第3編
第3編 3年生
第69章 新しい学年
3学期末にあった学年テストもどうにかクリアし、みんなそろって3年生になっていた。
そんな、3年生始めての登校日であり、同時に始業式の日である4月7日。
「これから3年生って言う、そんな実感ないね〜」
「まあ、そう言うなって。結局時間なんてただ連続して流れているだけなんだから」
スタディンとクシャトルが話しながら登校していた。その後ろにアダム達がいた。
スタディン達が学校に到着した時、後ろを振り向くとアダム達がいなかった。
「あれ?アダムは?」
「え?いないの?」
スタディンとクシャトルは、少し後ろを見た。アダム達は来なかった。
「ま、ちょっと遅れてるだけだろうから、先に中に入っておこう」
そう言ってスタディンとクシャトルは、学校の中に入った。しかし、授業が終わってもアダムたちは来なかった。
「由井さん、アダム達見た?」
「いいえ、帰ってきてないわよ。どうしたの?」
「学校にも来なかった…家にも帰ってきてない…」
スタディンは考えた。その矢先、電話が軽快に鳴った。
「はい、宮野ですが…え?誘拐?はい、はい…分かりました」
由井さんは、電話を置いた。
「アダム達を誘拐したって言う犯人から」
「要求は?」
クシャトルが由井さんに聞いた。
「警察には何も言うなって。内容は後で連絡するって…」
「警察にだけ、こっちから電話しなければいいんでしょ」
スタディンがどこかに連絡を入れた。
その電話を受けてきたのは軍の四軍統合庁管轄下にある情報部だった。
「お呼びですか、スタディン将補」
「ああ、すまないが、自分の友人が誘拐されたようだ。犯人からの電話待ちだが何かあると危ない。君達ならばこの状況でどうする?」
「まず、逆探知をすべきだと思います。現在、全ての電話には固有の番号が割り振られており、それによって相手のかかってきた情報を見れば、すぐに所有者、発信場所が分かります。それをもとにして、すぐにでも救出プランが作れると思います」
「すぐにやってくれ。師団長には自分から言っておこう」
「分かりました」
隊長格の人が、ずっとスタディンと受け答えしていた。スタディンがクシャトルと由井さんの方向に向いて言った。
「こんな時、情報部は頼りになるよ。そういえば達夫さん達は?」
「今日は遅くなるって。何せ、新年度が始まった事を祝してと称して、居酒屋に行っているそうだから。帰ってくるのは深夜ね」
由井さんは時計を見た。ちょうど、午後の5時半だった。
逆探知の装置をセットし終えた時、誰かから電話がかかった。
「はい…」
由井さんが取ると同時に、情報部の人達が逆探知を開始した。
「…ええ、警察には伝えてないわ。…400万、ええ…分かったわ。明日の正午までに、400万GACを用意するわ…どこにもって…」
由井さんはため息をついて受話器を戻した。どうやらそこで切れたようだった。
「逆探知は?」
「成功です。すぐ近くにいるようです」
「急行してくれ。頼んだ」
「分かりました」
情報部はすぐにどこかをどこかに指示をした。
場所は清見町内だった。そして、向かった部隊は第2師団陸軍所属特殊部隊だった。彼らは、市街戦や非常に不利な状況からの作戦等を主任務としており、時としてこのような誘拐犯のアジトを襲撃する時にも出動するのだった。その部隊の隊長は、いつも誘拐犯をこの手で捕まえたいと言っていたので、こんなチャンスはもう来ないと思っていた。
「いいか!敵の人数が分からんが場所は分かっている。誘拐されたのはスタディン将補のご友人だ。必ず、生きて連れて帰る!」
士気を高めるところまで高めた後に、部隊の配置を整えた。
「アルファからベータへ。準備、いいか?」
「ベータからアルファへ。準備よし。小鳥が逃げ出さないうちにかごを閉じます」
「アルファからベータへ。こちら了解。現場指揮権は君にある。小鳥を逃さぬように」
「分かりました。オーバー」
そして、突入をした。
突入から3分後、アダム達は救出された。
「やれやれ、ようやく出てこれたよ」
「アダム!」
飛びついたのは、クシャトルだった。
「おいおい、ここじゃやばいって…」
「だって、心配だったもの…!」
ようやく泣く事ができた、そんな安堵感で一杯だった。アダムはそんなクシャトルの頭をなでながら、優しく言葉をかけていた。
「とりあえず、無事でなによりだ」
マスコミも誰もいない、そんな場所に出てきたのは師団長だった。
「師団長!」
「スタディン将補。部隊を動かす時は事前承認を取るように」
「すみませんでした。しかし、この場合事前承認は難しいと思います」
「緊急時以外の場合だ。今回は仕方がないだろう」
それは、黙認すると同義語だった。スタディンとクシャトルはそれについての礼もした後、家に帰った。
第70章 何事もなく過ぎ去る平和な時間
あっという間に、1学期が終わりそうになっているこの頃。修学旅行の話が出てきた。
「今頃?」
「そう。今頃。どうやら、夏休み中に修学旅行をさせて、通常時間の時にはしっかりと勉強させるって言う作戦らしいわ」
金津とクシャトルが話していた。
「で、どんなところがあるの?」
「たしか、第4惑星に行くって話だったわね。それで第2惑星にも行って…で、最後に、第3惑星の宇宙ステーションで解散。そのまま夏休みは続行って言う話。だから、行く時も帰る時も行動する時も私服」
「ふーん」
「そう言えば、クシャトルは夏休みの予定ってある?」
「私?たしか…軍の方からは、今年は何も言われてないから今の所は大丈夫」
「じゃあさ、あたしの別荘に来ない?」
「別荘?どこにあるの?」
「それは秘密って言う事で」
「って言う事で、私は委員長の誘いに乗って別荘に行ってきます」
「いつだよ」
クシャトルの発言にスタディンが言った。
「8月1日から7日まで。場所は教えてもらえなかったの」
「修学旅行は、8月7日から14日までだったな」
「うん。だから8月1日から14日、それと上の家にいこうと思ってるから20日ぐらいまでは帰ってこないと思う」
「まあ、ちゃんとその日には宇宙ステーションに来いよ」
「分かってるって」
そして、夏休みが始まってちょっとしてから8月がやってきた。
「じゃあ、いってきます」
「8月7日には上にいるんだぞ」
「はーい」
クシャトルは、こうして委員長との約束をしている場所、つまり学校の前に元気に出て行った。
「あれ?」
「クシャトルも、金津さんに呼ばれたの?」
学校の校門の前には、何人か同級生がいた。
「うん。そうなの。赤井さん達も?」
「じゃあ、残った問題は、ここにいる全員を誘った張本人ね。約束の時間まで、あと5分弱あるから、もうちょっと待ってみましょう」
しかし、彼女は約束の時間を10分過ぎて到着した。
「ごめ〜ん。ちょっと準備にとまどっちゃって…」
金津は後部座席が対面式になっているリムジンに乗ってきた。
「じゃあ、乗って」
