ならば、可能ですよ」

医者はにこやかに言った。

「では、お願いします」

「分かりました。ならば、個室の方がしやすいでしょう…ああ、すいません。個室が開いていませんね。相部屋とかでもよろしいですか?」

「何人いるんですか?」

「小児病棟で、6人部屋です」

「高校生ですが、小児病棟なんですか?」

「ええ。本病院の規則では、18歳以下は小児扱いとする。と言う事になっているので」

「分かりました。では、何号室ですか?」

「これから案内させましょう」

そう言うと彼は、ちょうど後ろにいた、看護師の人を呼び、小声で指示をした。看護師の人は、時折うなずくだけだった。

「はい。分かりました。小児病棟の、203号室ですね」

「そうだ。まあ、よろしく頼むよ」

「分かりました。では、こちらです」

クシャトルは、腕のギプスが固まったのを確認して、車椅子に乗り込んだ。そして、腕を釣り包帯に通して、車椅子を押し始めた。まだ、ぎこちない動きだった。

「大丈夫か?」

スタディンは、そんな妹を気遣うようにして言った。

「うん。何とか大丈夫みたい」

クシャトルは、どうにか笑いかけていた。長い廊下を何回か左右に曲がっていくと、小児病棟とかかれた建物があった。

「この奥です」

それだけ言うと、扉を通っていった。


少し歩いて、203号室に入った。中では、カードゲームや、今はやりの芸能人について話していた。そして、入院中の人達を見舞いに来ている子達が、最初にスタディン達を見つけた。

「あれ?君達って、あの、有名な、イフニ兄妹?」

まだ、小学生なのだろう。両足をつっている女の子がこちらを見ながらいった。

「そうだけど?」

クシャトルが、ベッドに寝転がりながらいった。ちょうど腕を通すように、ベッドの横に包帯がぶら下がっていた。クシャトルはその包帯に腕を通した。

「どう?」

「まあまあね」

無事なほうの腕をぶらぶらさせながら言った。

「明日、検査をします。その結果によっては、もう少し入院が長引く可能性があります」

看護師の人は、その事だけを告げ、さっさと病室から去っていった。しかし、出て行く前に、スタディンに言った。

「スタディンさん、少しお話が…」

スタディンは、クシャトルに一言告げ、病室から出て行った。


「とりあえず、あのギプスがとれるのは、1ヶ月ぐらい先の事でしょう。それに、ギプスを外すときの検査は、1日がかりになります。その事も合わせて憶えといてください」

看護師の人は、無表情な顔で、スタディンに言った。

「本人には、何故言わないのですか?」

「あなたにも知っていただきたかったのと、あなたの口から言ってもらったほうが、すんなりと受け入れられると思ったからです」

「もしも、1ヶ月後に、検査を受け、それでもまだ治っていなかったら、どうなるのですか?」

「そのときは、さらに2週間から1ヶ月間付けたままとなります」

スタディンは、そんな事にならなければいいと思った。そして、続けた。

「あなたは、クシャトルさんと一緒に、病室に泊まりたいと言っていましたよね」

看護師の人は、確認するような目つきで言った。

「はい。そう言いましたが」

「彼女の近くがいいですか?」

再び、確認するような目つき。スタディンは、当然と言うような顔をして、言った。

「出来れば」

「分かりました。彼女の近くに椅子を置き、そこで寝てもらいたいのですが」

「別に構いません」

「では、院長の方に伝えておきますので。何かあれば、院長の方にいってください」

看護師の人は、そのまま、元の道に戻っていった。スタディンは、それをしっかりと見届けてから、病室へと入っていった。


中では、皆が、クシャトルの周りに集まって、これまでの事を注意深く聞いていた。スタディンは、少し離れたベッドに座り、それに耳を傾けていた。


少しして、扉が開き、夕食を運んできた。

「さあ、みんな。夕ご飯の時間ですよ」

この病室には、スタディンとクシャトル以外、全員が、小学生だったので、運んできた人も、自然と子供をあやすような口調になった。一人一人に対して、しっかりと、膳を配っていく。そして、お見舞いしに来た人達の分も持ってきていた。

「はい。これが、クシャトルちゃんの分ね。そして、こっちが、スタディン君の分」

二人の膳には、相当な差があった。まず、クシャトルの方には、おかゆと栄養ドリンクのような黄色い液体が入った容器が置いてあった。一方でスタディンのほうには、ご飯、味噌汁、漬物と、カルキのにおいが少しする水道水が乗っていた。

「ねえ、少しちょうだい」

クシャトルが、こっちをねだるような目で見つめていた。

「少しだけだぞ」

スタディンは、クシャトルがおかゆを全部食べてから、その容器に少し漬物とご飯を入れた。

「ありがと」

すぐに、食べつくした。同時に、扉が開き、1年5組学級委員長である、赤井美喜さんが入ってきた。それと、何人かの同級生も来た。

「ねえ、クシャトル、怪我したってほんと?」

「大丈夫?ちゃんと療養してね」

「へー、この病院の病室ってこんな形になっているんだ」

「ねえ、みんな。何で私が怪我した事知ってるの?」

クシャトルが、お見舞いに来た人達を見回して言った。

「だって、先生が、メールを回してきたんだもの」

「そうそう、5組全員に」

「へー。で、何の用なの?」

スタディンは、そのやり取りを聞きながらせっせと夕飯を食べていた。なおも、話が続いていたが、5分ぐらいすると、看護師の人がやってきて、言った。

「ご飯食べ終わったよね」

「はーい」

スタディンは、入ってくると同時に食べ終わった。

「ここの看護師の人って、こんなに美人なお姉さんなの?」

お見舞いに来た、3組の学級委員の、国照由菅がいった。

「さあ、自分はこの病室しか知らないからな。良く分からん」

スタディンが答えた。

「で、クシャトルのこのギプスはいつになったら取れるんだ?」

「最低1ヶ月だそうだ」

「そんなに長い間?」

美喜が絶句した。

「ああ、それに、もしかしたら、1ヶ月後の検査でもあまり骨が変わっていなかったら、つまり、ほとんど治っていなかったと言う意味だけど、さらに2週間から1ヶ月間付けっぱなしになるんだって」

