第2編第2部
第37章 炊飯器の故障
その週の土曜日。久しぶりの完全休日となったスタディン達に、由井さんが言った。
「ねえ、このご飯、なんか味おかしくない?」
「そうですか?」
「そう言われると…納豆の味がする…」
「でしょ?」
由井さんのご飯はとてもおいしかった。しかしいつも米を炊いている炊飯器が調子が悪いようだった。
「一時のものじゃありませんか?もうちょっとしたら直ると思いますよ」
ちょうどその翌週は、月曜日が休みだったので、そのように言ったのだった。
「そうね。じゃあ、明日もこんな感じだったら電気屋さんに行きましょう」
そして翌日、きっかり直らなかった。
「仕方ないわね。ちょっと遠いけど電気屋に行きましょう。あそこなら修理してくれるかもしれないから」
由井さんの一言で、日曜日に家から数kmはなれた大型電気店に行く事になった。
そこはこの近辺で唯一の大型電気店で、電化製品以外にもさまざまな日用品や他の物も売っていた。
「すいません」
由井さんは、近くにいた店員に修理コーナーの場所を聞いた。そこは、薄暗くさまざまな部品がばら売りされているところだった。
「やれやれ、こんなところで修理できるのか?」
アダムが言った。
「って言うか、アダムさ、こんな電化製品を取り扱うところの会社はないのか?」
「ああ、それはなかったな。新しく作るか…」
(おいおい、これ以上会社増やしてどうする)とスタディンは思ったが、あえて言わないことにした。
「すいません、この修理って出来ますか?」
「はいはい、ちょっと拝見…ああ、これは古い炊飯器ですね…新暦347年ですから…ちょうど20年前のものですね」
そして、彼はそのまま奥の方に行き、何かを探していた。その後、数分経ってから何かを持ってきた。
「すいませんが、これに署名してくれませんか?製品受け取り書です。これを来週の今日、もって来てください。そしたら、この炊飯器を引き渡しましょう」
「分かりました。ではお願いします。料金は…?」
「引き渡す時にお願いします。ただ、ここまで古い炊飯器の修理はした事がないので、うまくいかないかもしれません。その点をご了承下さい」
「はい」
そして、一行は、いったん家に帰った。
1週間後、期日になったので、同じ店に来ると、ちゃんと修理が終わっていた。
「はい、修理完了しました。ちゃんと動きますよ」
「ありがとうございます。いくらでしょうか?」
「え〜、17467GACですね」
「じゃあ、お釣り下さい」
由井さんは、20000GAC払った。そして、炊飯器を引き取り、そのまま家に帰った。
早速家に帰ってから、お米を炊いてみた。
「ん〜、やっぱり、この味よね」
そこには、純白に輝き、香ばしいにおいを立たせているお米があった。
第38章 5月1日
4月31日の夜、スタディンは、ニュースを見ていた。そこには、明日のメーデーについての事をしていた。
「5月1日は、メーデーです。憲法理念に掲げられている「圧制からの脱却」をめざし、皆さん、デモに参加しましょう!」
ふと思い、スタディンはメールを見た。すると、軍から明日のメーデーの時に軍上層部に対するデモ行進をするから来て欲しいと言う内容のメールがあった。それをクシャトルにも伝え、そして部屋に入った。
「明日、メーデーでデモ行進をするから来てくれっていう、軍からのメールがあった」
スタディンは、子供が全員いる部屋の中で言った。
「メーデーって何?」
イブが聞いた。瑛久郎が携帯のネット空間に接続しメーデーについて調べた。
「メーデーとは、西暦1886年5月1日、旧アメリカ合衆国にて、「8時間は仕事に、8時間は睡眠に、そして、残り8時間は余暇に」と言うのを、掲げた上でゼネストを起こし、その後、1889年、これを記念し、5月1日を、全世界で、労働者の団結を連帯を示威するために国際的に行われる、統一行動日として、第2インターナショナル創立大会にて決定された日のことである」