ドアが自動的に開いた。中に乗ると外よりも広く感じられた。
「実際にこの車には、魔法がかけられてるの」
「どんな魔法?」
赤井が金津に聞いた。
「すぐ分かるわ。楽しみに待ってちょうだい」
一同は顔を見合わせて考えた。しかし、答えはニヤニヤしている金津本人と車を運転している執事っぽい人にしか分からなかった。
車が校門から動き出して、5分ぐらいしてから徐々に車の様子が変わってきた。
「あれ?こんなに、この車って広かったっけ?」
クシャトルが、みんなに聞いた。確かに、最初に乗り込んだ時よりも広くなっているようだった。
「これが、第1の魔法」
金津が言った。
「第1と言う事は、続きがあるって言う事よね」
「その通りよ。では、第2の魔法」
広くなり続けていた車内に、突然、光が満ち溢れてきてそれが引っ付いたり分かれたりしていた。しかし、次第にそれらが合わさり何かを形成し始めていた。
「これって…」
光が落ち着いた時、そこには一軒の大きな家ができていた。3階建てのレンガで頑丈そうなつくりだった。上空から見ればコのような形に見える事だろう。屋根瓦は青色をしており、全体的な調和が保たれていた。すでに、数年間そこに存在し続けていたかのように、完全に周囲と同化していた。
「これが、私の別荘よ。第2の魔法がおわると、第3の魔法が始まって、そしたらみんな入っても構わないわ」
クシャトルたちはいっせいに金津の方を見た。
「そう言えば車はどうなるの?」
「それが、第3の魔法よ」
中から見ていたら分からなかったが、外から見たら車はどこかの車庫に運転手がいない状態で入っていった。
「さあ、もういいわよ。どうぞ、中に入って」
金津が先導する形で、別荘の中に入っていった。
中は外から見た時よりも広く、ここにも魔法が使われているようだった。
「ここは、500年以上昔の、ヨーロッパの貴族の館をモデルにしてるの。中身は現代のものだけどね」
「毎年、ここに来てるの?」
「そうよ。ただ、この車自体に細工をしてこのような形にしたのは数年前の事だけどね。それまではちゃんと惑星上にあったのよ」
「やっぱり、魔法の力ってすごいね〜」
クシャトルが感嘆の声をあげる。中に入る時、何かをつきぬける感覚があった。しかし一瞬でそれは消えた。
「じゃあ、とりあえず荷物はそこら辺に置いておいて。この館を案内するから」
金津は、最初に1階から案内した。玄関ホールから、すぐ右手にある扉を通ると、そこは体育館ほどの広さがある部屋だった。
「ここが、大広間。とりあえず、食堂として今は動作しているわ」
30人づつ、両側に座れるほど長い机に背もたれが1mぐらいありそうな椅子。それに、机の上にぶら下がっている、巨大なシャンデリア。それが、3つもついていた。
「大きいね」
「ご飯の時はここに来てね。とりあえず、62人もこの家には今はいないから」
「昔はいたの?」
「私が、この館を買う前は、いわゆる、いわく付きの物件だったの。なんでも、この上にあるシャンデリアの内の一つ、一番向こう側にあるシャンデリアには、人の霊が宿っていて事あるごとに、何もないのにゆっくりと、動くそうよ」
「それがどうしたの?普通じゃん」
後ろにいた、飯縞が言った。
「普通って…そんな事経験した事あります的な…」
「いや、だってね。その気になれば、幽霊とか魂とか言う類はそこここにいるからね」
「朋子って霊感強かったっけ?」
「昔からね。同じような友達もいたんだけど、引っ越してそれっきりよ」
一行は、そのまま玄関ホールを通ってとなりにある部屋に移った。
「ここが、応接室ね。今は何にもないけど、元々はごちゃごちゃしていたのよ」
正方形をしているまったく何もない部屋。床がフローリングでガラス張りの棚だけが、この部屋に残った備品であった。部屋の上の方につけられた円形の窓から降り注ぐ、円形の光が床にこびりついていた。
「何にもないね」
「応接室があっても、ここにお客自体が来ないからあっても無意味だったのよ。ここの備品は外せる物は全部競売にかけちゃった」
「ほこりが積もってる」
「ああ、この部屋はほとんど掃除しないからね。自然とほこりがたまっていくのよ」
「ふーん」
さらに、応接室からとなりに移る扉があった。
「ねえ、この扉の先は?」
佐和が聞いた。
「そこは開かずの扉。鍵を失くして、それっきり開かなくなったという扉よ」
「失くしたって…探したの?」
「館中ね。出も見つからなかったから、そのままほったらかしよ」
とりあえず、一行は1階から2階へと移動した。
「2階から3階までは客室になってるの。右に2部屋、左に2部屋。真ん中は見ての通りだからね」
金津は説明した。玄関ホールの端っこにある階段を上がり、2階に着くと大広間だったところに扉が二つあった。応接室だったところにも扉が二つあった。
「片方、やけに狭いと思うけど…」
「大丈夫、両方とも向こう側にあるけどもこちら側の扉を通るとすぐに直角に曲がるようになっている廊下があるから、両方とも専有面積はほとんど同じ」
「じゃあ、大丈夫だね。3階も同じなの?」
「うん。まったく同じになってるの。でも、この館には物置部屋と化している4階部分があって、そこの隙間でよく探検ごっことかしたよ〜」
金津が話した。
「じゃあ、後でその屋根裏部屋的な部屋に行こうよ」
「いいよ、でもその前に誰がどの部屋にいくかを決めないと…」
「今この場所にいるのは、クシャトルと、金津と、佐和と、赤井と、飯縞だね」
「後もう少し来る予定だったんだけど、なんか予定があったらしくて、お流れになっちゃったんだ」
「残念ね〜」
金津のすぐ後ろに誰か立っていた。
「お母さん、急に後ろに出てくるのやめてくれるっていつも言ってるでしょ?」
「ごめんね。でも、いつになったら気づくかな〜って思ってねついついしちゃうのよ」
「え?夏木のお母さん?」
「そうですよ。いつも、娘がお世話になっています。夏木の母で桐香です」
一礼した。慌てて、こちら側も一礼した。
「いえ、こちらこそいつもお世話になっています」
クシャトルが言った。ふと、何か気づいたようだ。
「あら?あなた、イフニ・クシャトルさん?」
「ええ、そうです。クシャトル宇宙軍将補です」
「あらあら、こんな有名な人がお友達にいたなんて、なんで教えてくれなかったの?」
「だって、そんなの教えたらいろいろ言ってくるのが分かってるもの…」
「いえ、お構いなく…」
「あら、そうですか?すいません、何もお出しする事ができなくて」
「これからなんですから、大丈夫ですよ。それに、私はあまり気にしませんので」
クシャトルと桐香が言った。
「じゃあ、とりあえず部屋割りするよ。お母さん達は別棟に泊まるから、大丈夫。私を含めての他の5人はこの建物で泊まる事になってるから」
「クシャトルと私、赤井、夏木、飯縞が一人づつでいいんじゃないかな?」
佐和が提案した。こうして、部屋割りが決まった。