スタディンが、皆に聞こえるように言った。

「自分は、今日は、病院に一泊するから、みんな、心配しなくてもいいよ」

「とりあえずは、帰るわ。また、明日」

「ああ、先生の方に、明日休む事伝えといてくれるかな」

「ああ。分かった。たしか、スタディンは、1組だったな」

「そうだ」

そして、彼らは病室から出て行った。スタディンは、開け放たれたままの扉を閉めにその場を離れた。彼らの足音がどんどん遠くなって行く。そして、完全に余韻が消えた時、スタディンは、扉を閉めた。病院は、静まり返った。完全なる静寂が支配していた。


「さて、もうそろそろ就寝の時間だと思うんだけど?」

彼らが帰ってから、大体2時間。病室仲間は、いろいろと話していた。これまでの事。これからの事。そして、雑談。病室の扉がするすると開き、夕ご飯を下げた人が顔をのぞかせた。

「もう10時ですから、おやすみなさいね」

「は〜い」

生返事をした。それを聞いて、その人は扉を閉めた。


すこしして、見回りの人がそれぞれの病室を見に来た。

「ちゃんと寝ているか?」

ゆっくりと扉を開きながら、言った。

「……………」

誰も返事をしなかった。みんな、狸寝入りを決め込んでいた。再び静かに扉を閉めた。横の方に足音が移動する。そして、次々と扉が開いて行く音がした。足音も扉が閉まる音も聞こえなくなった頃、そろりそろりと子供達は起きはじめた。そして、スタディンの周りに集まってきた。再び、これまでの冒険のステージ発表を聞くためである。そして、話は始まった。それこそ、時を忘れるほどに…


「さて、今日はもう遅いから、おしまい」

「え〜、まだ大丈夫だよ」

「いや、もう子供は寝る時間です」

スタディンは、決然とした表情を浮かべ、皆に言った。

「ちぇ〜。もっと聞きたかったな」

「家に遊びに来たら、時間がある限り話してやるよ。いいよな、クシャトル?」

「え?うん。いいよ…」

上の空で返事をした。すごく眠たそうだった。

(これまでいろいろとあったし、いま、休む事が重要かな)