「なるほど、そんな日か。じゃあ、その統一行動をするために全世界で同じようなデモをするという事だな」
アダムが言った。
「そのための要員として、自分達が呼ばれたと言う事か…じゃあ、なんで去年は呼ばれなかったんだ?」
「さあ、軍の事務局があるはずだから、そこに問い合わしたら何か分かるんじゃないかな?」
「なるほど…」
しかし、スタディンは、つかれたのでいったん寝ることにした。
翌日、メールに書かれていた時刻に行くと第2師団の大半の人が集まっているようだった。
「ああ、スタディン、クシャトル。ちゃんとメール読んでくれたか」
「ええ、師団長。とにかく、去年はなぜ自分達は呼ばれなかったかと言う理由を知りたくて来てみました」
「去年か…去年は、君達はちょうど別のことでもしていたのだろう。高校に入って1ヶ月目だし、そっとしておくべきとでも思ったんだろう」
「…確かにそうですね」
そして、スタディンとクシャトルは列の前の方に誘導された。
そして、デモ行進の概要が発表された。
「今回のデモ行進は、我々軍としての労働組合によって決定された、「伝えよう、平和の大切さ」、「給料天引き反対」を掲げる。デモ行進は、陸軍、空軍、海軍、宇宙軍の順番で行い、市内を一周し、ここに戻り次第順次解散とする」
一番前で、師団長が朗々とした声で指示をしていた。
「では、出発!」
その一方で、新中立国家共同体軍より追放されたあの人達が第3惑星に舞い戻っていた。
「やれ、10ヶ月ぶりだな…」
顔も、容貌も、何もかもを変え、キャサリン・サルミャンと大杭並筒がワシントンに到着していた。
デモ行進は順調に進み、そして終了した。軍上層部はどう動くかは今の所、未知数だった。
「じゃあ、帰ろう」
「そうだね」
スタディンとクシャトルは帰ろうとした。しかし、その時、思わぬ情報が入った。携帯に入ったそのメールを見て、スタディンはすぐにクシャトルを連れて、師団長の元に走った。
「師団長、無礼を先にわびます。しかし、これをみてください」
「なんだ、スタディン、携帯の…めーる…」
そこには、ワシントン及び周辺の全ての陸海空宇宙軍が一斉蜂起をしたと言う事が報じられていた。すぐさま、師団長は、全ての師団に情報を伝達。すると、確かに連邦政府周辺で不穏な動きが起こっていた事が判明し、蜂起していない師団及び旅団長級会合がすぐに行われた。無論、一箇所に集まるには時間がなさすぎるのでテレビ会議となった。
「我々、軍部としては今回の蜂起に賛同しかねる。それで統一意見としてよろしいですな」
第7師団長が言った。
「ええ、それを統一見解として発表しましょう」
各軍の師団、旅団にはメーデーに参加した全兵力が集結していた。すぐに、連邦政府に対し、その事を知らせると、全ての師団長、旅団長は解任され、代わりに蜂起した者達の息が掛かった人達が配置された。第2師団の師団長もその憂き目にあったが、しかし、どの師団、旅団でも、そう易々と配置換えに協力しなかった。中に立てこもり、派遣された者達を拒絶し続けた。しかしながら、徐々に配置換えは第1師団の兵力をもって、強制的に行われた。中には不審な死を遂げたものもいた。だが、第2師団は、全兵力が一致団結して全ての要求をはねつけ、最後の正規軍として断固戦う事の意思表示を行った。こちらに来た蜂起軍の特使達は、すべて門前払いさせられていた。他の師団では戦車や装甲車を用いていた第1師団だったが、第2師団ではそのような事をすると、厳重な防衛措置を取られ逆に焼き払われると言う事も考えていたのだろう。さらに、そのことについては神の力を持ったイフニ兄妹が所属する師団と言う事で、反撃が怖く、なかなか攻撃をする事ができなかった。それにより、第2師団周辺には今回の蜂起に賛同しない人々の拠り所として、さらに、蜂起した勢力によって追放された軍部職員達の集結地として、そして、現在の憲法を守りぬくと言う精神的支柱となった。