その夜、大広間にて、ちょっと遅めの夕食を取っている時に、急に停電になった。
「あれ?停電?」
「大丈夫?みんな」
夏木の所にとりあえずみんな集まった。クシャトルと佐和が魔法で光を出した。色がない光だった。
「不思議な色ね〜。炎でここまで透明なのって、見た事がないわ」
いつの間にか桐香さんがいた。
「でも、停電ってなんだか長いね」
「光があるからこそこんなに落ち着けるのかもよ。明かりって言うのは、人が落ち着くことができるものって言われているからね」
「そうかも…」
5分ぐらいしてからパッと電気がついた。
「戻った?」
「大丈夫みたいね」
「じゃあ、夕食の続きにしましょう」
夕食を食べ終わると、とりあえず応接間に集まった。
「さっきの停電は、何が原因なんだろう」
クシャトルが言った。
「原因は不明、単なる電気系統の一時的な故障だろうって」
夏木が言った。
「で、これから何して過ごそうか…」
瞬く間に、1週間は過ぎた。その間、この空間のさまざまな場所に出かけ、遊んだ。翌日は、修学旅行の出発日と言う時、夏木が言った。
「みんな、最終日ぐらいいつもと違う事してみない?」
「どんなこと?」
佐和が聞いた。
「ちょっと、外に出てもらえるかな?」
言われたとおり、とりあえず、一行は外に出た。
数分後、建物の輪郭がぼやけ始めた。
「建物が…ぼやけてる?」
「何をする気なの?」
そして、再びはっきりしてくると、そこにはさっきまでの建物とは違う建物が現れていた。
「これが、わたしの独自で所有している建物よ。総檜造りで立てられてから300年は経ってるらしいわ」
「なんでそんな物を個人所有しているのよ」
「だって、安かったから」
「…忘れてた、金津家はこの宇宙中でも、イフニ家に次ぐ大金持ちだった」
赤井が言った。
「その通り。私もその一部を持っていて、そのお金でこれを買ったというわけ。あ、元々の建物は無事だから心配しないでね」
金津は、そのまま、建物の中に戻って行った。
この建物の中は、少し涼しかった。
「あれ?なんか涼しい…」
「でしょ?今でも、不思議なんだけどね、勝手に冷えてくるのよ。クーラーをつけてるわけでもないのにね」
金津はそのまま、家の中の奥の方向に向かって歩いて行った。
「あ、そうそう、一つ気をつけてね。この家、幽霊が出る時があるから」
「ちょっと〜、おどかさないでよ」
「あはは、かわいー」
おどかされた飯縞は、ビビリながら歩いていた。
「みんなで、ここで寝ましょう」
そこはとても広い和室だった。
「今までのベットとは違って、布団を敷いて寝るんだね」
クシャトルが言った。
「そうだよ。でも、布団の数は大量にあるから大丈夫。敷布団が50枚以上、掛け布団が200枚以上あるから、足りなくなったらそこらへんから取りだしてね」
「………」
みんな、何も言わなかった。
「じゃあ、おやすみ〜」
電気を消され、布団に囲まれて中に入った。
その真夜中、外側で何かが動いていた。(あれ?誰かいるの?)クシャトルはそれに気づいて、動こうとした。しかし、動く事ができなかった。(あれ…動かない?これって、金縛り?)その存在は、足音がするわけもなく、ただスッと、部屋の中に入ってきた。(入ってきた!)クシャトルは、みんなを起こそうとした。しかし、動くことはもちろん話すこともできなかった。(誰だろう…私を金縛りにするって)クシャトル以外の人が起きているかは分からなかった。ただ、むにゃむにゃ何か言っていた。
翌日、フッと目が覚めた。
「おはよう…」
「どうしたの?やつれてるように見えるけど」
クシャトルは、寝不足気味に見える残りの人々を見て言った。
「悪夢を見た…」
「へぇー。どんなの?もしかして変な人が廊下にいて、それが扉を開けずに部屋の中に入ってきたって言うもの?」
「クシャトルも見たの?」
「あの時、金縛りにあってたの。声も出なくて何もできないって言う恐怖。あれはきっと忘れないと思うわ」
「大変だったね…」
「とにかく、今日は修学旅行の集合日だよ。高校の標準時、午後3時に宇宙ステーションで集合だから早めに行っておくべきだね」
「大丈夫。エア家の横のドックが、金津家専用ドックになってるから。いつでも行っても構わないよ」
「とりあえずは、荷物を外に出しておこうよ」
5者5様だった。結論としては荷物を外に持ち出し、とりあえずすぐに行く準備をしておく事になった。
「じゃあ、最後はなにをしようか」
「ポカポカ陽気にかまけて、のったりゆったりするって言うのは?」
「お、いいね〜」
そして、正午になった時、再び魔法を使い元の車に戻っていた。
「この車、どこに止めていたの?動いてるのしか見た事がないんだけど…」
赤井が言った。
「ちゃんと、私達が別荘にいた時には車庫に入っていたから大丈夫。これから近くの民間飛行場に向かって、そこに駐機されている飛行機に乗り込んで上に行くよ」
「そう…」
外を見ながら、クシャトルが言った。
飛行場についたのは、それから30分ぐらいしてからだった。
「さて、私の飛行機は…」
「お、クシャトル。どうしてここに?」
「アダム、イブ、お兄ちゃん。それに瑛久郎、愛華まで」
クシャトルは、スタディンのところに近づいていった。他の人達も同じように行った。
「金津か。ここにお前の飛行機を置いているんだな」
「そう言うアダムだって、ここに置いているのね」
なんか、険悪ムードになっていた。
「まあまあ、とりあえず私はこっちに乗るから」
クシャトルは夏木の方に歩み寄った。
「…まあ、いいさ。とりあえずはそっちで行けばいいさ。後でどんな物かを教えてくれよな」
「はいはい」
クシャトルは彼らと分かれた。そして、夏木と共に航宙機の中に入って行った。
航宙機が発射して数分後、一端水平移動し始めた頃、夏木がクシャトルに聞いた。
「ねえ、クシャトル。アダムとどんな関係のなの?」
「え?う〜ん、なんて言ったらいいんだろう…恋人、かな?」
「えー!」
みんなクシャトルの方向を見た。
「二人、付き合ってるの?」
赤井が言った。
「うん、そうだよ?」
それがどうしたのかという雰囲気で言った。
「まったく気づかなかった…」
「え?気づかなかった?」
「だって、学校ではそんな素振りすらしなかったもの」
とりあえずは、そのまま航宙機に乗って、宇宙ステーションに到達した。
第71章 修学旅行
宇宙ステーションに来たのは、スタディン、クシャトル達が最初だった。
「私達が最初なんだね」
クシャトルが言った。
「そうみたい。今の時間が、えっと、高校標準時で午後1時半。あと1時間と30分もある。どうやってつぶそうか」
「じゃあ、その間にどこに行くか計画を立てておかないか?ちょうど、ルート表を考えてきたんだ」
スタディンがクシャトル、アダム、イブ、瑛久郎、愛華、それに偶然同じ班になってしまった夏木、佐和、赤井、飯縞の総勢10人で構成された班のメンバーに作った行程表を見せていた。
「じゃあ、このままでいいんだね?」