スタディンは、皆をベッドに戻らせた。そして、妹の傍に置いた椅子で出来た仮設ベッドに横になった。

「……ねえ、お兄ちゃん」

「なんだ?」

みんなの規則正しい寝息が聞こえてくる。完全に寝ているようだ。

「なんで、私なんかの心配をするの?お兄ちゃんだって、テスト一週間前だし…」

「なんだ、さっきからそんな事ばかり考えていたのか?上の空な返事をしたのもそう言う理由だな」

「うん…」

スタディンは、ベッドから半身を起こし、クシャトルの方に向いていった。

「バカだな。お前は」

スタディンは、クシャトルの頭をなでた。

「この世界のどこに、実の妹を心配しない兄貴がいるんだよ」

クシャトルは、体を起こし、すっと、スタディンと視線をあわした。そして、スタディンは、微笑んだ。

「おやすみ」

スタディンは、それだけ言うと、布団に包まった。クシャトルは、それをみて言った。

「うん。おやすみなさい」

その後、寝た。


翌朝となり、看護師の人が、スタディン達を起こしに来た。

「さあ、みんな。朝ですよ」

朝ご飯を手に持っていた。それを、素早く配った。中身は、食パン2切れと、パックの牛乳だった。

「クシャトルちゃんは、これを食べ終わったら、検査ね。もし、合格すれば、そのまま帰ってもいいわ」

そして、彼女は扉を閉めて次の部屋へと向かっていった。

「もう、出ていっちゃうの?」

横のベッドに寝ている女の子が言った。ちょうど、今年、小学校に上がったばかりだと聞いた。

「そうなの。私も残念だけどね。でも、みんな、退院したら、家に来てもかまわないわ」

「ほんと?」

目をキラキラ輝かせながら聞いた。

「うん。約束」

そして、彼女らは、小指同士を離れないように重ね合わせ、

「ゆびきった!」

と、いった。

「来た時にもしもいなかったらごめんね。私達、いろいろと忙しいから」

「うん。分かってる。でも、ちゃんと行くね」

スタディンは、すぐに食べ終わり、クシャトルも、それからしばらくして食べ終わった。ちょうど、そのとき、看護師の人が入ってきて、

「あら、食べ終わったわね。じゃあ、これに乗って、検査しに行くわね」

「じゃあね」

クシャトルは、悲しそうな笑顔を浮かべながら手を振った。そして、後ろを振り返らずに、車椅子に乗り、外へ出て行った。


「さて、お兄さんはここで待ってください」

ある病棟の扉の前で言われた。

「はあ」

返事を聞くより先に、そのままいってしまった。


30分はたっただろうか。やっと、疲れた表情のクシャトルがやってきた。

「おつかれさま。で、結果は?」

看護師さんはにやりと笑い、

「大丈夫ですよ。退院しても」

といった。

「退院手続きはもう済ませています。あとは、入院料を払うだけです」

「どこではらえば?」

「玄関の受付の横に、お支払い場所がありますから、そこで払ってください」

「分かりました。ありがとうございました」

「いやいや、お礼を言うのはこっちの方ですよ」

「どうして?私達は何もしていないのに」

クシャトルは、車椅子から離れ、立って出てきていた。

「あの子達の、あんな楽しそうな顔を見るのは久しぶりだもの。あなた達は、きっと、とてもいい話をしてくれたのね」

そして、彼女は去っていった。

「なんか、うれしいね」

「自分達にはそんな気は無かったのにな。でも、いい経験をしたな。自分達」

「うん」

そして、二人は歩き始めた。


病院の1階、正面玄関にほど近いところに、会計係の窓口があった。

「合計で、4980GACになります」

「うげ、高…」

「なければ、カード計も承っています」

「いや、大丈夫」

スタディンは、泣き泣き5000GAC払った。

「はい。20のお釣りです」

「とほほ」

彼らは、病院から出た。すると、玄関で、由井さんが待っていた。

「遅かったわね。さ、車に乗って」

案内されたところには、白い8人乗り普通乗用車が止まっていた。

「誰のですか?」

「無論私の。近くの駐車場を借りていてね、そこに止めているの」

扉は、運転席と助手席は手動だったが、後部座席はスライド式の扉がひとつだけだった。しかし、自動開閉機能がついていた。

「取説ではそうなっているんだけどね。やり方が全く分からないの」

そういって、手で普通に開ける由井さん。

「大丈夫なの?」

「ああ、気にする事はないわ。とりあえず乗って」

由井さんはくるりと回って運転席に乗り込んだ。兄妹は後ろの座席に並んで座った。

「シートベルトは大丈夫?」

「自分が付けますよ」

スタディンは、クシャトルの腕をかばうように、シートベルトを付けた。


車はゆっくりと動きはじめた。そして、スピードをあげていった。家には、20分ぐらいかかってたどり着いた。

「今日は、二人ともユックリと休みなさい。あの丘に行くのもいいわね」

「今からですか?」

「ええ。気分転換にもなるでしょう?」

「では、その丘にいってきます」

「ちゃんと無事に帰っておいでよ」

由井さんは、笑顔で見送った。


その丘といわれる場所には、15分ぐらい歩く必要があった。周りから、50mぐらいそこだけ盛り上がっているから、そこの事を、丘というのであった。周りは公園として整備されており、休日の午後となると、子供連れの親子で大変にぎわうのであった。しかし、今日は平日だったので、ほとんど人はいなかった。


「あれ?人がいる」

先にその人影を見つけたのはスタディンだった。

「ああ、君達も来たのか。大丈夫か?クシャトル」

「え?クシャトルって、イフニ・クシャトルか?」

左手で指差した。

「そうだな。その本人だが」

「あの、パッチさん、このお方は?」

二人は、空を眺めている二人と合流した。

「ああ、彼は、フル・カントール・イグニッションだ。皆は、フルと呼んでいるな」

「よろしく」

クシャトルを意識してか、右手を出してきた。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「ところで、こんな平日の真っ昼間、二人で何をしていたんですか?」

「ああ、彼の専門は、古代文明の伝説だからね。それと、自分の哲学的思考を組み合わせて、なんか新しい説が出来ないかと思ったんだ」

「その伝説というのは?」

「遥かなる過去、今から約300億年前。この宇宙ができるきっかけとなる神々がこの世界にできたと伝説は語る。そして、彼らは、この宇宙の神を新たに作り出した。それが、約137億年前、そして、その反動として、この宇宙は意図的ではなく作り出されてしまった。それをふさぎ止めるために、神々は、それぞれの宝玉を作り、魔力を封じ込めた。この宇宙にその宝玉をまいたんだ。そして、この宇宙は、一定の速度で今なお膨張を続けている、しかし、最初の頃のような激しい膨張は起きない」

「神がそれをつなぎ止めているからと、そういう事ですね」

スタディンは、いった。

「その通りだ。そして、その宝玉は、それぞれの宇宙に分かれていったという、それらを全て集めると、神の世界にいけるという。宇宙文明と呼ばれる文明がこちらに来てから、約30億年経つが、彼らは、一度、全てを集めてしまったようなのだ。その影響で、この宇宙は7つに分裂した。それ以上の分裂を防ぐために、それぞれの宇宙に、それぞれの守護神として宝玉をおいていったという」

「それは、どこにあるのですか?」

「それは、それぞれの宇宙に行かなければ分からない。しかし、神の前に立つには、相当な覚悟が必要なはずだ。宇宙文明の始祖達は、その覚悟があったんだろうか。その影響で、このようになっても、その事が事前に分からなかったのだろうか」

「しかしながら、我々人類と同様に考えると、それらも、恐らくは、何かに駆られる気持ちを持っていたのではないか。人というのは、どれをとったとしても、何かに駆られると、勢いがつくものだ。そして、その間に、事を済まそうと考えてしまう」

すでに、二人の世界に突入していた。

「そもそも、神とは何者だ」

「この世の絶対的存在か、はたまた、我らと同様に、単なる一生命体に過ぎないのか。それとも、この世とは全く関係ない、別の未知のものなのか」

「伝説によると、この世界は、いろいろな事が重なって成り立っているらしい。そして、それを取り仕切るのが、神の仕事だと聞く。そして、7人いる神はそれぞれに役割があるという」