第39章 蜂起軍対第2師団
一方、蜂起軍となった第2師団以外の全ての軍は、すぐさま連邦政府を制圧。再び約1年前のあの革命を起こそうとしていた。それに対し、第2師団は連邦政府より脱退を宣言、結果として、新中立国家共同体は第2師団周辺の地域とそのほかの地域という二つに分裂した。そして、他の地域では新たに軍部独裁の憲法が制定され、その終身大統領としてキャサリン・サルミャンが就いた。
「我々は、旧第2師団に対しいかなる援助もしない事を明言する。さらに、彼らは反逆分子として排除しなければならない存在である。彼らこそ我々の輝かしい業績に泥を塗る存在であり、断固として戦わなければならない存在である」
彼女はそう言い切った。そして、3日後に宣戦布告をし戦争を開始するとも名言しそれまでに、心ある者はその地域より退去するようにとも言った。その上、彼女は徴兵制を敷き、18歳以上の男女関係なく兵力とした。
3日後までに、周辺宙域は非常事態宣言と戒厳令と無期限外出禁止令が布告された。さらに外から来た全ての船は、いかなる理由であろうとも撃墜するとも付け加えた。
「我々は、現在、不当に占拠している旧第2師団と交戦中である。我々は最後の一兵になるまで、彼らの目を見開かす覚悟である」
キャサリン大統領が言った。しかし、それに苦言を呈する集団があった。「全宙統合協会」と言うその団体は、宇宙全土に戦争がない平和な世の中を実現するために完全に中立的な立場の特別な宇宙的規模の団体であった。その団体は、平和のための戦争つまり自衛の戦争すらも、捨てるという覚悟をする必要があると説いていた。
「我々は、今回の交戦についていかなる理由があろうとも即時中止を求める。我々は、旧日本国憲法第2章に記載されている平和な世の中を実現するために行動をし、全ての戦争、兵器、兵力を放棄すべきであるとここに公言する」
その言葉に共鳴した団体は複数あり、彼らはみな、武器を持たずに第2師団の周辺に集結していた。
3日間の戦闘猶予中に、上記のような例外を除いて全ての一般市民は惑星系外に逃げ出した。スタディンとクシャトルは残りの人達全て、彼らの両親も含め自分達の知り合い全員を、アダムに託し、彼らはこの惑星上に残った。
「じゃあ、後のことは頼んだぞ」
「ああ、生きて顔、見せろよ」
「分かってるよ、アダム」
スタディンとクシャトルは、第2師団の空軍飛行場から離陸する大量の航宙機を見送り、指揮に当たる事になった。全ての航宙機が離陸するのを見届けるとベルに乗り込み、その時を待った。
すでに、国営放送のみの放送となっており、さらにその放送は大統領が定めるものしか流す事が出来なかった。
「我々は、3日間の猶予を与えた。我々は、これより国土を蹂躙する反政府分子どもを駆逐するための作戦を遂行する。これより、旧第2師団及びその周辺に建国されたと言う分裂した国の国土を、再び我らの手の中に入れるという崇高な目的を持って戦闘を開始する」
それは事実上の宣戦布告だった。
それをした途端、連邦政府があるワシントン周辺の軍事基地に大量の何かが降り注いだ。それは、季節外れの雪のように見えた。
「始まったぞ、スタディン。君の活躍を期待している」
「分かりました、師団長。では、これより第2師団宇宙軍所属イフニ・スタディン船長率いるベル号、出航します」
「ああ、健闘を祈る」
ベルは発進した。そして、猛攻をもろともせずワシントン周辺にまで来た。しかし、その時、スタディンはおかしいところに気がついた。
「ベル、すまないがフラッシュを呼んでくれないか?」
すぐに、フラッシュがやってきた。
「急患ですか?」
「いや、この状況をどう見るかだ」
スタディンは手元のモニターにある情報を言った。
「病院での救急治療者が急増している。さらに墓地までの長い列もあるし、外を歩く人々は例外なく防毒マスクを付けている。何かあったんだろうか」
ベルは、現在、高度7500ftを飛行中だった。
「一体…」