「うん。大丈夫だと思うな」
スタディンが出した行程表は何の論議も呼ばずにそのまま通ってしまった。
「じゃあ、このままで行こう」
暇になった。
1時間後、再び集合場所に集まると半数ぐらい集まっていた。
「こんにちは。スタディン」
「ああ、こんにちは。どこに行く事になったの?」
長嶋だった。
「私は、第4惑星中央ネットワーク放送局に行って、それから、まあ、ボチボチと散歩みたいに行くことにしているよ」
「散歩って…いいか」
その時、先生が現れた。
「今集まっている、清正美高校の生徒は班別に整列する事」
さらに、30分後には全員が集まっていた。主任の先生が前に立って言った。
「では、これより、第300回生清正美高等学校修学旅行結団式を始める。なお、本会場はイフニ家より特別に提供された事を言っておきます。え〜、トイレにいきたい者は今のうちに行くこと。航宙機は金津家から提供を受けて、今回、無事に行動をする事が出来る事ができます。さて、これから10分後、出星手続きをします。ではそれまでこの場で待機する事」
10分後、荷物検査や手荷物検査、X線検査、その他いろいろな検査をしてから船に乗り込んだ。
「で、アダムは他人の船の乗るのがいやで、別の船に乗り込んでさっさと行っちゃった」
クシャトルが言った。
「やれやれ、どうしようか」
「待ち合わせ場所は、もう教えてあるから大丈夫だね」
航宙機は全員が乗りこんでからすぐに発射した。
頭の上から、声が聞こえてきた。
「みなさん、本日はご乗船ありがとうございます。現在、本航宙機は第3惑星宇宙ステーションより発射し、2時間後には第4惑星宇宙ステーションに到着する予定です。速度18.9km/s、外気温マイナス261℃、高濃度放射線に満ちております。現時点で船外にお出になられないよう、ご忠告申し上げます。本船は、これより3分後に第3惑星管制圏を通過し公宇宙域に入ります。入り次第超高速飛行を行います。皆さまには多くのご迷惑をおかけすると思いますが、どうか、ご了承下さい。なお、超高速飛行中の速度は1万6千km/sを予定しております」
その後、英語で流れた。
みんなは、いったん眠り、おきると到着2分前だった。
「もうこんな時間か…」
「うーん…」
次々と起きてきた。
「宇宙ステーションまであと2分です。席を立ち上がらないようにしてシートベルトをお締めになられて、静かにお待ち下さい」
2分後、ドッキング成功のサインが表示され、シートベルト着用のライトが消えた。
「前方よりお立ちになられて、お降り下さい」
ポーとしているクシャトルを左右に揺らして、起こしてからスタディンは降りた。
「やれやれ、ようやく降りれた。えっと、アダムはどこに行っただろうか」
「おーい、こっちこっち」
アダムがスタディン達を見つけて呼んだ。
「いたいた。ちゃんと着いたんだね」
クシャトル達が、とりあえずアダムの近くで集まった。
「今日からの予定は、スタディンが立てた計画通りに進むはずだからね」
「何も支障がなければの話だね。とりあえず、何かあれば軍に電話かければいい話だし」
「…ホテルも各自で確保しろって言う事だったね。どこに泊まる?」
「ホテルを持っている人が二人も班の中にいるんなら、女子と男子で別れればいいんじゃない?」
「金津ホテルはどこにある?」
「第4惑星でこの近くだと…うん、ヨナラレケの近くにあるね」
「ちょうどだ。エアグループのホテルも近くにある」
「じゃあ、そこを活動拠点にしよう。先生に言ってくるね」
スタディンが先生に報告して戻ってくると、現時点での状況を確認していた。
「ああ、スタディン?君が行こうとしている所が、定休日だって」
「それは駄目だな。でも、おかしいな。ネットで確認したはずなのに…」
「次は、エア社の航宙機に乗って下まで降りよう」
夏木は、何かを考えたような顔をしてそれを承諾した。
「エア社専用プラットホーム」
「その横に、金津社専用プラットホーム」
「さて、どっちに乗る?」
「いや、さっき話し合ったじゃないか。行きはエア社、帰りは金津社」
エア社の航宙機に乗り込み、2時間かけて地上に降りた。
「第4惑星は魔法を使う人々が最初に入植し、それをもとに成長、発展してきた星だから魔法が非常に強く発展しているんだ」
航宙機に乗り込んでいる時、アダムが説明した。
「ああ、だがその事はもう知っている。なにせ、自分達もここに来たからな。宇宙軍大佐の時、船員を募集しに」
「そうか…」
航宙機から降りると、そこには誰か立っていた。
「久し振りに見るな。スタディン、クシャトル、アダム、イブ、それに、瑛久郎、愛華」
「コンティンスタンスさん…」
「え?あの、魔法協会5会長の一人の?」
夏木が言った。
「そうだ。よく知っているな」
「なんでここにいるんですか?」
「ちょうど、ここで魔法協会の会合があるんだ。それでちょっと、ここに来たんだ」
「なるほど。それでここにいたんですね。でも、こちらは修学旅行でここに来たんです」
「そうか、懐かしいな。修学旅行とかは何十年も昔の話だからな」
「コンティンスタンスさん、昔は何をしていたんですか?」
「人には、常に秘密がある。それを聞かないのもまた人だ」
「そうですか…」
そして、彼らはコンティンスタンスさんと別れ、スタディン達はとりあえず、ホテルに行った。
「男子はエアグループに、女子は金津ホテルに泊まる事にしよう」
ヨナラレケと言う、この第4惑星の中でも総市制面積1番の大きさの都市であった。その都市の中心部に近い、交通機関も充実していると言う場所に隣接して建てられていた。
「明日、都市標準時午前8時にエアホテルと金津ホテルのちょうど真ん中に集合する事」
スタディンが集合場所、時間を決めた。
「わかった。では、また明日〜」
そして1週間後。帰る日と言う時になって事件が起きた。
第72章 立てこもり事件
「やれ、起きろよ〜」
アダムがスタディンと瑛久郎を起こし、自身は部屋のカーテンを開けていた。
「う〜ん…もうちょっと…」
スタディンは再び寝ようとしていた。そこを、瑛久郎とアダムが布団をひっぺはがし、そのままベットから引きずりおろされた。
「あれ?なんだか、前にもこんな事…」
「気のせいだ。ほら、早く着替えろ」
アダムはスタディンに着替えを投げた。
「着替えたな」
スタディンが、みんなが着替え終わったのを確認して部屋を出た。
「今日が最終日だったな」
「荷物とかは、後で家に直接送るように手配しておくから」
「お、ありがと」
瑛久郎が言った。
「さて、これから女子の方と待ち合わせの場所に行かないといけないんだが…」
ホテルを一歩出ると、人だかりが出来ていた。
「どうしたんですか?」
「いや〜、どうしたもこうしたもないよ。金津ホテルって言う、この惑星で1、2を争うような有名なホテルなんだけどね、そこで人質立てこもりがあったんだってさ。なんでも、イフニ・スタディン将補を呼べって言っているらしいんだけど、彼は今修学旅行で、どこにいるか分からないって言うことらしいし」