「はたして、いかがなる物かな」

「その神の役割って何ですか?」

スタディンが聞いた。フルが答えた。

「神はそれぞれ、カオイン神、ガイエン神、エクセウン神、アントイン神、サイン神、カオス神、イフニ神、それぞれに役割があって、詳しく言うと、カオイン神は怒りの神であり、来るもの全てを怒りに変えるといわれている。そして、この神の役割は人の生きる力を司っているといわれている。ちょうど本能の怒りの神といわれている。ガイエン神は落ち着きの神であり、カオイン神と対極を成している。そしてこの神の役割もカオイン神と同じく、人の生きる力を司っている。本能の落ち着きといわれている。エクセウン神は臆病の神であり、人の内なる精神の神といわれている。怒りと落ち着きのちょうど真ん中に位置しており、精神分野、宗教関係を司っている。人の内なる精神としての引きこもり本能と呼ぶべき物の神と言われている。アントイン神は誠実の神であり人の真実の心を司ると言われている。エクセウン神と対極を成す神であり、人の内なる精神の神といわれている。人の内なる精神分野での、本当の心を表す神といわれている。そして、人の生きる活力を最初に与える神とも言われている。サイン神は悪の神であり、怒り、落ち着き、臆病、誠実、全てから等距離に身を置いている。ただ、人の死に方を司っているといわれていて、その魂を食らうといわれている。そして、その魂を集めアントイン神に引き渡すともいわれているが、真実は分からない。カオス神は混沌の神であり全ての神をまとめる最高神と言われている。戦乱が好きだが、サイン神が引き止めていると言われている。そして、人の心の中に住み、ひとたび本性が出ると、凶暴化させるといわれている。イフニ神は、君達の名前にも付いているが、この宇宙を作った本人と言われている。全ての神々の力を取りいれ、有効的に作ろうとしたらしい。そして、宝玉を7つの宇宙に置き、これ以上広がらないようにしたとも伝わっている。そして、それぞれの神には、色が決まっている。カオイン神は赤、ガイエン神は青、エクセウン神は黄、アントイン神は白、サイン神は黒、カオス神は無、イフニ神は、何も伝わってきていない。これが、私が知っている神々だよ。そして、これらは、結果的に全ての分野において、数々の干渉を行い続けているという。君たちも一度は会っているはずなんだ」

フルは、空を見上げた。スタディン達も、空を見上げた。遥か上空には、一筋の飛行機雲が出来ていた。上空の風によって、飛行機雲はユックリと広がっていった。風が自分達を上へと運んで行きそうだった。丘の下では、学校が終わったのだろう、ランドセルを背負った子供達が声をあげて遊んでいた。

「今日も、いい日だったかな?」

「さあ、まだ終わってないけどね」

彼らは、ユックリと、丘から降り始めた。


「ああ、お帰り」

由井さんが一人、庭に出て、しゃがみこんでいた。

「何をしているのですか?」

「ああ、家庭菜園の草取りだよ。いつも、スタディン達は見ていないからね」

いわれて、由井さんの右手を見ると青々とした草が地面に平積みにされていた。

「さて、君達も帰ってきた事だし、これで終わりにしようかな?」

立ち上がり、家の中に入っていった。


「ただいま」

由井さんが先に入っていった。

「まあ、今日は安静にして、明日からまた学校に行きなさいね」

「はーい」

兄妹は、慎重に階段を上がり、そして、部屋へと入っていった。


夜になった。下の方から足音が聞こえてくる。

「ただいま〜、って、あらら。二人とも仲良く寝ちゃってる」

クスリと笑い、彼女は、ゆっくりとドアを閉めた。


さらに、数時間がたった。スタディンは、夢の空間で、何をいっているか分からない状態になっていた。

「野良見らと命に口にか価値に白波地下海にスな耳質?」

「問の地に口と命にし位置すにねも地下地と命にし行く地道に」

「紀伊耳も丹かな道と命に辛口野良野良見に口道に。土地基地とに見に二の名と丹の血道に見裸子地」

「シラノら見に二の意からに並ら質。戸に見蜜にか並らと命に道耳界シラノらの血見に地すなもら見ら道ミラノ地」

「国からミラノら野良すら寺見ら面の意。トラと二階も丹かなの椅子並ら質。トラ野良見に野良トラと命に口トラ耳土にとなすな」

「国からミラノら野良すら…」

「シラノら見にし芋らにすなね国からミラノら野良すら見ら道の地見に野良トラとな恋か意味らと命に口見意も中海にスな」

「し地下化地す地と地基地と名と丹の地未知にミラノ地…」

「ん名の並ら質!問の地に口と無し意味にトラ道価値見らも意味らも地意味に国すら基地か会にすな」

「ら手地すに」


そして、朝がやってきた。日の出からちょっとしかたっていないのに、スタディンとクシャトルは起きてしまった。まだ、誰も起きていないようだった。彼らは、横のベッドで寝ている人たちを起こさないようにして、下に降りていった。

「おはよーございまーす」

なぜか起きてしまったので、下に降りていったら、すでに、達夫さんが起きて、一人で朝ご飯を食べていた。

「おお、おはよう。早いな。今日は」

「昨日、帰ってきてからすぐに寝ましたから」

「そうか、それより、クシャトル。その腕、大丈夫か?きのう、由井から聞いていたが」

「ああ、大丈夫です。もうすっかり痛みも消えて、今日から学校です」

「そうか、それを聞いて安心したよ」

スタディンは、椅子を怪我をした妹のために座りやすいように置いた。

「ありがと」

ちょこんと座った。スタディンはその横に座り、朝ご飯を食べはじめた。新聞が偶然目に入り、手を伸ばし、読みはじめた。中は、クシャトルの事などこれっぽちも書いていなかったので、少し安心した。