その時、ふと思いついたのか、フラッシュが気体採取を要請し、そしてその分析を完全防塵・密閉化で行うように指示をした。
「もしかして…すいませんが、船長。病院に担ぎ込まれている人達の病状が何か分かりますか?」
「ベル、どこでもいいから、この近隣の病院の内部カルテを入手してくれ」
「了解しました」
「それと、この事を第2師団に連絡。全部長級作戦会議を行うから部長以上の役職についている人を作戦室に呼んでくれ」
「了解しました」
スタディンとクシャトルとフラッシュは、シアトスに船の指揮をまかせ、作戦室に向かった。
全員そろった時、気体分析が終了し、それと同時にカルテが送られてきた。
「フラッシュ、これをどう見る?発熱、頭痛、筋肉痛を訴える患者が、宣戦布告後、急増しているようだ。さらに、その日から3日経っているが体幹部に斑状発疹もあるらしい」
「……他に症状はありますか?それと気体分析の結果は?」
「ああ、分析結果は、フアイスグハングウイルスと言うのを検出したそうだが…」
それを聞いて、フラッシュはベルに指示を出した。
「ベル、医療技術部部長権限において、本船の完全密閉の手続きをしてくれ。それと今後の船外活動は本船の外部洗浄が終了してからのみ行う事も」
「了解しました」
「ちょっと待て、どういう事だ?」
スタディンが聞いた。周りはフラッシュの説明をじっと待った。
「これは、フアイスグハング病と言う病気です。感染経路は一切不明ですがフアイスグハングウイルスという病原体による伝染です。感染後、発熱・頭痛・筋肉痛の急性症状が起こります。その後5日目ほどまでに体幹部に斑状発疹が出ます。その後、腹痛・下痢・嘔吐などの諸症状があり、さらに進行性出血・肝機能障害・黄疸・脊髄炎・意識障害・多臓器不全など多数の症状を発症します。死亡率は約25%と言われていましたが、2095年、根絶を確認していました」
フラッシュは、手元にあるモニターから何かの医療書を読み上げていた。スタディンは聞いた。
「それは、どのような療法をするんだ?」
「基本的に対症療法となります。症状が出てから療法をするために初期治療が重要視されます。しかも、感染力が強くかかった場合の重篤度から見て、即入院が必要な感染症の一つとされています」
「なるほど…だが、そんな厄介なもの誰がばら撒いたんだ?」
「我々にもわからない、未知なる人物だろう」
「師団長、いつから聞いていましたか?」
机の中央にある3D投影機に、師団長の顔があった。この投影機は双方向性デジタル3Dディスプレイ(改)と言う名前で瑛久郎が作った物の改良型だった。さらに、これが全ての官民問わず、船に乗せられた初号機でもあった。
「フアイスグハング病やらの話の時からだ。いや、病原体の話など自分には一切分からん。とりあえず、現場は既に大混乱だ。だが、これ以上の混乱を起こさせる意味を込めて、作戦どおり行動をして欲しい。しかし、降下作戦は禁止とする」
「了解しました」
師団長の顔が消え、その後、ちょうど地上の図形になった。
「ほんとに、誰がばら撒いたんだが…」
「しかし、こちらとしては有利ですよ。戦闘に勝利するために、このことをしたのは敵側と思うでしょうが」
「向こうの敵側だから、我々の方と言う事か…」
作戦室で、いろいろと今後の策を練っていた。その時、誰かから通信が入った。
「貴様らは何者だ!」
「まず、お前から名乗るべきだろう!」
スタディンが、突然の通信者に対し、いい返した。
「俺は第1師団通信部隊の隊長だ。貴様らの船籍は、第2師団の物であるな。即刻停船しなければ、我々は、そちらを攻撃する」
スタディンは手を振り、消した。
「さて、まったく停船する意思がない事を知らしめるために、第2師団師団長に非暗号緊急連絡、「ワレコレヨリコウセンス」以上。これより第1種戦闘態勢とし、必要ない人員は…分かってるな」
「誘導の後、ホールに緊急収容、終了後、第1種緊急体制時と同様の手順を踏み、火器類の発砲許可を求めます」