「それ、自分ですね。ちょっとすいませーん!通してください!」
スタディン、アダム、瑛久郎は人垣を通って事件が起こっているホテルの前にまで来た。
「すいません、スタディンですが何が起こったんですか?」
「あっ!スタディン将補殿。実は、あなたを探していたんです。それにあなたのご友人の、エア・アダムさんと、宮野瑛久郎さんも」
そして、警察官に付き添われて、ホテルの中に入っていった。
ホテルの中、人質にされているのは修学旅行できていた他校生も含め、480人にのぼった。そのうちの1部屋だけ、クシャトルの部屋だけは今でも持ちこたえていた。しかし、突破されるのも時間の問題と考えられていた。
「さてと、これからどうしようか」
クシャトルが聞いた。
「とにかく言えるのは、外との連絡手段を確保する必要があるわね。携帯電話とか持ってる?」
「軍からの支給品でよければ、少佐以上の全ての階級の人が持ってるわ。いつでも連絡が取れるようにって言う事で」
「じゃあ、それを使いましょうよ。だれか連絡とって」
「私が取れば多分いけると思う」
クシャトルが、携帯を取り出しどこかに電話をかけた。
「はい、こちら第4惑星軍部情報総局」
「イフニ・クシャトル宇宙軍将補です。現在、立てこもりの人質になりそうな気配がしていて…」
「軍籍番号をおっしゃってください」
「40463I-C。金津ホテル3112号室に泊まっています」
「金津ホテル、3112号室ですね」
「そうです」
「他に軍関係者はいますか?」
「金津夏木空軍中佐、佐和泉水陸軍少佐」
「計3名ですね」
「そうです」
「警察のほうには通報しました。すぐに救出班が来るでしょう」
その直後、向こう側で爆発音がしたのと同時に、電話が切れた。
「…さて、とりあえずは待っときましょう。誰か来ればたたっ斬ればいいんだし」
「まあ、そりゃそうか」
クシャトルは夏木の方向を向いて言った。
「ごめんね。ちょっと部屋を汚すかもしれないけど…」
「大丈夫。いざとなれば部屋の中ごと変えればいいんだし、気にする必要はないよ。それよりも気になるのはスタディン達だね」
スタディン達は、そのころ1階のロビーにいた。ちょうどその時、第4惑星中央軍司令部の本部棟が攻撃を受けたと言う情報が入った。
「とにかく、今は彼ら全員を救う方が先決だろう」
スタディンは決断を下した。その横にいた現場指揮官がスタディンに言った。
「見ての通り、1階及び地下階は元々誰もいませんでした。イフニ・クシャトル宇宙軍将補殿、和泉陸軍少佐殿、夏木空軍中佐殿、並びに民間人、エア・イブ、赤井美喜、飯縞朋子、宮野愛華、計7名が、本ホテル31階12号室に泊まっていると言う事は判明しております。現在もそこにいるようです」
「なんでそんな事が言えるのですか?」
「中央司令部が攻撃される直前に、携帯によって情報総局の方に連絡を入れています。その際、留まっておくと言う情報を言っていたと言う情報があります。ただ、敵の数、勢力、武器の所有及び種類、潜伏場所は不明です。唯一の例外が、2階にあります、3つの大広間です。それぞれ、菊の間、牡丹の間、沈丁花の間と言う3つになっております。菊の間に、120人。牡丹の間、沈丁花の間にそれぞれ、180人の人質がおります。沈丁花の間の半数と、菊の間の3分の2は、今回、このホテルに宿泊していた修学旅行客です。牡丹の間にいたのは、慰安旅行でこのホテルに宿泊していた5社の方々です。なお、残りは一般旅行客となっています」
「修学旅行客の出身校には連絡を入れたのか?」
「ええ、すでにこちらに向かって学校長、教頭及び保護者が向かっています」
「…そこには、敵は何人いるか分かっていますか?」
「残念ながら、分かっていません」
「そうか…だったら話は早いです。先に妹を救出します。それから菊の間、沈丁花の間、牡丹の間の順で制圧します」
「なぜ、高い所にいるクシャトル宇宙軍将補殿を救出するのですか?」
「それは…」
スタディンは光輝剣を取り出した。
「それは、この剣の威力をあげるためだ。そうすれば敵を撃破する確率が高くなる」
「なるほど。では、必要な物は?」
「援護を、数名貸してください」
「分かりました」
そして来たのは、警察長官直属の特殊部隊だった。
「彼らは、あなたの命令を聞くように命令しておきました。では御武運をお祈りしております」
スタディンは、最後だけ返事をしないで一気に非常階段から31階まで上がった。
息切れしていたのは、アダムと瑛久郎だけだった。
「なんで…そんなに…早く…あがって…息が…上がらない…んだ?」
「気にするな。ほら、あそこに見えるのが31階の10号室だ。10号室の右側の通路を通れば、12号室がある。その場にいる7名を救出後、1階に戻り、本隊と合流する」
「了解」
「では、秒読み…3、2、1、開始!」
スタディンの号令のもと、ちょうど右に曲がれば12号室という所まで来た。その時、敵がバリケードを築き封鎖しているのが目に入った。
「この先にクシャトル達がいるんだな」
「ああ、そのはずだ。おそらく、クシャトルも何らかの策を講じるはず。そうすると、勢力を二分されてこちら側に当たる人員が削られるはず…突入するぞ。みんな、自分の援護に回ってくれ」
「…了解」
その返事には、わずかなためらいが含まれていた。
「自分達は、生き延びるさ。では突入!」
スタディンが、光輝剣を取り出し一気にきりつけていった。
部屋の中ではバリケードを作り、物陰に潜んでいた。廊下側から、バーナーで焼き切ろうとしているようだった。
「…!」
鍵が落ちた。その時、廊下の左側から光り輝く何かが見えた。クシャトルはすぐにその光が何かに気付いた。
「お兄ちゃんのだ…」
「え?スタディンの?」
「うん、光輝剣って言う武器を持っていてそれを使ってるんだ」
「へぇー。それであんな光が出るんだね」
「そう」
その時、扉が開かれて、スタディンとアダムが入ってきた。
「大丈夫か!?」
「大丈夫よ。今の所は」
クシャトルが答える。
「そうか…敵兵はどれくらいだ?」
「分からない。何せ私達はずっとこの部屋に閉じこもっていたからね」
「だったら仕方がない。これより避難を開始する。一気に1階まで降りて一時退避する」
「了解!」
スタディンを先頭として、再び階段をかけ降りた。
1階に到着するとその場に待機していた警官に、イブ、アダム、愛華、赤井、飯縞、瑛久郎を引き渡し、他のスタディン、クシャトル、夏木、佐和を引きつれ2階に突入した。
「ここが最初に突入する場所、菊の間だ。大広間の中では、一番小さく、現在の所、この中に人質は120人いるという情報がある。敵を殲滅し沈丁花の間に移動する。そこには180人の人質がいるはずだ。最後に行くのが、牡丹の間。そこにも180人いる。計480人。では、いくぞ!」