次々と起きはじめて、だんだんリビングがにぎやかになった。そして、一人、また一人と、仕事に出かけた。


7時半の時報がなった頃、アダム達が下に降り始めた。

「おっはよ〜」

「ああ、おはよう」

スタディンは、テレビの前に座っていた。クシャトルは、もたれるようにして横に座っていた。そして、テレビで占いを見ていた。

「今日はどうだって?」

「まあまあだね」

「さてさて、今日から、クシャトルが復活するんだね」

降りてきて、朝ご飯を食べているシュアンが言った。

「うん」

一言だけつぶやいた。

「さて、自分達は、上にあがって、行く準備をしてくるよ」

スタディンは立ち上がった。クシャトルはそれに合わせて立ち上がった。そして、上がっていった。


8時になったとき、みんな出発した。

「気を付けてね〜」

由井さんが見送った。


学校に到着し、クシャトル達とスタディン達は、クラスに分かれた。


そして、クシャトルは、教室に入ると、一瞬静かになった。そして、仲がいい女子達が、集まってきた。


スタディンが教室に入ると、何事もなかったかのような雰囲気が流れていた。そして、クラスの友達が、集まってきた。


何事もなかったかのように時間が過ぎていった。そして、テスト当日となった。


「今日のテストって、何だっけ?」

誰かが言った。

「今日は、理科と公民と古典だよ」

その声に対して別の人が言った。教室の前にある扉が開き、先生が入ってきた。

「よーし、みんな座れよー」

がたがたと急いで座りはじめる。

「かばんや携帯、それに机の中にも何もないかをよーく確認しとけよー」

出席番号順に並んだ人からは、ぶつぶつと呪文を唱えている人もいれば、両手を合わせてすました顔をしている人もいる。中には、既に寝る体勢を作り出そうとしている人もいた。

「ではー、これからテスト配るからなー。これ以降、私語は無しだぞー」

先生が静かになった教室を見渡して、ゆっくりとした動作でテスト用紙を配り始めた。


テストの時間は、一瞬で過ぎ去っていった。


「なんだ、もう今日終わりか」

「今日は終礼がないから、楽だね」

「でも、提出物は忘れないようにしないといけないよ。今日は、特にないけどね」

そうして、みんな、学校の校門から家に向かって出て行った。


「ただいま〜」

「ああ、お帰り」

由井さんが、台所で、何かしていた。

「何しているの?」

玄関で靴を脱いだ、瑛久郎が言った。

「今日のお昼ご飯を作ってるの?」

「今日は何?」

愛華が続けて言う。

「ラーメンよ」

「何味?」

シュアンが聞いた。

「とりあえず、豚骨味よ。偶然手に入ってね」

大きななべの中には、ふつふつと沸騰しているお湯がなみなみと入っていた。その横で、どんぶりを人数分出して、仲にスープの素となるどろっとした物を入れていた。少し白っぽかった。横の湯をその中に入れ、さっとお箸でかき混ぜる。そして、既にゆがいていた麺をその中にリズム良く入れる。その頃になると、スタディン達は、荷物を置き、着替えを済ませ、そして、テーブルに向かってきていた。

「さあ、お待たせ」

ちょうど、全員が下に降りてきて、テーブルの上にラーメンが入ったどんぶりが置かれた。

「お代わりはないからね」

先に、由井さんが言った。


「ごちそーさまでしたー」

アダムが言った。

「どうだった?」

由井さんが片手で頬杖をつきながらこっちを見つめている。

「とてもおいしかったです」

アダムは、どんぶりを、流しの中に入れ、テレビの前に座った。

「さてさて、今日のニュースは〜」

ポチッとリモコンで電源をつける。すぐについたのは、国営放送の堅苦しい顔をした人だった。

「みなさん、こんにちは。お昼のニュースをお伝えします。先ごろ、発表された、兵部省人事によりますと、大臣補佐官として、イフニ・スタディン将補、現在高校一年生、が、異例の抜擢を受ける事になりました。なお、任期は一年の予定です…」

スタディンは、それを聞いて、驚いた。

「ほんと?ちょっと、パソコンは?」

スタディンは、パソコンがおいてある所に向かって、走って行った。電源がつく時間ですら、非常に長く感じられる。

「はやく、はやく…」

パソコンのユーザー選択画面に来て、スタディンは、自分の所を開けた。そして、ネットワークに接続して、検索を始めた。この階級になって、よかった事の一つとして、今まで入れなかったところまで、パスワードによって、入れるようになった事であった。

「えっと、ホームページがあって、このリンクを順繰りにたどって、ああ、ここでパスワードを打ち込んで…」

カタカタと順調に打ち込んで行く。そしてスタディンは見つけた。

「あった。これだ、これ」

皆が見に来た。

「ほら、ここに、名前が書いてある。「イフニ・スタディン宇宙軍将補。現在年齢17歳。オーストラリア中央部宇宙エレベーター6号機近くの、清正美高校所属。「ベルジュラック」号船長。正確はきわめて温厚。妹が一人有り。両親は、第3宇宙ステーション在住。兵部省大臣補佐官及び宇宙軍作戦部長。任期、上記新暦366年9月1日〜新暦367年8月31日」だそうだ。これから推測すると、もうちょっとしてから、通知が来そうだね」

一同は、黙ってうなずいた。

「ついでだから、クシャトルのも見てみようか」

カタカタと打ち込み、出てきた。

「「イフニ・クシャトル宇宙軍将補。現在年齢16歳。オーストラリア中央部宇宙エレベーター6号機近くの、清正美高校所属。「ベルジュラック」号副船長。正確はきわめて温厚。兄が一人有り。両親は、第3宇宙ステーション在住。兵部省副大臣補佐官及び宇宙軍作戦副部長。任期、上記新暦366年9月1日〜新暦367年8月31日」…大変そうだね」