「発砲を許可する。では、これより戦闘を開始する」
スタディンが、作戦室の面々に対して粛々と言った。
この一報は、すぐさま、両軍の司令官に伝えられた。さらに、彼らから、全宇宙に伝えられ、連邦首都において、市街戦・上空戦が繰り広げられる事になった。
第40章 連邦首都の決戦
他の地域よりも断然速く戦闘が始まった第2師団周辺では互角の戦いが続いていたが、蜂起軍陣地に対する工作、不衛生な環境などが蜂起軍に対し大ダメージを与え一時退却まで追い込んでいた。
その中、スタディンが率いる第2師団宇宙軍ベル号が、第1師団との直接交戦に挑むと言う事が伝えられた。
「よろしいでしょうか、師団長」
「……死ぬなよ」
「それは、当然です」
そして今までスタディンが映っていた画面が真っ暗になった。
この一報は遠くはなれた、ファルガン星系第3惑星にあるエア・ホテルの一室にいるアダム達にも衝撃を与えていた。このホテルはアダム達の同級生達が全員集まっていたので、仮の学校状態となっていた。先生すらもこのホテルに宿泊しており授業すらあった。
「失礼します!エア・アダムさんはどこにいるでしょうか」
伝令兵が、そんな授業中の会議室に来てアダムに何かを告げた。そして、アダムは全職員会議の場所において、スタディンが交戦状態に入った事を告げた。
スタディンは魔力も使いながらも、しかしできるだけベルに搭載されている火器に頼っていた。こちらに向かってくる、ミサイル、銃弾、何もかもを弾き飛ばすバリアを張り、必要時のみ一瞬解放しての戦闘をしていた。
「バリアは、どれくらいだ?」
「現在、99.9%。かなり順調です。このエネルギーからみると、無補給状態で約3年間は優に戦えるでしょう」
戦闘指揮室には攻撃部門と防御部門それと行動制御部門の人とその他関連の人しかいなかった。
「なぜだ!なぜ我々の領空を侵犯する船を打ち落とせん!たかが、1隻だろうが!」
「しかし大統領。この船があの、伝説の船でして…なかなか隙を見せないのです」
「…まさか、スタディン将補が乗り込んでいる、あの船か?」
「ええ、その通りです。あの船に対応するための攻撃力を我々は有しておりません。もし、この場所が、彼らに空爆されたら…」
「いや、それはない。万が一発覚したとしても、それは偽の場所だろう。なにせ地下数百m地点に存在する、数百?の空間なんか気づくはずがない」
上空では、地下深くに異質な空間がある事は既に気づいていた。そこは地下380m地点にある460?の空間が広がっており、その中に大統領と副大統領の存在を確認していた。だが、そこにひとつ問題があった。
「市街地の真下で、近くには病院もあります。人道的にみてここを爆破するのは非常に尾を引く事になるでしょう」
コミワギが言った。スタディンはずっと考えていた。
「だったら彼らを出さないようにすればいいんだ。ベル、この空間の出入り口は?」
「複数個所あります」
「全てを封鎖する事は可能か?」
「その回答については、条件が多すぎて答える事が出来ません」
「ならば、彼らをこの空間から出さないようにするだけの出入り口を封鎖、若しくは使用不可能にする事が出来るか?」
「その問に対する回答は、可能と答ることが出来ますが問題があります」
「なんだ?」
「全てとなると、38箇所ほどありそれを全て使用不能の状況とするためには、約1時間かかると思われます」
「ならば、今すぐやる必要があるな」
スタディンはコミワギに指示し、ベルが教える地点に爆撃をするように言った。
1時間後、異変に気がついた大統領は既に遅かった。
「な、なんで、塞がっているんだ?」
「裏口、玄関、全て使用不能です。敵がなぜこの全ての出入り口に気がついたかは謎です」
その時、スタディンが降伏を要求する電信を発した。
「お前達は完全に包囲されている。そこから脱出しようものなら、すぐさま射殺する。降伏するのなら、命は助けるがどうする?」