スタディン達は、菊の間に突入した。
横からの扉をノックし、相手が出たところを襲いかかった。
「連邦軍だ!直ちに投降せよ!」
「誰が!」
向こう側は銃を撃ってきた。ちょうど、人質は複数のグループに分けられて集められており、それぞれ一人の犯人グループがいた。スタディン達は銃を持っている人をまず動けなくしてから、近くに行って捕まえると言う動作を繰り返した。
そして、最後の一人となった。
「早く投降しろ!」
スタディンが、いつも持っている銃で相手の眉間を狙いながら言った。
「へ、誰が投降なんかするか!これは、聖戦なんだよ。お前達のせいで、大統領になれなかった、偉大なる指導者になるにふさわしいあの方こそがなるべきだった役職に、お前達が邪魔をしたんだ!」
相手は、こちら側に向かってマシンガンを腰だめにして撃ってきた。スタディンはすぐに打ち返した。
ふと気がつくと、犯人は後から来た警察によって捕まえられていた。人質は解放された。
「次だ。急ぐぞ」
スタディン達は廊下を挟んだ所にある、沈丁花の間に向かった。すぐ横に牡丹の間もあった。
「恐らく敵は、あの銃撃戦を聞いているだろう。開けた途端に銃を撃ってくるかもしれない。気をつけてくれ」
一行は、ただうなずくだけだった。
「よし、では突撃!」
扉を開けた。
第73章 最後の再会
扉を開けた時、何か異質な空気で満ちていた。
「なんだ?この空気は!」
見回すと、人質達は10〜15人程度の円を作って座っており、その周りに2〜3人の犯人グループが立っており、銃を突きつけていた。しかし彼らの目には生気がなく、ただ虚ろな感じだった。人質を見るその目にも、覇気がなく、ただやらされているような感じだった。人質はそのような状況でも動く事ができなかった。
スタディンは、警察を入れ犯人グループを捕まえた。沈丁花の間と牡丹の間を仕切っている障子は、取り外れており二つの部屋がつながっていた。そのスタディンが入ったふすまから一番遠いところにその人達はいた。
「久しぶりだね。スタディン将補」
その声は、スタディンとクシャトルを驚かせた。
「その声は…キャサリン・サルミャン!なぜ、ここにいる?」
「それはこの俺が引き入れたからさ。よくも同盟関係にあったインフラトンを滅ぼしたな」
鷲の姿をしている彼は、間違いなくワイナロの者だった。
「ワイナロの関係者は、新中立国家共同体に入る事が許可されてないはずだが?」
スタディンが聞いた。彼はこちらに向かって歩き始めた。
「そう、許可はされていないが、入る方法なら山ほどある。それにこれほどまでに哨戒船や他の国境干犯監視船も不足気味。そんなところに入る事は非常に容易い。だからここにいる事ができるんだ。問題はこの容姿だったが…」
彼は、こちらに来ながら姿を変えていった。
「この、魔法でどうにかなった。さて、自己紹介がまだだったな。俺は、ワイナロ大統領直属、同盟国関係監視修繕委員会特別参謀官、ワイナロ・ハハトマだ」
「ワイナロ大統領直属の委員会…そうか、ワイナロ国はこちら側が国外追放した彼らに対して、支援をしていると言う事だな?」
スタディンが、ハハトマに対して問いただした。
「理解が早いな。その通りだ。警察の諸君!我々は、ここにいる!何かしてみたらどうなんだ?既に人質はいないわけだからな」
そして、スタディン達は周りの警官が、先ほどの犯人達と同じような表情になっていくのを見た。
「どういう事だ…いったい、何が起きてるんだ」
「単純さ、俺が魔法をかけてみんなを操作しているのさ」
そう言って、スタディン達を取り囲む形で警官を動かして行った。
スタディン達は、すぐに光輝剣を取り出した。
「ああ、光輝剣だね?その剣については、いろいろ調べさせてもらっているよ。その力の源はイフニ神の力であり、君自身だと言う事もね」
スタディンの事ばかり言っているように聞こえた。
「そうかもな。だが、神はイフニ神だけではない」
徐々に、誰かに置き換わっているようだった。スタディンに体の中に誰かの神の力が芽生えていた。
次の瞬間、光輝剣は今までになかったほどの激しい光を出した。その光の影響で他の人達は、目を覆った。さらに激しい耳鳴りにも襲われ、ハハトマ以外は耳を覆い何も聞こえなかった。
「我こそが、真実なる神なり!我に従え!」
その轟く声はこの階にある部屋だけではなく上下3階ほどの部屋全てに聞こえるほどの大きさだった。
「お前は、誰だ!」
ハハトマが言った。
「我こそは、ホムンクルス神!全ての神の源である!」
「何を言うか。最初の神はメフィストフェレス神ではないのか?」
「あのはなたれ小僧が最初の神だと?笑わせるわ!我こそが全ての神の最初の存在なり!我に従わぬ時、おぬしに神罰を与えようぞ!」
「どんな罰だよ。そもそも、そんな神は知らん」
ハハトマがスタディンに近づいていく。すると、ハハトマ自身の体がうっすらと消えていくのが見えた。
「な、なんなんだ?これは…」
「神罰を下すと言っただろ?お前はエネルギー体に戻るんだよ。魂ごとな」
「そんな、そんなー!」
ハハトマは、最後の消える一瞬まで、スタディンに迫っていった。それは鬼気迫るものがあった。
最後の一辺まで空気と同化したように見えた時、スタディンは自らの意識を取り戻した。それと同時に、周りにいた警官もあの表情から変わりはじめ、普通の表情に戻った。
「何をしていたんだ?」
「さあな。とりあえず、あの人を逮捕しろ」
スタディンが周りにいた警官に指示を出した。
その後、スタディン達はどうにか、実家の方に帰る事ができた。しかし、ほとんど過ごす事ができなかった。なぜなら、この活躍により新聞記者達が、さまざまな憶測をもとに彼らの証言を要求したからだった。それでも、20日までしっかりと休み、闇夜に乗じて下に降りた。
第74章 最後の2学期
「自分達も後半年なんだね…」
スタディンがいつも通っている高校の校舎を見上げて言った。
「そうさ。今年度でこの校舎ともおさらばさ。でも、先輩として時々来る事も可能だから永遠に来ないって言うこともないと思うな」
アダムが言った。
「そう言えば、みんな、大学はどうするんだろう」
「決まってるだろ?この清正美高校は清正美大学の付属と言うのが一応の位置づけだ。だから、3年生学年末テストに合格できたら清正美大学に対する進学永久資格が得られる。2年生の終わりの方の総合学習で言っていたぞ」
「いや、あの時間は大抵寝てるから…」
「ま、分からんでもないがあまり授業中は寝ないべきだぞ。それはそうと、スタディンはどうするんだ?」
「ん〜、多分、軍の方にかかりっきりになるだろうな。高校と言う鎖がなくなる以上これから、もっと働けって言われるのがオチだろうから大学に行くか分からないね」
「なるほどな」
こうして最後となる2学期の幕が開けた。