「お兄ちゃんこそ。作戦本部長とか、何をやるか分からないよ。それに、副大臣の補佐官とか…」

「今の副大臣は…この人だな。「川澄君鳥、現在年齢31歳、兵部省直轄部隊医療班所属、兵部省副大臣、任期、新暦364年9月1日〜新暦369年8月31日」女性の御方か」

スタディンは、その経歴を見ていた。

「さすがに、副大臣まで行く人だね。あちこちの所を渡り歩いているね」

ニュースでは、いろいろと流していた。政府広報と題して、いろいろと伝えていたのだ。

「この夏、オーストラリア一帯において、さまざまな祭典が行われる予定です。みなさま、ぜひともご参加ください…」

だが、誰も聞いていなかった。


夕方になり、人が帰り始めた。

「いまかえったぞ〜」

達夫さんたちが、入ってきた。

「ああ、あなた?大変よ。スタディンとクシャトルが、兵部省大臣と副大臣の補佐官になるんだって」

「ほんとか?そういえば、今日の新聞に…」

電子パッドをさわり、

「ここだ。人事異動」

兵部省の欄を見た。

「確かに、イフニ・スタディンを、兵部省大臣補佐官兼宇宙軍作戦本部長に。イフニ・クシャトルを、兵部省副大臣補佐官兼宇宙軍作戦副部長って書かれているな」

「という事は、本当なのね」

「そのようだな。さて、それよりも、テスト、無事に終わったか?」

誰もそっちの方向を振り向こうとはしなかった。


そして、テストは、順調に済んでいき、とうとう、最終日となった。そして…


「これで、テストしゅーりょーだー!」

「5日間は長いよね」

誰かが言った。先生が入ってきて、

「このあと、軍所属の人たちは、職員室に来てくれ」

といった。

「アダム、由井さんに伝えてくれないか?」

「ああ、分かった」

そして、スタディンは、職員室へ向かった。


「失礼します」

きびきびとした動作で中に入る。

「ああ、来たか。すまないが、すぐに済むから外で待っといてくれ」

「分かりました」

涼しい職員室から、蒸し暑い廊下へと再び戻って行く。

「何の用なんだろうな」

「分かりかねますが、本年の9月1日施行の人事異動に関する事ではないでしょうか」

「そうか、そういえばそうだな」

「お兄ちゃん」

クシャトルがやってきた。

「そういえば、スタディンって、クシャトルのお兄さんだったわね」

クシャトルの周りにいる、仲がいい軍人たちがいった。

「そうだが?」

「なんで、同じ学年にいるの?」

「それは、宇宙船に乗っていたから、普通の同級生とは違ったからね。自分たちがここにいない間に、3年ぐらいが過ぎていたから」

「そう…」

「やあやあ、待たせたね。これで、1年生の軍属は全員かな?」

「はい」

スタディンが人数を確認して先生に言う。

「では、ちょっと、会議室に行こうか」

会議室は、職員室の下の階にあり、校長室と事務室に挟まれた格好になっていた。


先生は、会議室の扉を開け、中に入らせた。そして、ドアを閉めて、開口一番、こう言った。

「さて、まずは、おめでとう。だが、スタディンとクシャトルは、高校に来れるかどうか分からんな」

「はい。しかし、私一人で決めるのではなかったので」

「それは分かっている。しかし、高校1年間休学するのも、あとが大変だし、なおかつ、授業に出れなくなる」

「そうなると、進級出来なくなりますね」

「それは困るんだろう?なにせ、魔法の訓練を受けるには、高校卒業資格がいるらしいからな。自分も経験がある。コンティンスタンスさんだろう?」

「え?どうして知っているんですか?」

「何故なら…」

片手を前に出した。そして、手のひらの上に青い炎が出てきた。

「自分も魔法が使えるのでね」

皆は、驚嘆の眼差しで見ていた。先生は炎を消して続けた。

「さて、そんな事よりも、さっき、ある電文を受け取ったんだ。その事で、皆に集まってもらったんだが…」

「どうしたんですか?」

「みんな、兵部省の役員になるんだな。そして、その認証式があるから来て欲しいといってきた。さて、問題は、日付なんだ」

「いつなんですか?」

「ちょうど今日から1ヶ月半後だ。そして、その日は、文化祭の前日だ」

この高校の文化祭は、2日に分かれている。初日は校内生徒だけで行う。その日の内に、二日目に行う、ステージ発表の決勝に出る組を決める。そして、みんなが楽しみにしているのは、それより、模擬店のほうだろう。実際に、金券を購入し、品物を買う。その品物は、クラスで決定し、自主制作した物のみとする。ただ、食品関係も販売できるが、機械のみ生徒会より貸し出される事になっている。

