6
使用人・デューグ。
時々、こうしてデューグ視点も書いていこうと思います。
--デューグ視点
僕は執事見習のデューグ。12歳。
このあたり一帯を治めている唯一の貴族ロスチャイルド家で働いている。
家事使用人をどれだけ雇うかによって、その家の社会的ステイタスは決まるらしいが、片田舎の末端貴族はそれほど人数を雇わないし、必要がない。
何せ、屋敷も上流貴族と違って比較的小さいし、使用人を雇うよりも農夫に人を割くほうがよっぽど地域のためになる。
大邸宅になると100人以上雇うらしいが、ロスチャイルド家では執事一人、見習一人、メイド一人の三人。
メイドは一人しかいないこともあって、僕は昔からメイドの仕事もしている。
正確に言えば僕は執事ではないからだ。
執事や従僕である接客係の屋内男性使用人雇う場合、税金がかかるのだ。
しかも雇う人数が多いほど、一人頭の税金が高くなるのだから、この地域はあまり恵まれた環境ではないこともあって、税金のかかる使用人を何人も雇うことは難しい。
かといって一人もいないと、馬鹿にされてしまう。
旦那様はそういうことを気にしないお方だけれど、時々出向く王都で馬鹿にされるわけにはいかず、僕の父アガフォンを長年執事として雇っているのだ。
僕は執事見習だけれど、メイドの仕事も一部手を出している。
昔は母・リンダの下でメイドと同じ仕事をしていたこともあって、あまり苦には思っていない。
そもそも、僕が執事見習になったのは、次男のレイ様がご誕生されてからだ。
レイ様の兄君であるアダン様は、父が教育係をしている。
旦那様とアダン様の二人を相手にしている父は、流石にまだ幼いレイ様まで見ることができないと踏んだらしく、僕をレイ様…本名はレイナルド・ロスチャイルド様。彼付使用人にした。
レイ様は次男。
この家を継ぐことはないけれど、優秀であれば分家という形で一部の土地を治めるかもしれないことを考えてのことだ、と言われた。
当時僕にはさっぱり父の言葉がわからなかった。
けれど、レイ様と一緒に行動するうちに徐々にわかってきたことがある。
天才、というのはレイ様のような人なのだと。
生まれて数か月は他の赤ん坊と大差はないように思えた。
まぁ、普通よりもずっとよく寝ている子だなぁと思うくらい。
それが、数か月でこちらの話が分かるのか、よく頷いたり、懸命に言葉に出す練習をしているように見えた。
いや、当時は「可愛いな、マネしたいのかな」くらいだったけれど。
それが一歳を迎える頃には、立ち上がって歩けるようになり、会話はほぼ理解し、様々なことを僕に教えてもらおうとし始めた。
そして半年と立たずに、レイ様は旦那様の書庫に入り浸るようになる。
まだわからない文字も多いそうだが、最近では分厚い本も借りて読んでいる。
旦那様やアダン様は積極的にレイ様の知識欲を邪魔しないようにしているようだし。
あぁいうのを天才というのか、と脱帽した。
けれど、関心しているだけではまずい。
僕はレイ様付使用人。
つまり、彼を支えなければいけない立場だ。
その僕が馬鹿であっては意味がない。
読書に没頭するレイ様から少し離れて、僕は父からの課題をこなす。
父は旦那様と王都の学校を共に卒業しているだけあって、知識豊富だ。
将来、レイ様も王都の学校に行かれるだろうから、その執事が知識豊富でないのはかなり恥ずかしいことだ。
僕は決して天才ではないから、何倍も努力しないとレイ様に置いて行かれてしまう。
そんな危機感から、僕は今日もレイ様の読書中に、自分の部屋で懸命に課題をこなすのだ。
執事の名前が間違っていたので修正。