「我々は、貴様らなどに降伏はしない!逆に、貴様達の方が上陸できずに困っているのではないか?」
「なるほど、そう考えたか…ならば、我々の力、思い知るがいい」
通信は、そこで切り電波妨害を発し始めた。そして各部隊の通信網をずたずたにしたところで、最も広い空き地に着陸し作戦を開始した。
その事は上空にある通信衛星で全宇宙に伝わっていて、正規軍が蜂起軍に対し攻撃を加え始めたという事で、全てのテレビ局でいっせいに放送していた。
第2師団ではスタディンからの報告を聞いて、すぐさま師団長に報告された。
「師団長!スタディン将補が作戦を遂行始めました」
「なんと!周囲には、危険なウイルスがいるのではなかったのか?」
「それを克服する方法を見つけたようです。それは…」
作戦室にて、スタディンがとある機械を説明していた。
「この機械は本船医療主任であるフラッシュの手によって作られた。これを付けていると、周囲2m圏内で空間に電磁バリアを張りウイルスにある極性を利用して反発力を付けて、寄せ付けないようにする事が出来るんだ。すでにこの機械を利用した実地訓練もしてみたが、完全に機能している。現在、食堂に臨時にこの機械の製造のレーンに当てている。既に量産中だから、すぐにでも全員に行き渡るだろう。全員に配給が終了次第、予定通りの作戦を取る」
全員の顔を見てから、スタディンが言った。
「作戦、第1師団奪回作戦を開始する。なお、これ以降本作戦名を4423番と名づけ暗号とする」
「了解!」
そして、第1師団、連邦政府があるワシントンを防護するために作られた特別な師団に強行的に上陸する事を決定し実行に移された。
着陸するや否や、すぐに機械を付けた人達が出て行った。
「9班〜32班、作戦完遂」
すぐに連絡が入ってきた。
「3班、6班も終了です」
「1、2、4、5、7、8班は?」
スタディンが聞く。
「現在、1班以外、全て作戦完了しました」
「第1班は、何の作戦だ?」
「師団長拘束作戦です」
「……」
ただ、結果を待った。そして、第1班から待望の電信が入った。
「ワレ4423カンスイス」
その情報は、すぐさま第2師団に送られた。
「そうか、第1師団を落したか…」
「同時に作戦を遂行している、第3〜第10師団に対しても陥落しつつあります。そもそもの強硬措置に対して、政治犯として逮捕された人々は全て釈放されつつあります」
「……全てを陥落させたら戦後処理班を始動させる。同時に現在の蜂起軍、つまりは非正規軍については、指導者、現在の大統領を処罰をして幕引きを図るべきだろう」
師団長は最高指導会議で言った。
「確かに、それは必要ですがそれだけでなく、彼らが定めた法律、執行された刑罰、さまざまな事を改善する事も必要になるでしょう」
その時、情報が入った。
「失礼します。第1師団、第3〜第10師団。全て陥落しました。現在、中央政府によって任命されたもの達はすべて排除され本来の者達が職務に当たっております」
「そうか…」
さらに、伝令兵がやってきたが、その情報はこれまでの中で最も悪いものであった。
「緊急伝令です!ベル号より、イフニ・スタディン、クシャトル両名が逮捕された模様です」
「なんだって!」
がたがたと皆立ち上がり、それぞれの情報通に電話を入れた。しかし、その中で師団長は冷静にその情報を吟味していた。
「それは、真実なのか?」
「緊急伝令ですので、間違いの可能性もございますが、しかし、十中八九、真実かと…」
「そうか…ならば、彼らを助ける必要があるが…なぜ、彼らは、逮捕されるようなことをしたんだ?」
「どうやら、作戦遂行中、非制圧区域に立ち入った際、親大統領派によって捕らえられたようなのです。彼らは、警察一般に対しても広く人脈を有しており、彼らに対し賄賂を贈っていたと言う情報も併せて送られてきました。ただ、彼らの目的はスタディン船長とクシャトル副船長のみだったらしく、ベル号が離陸する時には何も言ってこなかったようです」