「昨年度から知っての通り、今学期に文化祭が開かれる事になっています。今年もこのクラスは自主制作映画を作ろうと思います。題名は「自由への飛翔」です。とりあえず台本を作っていますので見てください」
委員長が説明をしていた。そして、全員に行き渡ったのを確認すると、委員長が続けて言った。
「とにかく、今年は11月中旬までに、この映画を仕上げるのよ。分かった?」
「はいはい」
生返事をした人が大半だった。
第75章 最後の文化祭
時が経ち、すぐに11月になった。そして、中旬、ちょうど、真ん中の日の15日と16日にかけて文化祭が開かれる事になった。
「どうにか間に合った…」
みんな、つかれた顔をしていた。
「さすがに、30分にまとめたのはさすがと言えるけどこの想像力をもっと別の方向に向けるべきね」
そして、この映画の原作を考えた、雪野鼎に言った。
「そう?」
「そうよ。勉強は、できないのに、どうしてこんな事はできるんでしょうね」
「あ、お母さんと同じせりふだ〜」
委員長は、ちょっと、ムッとしたが、何も言わずに、そのままどこかへ消えた。
「今日は、文化祭当日です。皆さん、張り切って行きましょう」
文化祭実行委員長が最初の開会式の時に言った。そして文化祭が始まった。
スタディン達の映画上映組が終わると、クシャトル達の劇の始まりだった。
「う〜、緊張する〜」
「大丈夫だって、クシャトルちゃんならできるよ」
「なんか、朋子ちゃんに昨年もそう言って励まされたような…」
「そうだっけ?まあ、いいじゃない。とにかくがんばろうね」
「うん…」
クシャトルは、それでも気分が重かったようだが、いざ終わると何事もなかったかのような振る舞いに戻った。
「よかった、よかった」
クシャトルが観客席に戻ると、スタディンの横に彼らのお父さんとお母さんが座っていた。
「お母さん、お父さん!どうしてここに?」
「ちょうど仕事が空いてね。それで見に来たんだよ」
「仕事は大丈夫なの?」
「大丈夫じゃなかったら、ここにいないさ」
お父さんは笑いながら言った。
「それに、今までスタディンとクシャトルの文化祭の発表を見た事がなかったからな。一度は見に行かないと親として…ね」
「なるほどね、それで私はどうだった?」
お母さんとお父さんの間に、無理やりクシャトルが入った。
「えへへ〜、まだここに入れるね」
「……」
周りは、ちょっと、にこやかな笑みを浮かべていた。ちょうど、その隣に、クォウスとルイと由井さんもいた。
「あれ?来ていたんですか?」
イブが言った。
「ええ、ちょっと暇になってね。まあ、家でいるよりかは、お散歩がてら見にいこうかなってね」
由井さんが言った。クォウスとルイは、ポケーとステージの方を見ていた。
「去年は大変でしたからね。なにせ発砲事件が起こったぐらいですからね」
「とにかく、ゆっくり見ましょうよ。ね」
由井さんに促され、クシャトルとアダムは彼らと共に、劇に見入った。
翌日、最後の演目が終わり生徒会長が一番前に立ち、さまざまな賞を発表していた。今年は何事もなく、滞りなく終わった。
第76章 引き継ぎ式
「やれやれ、文化祭が終わるとすぐにテストって、なんかいやだな」
「でも、やらないといけないんだよ。宿題の量の増減もこのテストにかかってくるし…」
スタディンとクシャトルは、二人だけで第2師団本部棟の師団長の部屋にいた。任期切れになっていた参謀官の引き継ぎ式をする事になっていた。
「よく来てくれた。本日は引継ぎだけの予定だから、それが終わったら帰っても構わない」
「分かりました。いつ始まるのでしょうか」
スタディンが師団長に聞いた。
「あと、5分ぐらいで全員が揃うだろうから、それからだ」
師団長が時計を見ながら言った。
ぴったり5分後、一番広い講堂で引き継ぎ式が始まった。
「これより、参謀官引き継ぎ式を始めます。新暦348年度参謀官代表、前へ」
出てきたのは女性の方だった。
「私達、参謀官は、そもそもの目的を達するために世界中の軍を組み合わせ、師団長を正しき方向に導くための導き手としての参謀官会議を行っていくことを、ここに誓います」
宣誓式だった。彼女は一礼して、ステージから去って行った。
「では、新暦347年度参謀官代表、前へ」
出たのは、新暦347年度参謀官会議議長の、于丈乙女だった。
「私達が去る時に望むのは、これからの参謀官がこれまでと同じようにさまざまな難題を乗り越え、さまざまな事に挑戦し師団の真髄を保っていくことをだけです」
彼女も、一礼してステージから去った。
「これをもって引き継ぎ式を終了します。なお、これより認証式を始めます。名前を呼ばれたら前へ」
スタディン達、前年度参謀官は、この時に帰って行った。
それから、1週間後、2学期末の試験が始まった。
テスト期間中は、時がすぐに過ぎていく感覚に襲われる。スタディン達もその感覚に陥っていた。
第77章 定期点検
スタディンが住んでいるこの地域は日本人の人口が98%を占めている影響で、日本文化が幅広く行われていた。その一つが年末年始だった。ちょうど、この頃は官公庁や商店も大半が閉まってしまうので、何もする事がないのである。そして、新年に入ったすぐの1月4日。ベル号の本格的な定期点検が始まった。
「初めてだね。こいつの定期点検なんて」
スタディンが船長室で話す。第2師団のドックから離れて第4惑星衛星軌道上に浮かんでいる軍事船専用の宇宙ステーションに入り、定期点検を受ける事になっていた。主観時間で4年に1回、点検を受ける事が義務になっていた。
「結局の所、アダムとかがいる必要性はないわけなんだけど、でもどうしているの?」
クシャトルが部屋の中にいる、アダム、イブ、シュアン、クォウス、ルイ、瑛久郎、愛華、それに別の軍の所属なのになぜか乗っている伊口康平、金津夏木、佐和和泉、佐倉友美、計13人、それに師団長の14人が部屋に入っていた。
「いや、よくこんな部屋に入れたな」
「師団長、なぜあなたがついて来るんですか?それに、他の人たちまで…」
「いや、なんとなく…」
「それに、聞きたい事もあったからね」
シュアンとルイが言った。
「聞きたい事?」
スタディンが答えた。その時、ベルが言った。
「ソフト面のチェックが終了しました。続いて、ハード面のチェックをします。船長、副船長以外の方は、一端、下船してください」
「やれ、やっとここまで来たか。これまで4時間かかっているな」
「それは、長いんですか?」
師団長が言った言葉にスタディンが反応した。
「ああ、普通は、ソフト面で1時間、ハード面で10時間だから、そのまま単純比例するとしたら…」
「だいたい、ソフト面4時間、ハード面40時間ですかね…」
「それぐらいは見越した方がいいだろう。それと、船長と副船長だけは下船不可能だからな。後、40時間がんばれ〜」
師団長が最後に船から降りた。その時から本当に40時間検査にかかった。
「ふ〜、つかれた…」
クシャトルが気だるそうに言った。
「そもそも、定期点検自体がとんでもないものだったよ」