「その前日ですか…」

スタディンがいった。そして、みんな顔を合わせた。

「さて、どうするか。とりあえず、行かないといけないだろうな」

「アダムに頼めば?彼だったら、飛行機ぐらい持っているでしょう?」

陸軍少佐の女子が言った。

「そうだな、ちょっと聞いてみるか…」

スタディンは、携帯を取り出し、メールを送った。少しして、返事が返ってきた。

「ああ、アダムからだ…うん、大丈夫だって。でも、ちゃんと文化祭当日には帰ってこいって」

「それは、ちゃんとするよ。でも、結果として、どうなるかは分からないね」

「でも、やるっきゃないでしょう」

みんなは、目にヤル気を輝かしているクシャトルを見た。

「とりあえず、そういう事だから。それと、スタディン達には、これが来ている」

先生は、茶色い封筒を渡した。中はとても軽かった。開けたら、ワッペンみたいなのと、紙が入っていた。

「えっと…「これは、兵部省大臣補佐官の身分章です。右胸に付けてお入りください。他の人たちのは、当日に渡します」何で自分だけ特別扱いなんだろう?」

「さあ、先生には分からない。ただ、この学校の中で、1番階級が高いからじゃないか?」

「自分だけでなく、妹も同じ階級なんですが?」

「詳しいのは分からんからな。さて、話はそれだけだ。みんな、帰っていいぞ」

それぞれは、それぞれの家に帰っていった。


「ただいま〜」

「ああ、お帰り。大変だね」

アダムが一人、テレビゲームをしていた。

「なにやってるの?」

「ゾンビが出てきて、そいつらを倒しまくるって言うゲームだけど。やる?」

「いや、結構だ。それより、他の人達は?」

「ああ、買い物しにスーパーに行ってるよ」

「昼は?」

「それも含めて」

アダムは、ゲームに集中したいようだ。兄妹は、一緒に、上に上がった。


クシャトルは、左手が使えないので、スタディンが、補助をしていた。

「大丈夫か?」

「なんとかね。それより、あれから、もう1週間たつんだね」

「時間というのは、気づかない間に過ぎて行くからね。それを知らないと、すぐに取り残される」

「まあ、それは分かってるけどね」

かばんを置くのも手伝ってもらっているクシャトルが言った。

「ありがとうね」

かばんをおいてから言った。クシャトルは、スタディンに向かって、微笑みかけた。しかし、スタディンは、その瞬間を見ていなかった。


着替えが終わってから、下に降り、アダムの横に座ったとき、車が止まる音が聞こえた。

「あ、帰ってきたかな?」

スタディンが立ち上がる。クシャトルが、それにつられて立ち上がる。最後に、アダムが、一時停止をした状態にして、テレビの前から去っていった。


「ただいま〜」

イブの声がした。

「おかえり」

クシャトルとスタディンが、出迎える。

「あれ?帰ってたの?」

ついていっていたイブがいった。

「うん。ついさっきね」

スタディンが答えた。

「ねえ、今日のご飯何?」

クシャトルが聞いた。

「今日はね、コーンポタージュよ」

袋を床に置きながら、由井さんが言った。

「ところで、アダムは?」

ちらりとテレビを見ながらいった。

「ここにいますよ」

「そう。ならいいんだけど」

テーブルの近くにあるスーパーの袋の中身を冷蔵庫に入れていた。


「さて、今日は、これよ」

おわんを人数分出し、そして、そのまま、袋を破り、中身を入れた。中には、乾燥した何かと、粉末状の何かが入っていた。

「これ、なんですか?」

「インスタントスープ。お湯をかけて、かきまぜたら、さあ、召し上がれ」

由井さんは、沸騰しているお湯を、直接上から入れた。なんだか、どろっとしたような状態になった。そして、みんなにスプーンを配り、言った。

「さ、かき混ぜて飲んでね」

かき混ぜると、どろっとしたものから、ユルユルの液状に変わった。そして、乾燥していた物は、コーンになっていた。

「ふしぎ〜、何でこんな事になるんだろう」

クシャトルが、変化を見ながらいった。

「これね、瞬間冷凍と言う技術を使っているの。それは、一瞬で、氷点下200度ぐらいまで下げて、水を蒸発させるの。もちろん中の繊維は残したままでね。そこにお湯をかけると、冷凍以前の状態に戻るという仕組みよ」

中学教諭である由井さんが言った。

「さすが、お母さん。中学校の先生だけはあるね」

「いや、普通は知ってるでしょう。私だって、こんな知識は、高校行くまでには知っていたわよ」

「時代は変っていくんだよ。さて、自分達はどうなんだろうね」

「どうともなるんじゃない?」

そして、スープを飲む音だけが聞こえていた。


食べ終わり、台所に片付けた。そして、テレビの前に座った。スタディンは、新聞の人事欄を読んでいた。

「おい。全国で高校生以下の軍属人口が、1000人になったんだって。1000人目の子は、自分たちと同じ高校一年生だそうだ。この近くに引っ越してくるんだね」

「という事は、もしかしたら転校するかもしれないね」

スタディンが言った言葉にクシャトルが答える。それと同時に電話がかかってきた。

「はい、宮野ですが…」

由井さんが出る。

「ああ、あなた?え?スタディンと代わる?分かった…」

スタディンを呼び、電話を代わる。

「はい、スタディンですが?」

あまり電波状態が良くないのだろう、はっきりとは聞き取れないが、だが、どうにか聞き取れる音であった。

「ああ、スタディンか、もう知っているかもしれないが、新しい転校生が来る事になった。えっと、名前はな…、嘉永徳鋭と清水の、双子の兄妹だ」

「この学校、双子って多いですね」

「しょうがないな、90分の1の割合で生まれるんだから。それと、徳鋭は、とても身長がでかい。たしか、2m10だったはずだ。だが、清水の方は、徳鋭の真逆でとても身長がちっちゃい。こっちの方はな、50cmぐらいだ。いつも、カンガルーみたいに、徳鋭の服の中に清水が入っているらしい。で、そいつらは、1年1組に入る事になった」