「……WPI機関が動いたか…」
「そのようですが、しかしそれらは既に去年度のクーデターの時点で消滅したはずでは?」
「考えてみろ、副大統領になった大杭並筒という人物は、WPI機関の長官だった男だ。彼は元の地位になるためにさまざまな手を使ってくるだろう…」
第41章 捕まった船長と副船長
(ここは…)スタディンが目覚めた時、周囲は真っ暗だった。どうやら目隠しされているらしいのだが、体を何かで固定されているらしく首すら動かせない状態だった。
「起きたか、スタディン。ここは、前にも見た事があるだろう。人造人間を作っていた工場だ。ここにはさまざまな道具がある。君達を苦しめるには十分すぎるほどのな。ああ、だが君は今、目隠しをしているから見えるわけないか」
目隠しされている事は既に気付いていた。しかし、その魔力には覚えがあった。
「お前は、旧WPI機関長官の大杭並筒だな」
「良くその名前を憶えといてくれたな。感謝するよ。こちらは自己紹介する手間が省けた」
「自分達をどうするつもりだ?」
「さてな、俺が何者か分かっているならばこれからどうするかぐらい、察しがつくだろ?」
WPI機関、闇の実験室、違法改造の数々、それらを総合的に考えてスタディンは、ある結論に達した。
「お前、まさか…!」
一瞬相手を殴りかかろうとしたが、少しも動かなかった。
「その通りだ。だが、君にはこちらも痛い目にあわされていた。こちらとしても君を痛い目にあわす必要があると思ったんだがね、その前に面白い物を見せる必要があると思ってね」
目隠しが取られ、急に眩しい光を見たスタディンは目が痛かった。そして目が慣れてきてから周りを見ると、ちょうどすぐ前にクシャトルが手術台のような机の上で寝かされていた。手足や体はベルトでしっかりと固定されており、少しも動くことが出来ないようになっていた。
「お前、クシャトルを、妹をどうするつもりだ!」
「そうだったな。さっき、面白い物を見せるといったよな、まずこの子にその事を経験させるべきだろうと思ってね」
クシャトルの周りには、何やら良く分からない機械が大量に置かれていた。
「大丈夫だ。彼女に痛みはない。今は麻酔で眠っているだけだ」
確かに、クシャトルはガス吸入機を口に付け、何かを吸わされていた。
「兄には説明すべきだろうな。まず、彼女は脳幹を機械化される。次に骨格を強化プラスチックに変更し、さらに筋肉を人工筋肉に総入れ替えする。全ての神経系も光ファイバーに替え……まあ、一言で言えば人間ではなく強化人間にすると言ったところかな?」
「お前…!」
「大丈夫だ。兄妹のどちらかだけを変えると言うことはしない。ちゃんと彼女が終わってから、君も変えてあげるから安心しな」
そういいながらも、彼はゴム手袋をはめていた。
「ああ、そうそう、いい忘れていたけど、この空間は魔力を吸収するために作られた特別な石を使っているから、魔法は使えないよ」
しかし、スタディンの心の中の最も深い所から何かがふつふつと浮き上がってくるのを感じた。
その瞬間、その部屋の周囲で全ての電気製品は使用不能となった。無論、部屋の中にあった電気製品も例外ではなかった。
「なんだ?」
彼はクシャトルを手術しようとして持ったスイッチから手を離した。その途端、その機械が破裂した。そして、彼がスタディンを見ると、なにやら色を発しながら近づいてくる神がいた。
「お前、我が力を分け与えし者に対しいかなる苦行を課そうとするのか。お主にはその権限はない」
そして、スタディン=イフニ神は、彼の額の中心に右手人差し指を付けた。
「お前には、生きる資格などない。早々に魂ごと消えよ」
そして、悲鳴をあげる暇なく一瞬で彼は素粒子レベルまで分解された。そして、スタディンは妹の上に覆いかぶさる形で気を失った。
その部屋を見つけた第2師団の陸軍兵士達はすぐに二人を救出しベルの中にある医務室に担ぎ込んだ。