「どんなのだった?」
「…いや、聞かないでくれ…」
「スタディン、顔が青ざめてるけど大丈夫?」
「…多分」
「それに比べて、クシャトルは丈夫だね」
「そう?」
「スタディンに比べて何もなかったかのように見える」
「う〜ん、どうなんだろう。まったく分からないや」
クシャトルが朗らかに答えた。その横ですぐにでも吐きそうな顔をしたスタディンが立っていた。気力で立っているようにしか見えなかった。
「ねえ、本当に大丈夫?」
イブが念押しするように聞いた。
「ああ…」
その時、スタディンが立ち上がりどこかへ走り去った。
「ねえ、本当にどんな点検だったの?」
「…それは、言えないの。何があってもね」
クシャトルが答えた。
「ふーん」
「そう言えば、何か聞きたい事があったんじゃなかったっけ?」
「ああ、そうそう」
クォウスとルイが言った。
「実は、僕達が迷子になった時があったでしょ?結構前だけど。その時に見つけたあの部屋について教えて欲しいの」
「ああ、最重要基幹区域の事ね。あそこは、本当は教えてはいけないんだけど今日は特別ね。でも、スタディンが帰ってきてからでも構わない?」
「うん!」
クォウスが、元気よく言った。
「とにかく、スタディンは、どこにいった?」
「多分…トイレだと思う」
「何しているんだか」
師団長は心配をしているようだが、クシャトルが言った。
「いや、それは聞くべきではないと思います」
「そうか」
それから、10分ぐらいしてスタディンが帰ってきた。
「ただいま…」
死にかかっているが、それでも生きていた。
「スタディン、みんなを最重要基幹区域に連れて行くよ」
「えー、先にクシャトルが連れて行ってくれ。自分は後からついていくから…」
「本当についてこれるの?」
「ああ、大丈夫だから…」
クシャトルは不安だったが、スタディンを置いてそのまま最重要基幹区域と呼ばれる場所に、一行を案内した。
「ここが、最重要基幹区域と呼ばれている場所よ」
そこには、前と同じように、とても大きな筒状の容器の中に液体が満たされており、光があちこちを飛び回っていた。
「これこそが、ベル号の頭脳の中枢部。量子的コンピューターの記憶装置であり昔のCPUの役割もしている。ただスピードが果てしなく速いけどね」
「そうなの?じゃあ、これがベルの頭になるの?」
クォウスが聞いてきた。
「そう。全ての記録は個々に一時保存された後、軍の方に送信される仕組みになっているの。そうしないと、この液体によって突然情報が全て消えると言う事もあり得るからね」
その時、ようやくスタディンがやってきた。
「う〜、やっと追いついた…」
やはり、青ざめていたが前ほどではなかった。
「大丈夫?スタディン」
クシャトルが言う。
「ああ、多分な…」
どうにか、持ち直してきたらしい。
「説明は?」
スタディンが聞いた。
「一通り終わったところ。これから第2師団に戻るところよ」
「そうか…じゃあ、もどろう」
スタディンはそれだけ言うと、指揮室に戻り船を第3惑星第2師団に戻させた。
第78章 高校生活の終わり
3年生の3学期。高校生活の最後の学期であり、これまで暮らしてきたこの高校からも別れを告げる時間でもあった。
「私達、ここで何を学んだろうね」
「さあな。言えるのは、これからの生活で必要、不必要を問わずに何かを学んだって言う事だけさ」
教室の前の廊下、休み時間の時にスタディンとクシャトルが何かを話し合っていた。それは、これからの事、これまでの事さまざまな内容であった。
家に帰り、部屋に入るとスタディンは、屋根裏部屋から前と同じように屋根に登った。空は、星が浮かんでいた。黒い布に歯ブラシを使って白インクを撒き散らしたような空だった。横にはクシャトルもいた。
「きれー」
クシャトルはその空を見て感動していた。
「久し振りに見るね。こんな夜空って」
「ああ、そうだな」
スタディンは、何かを考えながら言った。クシャトルはすぐに何を考えているのかが分かった。
「これからのことなんて何にも分からないんだから。こんな時に考えたところで何にもならないよ」
「でも、考えてしまうんだ。将来の事とか軍の事とか。それに神々についてとか…」
クシャトルは、1回、咳をしてから言った。
「何事にも前向きにいかないと、何にもできない内向きの人になっちゃうよ。だからこそ、私はいろいろなことに対して挑戦的なんだよ」
「クシャトルはそれでもいいかもしれないが、自分的にはそう言うふうに心をもっていくことができないんだ…」
「気持ちなんてどうにでもできるの。要は目標を持つ事なの。目標さえあれば何でもできるの。それがどんなに大きな目標でも、それをしたいと言う気持ちを持ち続ける事によって何でもできるようになるの」
「そんなものなのかな…」
スタディンは、屋根の上で大の字になって寝転がった。横では後ろ手をついて、上を見上げているクシャトルがいた。
「そんなものだよ」
クシャトルはスタディンを見ながら笑っているように見えた。
学年末テストが終わり、結果が発表された。
「今年も全員が無事にこの清正美高等学校を卒業する事ができます。いろいろな事が起こった、この学年だったけどどんな理由でもいいので、また遊びに来てください」
3年生の学年主任である、飯田辰冶が最後の学年集会の場で言った。
第79章 卒業式
「在校生、起立」
教頭先生の言葉で第300回清正美高等学校卒業式が始まった。
「卒業生、入場」
歓喜の歌をバックにして、卒業生、総勢298名が卒業式の場所にいる事ができた。最初が、320人であるので、この3年間で22人が高校を辞めた事になる。
「在校生、送辞。在校生、卒業生、起立」
司会は最初から最後まで教頭先生がする事になっていた。体育館には荘厳な雰囲気が漂っており、師団長が来賓席に座っていた。完全に全員が正装していた。非常に緊張する場所の中で送辞、それに対する答辞、国家斉唱、校歌斉唱、卒業証書授与、順調に式は進んでいった。そして、何事もなく式は終わっていった。
「これで長かった3年間も終わりか…」
アダム、イブ、スタディン、クシャトル、瑛久郎、愛華、シュアンが、一緒になって帰って行っていた。
「なんか、短かったわね〜」
「でも、なかなか楽しかったよ。本当ならならなくてもよかったような事態にも巻き込まれたけど…」
「いろいろあったけど、終わりよければ全て良し。そう考えているよ」
全員、最後に校舎の方向を向いて、一礼してその場所から去った。
エピローグ
さまざまな人が旅だっていったこの高校。さまざまな業種に卒業生は羽ばたいて行った。それから、どのような人生を送ったかはそれぞれの想像にお任せするとしよう。千差万別、種々雑多、十人十色、300人近い卒業生を今年も輩出したこの高校は、これからもこの宇宙が続く限り存続する事になるだろう…それこそ、それまでの間にどれだけの人がここから旅立つかは未知数だが。