「なんでですか?」

「こいつらは、宙佐長だからな、それに、軍属の代表はお前だからな」

「はあ、分かりました。いつ来る事に?」

「とりあえず、辞令の施行日は9月1日になっているんだが、先に慣れるようにと言う、師団長からの御命令だそうだ。それで、明日からになった」

「明日ですか…分かりました。どうにかしましょう」

「では、頼んだ」

ガチャリと、電話がきれた。スタディンは、電話を置き、クシャトル達に話した。

「転校生が来るってさ」

そうして、テスト明けの月曜日となった。


スタディン達は、いつものように、高校に登校していた。そして、教室に入り、席に座った。先生が入ってきて、みんなを座らせた。

「みんな聞いてくれ、今日、転校生が来た」

扉を開け、中に入れた。昨日電話で聞いていたように、とても高かった。そして、服の中に、小さな女の子が入っていた。

「彼らは、嘉永徳鋭と清水といって、今日から、みんなと机を並べて勉学にいそしむ事になる。みんな、よろしくな。では、なんか一言あるか」

静かに首を振った。

「では、スタディンの横の机に入ってくれ」

このとき、スタディンは、教室の一番後ろの外側にいた。そして、横の人は、ちょうど昨日、別の所に行ってしまい、この学校から出て行ってしまっていた。彼らは、その机に座り、スタディンに、言った。

「これからよろしくお願いします」

ただ、スタディンは、うなずく事しか出来なかった。


その後、1時限目が終わった時、彼らの周りに人が集まってきた。口々に質問が出てくる。しかし、彼らは、二人の世界に浸っているようで、何も答えなかった。


2時限目が終わったときには、誰も近寄っては来なかった。そして、スタディンが、

「どこから来たの?」

と聞いた。みんなは、気づかれないように聞き耳をたてていた。そして、一言だけ、「第6宇宙師団」と答えた。その事を聞いて、みんなが集まってきた。しかし、運悪く、先生が入ってきたので、みんなはしぶしぶ彼らの周りから離れていった。


3時限目が終わった頃には、「どうして、この高校に来たの?」というスタディンの質問に答えた。しかし、一言だけ、「師団長の命令」としか答えなかったが。


4時限目が終わり、昼ごはんの時間となった。

「とりあえず、いこか」

スタディンの周りには、同じ家に住む人たちが集まってきた。そのとき、予想外の出来事が起こった。服の中にいる清水が、こちらに声をかけてきたのだ。

「ねえ、一緒にいってもいい?」

スタディン達は、顔を合わせて、そして、再び彼女に向かって、こう言った。

「どうして嫌だと言うんだい?」

そして、彼らは、学食に行った。


学食は、とても混んでいた。しかし、彼らは、離れる事なく、食券を買い、そして、ご飯を食べた。

「ここの学食のご飯、おいしいね」

無口な徳鋭に対して、とても、明るい清水。

「ごちそうさま」

ぼそりぼそりと言葉を漏らしている徳鋭。

「ところで、第6宇宙師団から来たって言っていたよね」

「うん。そうだよ」

清水が言う。

「結構遠いけど、そのとき、高校はどこにいたの?」

すっと、顔に影が走った。しかし、それを出さずに、

「師団の駐屯地に一番近い、公立高校に通っていたよ。全額軍負担だったけどね」

全員食べ終わったので、立ち上がり、教室に帰っていった。


「あ、やって来たね」

「なーちゃんか、とりあえずは、食べてきたから、何にもいらないから。別の人にあげてよ」

なーちゃんこと草成奈留子は、弁当箱の残りを、みんなに分けているのだった。そして、それは、言語を絶するものであり、みんなは、あまり食べたがらないのであった。しかし、その事は、新しく来た二人の知らない事だった。

「ねえ、とっくりはいる?」

とっくりと言われたのは、徳鋭だった。

「え?自分?」

「そうよ。ほら、少しあまっちゃったから、あげる」

無理やり押し付けるような感じで、弁当箱を渡し食べさせた。そのとたんに、弁当箱は落ち、目が焦点を結ばなくなり、汗がふきだし始めた。

「だいじょうぶか?」

彼がどんな世界をさまよっているかは、彼にしか分からない。しかし、よほどやばい世界なのは確からしい。

「ご、ごちそうさま…」

「どうだった?」

「……とても、独創的なお味で…自分は、あまり好みじゃない味だね…」

「そう…」

なーちゃんは去っていった。

「どうだった?」

スタディンが聞いた。

「ちょっと、やばいかも…」

少し歩いて、窓の所に行き、そして、全開にした。

「あ〜、気持ちい〜」

「どう?」

「人生を悟ったような感じがしたな」

「やっぱりか」

「やっぱりって、知っていたのか?」

「当然。なにせ同じクラスだ。知らないわけがないだろう?」

「そりゃそうだけども…」

「お?どうした?とっくり。もしかして、なーちゃん弁当を食べたか?」

「ああ、憲太、空、助さん、恭ちゃん。その通りだ」

そう言ってきたのは、仲の良い、憲太こと菊川憲太。空こと興国空。助さんこそ師走正之助。恭ちゃんこと智呂恭介。の、四人組だった。

「ああ、そうだろうな。そうじゃないと、こんなにひどくはならない」

そういった途端に、憲太の頭に何かが振り下ろされた。

「あてっ」

どうやら、上靴として使っている、スリッパらしい。そして、振り下ろした当人は、なーちゃん本人だった。

「私の弁当がそんなに食べたいの?」

「いえ、滅相もございません」

なーちゃん自身、そのまま、教室に入っていってしまった。

「とりあえず、とっくり、しーちゃん。ようこそ、清正美高校へ。歓迎するよ。ふたりとも」

しーちゃんというのは、嘉永清水の事である。

「どうも、ありがとう」

こうして、転校生が入ってから、41人となった1年1組が始まった。


そして、文化祭のための計画が始まろうとしてた。

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